ああ、いい天気だなあ。

 

良く晴れた日曜の朝。
俺は今近所の公園のベンチに座ってる。

 

べつに公園に来て何かしようってわけじゃない。
家の中にいてもすることがないから公園に来ただけだ。

 

もちろん、公園に来たって何かすることがあるわけじゃない。
それでも、公園は、家の中とは違うことが一つある。

 

家にいたって誰も来る当てなんてないけど、
公園にいればだれかが来るかもしれない。

 

ああ、いい天気だなあ。

 

ほんと、こういう天気のいい日曜日に家の中にこもってるのはもったいない。
わざわざ太陽が惜しみなく日差しを送ってくれているって言うのに
なにがうれしくてわざわざ屋根と壁の中に閉じこもらなきゃいけないんだろう。

 

おれはぼんやりとベンチに座ってる。
そして、公園には誰もいない。

 

あ〜、いーてんきだなー。

 

ふと、当たりを見回す。
こんな風にぼんやりしていると、
どこからともなく、あいつが現れてきそうな、そんな気がした。

 

あいつ、か。
そういえば、あいつ、今なにやってるかな。
いやいや、もちろんとっくに死んでいるはずだけど。

 

先生にこっぴどく油を絞られた修学旅行が終わってから、
俺は何となく毎日が空虚に見えるようになってしまった。
多分、京都での修学旅行で見た夢のせいなんだろうなって思う。

 

とにかくすごい夢だったよな。
俺が弁慶になって、なぜか女の子だらけの
義経軍団と一緒になって平家と戦うんだから。

 

ああ、ねこがいるな。
そういえば、あいつ、ねこに似てたなあ。

 

さすがに夢だけあって、細かいところはみんな忘れちゃったけど、
それでも一つ覚えてることがある。
あの義経軍団の中に、ねこみたいにすばしっこくって、
唯我独尊で、そのくせにひとなつっこい奴がいたんだよな。

 

こんな風にぼんやりしてると、なにかしら俺を驚かすことしてくれたっけ。
自分じゃ忍者だって言っていたけど、第一平安時代に忍者なんていたのかなぁ。

 

よいしょ、っと。

 

うう・・・まだ俺高校生だぜ。
立ち上がるのにかけ声掛けるなんておっさんのやることだよ。

 

「おっさんだろ」

やかましい！

 

・・・・なんとなく、ぽっかりと心に穴が空いたような気がする。
ふと、俺が、回りがみんな空虚に見える理由が見えた気がした。
そうだな。あの夢の中じゃ、俺のやることには何かしら意味があった、と思う。
今の俺のやることに、なにか意味ってあるのか？

 

いや、べつに世界がどうとか、そんな事はどうでもいいんだ。
俺自身にとってだけ意味がありさえすれば。

 

あーいーてんきだなー

 

なんかこう、はりがないな。
あの夢の中じゃ、こう俺がぼーっとしてると、
不意に世界がひっくり返る、なんてこともあったよな。

 

目を閉じてみる。

 

日差しは消えて、けだるい陽気が俺を包み込む。
平和な日曜日だ。

 

平和すぎる、日曜日だ。何一つ刺激のない。

 

頭の中に、進路指導の言葉がよみがえる。
「おまえ、進路はどうするんだ」
「どうするって・・・まあ、適当にやりますよ」
「適当じゃいかんだろ、適当じゃ。
　進学なら今から準備市内と間に合わないぞ。
　就職だというならなおさら狭き門だ」
「・・・三年になるまでには考えます」
「わしも進路指導は何年もやっとる。
　三年になるまで、なんて言う奴が三年生になって、
　なにか結論が出せるか。出せた試しがない。
　今の事として考えろ、どうするんだ」
「今ですか？」
「そう、今だ」
「・・・・どうでもいいです。なんかこう、
　今の俺って、おまけの人生って気がしますから」
「おまけの人生って・・・おまえ、まだ高校生だろ。
　老け込むには早すぎるぞ」
「・・・・・・・・・」
「まあいい、よく両親とも相談してみろ。
　おまけの人生って言っても、なんたらシールみたいに
　おまけの方が大事ってこともあるぞ」
「なんたらシールって、先生、古すぎますよ。
　それに、固有名詞が出てこないのは老化の第一歩ですよ」
「言ったな！・・・（笑）まあ、そういう事が言えれば問題ない。
　よく考えてみるんだな」
「はい・・・・」

 

・・・・・

 

目を開けてみる。
やっぱり、平和な日曜日だ。

 

何一つ刺激のない、日曜日だ。

 

おまけの人生か。
おまけってことは、何か本体になる部分もあったんだよなあ。
何が本体だったんだろう・・・。

 

そっか、修学旅行だな。
修学旅行の時、あのとき、
なにか大切なものを忘れてきた、そんな気がする。

 

ふわっ！

 

そのとき、世界が一回転した。

 

どしん！

 

ぐ・・・いたたたた・・・な、一体何が起きたんだ？

 

「あーもううっとうしい！あたしはそういう遠回しなの大嫌いなんだよ。
　いい加減には結論出せっての！
　最初に声掛けた時にとっとと思い出せよ！」
「 最初に声掛けた時って？」
「ったく、おまえ、にぶいにぶいって思ってたけどほんとに鈍いんだな。
　だから、 『おっさんだろ』って声掛けたじゃないか。
　なんでそのときに あたしだってわからないんだ？」
「なんでって言われても、その・・・」
「その？」
「い、いたたたた・・・」
「おい、どうした？そんなにひどく投げなかったつもりだけどな。
　おまえのことだから受け身に失敗して骨でも折ったんじゃないか、見せてみろよ」
「・・・・・・隙あり！」
「わ、なにしやがるこの卑怯者！」
「いきなり投げてくれたことのお礼だって。
　 ・・・本当はごめん。すぐに気がつかなきゃいけなかったよな」
「当然だろ」
「ああ、当然だよな。おまえの声を聞いて、初めて自分が生きてるって実感したよ」
「そりゃあれだけ痛ければな」
「違うって！…なんていうかな。平安の世に忘れてきた一番大切なものが、
　思いがけずに帰ってきたっていうか・・・と、やめやめ！
　遠回しなのはやめ！好きな奴と一緒にいなけりゃ生きてても面白くない！
　そして、俺は玲奈が好きなんだ」

 

・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・

 

ここから先、二人に言葉は要らない。

 

 

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい

 

---

 

著作権表示：C) 2003 VRIDGE / (C) 2003 AMS / (C) 2003 WellMADE
当ホームページ内で使用している画像の転載・配布することを固く禁止いたします。