平成義経伝
【第一章】
〜集結〜
ここは、岩国。
岩国にはアメリカ海兵隊の航空基地がある。
平和な日本といえどもこの基地は話が別。
アメリカの世界戦略を支える拠点の一つだ。
もちろん、いつ出撃を命ぜられてもよいように、
つねに臨戦態勢にある。
特に、今アメリカは戦時体制にあるのだ。
在日米軍基地でも、テロ攻撃を受ける可能性は十分にある。
平穏に見える夜。しかし、この基地では万全の警戒態勢を取っていた。
「起きろこの幸せ者っ」
ぶきゅ。
場面は変わってここは京都にあるホテル、
東京からの修学旅行生が宿泊する一室だ。
昨夜、悪友にそそのかされて女湯をのぞきに行った高校生が
そそのかした悪友に蹴り起こされている最中である。
「もう起きたよ。なんだってんだ一体？」
「とぼけるなよ。全部聞いたぜ。おまえが追っかけてった女の子が
いま先生の部屋に泊まってるって話」
「な、なんで知ってるんだ？」
「知ってるも何も先生の様子を探りに行ったらたまたま話が聞こえたんだよ」
「様子を探りに行ったって・・・つまり、盗み聞きしてたのか？」
「聞こえが悪い事言うな。友達として心配してやったんだ。感謝しろよ」
「どうだか」
「あれ？おい、ちょっと新聞見てくれないか？」
「新聞？どうしたんだよ一体」
「なんかどこ回しても同じ事やってるんだよ。
せっかく覆面ライダーマッハボルネオ見ようと思ったのに」
「おまえ特撮大好きだな」
「いいからすぐよこせって、家出るとき録画予約忘れちゃったんだよ」
「まったく、録画忘れるなんてファンの風上にも置けないぞ・・・と、ほらテレビ欄」
「サンキュ・・・あれ？チャンネル合ってるよな。なんで報道特番なんだ？」
「報道特番？一体なにやってるって・・・」
どこの映像高よくわからない。とにかく何か軍事基地ではあるらしい。
星条旗がひるがえっているから米軍基地のどこかだろうけど、
イラクでまたテロでもあったのか？
「よかった。覆面ライダーは放送延期だって」
「そりゃ良かったな。これで帰ってから落ち着いて録画出来るわけだ」
「んじゃ、みたい物もないしテレビ消すか」
「！・・ちょっとまて」
「どうした？」
「・・・・あれは・・・？？？・・・・」
「どうした？知り合いでも映ってたか？」
「・・あ、ああ・・・まあ・・・そんなとこ」
「録画してなくて残念だったな」
「あ、ああ・・・もう映ってない」
「そうか、じゃ消すぞ」
（なんだ、今のは・・・妖魔？まさかな・・・）
とんとんとん。
「おい、誰か来たぜ」
「ああ、俺が出る・・・」
誰だろ、九羅香かな？
「弁慶様、おはようございます」
「！ー！ー！ー・・・。も、紅葉、なんでここに・・・」
「どうしてでしょう。私にもよくわかりません。
目が覚めたら見知らぬ場所にいたんです。
しばらく辺りを見回してましたら九羅香様と出会いましたので、
九羅香様のご命令で弁慶様を迎えに参りました」
「・・・九羅香が呼んでる？わかった、すぐいくよ」
（・・・九羅香が来て、紅葉が来て、・・・・妖魔まで現れた？一体これから何が起きるんだ？）
もちろん、 考えても答えが見つかるはずもなかった。
今できる事は、九羅香と話す事だけなのだ。
「遅いぞ弁慶」
「ごめん九羅香、着替えるのに手間取っちゃって」
「あ、そっか。その服じゃ着替えに時間掛かるのは仕方ないよね」
「ただ乾いてなかっただけだよ」
「あら、弁慶様。着替えを用意されてなかったのですか」
「ああ、修学旅行の最中だから」
「修学旅行？それはどのような旅行なのでしょう」
「紅葉、そういう世間話は後。・・・弁慶、紅葉、
あれ見て」
九羅香が指した先にある「あれ」とは、ホテルの休憩所に据えてあるテレビだった。
「ほら、・・・あの箱に妖魔が映ってる」
「そうですね、九羅香様。・・・しかし、どうして妖魔はあの箱から出て襲ってこないんでしょう」
「紅葉、あれはテレビって言って・・・」
「弁慶は黙ってて」
「は、はい・・」
九羅香の雰囲気が全然違う。
昨日の天真爛漫なお調子者と、今の九羅香が同一人物にはとても見えない。
今は、九羅香と呼ぶより、源九郎義経と呼ぶ方がよほどしっくりとくる。
「紅葉、今は平成の世って言って、平安の世からは８００年以上隔たってる、
弁慶が元々いた時代。この時代には本来妖魔なんていないはずなのに
妖魔がアメリカとかいう軍勢の陣を襲って壊滅させた」
「壊滅？まさか！」
「弁慶、最後まで話を聞け」
「ご、ごめん・・・」
「どうやら、神機の封印がゆるんでいるんだ。
誰が、どうやってか、それはわからないけど、
とにかく誰かが神機と妖魔を操ってる。間違いない」
「・・・・」
「・・・・」
「はい、みんな、質問は」
「あの、それでしたらどうして私たちがここにいるんでしょう。
弁慶様は神機の封印を解くために必要だったということでしょうが、
私たちをこちらに呼び寄せたとしても、何も出来ません」
「そこ、なんだよね。なんで私たちを呼び寄せたか全然わからないんだ。
弁慶の時にも召還の場所が狂って源氏の宿に移されたって事はわかった。
でも、弁慶の話だと、平成の世には召喚術自体が存在しないらしい」
「どういうこと、なんでしょうね」
「難しいこと考えんなよ。要するに妖魔をやっつけりゃいいんだろ？」
「玲奈！…いつきたの」
「あたしもさっき来たばっかり。
わけわかんない所へ降って来たと思って見回してたら
九羅香の声がしたから来てみたんだ」
「玲奈まで来たのか・・」
「どうした弁慶？あたしが来ちゃじゃまか？」
「い、いや・・・」
「そんな顔するなって。・・ま、多少先祖返りはしたけどな」
「玲奈・・・無事で良かった」
「この玲奈様がそう簡単にくたばってたまるか」
「九羅香、どうしたの？」
「うん・・・奥州から京に上る途中の噂で、玲奈が討ち死にって聞いたから・・」
「ちょっとドジ踏んだけど、移し身の術でかわしたから大丈夫・・・って、
なんで九羅香が知ってるんだ？
あたしがドジ踏んだのはついさっきの話だってのに」
「ついさっき？」
「そ。ついさっきドジ踏んで移し身の術でかわして谷底へ身を隠そうと
飛び降りたら・・・、ここに出てきたんだ」
「・・・ま、いっか。とにかく手を貸して、玲奈」
「当たり前だろ。あの時の誓いはわすれてないからな」
「それで、弁慶様。あの妖魔がいる場所はどのくらい離れてるのでしょう」
「そうだね、紅葉。あの岩国っていうのは一体どこになるの？」
「岩国っていったら・・・どういえばいいのかな？
おおざっぱに言うと、厳島のもう少し西ぐらい」
「清盛殿が建てた神社のそばだね」
「だったら、清盛が復活したってことじゃないのか」
「清盛殿が復活したのでしたら、やはり弁慶様が平安の世に呼ばれたのではないでしょうか」
「だ〜っ！だから難しいこと考えずに岩国に行こうぜ」
「うん。そうだね。弁慶、案内してよ」
「案内って・・・・」
「玲奈、策も無しに動き回るな。・・・今はまだ何かを決められるほど情報がない」
「与一！与一も来てくれたんだ」
「くれた・・・というのは妥当ではない。
私も呼び出されたのだ」
「呼び出されたって………一体、誰に？」
「すぐに本人が来る」
「本人って・・・」
与一の言うとおり、すぐに本人が来た。
「こちらです、観月様」
「ありがとう、廉也」
「観月・・ちゃん？」
「急にお呼び出し致しまして申し訳ありません。
事情はすでにおわかりの事と思います」
「観月ちゃん。事情って・・・」
「神機の封印が解け、魔界への扉が開きました。
それを封印するためには、九羅香様の・・・
いえ、九羅香様たちの力がどうしても必要なのです」
（観月ちゃんが九羅香達を呼んだのか・・・。
それなら合点が行く。だけど、・・清盛殿って、
確か観月ちゃんを依代に してたんだよな。
じゃ、今神機をつかってるのは一体だれなんだ？
それに、九羅香たちの力が必要だって、一体どうして？）
「申し訳ありません。静様だけは、京におられないので今はまだお呼び出来ませんでした」
「それより、なぜ私達を呼んだのか、その話が聞きたい」
「はい、そうですね。では、順を追ってお話ししたいと思います」
順を追っての、観月の説明が始まるはずだった。
しかし、事態は観月が思っているよりももっと緊迫していたのである。
続く