「よく寝てるね〜っていうか、よく寝られるね」
「ああ、うちのリーダーのことか？」
「うん、気絶してるのかと思ったけど、気絶してるんじゃなくて、熟睡してるんだ。
　大物なのか、バカなのか」
「バカなんだよ。うちのリーダーの場合は」

ここは、アルトさんが操縦するヘリコプターの中。
今はグレンデル一家を護送して、本部へと異動してる最中なんだ。

「ロロさん疑問なんだけど、なんで君たちだけが護送についてるの？
　ベテラン組はなにやってるの？」
「弁慶さんと九羅香さんは、フッケバインのサイファーを追ってる。本部のメンバーも総出で包囲陣を作りに出かけてるよ」
「ふーん」
『トーマ、そういうこと教えていいんですか？』
「へーきへーき、逃げようったってそうはいかないから」
「なんかあたしら軽くみられてる気がする。結局サイファーとか言う奴のついでに追われたのかよ」
「んー、一応っていうとまた不機嫌になるかもしれないけど、ちゃんとグレンデル一家の捕獲とラプターの護送が
　主任務ではあったよ。ただ、戦力見積もりの都合上、戦力配分がこうなっちゃってるんだよね」
「ずいぶんと甘く見られてるもんだね」
「ていうか、結果これだし。あ、でも、ちゃんと本部には部隊長が出張ってるから、甘く見てるわけじゃないからね」
「部隊長って、誰のことなんだい？」
「特務六課の部隊長って、グレンデル一家の方はしらないのか。まあ、世間に宣伝してるわけじゃないし
　そんなに有名でもないよね。八神はやてさんだよ」
「……八神はやてって、あの八神はやて？」
「あのって、八神はやてって、そんなにたくさんいるの？　昔機動六課の課長さんだった、八神はやてさんだけど……」
「……あの、歩くロストロギアが待ってるって？」
「待ってるって言うか、ここでの会話も本部に筒抜けですけどね」
「あ、一応、ここでの発言はすべて録音されてますからよろしくお願いします」
「いや、そういう問題じゃなくて、……特務六課の戦力は無尽蔵なのか」
「基本的に、JS事件を解決したときのメンバーを八神部隊長が集めてますよ」
「……ロロさん、オワタ」

ヘリは、アルトさんらしく、平凡な安全飛行で本部へ向かっていく。

一方、こちらは追われているサイファーの方である。

「つぅ……腕一本失ったか」
「本気を出さないからじゃない。なにやってるのよ」
「それはこちらの台詞だ、なにをやっていた、約束の時間に遅れてるぞ」
「ちょっと本業の方が忙しくってさ。遅れちゃった」
「遅れちゃったじゃないだろう」
「でも、おかげで管理局側の包囲陣についても、情報を集めることが出来たわよ。
　さ、ついてきて」
「どういうことだ？」
「特務の連中、あんたを捕まえるのにやっきになってるってことよ。
　グレンデル一家は片手間にして、あんたを追うのに主力を投入してるみたいね」
「ご苦労な事だ」
「けど、あんた一人だったら、確かに捕まえるのに十分な包囲陣だと思うわよ。
　ま、このあたしが計算に入ってない包囲陣だけどね」
「大きく出たな……」
「あたしも捕まりたくないし、今回はロハにしといたげる、急いで」
「分かったよ」

そんな会話が、ビルの影でなされてるなんてことは、僕の方は、というか、特務六課のほうは全然気づかなかった。
気づいていれば、当然サイファー達を捕まえに行ってるわけなんだけど。
ていうか、サイファーに話しかけている短髪の女性がなにものなのか、についても、まだ情報はなにもなかった。
いや、包囲陣の情報を手に入れることが出来ている、ということは、そういう特殊能力を持っている、ということなのかもしれないけど。

いずれにせよ、僕たちは、そういうことについて、全く知ることはなかったんだ。
分かっていることは、グレンデル一家をとらえるという、最低限の目的しか、達成できなかったということだけだ。

「はーい、あなたがカート・グレンデルね」
「なんだあんたは」
「私はシャマル。お医者さんよ」
「別に俺は病気じゃねぇよ」
「エクリプス・ウィルスに感染してるんでしょう。立派な病人よ」
「治療法はねえんんだろ」
「今のところはないわねぇ。管理局の方でもワクチン開発は頑張ってるんだけど、まだできてないのよ」
「じゃあ、医者の出る幕じゃないな」
「そうね。じゃあ、お医者さんのお仕事は終わりにして、尋問の方にうつりましょうか」
「あるのかよ」
「それもお仕事のうちなのよ。単刀直入に聞くけど、ラプターを盗み出すのは、誰の依頼なの？」
「いえねえよ。ていうか言ったら命にかかわるんだよ」
「あら、どうして？　ここは管理局の中で、命を狙われる危険なんてないわよ」
「そーはいかねえんだよな。依頼主は根性悪でよ、俺らの頭の中には爆弾が入ってるんだよ。
　依頼主の正体を明らかにしようとした瞬間に、爆発するようになってるってわけだ。
　もちろん、取り出そうとしてもどっかんだ。てなわけで、黙秘させてもらうぜ」
「つまり、頭の中に爆弾があって、それがあるからしゃべれないっていうのね」
「そうだよ。二度もいわせんな」
「それがなくなったらしゃべってくれる？」
「なくせるわけねえだろ。あいつらの技術をなめるんじゃねえよ」
「シャマル先生の技術も、なめてもらっては困るわよ〜」
「おい、俺の話を聞いてるのかよ。取り出そうとしたら爆発するって言っただろ」
「聞いたわよ。でも、爆発したとしても、バリアで保護しておけば、損傷しないようにできるわよ」
「どういう意味だ？」
「つまり、こういうこと」

シャマルはクラールヴィンドを開き、旅の扉に手をつっこむ。

「ちっちゃい爆弾ね」
「お、おい……」
「けど、先生だって、脳腫瘍手術をしたこともあるのよ。それに比べれば簡単ね。頭蓋骨のすぐ内側だから」
「なっ」
「はい、とれた」
「！」
「これがその爆弾でしょ？」
「……」
「どうしたの？　信じられない？」
「どういうことだ？」
「こういうのは先生の専門なのよ。どう？　話す気になった？」
「……これが手品で、やっぱり話すと爆発って落ちじゃないだろうな」
「そんなつまらない手品で、証人を殺しても意味ないわよ。まあ、そういう事情があるなら
　普段だと、アコース査察官の特殊能力を使うんだけど、今回は事情が事情だから
　あなたの直接の証言がほしいのよ」
「どういう意味だ？」
「アコース査察官も、うちの派閥の一員なのよね。今回はよその派閥に手を出すから
　うちの派閥の人間の証言じゃ弱いのよ」
「……で、俺様の証言がほしい、と」
「そうなるかな」
「証言を拒否するっていったら？」
「爆弾を頭の中に戻してほしい？」
「……O.K、俺たちに指示を出してるのは、ヴァンデイン・コーポレーションの専務、ハーディス・ヴァンデインだ。
　俺たちをエクリプス感染者にしたてて、頭の中に爆弾しこんだのも、そいつの差し金だよ」
「了解、ご協力感謝します。爆弾も鑑識に回してヴァンデイン社製かどうかチェックすることにするわ」
「証拠は二重三重にってわけかい」
「そういうこと」

ヴァンデインコーポレーションと、エクリプスウィルスとをつなぐ線が、ついに特務六課の前にも現れた。
それが吉と出るのか、それとも凶なのか、それはまだ分からない。
それを吉にするのが、特務六課の仕事なのは、間違いない。

 

---