（暇だなぁ）

 

修学旅行が終わってから、なんとなく何もやる気が起きない。
しなきゃいけないことはたくさんあるような気がするけど、
なにかをやろうという気には全くならない。

 

現に机の上には宿題が積み上げてある。
本当は明日までにやって提出しないといけない。
時計を見れば本当にもうすぐ今日が終わるのがわかる。
暇だなあ、なんて言ってる場合じゃないんだ。

 

（暇だなあ）

 

深夜放送はくだらないことしか言わないらしい。
これだから自分の部屋にテレビが欲しいと思うのに
受験だからって取り上げられてしまった。
だからってふてるのも大人げない。ラジオをつけて我慢する。
ラジオといっても安物でＦＭが３ｃｈまでしか入らない。
テレビの音声を聞くなんてこれじゃ無理だよな。

 

（あ〜）

 

机に座ってどれだけの時間ぼんやりしてるんだろう。
ぼんやりしてたところで何も変わりはしないのに。

 

ふと、いつもとらえどころがなくて、
ぼんやりとしてるようにしか見えなかった人のことを思い出す。
だけど、今の俺と似てるのはぼんやりしてるように見えることだけだ。
あの人の場合は、焦点が他の人と違ったところに合っていただけ。
俺はそもそもレンズキャップが取れてないから何もうつらない。

 

レンズキャップが取れてないか。
自分で言ってなんだけど、今の俺を形容するのにぴったりかもしれない。
あのとき、本当に大切なことが何かわかっていたら、
いま俺はここはいなかっただろう。
大切な物はいつでもなくなってからその大切さに気づくってだれか言ってたよな。
それは本当のことなんだって思う。

 

（ぼ〜）

 

宿題の提出日が明日から今日になっちゃったな。
どのみち今日やるんだったら休憩時間に写させてもらってもいいか。
ん〜カレーパンぐらいはおごってやらんとまずいかな。
なにせ写しっこじゃなくて一方的に見せてもらうだけだもんな。
昔は分担決めてやってきてた様な気がするけど、最近分担の受け持ちもしてないなあ。
受け持ち決めたところで出来やしないけど。

 

話が決まったらさっさと寝よう。
明日健やかに目を覚ます方がここでぼんやりしてるよりはいいよな。

 

それに、夢でならあの人に会えるかもしれない。

 

（おやすみ）

 

心の中で手を合わせ、ずっと昔の航海に出てるはずの人の無事を祈る。
なんか変かな。全部の結末はずっと昔に出てるはずなのに無事を祈るって。
だけど、俺はその結末を知らない。多分知ることもないと思う。

 

だから、祈りたい。

 

神様だけが知ってるのなら、未来に起きることと俺にとっては何の変わりもないんだ。
未来に起きるかもしれないことのために祈るように、
昔起きたかもしれないことのために祈ってもいいんじゃないかって思う。

 

どんな神様に祈ればいいのかはわからないけど。

 

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夢と現実って連動してるってだれかが言ってたかな。
寝てる最中に顔にさわるとさわられた人は顔を何かに触られる夢を見るって話だったと思う。
寝てる最中に寒ければ夢の中でも寒さを感じるし、
暑ければ暑いと思うらしい。

 

何かに揺すられたら揺すられる夢を見るって事なんだろうか。
嵐の中の船の夢を見た。
帆柱が折れるぐらいの風が吹いて、その中で俺は静さんを探して回るんだ。
それなのに、探してる最中に俺が海に落ちそうになる。
必死になって船縁にしがみついてると、静さんが手を伸ばして捕まるように言うんだ。
俺は必死に手を伸ばして手をつかもうとするんだけど、どうしてもつかめない。
なんでつかめないんだろう？ああ…片手で船縁をつかんでるからだな。
思い切って船縁を離して飛びついたら、もしかしたら…でも、つかめなかったら？
つかめなかったら？嵐の海にどっぱん。♪はいそれま〜で〜よ〜♪

 

おいおいおい、なに迷ってるんだよ。夢だろ、夢。
べつになにしたって目が覚めたらいつもの部屋なんだ。
いや…夢だから落ちたくないな。もし夢じゃないなら………

 

今、その手がつかめないなら、いっそ海に飲まれてしまえばいい。

 

「静さん！」

 

俺は叫んで手を伸ばす。

 

そして、ここで目が覚める。
もちろん、目が覚めたら、実は俺はまだ平安時代にいた、なんてことはない。
目が覚めたのは間違いなく俺の部屋、俺のベッドだ。

 

「あの〜どんな夢をみてたんですか〜」

 

どんな夢って、上に説明したとおり、嵐の船の話。

「あの〜上に説明したとおりと言われましても〜登場人物には読めないです〜」

 

そりゃそうか。…って、ここは俺の部屋だし、
俺の部屋は個室だから兄弟のだれかといっしょなんてことはないぞ。
俺の親は、いちいち部屋の中まで起こしに来てくれるほど優しくない。
自力で起きれなければ遅刻してかまわない、という教育方針だ。

 

「それで〜どんな夢を見てたんですか〜」

 

だから、どんな夢って嵐の船で静さん探す夢を見てた。

 

「そうなんですか〜それで〜さっきから私の名前を呼んでたんですね〜」

 

そうそう、そういうこと…え？！

 

「なんだか〜悪夢にうなされてるみたいでしたから〜起こそうと思ったんですけど〜」

 

起こそうと思ったって…って？え？え？え？

 

俺は目が覚めると大抵枕元の時計を見る。
ベッドの脇にだれかがいるかどうかなんて事は見ない。

 

「あの〜上記の説明ですけど〜誰が揺すってるのかな〜って思わなかったですか〜」

 

・・・・はっ！

 

そういえばそうだ。
だれかに揺すられたから揺すられるような夢を見たんなら、
揺すっただれかがいないとおかしい。

その揺すっただれかが、だれかって…声でもうわかってる。

 

（夢なら覚めませんように）

 

祈りながらベッドの脇に目を向ける。

 

俺が神様に用事があるのはいつでもお願いするときだけで感謝する事はまずない。
そもそも神様のおかげって言わなければならないようなことが起きた試しがない。

 

だけど、今朝は、心の底から、神様に感謝した。

 

 

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