「どう？　占いの結果は？」
「ひどいけど、急げばまだ助かるわ。一刻も早く心臓を手に入れることね」
「そう……けど、問題は誰がどこにどうやって心臓を持ってるかよね」

そういう会話を交わしてるのは、カレンとソニカの二人である。
ヴェイロンは心臓を抜かれて横たわっている。
ハーディス氏によってやられたのだ。転送で今は安全地帯にいるし
まだ生きてるとはいえ、ほっとけば遠くないうちに死んでしまうだろう。

「そうと決まれば、さっそく心臓を取り返しに行くわよ。どこに心臓があるかわかる？」
「それはいくら私でもね。とりあえず、あの収容所に残ってるってことはないと思うけど」
「それはあり得ないわね。持ち出したのは確実。そこからどこへ向かったかよ」
「情報が必要だわ。何か手の内ようがないの？」
「そうね……ひとまず、収容所にもどりましょう。何か手がかりがあるかもしれないわ」
「そうしますか、ヴェイは」
「一緒に飛びましょ。ここに置いておくと、何が起きるかわからないし」
「そうね」

転送をかけることにしたらしい。

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さて、こちらは移送中のハーディス氏とエリオ、キャロの二人組である。

「退屈だねえ、何か話しでもしないかね」
「ディバイダーをどうやって手に入れたか話す気になってくれましたか？」
「彼らが持ち込んだんだよ」
「どうやって奪ったんです？」
「くれたんだよ。親切な人たちさ」
「そうですか。僕らにはそこまで親切じゃありませんでしたよ。
　第一、何をしに彼らは来たんです」
「何をしに来たんだろうね。私はしがない一般市民だというのに」
「しがない一般市民はそもそも大企業の重役になったりしませんよ」
「ははは、大企業の重役といっても普通の人間だよ。君たちのような訓練は積んでないさ」
「キャロの制止を振り切ったじゃないですか」
「まあ、その程度には運動してるさ」
『エリオ、無駄話しない。ハーディス氏との接触は最小限にとどめなさい』
「わかりました、ティアナさん」
「手厳しいねぇ。そこまで警戒されるような人物かい」
「……人物なんですよ。話はここまでです」
「そうかい。でも、独り言はかってだろう」
「……」
「やれやれ、娘とも話をさせてくれないし、どこに連れて行くかも秘密だし
　人権ってのはどこにあるのかね。私はただのしがない一市民なんだよ。
　それなのに、なんて扱いなんだ。抵抗しなければ弁明の機会が与えられるというのは
　管理局の決まり文句じゃなかったのかね。弁明の機会は一体いつ与えられるのかね。
　弁明する時もありはしないじゃないか。
　まったく、外に出られたなら、この対応については厳しく追及させてもらうよ。
　疑惑が晴れたなら外に出られるんだからね。
　そのときはそう遠くないんだからね。なにしろ、私はただの一般市民なんだから」

ぶつぶつとハーディス氏はぼやき続ける。
エリオとキャロはうんざりと言った調子でそれを聞き流す。
その様子は離れて警護に当たっているティアナにも伝わっていた。
ハーディス氏から預かっているディバイダーは、ティアナが保持している。

上空警戒に当たっているのは、アルトが操縦するヘリと、フェイトである。
今のところ、何事も起きてない。護送任務は順調であった。

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「やっぱ悪路だねえ」
「予備のルートだから、道は悪いんだよ」
「なんだか酔いそう……」

ランドクルーザーに乗って走ってるのは、トーマとリリィとアイシスの3人である。
ヴェイロンの心臓の護送中だ。

「目的地はスゥちゃんと一緒ですけどね、ゴールはハーディス氏の護送先とおんなじ」
「だけど、ルートははっきり悪いですよ。貧乏くじですかね、これ」
『ぼやかないぼやかない、安全運転でゆっくり行きましょう。事故を起こしたら元も子もないですよ』
「そうだねスティード。ともかく無事につくのが一番」

そうはいってもトーマは若い、スピードはちょっとだし気味でランドクルーザーは走っていく。

「ナビがあるから道には迷わないし、平気だよ」
「でも、周りにも気を配らないと、何があるかわからないよ。私たちがハーディス氏を連れてるって思われる可能性も　
　あるんだからね」
「それはあるけど……だけど、そうなった時、僕らに出来ることはあんまりないからね……」
『安全第一ははやてさんにも言われました。三十六計です』
「逃げるが勝ちって？　逃げさせてくれるといいけど」
「トーマ、前！」
「あ？　誰かいる！」

前方注意、ひとかげがある……って、急ブレーキを踏んだトーマにとって、その人物は直接会ったことはないが、見知った人物であった。

「……カレンさん……」
「はーい、トーマくんに、ペタ子ちゃんにリリィちゃん、元気してた？」
「どうしてここに……、いや、なんでここがわかったんです？」
「ま、ちょっとした企業秘密。だけど、特別にトーマくんには教えてあげる。ルートを秘密にしたかったら
　データは頭の中にだけ入れておくことね。ずさんだったわね。データを収容所のコンピュータに入れておくなんて」
「データロックはかけておいたってフェイトさんは言ってたのに……」
「そんなもの私の前ではないのも同然〜」
「ソニカ、あんた隠れてなさいって……」
「この子達はファミリーなんでしょ。じゃ、隠れてなくてもいいじゃない」
「勝手にファミリー扱いすな」
「違うの？」
「ん、ま、違わないかな」
「で、何の用事なんですか？　直接会いにくるなんて」
「言わなくてもわかってるでしょ、ヴェイの心臓を返してもらいに来たのよ」
「返しに……って」
「それがないとヴェイが死んじゃうのよ。あんた、ファミリーを殺すつもり？」
「渡していいって八神指令は言ってなかったし……」
『安全第一とは言ってましたよ、トーマ。渡しても問題ないのでは……』
「そういう問題なの？　教会で起きたことを忘れたの？　あいつら人殺しだよ」
「だけど……」
「なるほどね。形の上では奪われたことにしないといけないって訳ね」

カレンは勝手に納得して、戦闘態勢に入った。

「トーマ、来ますっ！」
「来ますって言われてもっ」
「リアクトを！」
「遅いっ」
「ホワイトパフュームNo.35！」

アイシスが煙幕を張って時間を稼ぐ。
そのすきにトーマはリリィとリアクトするが、カレンにとっては
それは計算のうち、というかリアクトさせることも予定通りのようだった。

「えっ」
「ま、ファミリーでない子の方を先に片付けちゃいましょ。
　ソニカ、この子から心臓の場所を聞き出して」
「はいよ」

ソニカは、茨姫でぐるぐる巻きにされたアイシスに近づく。

「アイシス！」
「トーマくん、ペタ子ちゃん、あんまりおいたはやめてね。
　ヴェイの命がかかってるんだから」
『あまり言いたくありませんが、実力差がありすぎます。
　無駄な犠牲は払わない方が賢明かと』
「でも」
『抵抗しなければ命まではとられないかと……今は』
「この子はわかってるみたいね」
「そこの保冷ボックスの中に心臓があるわ、私がとってくる」
「気をつけてね」
「トラップとかはしかけてないって。……大丈夫、確保した。
　中身も確認、問題なし」
「O.K.……じゃあ、そろそろ本題に入りますか」
「本題？　ヴェイロンの心臓が目的じゃないのか？」
「もちろん、それも大事なことよ。だけど、あなたたちを招くのも目的のうちよ」
「なぜ？」
「あなたたちはファミリーの一員だし、それに、特務のなかにいると
　やっかいごとが起きそうだからね」
「やっかいごと？　どんなことが起きるっていうんです」
「その説明は時間がかかるから後回し。今はヴェイを救うのが先」
「じゃあ……」
「だ・か・ら、力ずくで拉致ってからゆっくり説明するわ」
「それじゃ話が別ですよ」
「ソニカ、通信妨害は？」
「問題ないわ、ずっとかけてる」
「通信妨害がかかれば救援が来ますよ」
「その前に決着をつけるわよ」

そうはいってもトーマもすこしは成長している。
一撃でのされるほど弱くはない、はずだった。
だが、カレンは全力であった。
対するトーマは、カレンを傷つけまいと思っていた。
これでは勝負にならない。

「うわ、なんだ」
「茨姫の全力よ」
「くっ、うわ、切っても切ってもきりがない……」

トーマもまた、茨姫に巻き込まれて身動きが取れなくなってしまった。

「これでよし、っと。ソニカ、行くわよ、長距離転送準備、一気にフッケバインまで帰還するわ」
「了解、これでヴェイも助かるし……けど、この3人連れ帰っていいの？」
「特務にはあとでメッセンジャーを送るわ。トーマくんをハーディスに接触させないためには
　これが最良の方法なのよ」

こうして、トーマ達はカレンによってフッケバインに拉致されてしまうことになった。
だが、ハーディス氏によって接触させない最良の方法とはどういう意味なのだろうか。
そもそも、ハーディス氏は護送されてる最中のはずなのだが。

 

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