さて、グレンデル一家が脱出計画を練ってる頃。民間旅客機に乗ってる３人組がいた。

「テロ対策っていっても、おれらが乗れるっていうんじゃ、管理局も何をやってるのかわかったもんじゃないな」
「魔法的には完璧な対策をとってあるわよ。魔法的にはね」
「あたしのお仕事ぶりを無視しないでほしいわね。最近は画像分析とか、魔法に依存しない犯罪対策も入れてるみたいなのよね」

そういう会話をしてるのは、フッケバインの３人、ヴェイロン、カレン、ソニカの３人だ。
３人だけ、それも民間旅客機に乗って、いったいどこに出かけるつもりなのかは謎である。

「なぞって訳でもないわよ。この旅客機はミッドチルダ行き、目的地は特務の子たちといっしょ」
「ま、狙いはハーディス・ヴァンデイン元専務ってね」
「ただの民間人襲撃っていう筋書きならいいんだが、やな予感はするな」
「そうね。ああもあっさり逮捕されてる時点で、切り札は伏せてる感じはするわよね」

そんな会話を交わしながらも、旅客機は順調なフライトを続けている。

で、そんなこととはつゆ知らぬ特務六課側はというと、ハーディス氏の移送準備を進めていた。

「ここが、ハーディス容疑者の拘置所なんですね」
「またえらくへんぴなところなんですね」
『警備上の都合なんでしょうか』
「こんどは何事もないといいけど」
「何事もなし、っていうわけにはいかないでしょうね。ハーディス氏を奪回したい人たちはいるでしょうから」
「ヴァンディンコーポレーション側の人間ってことです？」
「そうね。今回の護送には、打撃中隊側の人が来てないから戦力的には不安があるのよね。
　ヴァンディンコーポレーションの研究所の情報の分析も特務主体でやらないといけないから
　それに人手をとられてるし」
「そうですね、ティアナさん」
「あ、あとトーマとリリィはヴァンディン氏との接触は禁止ね」
「え、どうしてです？」
「玲奈さんから言われたの。ソースは不明だけど、とにかく禁止。わかった？」
「はい、わかりました」
「まあ、なにかあったらフェイトさんがいるから大丈夫だとは思うけど……ハーディス氏の護送っていう
　重要任務の割には人手が足りないのよね。あとは私とスバルとあなたたち３人ぐらい……」
「一応俺とアルトもいるんだぜ。ま、ハーディスのやつはヘリに乗せないけどさ」
「そうですね、ヴァイスさん」
「上空哨戒はフェイトさんとヘリでカバーなんですよね」
「そうね、できればイレギュラーな事態は起きてほしくないけど、ね。ハーディス氏の護送だけで手一杯の陣容で
　追加の犯罪者の護送まで手が回らないわ。普通の犯罪者なら地元の手を借りることができるけど
　感染者が相手だったりすると、そうもいかないでしょうからね」
「そうかもしれないですね……」
「まあ、考えてもしかたないか」

さて、舞台を変えよう。こちらはフッケバイン組の方である。
いつのまにか、拘置所を見下ろす丘の上まで到着しているようだ。

「さて、上空哨戒も今はいないし、結構ずさんなもんだな」
「護送中の襲撃を想定してるんでしょう。計算通りね」
「トーマたちも来てるわね。私たちに気づいてるかしら」
「それはないだろうな。気づいてればとっくに反応してる」
「そうでしょうね。……まあ、無駄な妨害はないほうがいいわ」
「さっそくお仕事に取りかかりましょうか」

フッケバインメンバーたちは、お仕事に取りかかるつもりのようだ。
どんなお仕事かって、冒頭の会話通りだろう。ハーディス・ヴァンデインがお目当てなのだ。

「護送のお時間です」
「ん？　君たちは特務六課の人間じゃないみたいだな、見たことがない。誰だ？」
「誰でも関係ないでしょう？　
　時間がないから単刀直入に聞くわ。原初の種はどこにあるの？」
「おやおや、私にそんなことを聞くのかい？　私はしがないただの一般市民なんだよ」
「ただの一般市民ならこんな厳重な拘置所に入れられることもないでしょう」
「やだなあ、ちょっとした誤解があっただけだよ」
「ちょっとした誤解ねぇ。……まあいいわ、それは取り調べればわかることよ、ね」

そう言うと、カレンは早速実力行使に出る。いや、正しくは実力行使に出ようとした。
だが、ハーディス氏は一歩早くディバイダーで武装してカレンの機先を制する。

「君たち、ちゃんと証言してくれたまえよ。これは正当防衛なんだって」
「感染者が正当防衛を主張ね、ずいぶんな話だわ。けど、こう来なくてはおもしろくないわね……
　茨姫！」

カレンの特殊能力の一つ、茨のようなバインド体を発生させてハーディス氏を縛りにかかる。
ハーディス氏はあっさりとこれを切り捨てる。
その切り捨てた影からヴェイロンが近接戦闘に持ち込もうとするがハーディス氏はこれも受け止める。
ヴェイロンは距離を開けて近接戦闘を避ける。

警報が鳴り響く。

「あれ？　警戒システムは全部殺しておいたはずなのに」
「さすがにドンパチやったら気づかれるか、時間が本当になくなっちゃったわね、急がないといけないか」
「やる気まんまんだねぇ。こちらはしがない市民だというのに」
「しがない市民は感染者でもなければ、ディバイダーで武装したりもしてないわよ、一般市民が聞いてあきれるわ」

カレンはもう一度バインドに取りかかる、今度は直線的にバインドを放つのではなく、周辺から巻き付くようにだ。
ヴェイロンが援護射撃を行う。同時に二人から取りかかられるとさすがにハーディス氏も手が回りきらないようだ。
片方で防ぎ、片方で切り伏せるがやがて一本の茨がとりつき、移動の自由を失う。
それがきっかけで連鎖反応的に茨に巻き付かれ、やがて床に縛り付けられる。

「ソニカっ！」
「はいよっ」

ソニカがハーディス氏に近づく。
ヴェイロンが念のために護衛に入る。
ソニカの特殊能力、触れれば情報が手に這いるを用いれば、ハーディス氏が持っている情報も手に入るわけだ。

触れることができれば。

「なっ、死んだふり？」

ヴェイロンがソニカを抱えてハーディス氏から飛び下がる。
茨姫にバインドされていたはずのハーディス氏はやすやすとバインドブレイクしてソニカに触れられることを拒否したばかりか
ヴェイロンに反撃を加えてきたのだ。

「なるほどね……これが原初の種の力ってわけね」
「何の話かなあ……けど、さすがにフッケバイン相手じゃ正当防衛の範囲に収めるのも楽じゃないね。
　これは過剰防衛になっても仕方ないかな」
「そこまでです。カレン、ヴェイロン、ソニカ……あなたたち３人を緊急逮捕します。
　抵抗しなければあなたたちには弁明の機会が与えられます」
「あらら、特務の連中が来ちゃったよ」
「そうみたいだね。なら、おとなしく逮捕されちゃったらどうだい」
「ご冗談でしょうヴァンデインさん。ま、こういうときの決まり文句だけど『来たりて取れ』ってね」
「それは、抵抗の意思あり、ということですね」
「それ以外どういう意味に解釈したのかしら」
「先に言っておきますけど、こちらは対エクリプス感染者用の殺傷モード弾を装備してます。
　実力行使となると、けがをさせない以前の問題になりますよ」
「望むところだ、やってみろ」
「……わかりました」
「ちょ、あんたら、あたしの嫌いな言葉は知ってるでしょ」
「無駄足とただ働きでしょ、知ってるっての」

いずれにせよ、戦いはカレンたちと特務六課との間で繰り広げられることは確定したようだった。
おたがい、引くわけにいかないのだから……。

 

---