「どういうことなんですか？」

質問、いやさ詰問してるのはティアナ、詰問されてるのはハーディス氏である。
何について詰問されてるのかといえば、所持しているディバイダーと、ヴェイロンの心臓についてである。

「キャロが見てました。あなたが、ヴェイロンと、誰かわからないフッケバインのメンバーに襲いかかっていくのを。
　とても善良な一般人のやることではありませんね」
「やだなあ。私はただ自分の身を守っただけだよ」
「最大限好意的に見ても過剰防衛としか言いようがありませんよ。
　第一、一般人はフッケバイン相手に戦う能力なんて持ってません。それに、その武器はどこから出したんです？」
「彼らが持ってきたんだよ」
「なら、こちらで預からせてもらいます」
「どうぞご随意に」

ハーディス氏は快く自分のディバイダーを差し出した。

「この心臓も預からせてもらいます。……ひとまず、本部に指示を仰ぎます。
　フェイトさん、お疲れ様でした。……それにしても、移送の直前を狙っての犯行って
　情報がどこからか漏れてたんでしょうか」
「そうかもしれないわね。……そのあたりも含めて、報告しましょう」
「わかりました」

---

「了解や」
「それで、はやて指令、これからの対応はどうします？」
「本当は護送の人数を増やしたいところやけど、今でもうめいっぱいの人員を割いてるからなあ。
　これ以上増やしようがないんよ。フッケバインがこのままあきらめてくれるわけないし、ていうか
　ヴェイロンの心臓まであるんやったらなおさらあきらめるわけないし、難しいところやなあ。
　……仕方ないな。最重要任務はハーディス氏を確実に収監先に送ることや。
　フェイトちゃん達は、ハーディス氏をつれて、予定通り収監先へ移動。
　トーマ、アイシス、リリィの3人は、予備のルートを通ってヴェイロンの心臓だけを持って輸送や」
「3人だけ別行動なんですか？　それは危険じゃありませんか？」
「危険かもしれへんけど、リスクは負わなあかん。フッケバインもあの3人の命はとらんやろ。
　フッケバインの襲撃の優先順位は、ヴェイロンの心臓のはずや。あれは最悪とられても元や。
　けど、ハーディス氏は確実に護送せなあかん。……冷酷なようやけど、あの3人にはおとりになってもらう。
　第一、フッケバイン以外は、ヴェイロンの心臓なんてねらわせんやろ。で、フッケバインはあの3人の命はとらんやろ。
　その意味ではあの3人は安全や」
「……無茶ぶりしますね、指令も……」
「管理局に安全な仕事はあらへん。ティアナも気ぃ入れていくんやで。フッケバインは優先してヴェイロンの心臓を回収するやろう
　いうだけで、普通にヴァンディンコーポレーション関係の連中が、ハーディス氏を狙ってくる可能性はあるんやから」
「はい」
「そういうわけで頼むわ。護送任務の人手が不足するわけやけど、そこはなんとかしてな」
「わかりました」

---

「そういう訳です、フェイトさん」
「わかったわ。あの3人には大変な仕事を任せることになるわね」
「そうですね。……フッケバインは命まで取らないだろうって言っても、希望的観測ですよね」
「だけど、私たちにも、余裕は、ない」
「そうですね。ただでさえ、ハーディス氏は得体が知れない所をみせてくれましたし」
「ハーディス氏にはエリオとキャロをつきっきりにして護送することに決めました」
「その方がいいかもしれないわね」
「はい」
「3人には、注意事項の伝達はしたの？」
「ええ、身の安全を第一に考えるように伝えておきました。心臓の輸送はあくまで努力目標であると」
「そうね。けど、ハーディス氏の護送は、努力目標とは違うわ」
「そうですね。これは必達目標ですね」
「では、出発するわよ」
「了解です」

ハーディス氏を乗せたランドクルーザーも出発する。上空哨戒のヘリも発進だ。

ヘリからは、先行して脇道を走っているジープの姿も見える。
あれが、心臓を輸送しているトーマ達の車である。

---

さて、本部に話を移そう。

「集まってもらったのはほかでもないんやけどな」
「ほかでもないならどんな話なんだ。お説教なら勘弁だぜ」
「お説教もせなあかんやろけどな、脱獄を企てたんやから。壁の修繕は自分達でちゃんとしてもらわなあかんし」
「修繕費分はロロさんたち働いたです」
「働いたって、今時封筒貼りの内職とかあるのかよ」
「あったんだから仕方ないだろ。あー思い出してもかったりぃ」
「今日の話はそれとは違うから安心してな」
「で、指令直々に、俺たちグレンデル一家集めてなんの話だって」
「簡単に言うと、管理局で働かへんか、っちゅう話や。
　静さんの提案なんやけどな、グレンデル一家にも、してもらわないかん仕事があるらしいんよ。
　静さんの作戦はいつでも意味不明やけど、時が来ればちゃんと意味は通じてくる」
「神託みたいな作戦だな」
「まあ、そうかもしれへん。で、その静さんの神託や。グレンデル一家が必要なんや」
「そうかそうか、俺たちの力が必要なのか……って、エースオブエースとかごろごろしてるだろ、そいつらじゃいけないのか？」
「もちろん、今のグレンデル一家の力ならいらへんのよ。今から訓練して、強化したグレンデル一家の力がいるんや。
　出来るだけ短期間にレベルアップしてもろうて、束になってならエースオブエースに勝てるぐらいにはなってもらわなあかん。
　そのレベルで作戦に投入できる力がいるそうなんよ。……もちろん、管理局内で相応の待遇は保証する。やってくれるか？」
「束になって？　ピンで勝てるようになってやるよ。返さなきゃならない借りがあるんだよ」
「落ち着けクイン。手を借りたいって、いったいどんな作戦に投入する気なんだ？」
「そんなん静さんしかわからへん。正直私にもよめんのよ」
「冗談じゃない、犯罪者を相応の待遇で投入する作戦なんて良くて九死一生、下手すれば十死零生の特攻作戦に決まってる。
　そんな作戦にほいほい乗れるわけないだろ。第一今のあたしらじゃ足りない、束になってエースオブエースに勝てるぐらいぐらいの
　実力が前提っていうんじゃないか。どう考えてもやるのは自殺行為だ」
「マリーヤ、怖じ気づいたのか。受けなきゃあたしらは一生かごの鳥だぜ」
「受けたら地獄へ逆落としだろ」
「二人ともけんかしない」
「ロロはどうしたいんだよ」
「ロロさんは判断保留。実力が身につかなかったら出撃自体がキャンセルになるかもしれないし、実力が身につかなくても
　見切り発車になるかもしれないし、それ以前に自分たちが強くなれるかどうかもわかんないし」
「賛成１，反対１，棄権１，ここはリーダーの俺が１票投じたとこに決まりで文句はねえな」
「文句はないけど、結論は見えてる気がする」
「そういうなマリーヤ、九死一生のギャンブルなら、もう一回は通ったじゃねえか、エクリプスウィルス感染の時によ。
　それに比べればずいぶんと分のいい賭だぜ、今回はよ。
　だが、先に言っておくが、受けるのは訓練だけだ。任務の方は聞いたあとから、カミカゼ任務だったら拒否権ありって条件で
　受けさせてもらうぜ。それでかまわないよな」
「……まあ、それでかまへんよ。こっちも、静さんがどんな任務をやらせるつもりなんかは、しらんのやから。
　けど、任務拒否なら、しかるべき処遇の方もなしやで」
「それはかまわねえよ。訓練だけなら待遇改善はなし。任務をこなしたら、しかるべき処遇をしてもらうって条件だな」
「交渉成立やな」

静の考えはいったいどのあたりにあるのか、それはまだわからない。
だが、人手不足が深刻な域に達している特務六課の現状を鑑みるに
グレンデル一家の手も借りたいのだろう。はやては単純にそう考えていた。

 

---