「どうした公僕、始めるんじゃなかったのか？」
「さすがにね、隙がない相手に切り込むのもなんだしね。そっちから来てよ」
「隙がない相手に切り込むのもなんだからな。そちらから来たらどうだ」
「立場分かってるかなあ。弁慶たちがお仕事終えて帰ってきたら、いやでも動かざるを得なくなるのは、そっちなんだよ」
「ずいぶんと先の話をしているな」
「そっかな、そんなに時間はかからないと思うんだけど」
「まあ、ご希望とあらば、そちらから動いてもらおうか」
「やっぱり乗ってくれないの？」
「当然だ」
「誘うなら、誘うだけのことはしてくれないかな」
「そちらも、誘い水でも呼び込んだらどうだ」
「こちらは待てば有利になるんだよ。なんでそんなことしなければならないの？」
「ふふ、こちらが有利になる可能性は考えなくていいのか？」
「どうだかね」

高位実力者同士のにらみ合いが続く。
お互い、一瞬の隙が出来るのを待っているのだ。
だが、そんな物は期待するだけ無駄なようだった。

一方、僕の方はといえば、グレンデル一家を追いに出かけていた。

「追うっていっても徒歩だよこっちは、どうやって追いつけっていうの」
『飛べばいいじゃないですかトーマ、飛行魔法が使えるでしょう』
「それもそうか……すっかり忘れてた」

リリィに言われるまで、飛行魔法のことを忘れていた。
飛行魔法許可を管制にもらうと、即飛んでグレンデル一家を探す。

『見つけましたよ、トーマ』
「本当だ、トラックに乗って暴走してやがる」
「飛んで火に入る夏の虫たあこのことか坊主、今打ち落としてやるから覚悟しな」

グレンデルがトラックの荷台から叫ぶ。荷台には、動かなくなってるラプターが横たわってるのも見える。

『来ます、トーマ』
「場所は確認した、急降下」

建物の影に隠れてグレンデルの射撃をやり過ごす。
しかし、あの速さで走られたら追いつけないぞ、どうする？

その僕の問題は、響き渡る爆音が解決してくれた。

『何が起きたんでしょう』
「ポップアップだ、視認する」

再び上昇、何が起きたか確認した僕の目の前には、スクラップと化したトラックがあった。
そして、吹き飛ばされてるグレンデルに、白衣の女の子と、爆発で壊れたラプターたちとが。

「ここまで全部計画通り。あんたたちが渋滞情報を元にこっちへ逃げ出すってことは本部で予測済みだったのよ。
　こっちはそこを先回りしたってわけ」
「アイシス！」
「トーマ、リリィ、本部からヘリが回ってきてるわ。二人とラプターを確保して、私は……」
「まだあたしが残ってるっ」
『トーマ、狙撃手が……』
「滅殺！　神風陣！」
「弁慶さんっ！」
「撃たせないって言ったろ。俺にだって飛び道具ぐらいあるんだぜ。
　感染者相手だから魔法のバインドは効かないが、こんなこともあろうかと手錠を持ってきた。
　これかけてからヘリに乗せよう」
「手錠をかけるんですか？」
「ま、形だけでもな」
「ロロさん、降参」
「賢明な判断だ、アイシス、任せる」
「了解、弁慶さん」
「ヘリにはアルトとランスター執務官が乗ってる。あとの指示はランスター執務官に従ってくれ。
　俺は九羅香へ加勢に行く」
「了解しました」

僕たちの仕事は、ひとまずこれで終わった。
さて、九羅香さんと、サイファーの戦いはというと……。

「片づいたみたいだな」
「そうだね。弁慶がすぐ来るよ」
「となれば、三十六計……」
「そうはいかない」
「先に動くのはそちらか」

九羅香が先に動いた、先に動けば隙が生まれる。
隙が生まれればそこへサイファーが打ち込む。
それが分かっているから九羅香の踏み込みも甘い。
甘いからこそサイファーの打ち込みも受けることができる。

距離を離しての戦いは、つばぜり合いへと変わる。

「感染者相手に力比べを挑む気か？」
「さすがに体力勝負じゃ分がないか」

九羅香が下がろうとする。それが隙になる。

「もらった」
「鞍馬流最終奥義！　明鏡止水攻防一体の陣！」
「なんだと？」

好事魔多し。
九羅香に生まれた隙、その一瞬の隙につけ込めると思った
サイファーの心のおごりこそが、本当の隙になったのだった。
九羅香の太刀がサイファーの腕を切り落とす。

「……こちら九羅香、弁慶、本部、聞こえる？」
「こちら弁慶、どうした九羅香？」
「ごめん、やり過ぎた、作戦失敗」
「どういうこと？」
「逃げられた」

 

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