平成義経伝

 

ある映画は、次の台詞で始まる。

 

世界でもっとも力のある３人の男がいる。
一人がアメリカの大統領、一人がロシアの大統領、そして、戦略原子力潜水艦の艦長。

 

一口に戦略級原子力潜水艦といってもすぐにはその威力が想像できないだろう。
その持つ破壊力は一隻で第二次世界大戦に使われたすべての火薬の破壊力を上回ると言われる。

単純に、一メガトン、と言われてそれがどれぐらいの破壊力か想像出来るだろうか。
一メガトン、つまり百万トン分の火薬に匹敵する爆発力。
広島型原爆、つまり、中規模の都市を一発で丸ごと焼き払える程度の核兵器が
たった２万トン分の火薬に相当する爆発力に過ぎなかった事を考えれば、
百万トンの火薬がどれほどの破壊力であるかわかるだろうか。

 

どんな大都市だって確実に一発で焦土に変える事が出来るぐらいの威力があるのだ。

 

アメリカの主力戦略原子力潜水艦、 オハイオ級は、0.5メガトン級＝約５０万トン分の火薬に匹敵する
爆発力を持つ核弾頭が総計１９２発搭載可能である。
つまり、理論的には、１９２個の都市に、破滅的打撃を与えることが出来るわけだ。
そんなことになれば一体何千万人、いや、多分何億人もが死ぬ事になるだろう。
一国の住人を文字通り皆殺しにすることも可能なほどの破壊力と言って差し支えあるまい。

 

もっとも、実際には、ちゃんと安全対策は取っている。
まかり間違って艦長なり乗員なりが勝手に核兵器を使おうとしても
それぞれの部署で適切な手順を踏まなければ決して核兵器を使うことは出来ないようになっている。

 

しかし、これは絶対に使用できない、というのとは違う。
必要なときが来たら核兵器もまた使用可能でなければならない。
そして、必要なときには、確実に使用出来なければならない。
この、ある意味では矛盾する条件を両方とも満足させる方法によって
戦略級原子力潜水艦は管理されているはずであった。

 

だが、この方法を考えた人物の誰一人、死者を意のままに操って、
自らのために奉仕させる能力などというものは想定していなかった。
絶対にあり得ないことを想定する方がおかしいだろう。

 

だが、あり得ないことですら、時としては起こりうるのである。

 

---

 

俺たちは全くの手詰まりに陥っていた。
俺たちは頼朝を説得すれば戦を止めさせられるんじゃないかっていう
希望でここまで来たんだ。
もちろん、神機を持ってるのは総大将の頼朝だっていう思いこみもあった。

 

実際には、敦盛の奴が神機を持っていて、頼朝はただ総大将として
指揮を執っているだけだった。
だから頼朝を説得したって戦を終わらせることは出来ない。

 

なに？敦盛を倒せ？
敦盛を倒そうとすればまず頼朝や知盛が敦盛にやられる。
これじゃ俺たちの大将、九羅香が戦えない。
九羅香が戦えないんじゃ俺たちには手も足も出ない。
総大将っていうのはそういうものなんだ。

 

だけど、もしかしたら・・・・

 

「敦盛、おまえ、鬼畜米英なんて一体どこで聞いたんだ？」
「弁慶、それどういう事」
「ああ・・・平安時代に鬼畜米英なんて言葉があるわけがないってこと。
　平成の世にだってこんな言葉は出てこない。
　この台詞が出てくる時期ってごく限られてるんだ。
　・・・６０年ぐらい前の戦争の時の言葉なんだよ」
「それがどうしたというんです」
「・・・なあ、敦盛。もう十分じゃないか。
　岩国、横須賀、沖縄…もう、これだけ勝てば十分じゃないか。
　いい加減には終わらせよう・・・とっくに終わった戦争なんだ」
「ふん・・なんのことだか」
「 わからないってことはないだろう？
　観月ちゃんの説明を思い出したよ。
　 『怨念のこもった霊が集まりますと鬼門の扉をそれだけで開けてしまいます。
　　どうやら、この平成の世で、神機の封印をこじ開けて妖魔を呼び出しす事件があったのです。』
　平成の世っていうのにこだわって本当のことが見えなくなってたみたいだ。
　怨念のこもった霊が一番集まりそうな事件っていったら、太平洋戦争じゃないか。
　鬼畜米英って言葉でわかった。敦盛、おまえ、…そのときの怨霊に突き動かされてるんだろ」
「・・・ふふふ・・いい判断ですよ。でも、間違ってますね。
　私が突き動かされてるんじゃありません。私はただせっかくの力を使ってみたいんですよ」
「使ってみたい！ただそれだけでこんな事をやっているのか！」
「いけませんか？」
「いいわけがない！」
「それはどうして？」
「それは・・・人間の道に外れているからだ」
「くっくっく・・・・義経殿・・・私は人間じゃないんですよ。妖魔です。
　妖魔の流儀でやらせて頂きますよ」
「・・・妖魔の流儀って、どんなものなんですか」
「さあ、妖魔の流儀って、どんなものでしょうねぇ」
「おまえ、いまさっき妖魔の流儀でやらせて頂くって言っただろ！
　知らないのになんで妖魔の流儀で出来るんだよ」
「私の流儀が妖魔の流儀なんです。・・・今妖魔を呼び出してるのは私ですからね」
「やっぱり〜そういう事が出来るのも〜神機の力なんでしょうか〜」
「もちろんです」
「でしたら〜その神機さえ封印出来れば〜これ以上〜妖魔さんも悪さできませんね〜」
「ははは、その通りですね。神機さえ封印出来れば。
　それでどうやって封印するおつもりですか。
　なるほど私は神機を十分には使いこなせてない。
　ですが、あなた方にやられない程度の事は出来るんですよ。
　・・・なんなら、試してみますか。・・・私は観月の中の清盛様などとは違います。
　あなた方が死なぬように手加減などいたしませんよ」
「ふっ。口ばかりは達者なようだな。本当にそういう事が出来るなら、今すぐやったらどうだ」
「ぐっ・・お望みなら・・・・と、危ない、思わず挑発に乗ってしまう所でしたよ」
「それは一体・・」
「そうか敦盛。俺たちが、知盛殿や頼朝殿に対する人質なんだな」
「・・・弁慶・・あなたもただの筋肉馬鹿じゃないみたいですねえ。
　教経がかなわないのも無理はない」
「誰が筋肉馬鹿だって」

 

背後から声がする。
俺たちは一斉に振りかえる。

 

そこには、妖魔の軍勢を引き連れて帰還してきた教経がいた。
教経だけで強敵なのに妖魔の軍勢の数が半端じゃない。
これでは絶対に勝てない。ちっ・・・こうなったら俺が教経を
引きつけているうちに全員で敦盛をかたづけるしかないのか？

 

「おお、弁慶。こんな所にいたのか」
「ああ、知盛殿のお招きでな。
　それで、おまえはなんで帰ってきたんだ。
　いや、それ以前に勝って帰ってきたのか負けて帰って来たのか教えろよ」
「俺がおまえ以外を相手に戦って負けるわけがあるか。
　勝ったに決まっている。」

 

勝ったって、つまり、もう沖縄の米軍が負けたってことか？
一日で片を付けるなんて強すぎるだろうが。
・・・・こいつ、平成の世になって化け物に磨きが掛かったって思っていたけど、
本当に冗談にならないぐらいに強いぞ。

 

「おお、敦盛、注文通り、【潜水艦】とかいうものをぶんどってきたぞ」
「本当にありましたか、ご苦労さま・・・くっくっく・・・
　は〜はっはっは。ここで本当に言ったとおりの物が手にはいるとは。
　期待してなくてもちゃんと手に入る物は手に入るんですねぇ。
　さて、私は潜水艦を取りに行ってきますよ。
　じゃ、あなた方は教経殿とごゆっくり遊んでいてくださいねえ」
「まて、敦盛！潜水艦を取ってどうするつもりだ、言え！今すぐ言え！」
「どうしたんだ弁慶、血相変えて」
「潜水艦って、まさか、核ミサイルを積んでいるなんて言わないだろうな！」
「核ミサイル？おお、そういえばそういう事も言っていたような気がするな」
「教経、おまえ、核ミサイルが何かもわからずにぶんどったのか」
「ふん、あれには強い奴が乗っているというから襲う気になっただけだ」
「じゃ、さぞかし、強い奴に出会ったろうな」
「たいして強くもない連中だな。あの気合いの乗らぬ武器を使う連中ばかりでは歯ごたえがない。
　弁慶、せっかく逃げ場のない場所で出会ったのだ、勝負せい！」
「冗談じゃない。今俺は忙しいんだよ。

　敦盛、答えろ、核ミサイルを何に使うつもりだ！」
「くくく・・・決まってるじゃありませんか、撃つんですよ。アメリカへね。
　先に使ったのはアメリカの方です。正当な理由があれば使っていいと行っているのもアメリカだけです。
　そんなに核兵器が大好きな国なんですよ。せっかくだから一つ送って上げようという訳です」
「当のアメリカから盗んだんじゃねえか」
「そうですよ玲奈殿。だからお返しするんじゃありませんか・・・ちゃんと爆発もさせて」
「・・・敦盛、それが、何を意味するのかわかってるのか？本当にわかって使うのか？
　それだけは止めろ！」
「知ってますよ。・・・だから、撃ち返す。そこまでやらなければ、無念は晴れませんよ」
「敦盛・・・いくらなんでもやりすぎだろうが・・・」
「ねえ弁慶、核ミサイルってなんのこと？神機とどう違う」
「どう説明したらいいかな・・・平成の世で最強最悪の兵器って言ったらわかってくれるかな。
　なんでも破壊する究極の破壊兵器なんだよ。爆発させれば何キロも・・・一里四方ぐらいは
　全部吹き飛ばしてしまうぐらいの爆発を作り出せる爆弾」
「爆弾って？」
「あ〜だから『どっか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん☆』
　って爆発するの。それで一里四方がなんにもなくなるんだ。
　核爆弾になるとそれに加えて光も強力で
　そばにいると人間が完全に蒸発してしまうぐらいの威力がある。
　それに、核兵器を使うと、爆発した後死の灰が降ってきてさらに人を毒で殺していく」
「最後の毒っていうのは敦盛にふさわしいな」
「そんな事言っている場合じゃない。それをどこへ使うつもりだ敦盛殿」
「アメリカに、ですよ。我が国はアメリカに核攻撃を受けた。
　そのお返しをするのが正義にかなうことなんです」
「おまえが正義なんていうな！」
「その方が都合が良ければ正義を振りかざしますよ。
　想像を絶する無能を卑怯な不意打ちだと言い張るようにね」
「敦盛さん。そんな事をして・・・アメリカが撃ち返してきたら、一体どうするんです」
「どうなるでしょうねえ。まあ、そうなったら神機の力も完全に解放されるんじゃないですかね。
　そうなれば妖魔の軍勢でまた撃ち返して上げるだけですよ」
「そうやって破壊を続けたら、最後には誰も残らなくなるんじゃないのか」
「私には、関係ない話です。私はただやりたいことをすれば満足なんですよ・・・くくく・・・
　最後には誰もいなくなるんですか。楽しいじゃありませんかねえ」
「・・・兄上・・・これでも、これでもまだ国のためなのか・・・・」
「九羅香・・・」

 

九羅香の言いたいことはわかる。
それは俺たちの思いと同じだろう。
こうやって、限りなく殺し合って、それで一体国の何を守るというのか。
国を守る？いや、国ってそもそも一体なんだと思ってるんだ？
誰も住んでいない、いや、誰も住めない土地を創り出すために
血を流すことが一体どういう利益をもたらすというのだろう。

 

「・・・敦盛・・・本当に、必要なことなのか・・・」
「おやおや頼朝殿。こんなところでぶれてどうするんです。
　怖じ気づいたんですか。…鉄のごとく無慈悲になれなければ、
　何事も成し遂げることは出来ないんですよ」
「兄上！兄上ならおわかりのはずだ。無慈悲で得られるものにはなんの価値もない」
「値打ちがなくても、手に入る。
　無慈悲でなければそもそもなんにも手に入りはしませんよ。
　せいぜい骨折り損のくたびれもうけぐらいのものですかね。
　さもなければ愚かの悪評を被るばかりだ」
「・・・敦盛殿、私は、愚かでいい。
　愚かでいい、悪を避けて善を好んだと言われればそれでいい」
「・・・義経・・・ずいぶんと欲の深い願いだな」
「兄上」
「あんまりかわんないぜ。平成の世にだって、判官贔屓って言葉があるぐらいで
　義経には人気があるけど義経の敵は誰彼区別なしにみな悪者扱いされてるぐらいだよ」
「余もその敵のうちだろう」
「そういうこと。一番たちの悪い敵扱いされてる」
「そういうつもりもなかったが、結果があれではなあ」
「兄上。私は…」
「皆までいうな、義経、、、いや、九羅香。
　朝廷を見張るのに一芝居打ったのが効き過ぎたな。
　源氏といい平氏と言っても武士は武士、朝廷の権謀術数で
　離間させられてはかなわぬ。…いや、その離間策で源氏の宗家が滅んだのだったな」
「弁慶、源氏が滅ぶというのは本当か」
「・・・そういえば、歴史の教科書であったよな。
　確か相続争いで身内が殺し合って直系が絶えたんだったっけ」
「これではなんのための平家討伐かわからぬな」
「それ以前になんで源氏の宗家が滅んだなんて知ってるんだよ」
「誰だったかな？」
「あ〜老人ぼけかよ、あたしは伊勢玲奈ってんだ」
「そうか・・おまえが義経が拾ったという山賊か」
「山賊じゃねえ！山賊じゃなくて忍者！」
「老人ぼけなどというからだ」
「・・・さすがは九羅香のお兄さんだな」
「どういう意味なんでしょう〜」
「さすがによく似てるな〜って」
「・・・九羅香、観月殿、・・・余が間違っておったようだな」
「頼朝殿、どうしました。まさか、本気で神機を封印するなどというつもりではないでしょうねぇ」
「敦盛、余を見くびるな。大義のために死ねぬほどこの頼朝腰抜けではない。
　神機で余を封じるなら封じよ」
「いいでしょう。お望み通り封印して差し上げましょう。
　核弾頭を手に入れたのですから、あなたの知恵ももう不要でしょうからね」

 

敦盛が神機を発動させる。
神機から放たれた光が頼朝の足下に当たるとそこに暗闇の門が開く。
頼朝はその門の中に吸い込まれるように・・・。

 

「やらせるか！」

 

九羅香が一飛びに敦盛へと斬りかかる。
敦盛がこれをかわそうと後ろへ身体を動かした所へ与一の矢が襲いかかる。

 

敦盛は神機でこれを受ける。
そこへたたみかけるように紅葉の槍だ。
身体をひねって槍をかわしたと思ったら玲奈が足ばらいを仕掛けてる。
跳んで玲奈をかわしても着地点を予測した与一の矢。
敦盛は逃げ回りながら身体を逆に入れようとしていく。
え？ってことはつまり入り口の方から逃げようって魂胆か！

俺は敦盛の先回りをするために走った。

 

「弁慶！貴様の相手はこの俺だぞ」
「教経！今がどういう状況かわかってるのか」
「わかっているとも。今こそ貴様とさしでやれる時という事よ」
「絶対今までの話聞いてなかっただろ」
「俺に何の関わりがある。俺が求めているのは良い敵と巡り会う事よ」
「それが今かよ・・・」
「おお、今がそのときぞ！」

 

ちっ。こういう時の教経は最悪の相手だ。
これで敦盛がこの場を逃げ出したら…つまり、この妖魔の軍団の向こう側に行ったら、
それは敦盛が核ミサイルを使うのを止める手段がなくなったって事。
つまり、俺たちの完全な負け。・・・いや、世界が滅ぶかもしれない最悪の負けってことかな。

 

こんな状況なのに俺達はなんにもできないのかよ。…

 

『無限連弾』

 

え？ああ、まだ一人いた！

 

知盛の連弩が敦盛の動きを止めた。
このおかげで九羅香は敦盛の先回りに成功する。
敦盛は完全に囲まれた格好になる。

 

あれ？神機が使えるんなら力を思い切り解放すればいいじゃないか。
なんでぐずぐずしてる？

 

「何をよそ見してる！」

がっ。油断した、まともにくらいこんだ。
でも、こんなところでくたばってたまるか！

 

「まだまだこれからぁ！」

 

そうだ、俺はここで教経と勝負していればいい。
教経を俺一人で抑えられれば勝機は見える。
相手はもう敦盛一人になっているんだ。

 

俺は教経の攻撃を必死に受けながら隙をうかがった。
一撃で倒せる相手じゃないだろうが、反撃を加えていけば
それだけ俺に集中してくれるだろう。

 

？そういえば妖魔の大軍も手出ししてこないな。
一体・・・。ああ、こっちは観月ちゃんが押さえていてくれるんだ。
じゃ、俺は教経に集中して戦えるな。

 

こうして、俺と教経とは気迫のこもった一騎打ちを続けた。
強いのは教経の方だけど気迫だけは俺だって負けてない。
この戦い、俺だけの命が掛かってるんじゃない。
そう思うと俺だけじゃない力が湧いてくるような気がする。

 

「どうした弁慶、そろそろ限界が来たようだな」
「・・、俺はあくまで人間の実力しかないだよ」

 

気迫で五分に戦えても身体は正直だ。段々疲れがたまってくる。
それなのに教経の奴全然疲れてもないみたいだ。
妖魔って疲れを知らない生き物なのか？・・・く、
ただでさえ一撃食らったところが痛むっていうのに
これじゃ俺の最後になるんじゃないのか・・・・。

それでも、九羅香が敦盛さえやってくれれば、俺の犠牲も無駄にはならないかな。

そんなことをふと思う。
俺が望んだ力って、…

 

「一騎刀閃！」

 

あ？教経が俺に集中しているせいで九羅香の一撃をまともに食らったようだ。
さすがの教経も体勢を崩す。
卑怯だとは思うが、許せ教経！

 

「ぅぉおおおおおおおおおお！」

 

なぎなたを槍のように構えて教経の首を狙って力一杯体当たりを加える。
教経の背丈だったら九羅香達の頭より高いから首を狙う分には全く危険はない。

 

「ぐぅ・・・」

 

手応えがあった。・・・さすがにこれでは教経も・・・

 

「まだまだ・・・まだ負けてはおらんぞ・・・」

 

化け物すぎるって、絶対！首になぎなた突き刺してるはずなのにまだ生きてるのか！

 

あ、そうだ、敦盛、敦盛が先だ。
俺は敦盛の様子を見た。…
九羅香が教経に斬りつけたことで、敦盛の包囲が手薄になってしまったようだ。
ああ、敦盛が逃げる。いや！絶対に逃がすか！

 

俺は教経の首からなぎなたを抜き取ると全力で妖魔の中へ切って入った。
敦盛をこの場から絶対に逃がすわけにはいかない。

 

「弁慶！あなたどうしても死にたいみたいですね」
「おまえがここでにげたらどっちみち死ぬんだ。それならおまえを道連れにしてやる」
「道連れになど出来ませんよ。・・・神機の力があれば・・・」
「おまえに神機が使いこなせるか。あきらめろ敦盛！」

 

俺は敦盛にタックルを掛けて組み伏せた。
とにかく、何があろうと絶対に逃がしちゃだめだ。
組み伏せて神機を奪い取るしかない。………あれ？神機って・・・

 

「へへん！やっぱり最後はこの玲奈様が頼りだろ」
「ああっ、この泥棒、神機を返しなさい！」
「馬鹿いえ、大体これは元々おまえのものじゃないだろ」
「ああ、これで我が事破れたり・・・・・・神機の力があれば
　なお米英を撃滅出来るとおもうたものを・・・・」
「おまえやり方が汚すぎるんだよ。・・・観月、ほら、あとは封印を頼むぜ」
「は、はい・・・」
「観月よ。私のことなら心配するな。…いずれまた会おうぞ」
「・・・・はい、ありがとうございます。…いずれ、またお会い致しましょう」

 

観月ちゃんが神機を手にすると、統合されていた神機が再び３つに、
つまり、剣と、鏡と、曲玉に変化した。

 

「九羅香様は剣をお取りください。弁慶様は曲玉を」

「うん・・・わかった。ほら、弁慶も急いで。
　玲奈、静、敦盛を押さえて」

「はい〜敦盛さん〜もうしばらく、じっとしていてくださいね〜」
「こうやって関節をきめちまえばぴくりとも動けないよな」
「与一！紅葉！教経殿は任せた！」

「任せておけ」
「はい、九羅香様」
「おまえ達では…」
「私も武士の端くれです！」

「それで、どうするの観月」
「はい、手を触れてくださればいいんです。後は私が導きますから…………」

 

観月ちゃんが導くって・・・いや、逆に神機の力が増大していくのを感じる。
強力な波動が辺りへ伝わっていくとなにか巨大な門が空中に開かれる。
いや、空中に開かれた門、っていう表現は正しくない。
俺たちがちょうどなにか巨大な穴の中に漂い始めたような感覚だ。
その巨大なあなへ、妖魔達がどんどんと引き込まれていく。
妖魔達って・・・教経も、敦盛も、そのなかへ消えていく。
頼朝殿も知盛殿も例外ではなく・・・・・・・・・・。

 

波動はどんどんと巨大化していって妖魔達どころかこの島全体を包み込む。
俺はなにがなんだかよくわからなくなり…意識までどこかへ飛んでいってしまった。

 

それでも、俺には一つの確信があった。
こんどこそ、これで、何もかも終わりが来たんだっていう確信が。

 

続く