平成義経伝

 

『現場の章二さん。聞こえますか』
『はいはい章二です。
　現在横須賀では犠牲者の遺体収容作業が行われているようです。
　ここからでは遠くて見えませんが、かなりの数の遺体袋が運び込まれているようです』
『テロリストについての情報はなにかありませんでしょうか』
『今のところ米軍からの発表はなにもありません。
　目撃者からの情報によるとすべて覆面をしていたようにも見えたようですが
　なにぶん距離があるのでよくわからなかったというのが実際であるようです』
『今後のテロリストの活動について何か情報は入ってませんか』
『はい、米軍はテロ集団が岩国に続いて海から進入してきたという疑いを強めており、
　全アメリカ軍基地に対して海への哨戒を強化する指令を出した模様です』
『はい、ありがとうございました。
　では続いてホワイトハウスから・・・・』

 

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実は、俺はちょっと心配していた。
目覚めると妖魔が押し寄せた、っていうニュースが流れてないかって。
二度あることは三度あるっていうし。

 

幸いなことに、何事も起きてなかった。
空は昨日と同じようにすっきりと晴れている。
これなら観光も楽しめそうだな。

 

「弁慶さん、やっと起きたんですか？」

 

完全武装の廉也が声を掛けてきた。
ああ、そういえば一人で寝てるんじゃなかったな。

 

「みなさん自分の部屋で待ってますよ」
「待ってるって、何を？」
「朝食です。勝手に歩き回ると何があるかわからないから
　一緒に行動するようにしようと言い出したのは弁慶さんですよ」
「あ、そういえばそうだった。
　今着替えていくよ」
「お〜い、弁慶まだ寝てるか〜！はやく起きないと置いていくぞ〜」
「まてよ玲奈、今行くから」

 

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朝食、支度、そしてバスに揺られて首里城へ。
さすがに平成の世に来て何日も経ってるからもう
九羅香達もあまり驚くようなことはないらしい。
俺だって平安時代に行って三日もすれば大体慣れたぐらいだから、
九羅香達だって三日もすれば慣れるのも当然なんだろう。

 

人間、慣れるのって早いんだな。

 

そういうわけで、もう首里城に到着する。
とりあえずパンフレット買って出発！

 

最初に二千円札にもなった守礼の門をくぐると石畳の坂道を登っていく。
お城って言うだけあってやっぱり山の上に建ってるんだな。

 

しばらく登っていると、九羅香が何かを見つけたらしい。

 

「ねえ弁慶。あれ見て」
「あれって？」
「あの服を貸してる人がいるところだけど、
　何か閃光があったら服をすぐ返してるよ。
　なにやってるの？」
「ああ、あれは記念撮影だよ」
「記念撮影って？」
「写真・・・って言っても説明が難しいや」

 

俺の小遣いあといくらのこってたかな・・・

 

「うん、一枚撮ってくるといいよ。
　すいませんお兄さん。この子をお願いします」
「せっかくだから二人で写ったらどうだい？」
「え？・・・ちょっと、お金がないです」
「サービスしとくよ。一人１０００円の所を二人で１５００円」
「え、ええと・・・」
「弁慶が一緒の方がいいよ。初めてだからどうすればいいかわからないし」
「う、うん・・・」

 

九羅香の場合、二人でっていう意味がわかってないんだと思う。
まあ、、、いいか。せっかくサービスしてくれるっていうんだし。

 

あ、ここでやってるのは沖縄衣装を着て記念写真を撮ってくれる写真屋なんだ。
女性用だけじゃなくて男性用の衣装もあるから並んで撮影、ってのも出来るらしい。

 

「はい、じゃここ見て・・・笑って・・・（ぱち）。
　はいもう一枚・・・目をつむらないようにして・・・笑って・・・はい、（ぱち）」
「これだけ？なんにもないね」
「だからこれから写真をくれるんだよ」
「あの〜出来たら私も〜着てみたいです〜」
「う゛」
「・・・あの、出来たら私も・・・」

 

あああ、こういうところはみんな女の子なんだ・・・・

 

「だ、だったらみんなで記念撮影しようよ。
　すいませんがそちらでお願いします」
「はい、いいですよ。・・・記念撮影ですね」

 

（ぱちり）

 

それから二十分後。

 

「わ、すご〜い」
「これが写真なんだよ」
「私が知ってる絵師の誰よりも本物そっくり、
　もしかしてあの人天才？」
「そういうんじゃなくて、そういう機械なんだよ。
　だから誰でも出来るって、・・・上手い下手はあるけど」
「あの・・・。私にはよくわからないのですけど、
　目に見えるとおりの絵を作るものなのですね」
「うん。そうだよ観月ちゃん・・・」

 

そこまで言って気がついた。
観月ちゃんの表情が寂しそうなことに。

 

「ご、ごめん。そんなつもりじゃ・・・そうだ。
　東京に帰ったらレコーダーを見せるよ。
　こっちは音を記録できる機械なんだ」
「そういう物もあるのですね。
　少しは調べたつもりですけど、私が知らないことがまだまだたくさんあるんですね」
「うん。・・・俺だって平安の世についてまだまだ知らないことがたくさんあるしね」

 

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いくつもの門をくぐっていくと最後に首里城の正殿にたどり着く。
入場無料っていう訳にはいかないけど、仕方ないか。維持費だって大変だろうし。

 

「ふむ、新しい城だな。一体どこの誰が住んでいるのだ？」
「新しいのは再建されて間もないからだよ。
　本当は室町時代に出来てたんだって」
「ふーん。それで弁慶。室町時代っていつ？」
「いつって、、、鎌倉時代の後」
「それで、鎌倉時代っていつなんだ？」
「平安時代の後」
「つまり、私たちの時代よりは後になって出来たって事？」
「うん、、、九羅香達の時代よりは後だね」
「へえ、じゃ京にもこういうのが建ったのかな？」
「あれから武士の時代が来たから、日本の城はもっと戦い向きに出来てるんだよ。
　また機会があったら見に行こうか」
「ここの主は平和な御代に住んでいたのだな」
「たぶんね・・・・」

 

そして、今も平和だった。
俺たちは首里城の中にある昔の琉球王の肖像画とか
首里城の中にある展示品について批評しながら巡回してた。
一通り見終わってから外にでると海が見える。

 

「ねえ弁慶」
「なに？」
「海から何か登ったよ」
「登った？」
「ほら、あれ？」

 

確かに九羅香の言うとおりだった。
海からなにか白い煙を上げて何かが姿を現した。

 

「なんだ？あれ？」
「またなにか上がりましたよ」
「なんだなんだ？海底火山か？」
「火山でしたら地鳴りがするはずですけど、大地は安定してます」
「それじゃ一体・・・」

 

その答えは、その煙そのものが教えてくれた。
その物体はそのままどこかの地面に落ちて、爆発したんだ。

 

「お〜すげー、これはどういう見せ物なんだ？」
「見せ物って、こんな見せ物があるなんて知らないぞ」
「・・・・弁慶さま、九羅香さま、・・・」
「なに？観月ちゃん？」
「わかった。・・・来るよ。みんな」
「来るって何が？」
「見て」

 

九羅香の表情が完全に変わってる。
その表情で俺にも九羅香が何を言おうとしてるのかがわかった。

 

妖魔が攻めてくるんだ。

 

次に俺たちが見た物は、おおよそ俺たちの想像を超えていた。

 

海を埋め尽くす『何か』がずっと右手の方に向かって押し寄せていく。
それに向かってこんどは陸の方から何かが撃ち込まれて爆発する。
それでも陸に向かう何かを押しとどめる力がない。
もっと沖の方からは次々と何か・・いや、もう正体はわかった、ミサイルだ。
ミサイルがあっちこっちに降り注いでるんだ。
陸からも海に向かってミサイルや大砲を撃ってるようだけど
海から来るミサイルの方が明らかに勢いがある。

 

「な、な、な・・・なんでこんな事が！」
「弁慶、どうした？一体何が起きてるんだ？」

 

お、落ち着け、落ち着いて・・・って、何から説明すればいいんだ！

 

「・・・・頼朝め、こざかしいまねを。
　平成の武器を奪って攻めることにしたか」
「観月ちゃん！」

 

観月ちゃんの雰囲気も変わってる。
清盛が観月ちゃんを乗っ取りかけてるみたいだ。
まさかこの場でまた清盛が復活するのか？

 

「だめっ！」

 

九羅香が観月ちゃんを抱き留める。

 

「だめ、観月ちゃん。そういうのはだめだって・・・」
「・・・案ずるな。・・・・・今、一番危ないところは・・・
　抜けました。ありがとうございます。九羅香さま」

 

そこにいるのは元通りの観月ちゃんだった。
もしかして、あれも九羅香の力なのか？

 

「これはもはや我らの出る幕ではないな・・・・」

 

与一が呆然とつぶやく。
与一の言うことは俺にもよくわかる。
俺自身もう何が出来るって言えなくなってしまった。

 

妖魔の数が全然違いすぎるんだ。
平安の世で見た妖魔なんて多く見ても千匹は超えてなかった。
平成の世の、横須賀にいた妖魔だって数千って単位だったと思う。

 

だけど、今目に入っている妖魔の数はそんなものじゃない。
文字通りに波のように妖魔が押し寄せて来る。

 

今まで海に撃ち込まれてた砲弾が陸に落ちるようになった。
つまり、そこまで妖魔が押し寄せたってことだ。
この位置からはもう見えなくなってるけど、
海へ向かっての攻撃がどんどん衰えてるっていうことは、
妖魔の方が勝っているっていうことになる。

 

やがて、俺たちの見てる前で、おどろおどろしい雲と共に
一つの島が海中から姿を現した。
あの島は前に一度見たことがある。
そう、あれは確か最後に清盛と対決した島だった。

 

だけど、少しだけ形が変わってる気がする。
なにが変わってるかも見ていてすぐにわかった。

 

飛行機があの島から飛んできたんだ。
つまり・・・妖魔の軍勢が飛行機まで持ってるのか！

 

「弁慶、・・・飛行機が飛んできたぜ」
「そうだな・・・」

 

俺にはただ見てるだけの事しかできなかった。
なぎなたや、刀や、槍や、弓や、斧や、素手で、
ジェット戦闘機やミサイルや大砲や機関銃相手に何が出来る？

 

妖魔の飛行機に向かって陸からミサイルが飛んでいく。
まだまだ米軍だって負けてないらしい。
普通ならミサイルは誘導されて飛んでいくはずだけど、
陸から飛ぶミサイルはなにかに妨害されてるかのように
進路を飛行機から変えてあらぬ方向に飛び出した。

 

ミサイルが空中で自爆する。
え？落ちた場所って・・・・。

 

俺の目には、破片が町中に落下したように見えた。

 

飛行機は俺たちから見て北の方へ飛んで行って攻撃を加えてるみたいだ。
飛行機のうちの一機が対空砲に当たったのか墜落する。
だけど墜落したのはその一機だけ、ほかの飛行機は攻撃が終わったのか
再び妖魔の島へ向きを変えて飛び始めた。
妖魔の島からは今でも飛行機が次々と離陸している。
一方あの島へ目がけて飛んでいく飛行機も見える。

 

あ、もう一機、妖魔の戦闘機が墜落する。。。。って、そこも人が住んでる場所だろ！

 

今度は見間違えようがなかった。間違いなく住宅地に墜落してしかも火事が起きてる。

 

「・・・・・・・・・・・あそこって、、、人が住んでいる場所、、、だよね」

「多分・・・」
「あっちの方って、・・・確か、、、私達が降りた『空港』って場所のそば・・だよね」

 

九羅香が指した方を見る。
確かにあっちにも盛大に炎が上がってる。
そういえば那覇空港に着陸している途中、窓から自衛隊の飛行機が見えたっけ。
だったら、、、俺が頼朝でも攻撃するよな。

 

「・・・・・・・・やっぱり・・・・間違ってる。間違ってるよ・・・」
「九羅香？」
「こんなむごい戦をして、、、兄上はそれで何をお守りになる・・・・」
「・・・・・・」

 

九羅香がつぶやくうちにも戦いは激しさを増していく。
米軍も妖魔の軍も人がいる場所を狙って攻撃してるようには見えない。
それでも撃ち落とされたミサイルの破片や撃墜された飛行機のいくつかが
街中に落ちていくのがここからでも見える。
これが・・・これが戦場だっていうのか？

 

「・・・・九羅香さま」
「紅葉、心配しなくても・・・」
「その表情で〜心配するなと言うのは〜無理です〜」
「同じ事二度も言わせるなよな」
「九羅香、また一人で乗り込むつもりだったのか？」
「うん・・・でも、私は戦いに行くんじゃない。
　今から私は兄上にお願いしに行く」
「お願い？」
「兄上に何が起きているか伝えなければならない。
　このような戦では輔国も安民もあるものか！」
「だからって、道中はいろいろと危ないぜ。
　俺も一緒に行くよ」
「私はいつでも九羅香様のお力になります」
「私も〜共に参りましょう〜」
「まさか、あたしをのけ者にするなんて言わないよな、九羅香」
「・・・私も参ります。いささかでも助けになれるつもりです」
「僕も行きますよ」
「みんな・・・・見たでしょ。あれ。
　こんな戦いでは平安の世の武器は役に立たない。
　たどり着く前に命を落とすとしか思えないぐらいだ。
　・・・・・・私は、みんなを死なせたいわけじゃない」
「・・・わかってるよ、九羅香。
　ただ、・・・見過ごせないんだろ？」
「うん・・・」
「だから、俺たちに出来ることをやろうぜ。
　無理はせずに。・・・俺だって死にに行くつもりはないよ」
「・・・うん・・・そうだね、ありがとう、弁慶」

 

そういって俺に向けた九羅香の瞳の中には、
五条大橋で再会したときと同じ光が宿っていた。

 

 

続く