「あー退屈だぜ」
「リーダー、退屈とか言っても、することないでしょうが」

ここは、特務六課の拘置所。とはいえ、特務六課の拘置所は鉄格子のはまった監獄ではなく
環境のよいリハビリ施設的な存在である。
ここに、グレンデル一家が男女別に収容されている。

「男女別、っていっても、念話が使えるから、実質意味ないですけどね」
「念話は盗聴されてるかもしれない。気をつけるにこしたことはない」
「なんにせよ、かごの鳥にはかわりないだろ」
「ま、そっちは3人まとまってるんだから問題ないな」
「そういえばリーダー。グレンデルの大将が逮捕されたらしいですね」
「ああ、取り調べのときに聞かされたよ。それで、今日はあいつの移送でこっちは手薄になるみたいだな」
「そんなこと、信用するんですか」
「ん？　そんなことで俺らに嘘をついてもしかたないだろ。　感染者ってだけで、ディバイダーなきゃ、手も足もでないと
　向こうは思ってるだろうしな」
「事実その通りじゃないか。リーダーこそ馬鹿力があるかもしれないけど」
「ロロさん知ってる。リーダーほかにも能力ある」
「あっても、なんか役にたつのか？」
「たつんだな、それが」
「その妙な自信はどこからわいてでるんだか……」
「で、リーダー。なんかおっぱじめるんです？」
「おおよ。細工はりゅうりゅう、仕上げをご覧じろってな。ま、人目につかないところへ行ってろ。ちょっとしたら
　細工を見せてやるよ」
「ま、期待せずにまっておくってよ」
「ん、わかった」
「ロロさん了解」

念話でなにか相談がまとまったようである。
マリーヤは、念話の盗聴を気にしていたようだが、実は別段そんなことも特務六課はしていない。
まるきり軽視されているグレンデル一家であった。
まあ、ディバイダーも取り上げてるし、そもそも捜査に協力的だしで、警戒度も低いというのはある。
監獄ではなく、更正施設用の拘置所に入れられてるのも、その現れだ。

「さてと、トイレにでも行くかな」

別段見張りとかもいない拘置所で、監視カメラにむかってつぶやくと、カート・グレンデルは、つぶやいたとおりに
トイレへと向かった。

「さて、じゃ、細工を見せるか」

トイレに入ってもズボンを下ろすわけでもなく、彼はトイレに座っただけだった。
次の瞬間。

「なっ。いったい何が起きた」
「うわっ。ここはどこだ」
「リーダー、合流完了ですね」
「へっ。これが俺の能力、アボートさ。なんでもお取り寄せ可能ってことよ」
「ていうかちゃんと服ごと取り寄せろこのあほヘッド」
「服？　……ああ、すまんすまん、服ならすぐ取り寄せるさ……」

そう言うと、グレンデルは、自分の分を含めて、全部の服を用意した。

「服なら、こっちの方がいいだろ？」
「まあ、な」
「さて、お次はディバイダーだ」

次々と武装までお取り寄せしていくグレンデル一家であった。

「武装してどうするんで？」
「決まってるだろ、ここを脱出する」
「脱出って……ここは海のどまんなか、どうやって」
「ボートを奪ってロロの能力で加速する。
　音速超えればあいつらだって追えるかよ」
「はーい、んじゃさっそく逃走開始です〜」
「壁ぶち抜くのはあたしにやらせろよ」

そういう訳で、あっさりとグレンデル一家は逃走を開始したのだった。
警備らしい警備もしてないのだから当然だが。

「グレンデル一家が逃げ出したよ」
「まさか、どうやって？」
「監視カメラに写ってた、完全武装してる。方法はまだわからない。
　捕まえて後から本人たちに聞いてみるしかないね」
「あちゃー、油断したなあ。今はハーディス氏の移送で人手が足りてへんからなあ……
　動けるのは、なのはちゃんと、与一さんぐらいか。
　なのはちゃん、一働き頼むわ」
「了解、すぐに追うよ」
「けがはさせんようにな」
「了解」
「与一さん、サポート頼むわ」
「心得た」

特務六課の方も、不意を突かれたとはいえ、逃走を開始したグレンデル一家を追う態勢は整えた。
エース・オブ・エース一人で普通ならグレンデル一家ごとき余ってるのだが……。

「余ってるっていってもね、けがをさせないようにって言われるとちょっと困るかな」
「魔力打撃で気絶させるというのが難しいな、相手は感染者だ」
「そうなんだよね。徹底抗戦でこられると、手加減ができないかも」
「ま、モーターボートだし、すぐおいつくよ。投降を呼びかけてみるね」
「モーターボートか……」

なのはは高速でグレンデル一家の乗ったモーターボートを追いかける。
与一の方は、留守番している特務六課の本部の方でサポートの態勢に入る。

「なんか追ってきた、……げっ、ありゃ高町なのはじゃないか」
「ロロ、加速しろ、町中まで逃げ切ればこっちの勝ちだ」
「ロロさん了解」

ロロは能力全開でモーターボートを加速する。

「はやい、まさかモーターボートをあんな速度まで加速するなんて……分解しないかな」
「はやいな、これなら波にゆられず直進してるのと同じだ」
「与一さん？」
「要はエンジンを止めればいいのだろう？」
「その距離からエンジンだけ狙って撃つの？」
「ああ、そうすれば、向こうも抵抗する気をなくすだろう。逃げられないと悟れば、無駄な抵抗もすまい」
「エンジンだけって……できるんです？」
「愚問だ……私を誰だと思っている……私は那須与一なのだぞ」

「エンジンの限界に挑戦っ！」
「ていうか、モーターボートが分解しないか？　これ」
「へっ、町までもてばいいんだよ」
「空を飛んでるみたいな速さだな」
「高町なのはと互角に勝負できてるみたいだ。これなら……」
「なにかくるっ！」

その、何か、は、与一の放った矢だった。
その矢は確実にエンジンを射貫いた。

「なんだっ！」

エンジンは与一の矢で止まった。

「こちら高町なのは、もうエンジンが止まったから逃げられないよね。
　無駄な抵抗はやめて投降してください。抵抗しなければあなた方には弁明の機会が与えられます」
「無駄な抵抗って……この距離からエンジンだけを狙い撃つって……」
「マリーヤ、撃ち返せるか」
「そんな無茶な……」
「ちぃ、……こんなとこで終わりかよ」
「自重しろ……遮蔽物もないところで、あの距離からエンジン狙い撃ちとかいうやつがいるんじゃ
　アウトレンジで俺ら全滅だぜ……」

こうして、グレンデル一家の逃走第一幕は終わりを告げた。
第二幕があるかどうか、それはしらない。
どれだけカート・グレンデルが馬鹿決め込むかしだいだろう。

どのみち、特務六課がグレンデル一家を小物扱いすることに変わりはないのだから。
　

 

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