「こら、そこのウドの大木。行かせるわけにいかねえっていってんだろ。
　あたしを無視すんな。こらっ！」
「あー、サイファー、こいつの相手は任せた。俺は俺で仕事がある。
　管理局も今人手不足なんだ、頼むわ」
「フッケバインに頼み事か。本当に人手が足りないみたいだな」
「そっちはそっちで、事情があるんだろう」

痛っ！

銃声が銃弾の後から響いてくる。

「無事か？　トーマ」
「え、ええ……なんとか」
「少年、修行がたりんな」
「狙われたのは3人ともみたいですけど、二人は全然平気なんですね」
「まあ、経験の差ってやつかな。トーマもすぐに慣れる。銀十時にはセンサーあるんだろ？」
『あ、はい。……サーチすれば反応できるようになるはずです』
「反応しなくても、この程度なら中度感染者にとって受ける必要もない」
「というわけで、俺は行く」
「いかせねえって」

次の瞬間、弁慶さんの姿が消えた。

「フラッシュムーブ！」
「九羅香直伝の縮地の法さ。じゃ、後は任せたサンダース」
「だれがサンダース軍曹だ。……まあいい、少年、とりあえず見ておけ」
「……そういえば、グレンデルの姿も見えなくなりましたね」
「リーダーは今頃ロロんとこへラプターの回収にいってるところさ。
　ま、おまえらはあたしが足止め……ってか、無視しやがってむかつくんだよ、てめえらはっ！」

来るっ！

「まあ、昨日今日感染者になったばかりのひよっこじゃその程度だろうな。
　しばらく遊んでやってもいいか。少年には教育が必要だ」
「何言ってやがる？」
「少年、見えるか？」
「なにがです？」
「ということは、まだ見えてないのだな……よく見ていろ」
「あ、……はい」

よく見ていろって、どういうことなんだろう。

「なめやがって……後悔させてやんよ。死ねよおらっ！」

きんっ！

「今のはどうだ少年」
『センサーの感度を上げましたトーマ。感じ取れませんでしたか？』
「見えた、というか分かった。剣を振るうときに粒子みたいなものを発生させることで切っ先が伸びてるんだ。」
「まあ、今の少年にはそこまでだろうな。もう少しよく見てみるといい」
「あ、はい」
「もうすこしよく見てみるといい？　もうすこしがあるかよ。次で決めてやるっ！」
「種明かしの終わった手品師に何ができる。己をしれ」
「！」

カウンター！
サイファーにもおなじわざが使えるのか。

「原理が分かればおまえたちにも使える。覚えておくといいだろう」
「……っ……」
「これぐらいで痛がってるようじゃ、特攻隊長は務まらないぞ。足止めするんじゃなかったのか？」
「やかましい、お説教聞かせるんじゃねえ。ていうかあたしをなめんな。
　特攻隊長は伊達じゃないんだよっ！」

そういうと、クインはリアクトした。

「手品が通用しなけりゃ素で勝負すりゃいいんだろうが」
「言葉だけは勇ましいな」
「余裕ぶちかましてられんのも今のうちだぜ」

早いっ。けど……。

「動きが直線的すぎる。実戦経験の不足は命取りだぞ」

深々とサイファーのディバイダーがクインの体に突き刺さっていた。

「少年、相手の挑発には易々と乗るな。実戦では訓練の3割の実力しか出せないと思っていてちょうどだ。
　グレンデルとの戦いは、あぶなっかしくて見ていられなかったぞ」
「……すいません」
「謝る必要もない。そんなこともあろうかと、私も出てきていた」
「おかげで話がややこしくなったんだけどな」
「九羅香か」
「そだよ。……トーマ、クインのことが気になるだろうけど、グレンデルを追ってちょうだい。
　あいつら車盗んで暴走中みたいだからね。
　弁慶は狙撃手追い立てて、撃てないようにしてるから、そっち方面は安心して。
　で、サイファー、トーマのことはありがとう。けど、それはそれ、これはこれ。
　そっちもトーマ相手ならともかく、管理局となれ合うつもりは、ないんでしょ？」
「……手厳しいな」
「ま、ね。決まり文句だけど、武器を捨てて投降するなら、弁明の機会は与えられます。
　あと、投降した上で、そっちに道理があるなら管理局はやわらかい組織だからね」
「だが、ヴァンデインコーポレーションとの戦いでは、管理局では力不足だ。
　我々フッケバインでなければな」
「なら、法の番人のお仕事をやりますか」
「どこまでいっても公僕だな」
「少なくとも、あなたたちのやってることは、よくないことだよ」
「ヴァンデインコーポレーションは、もっと悪い。……少年、ぐずぐずするな。
　グレンデルを捕まえろ。それがおまえの仕事だろう」
「あ、はい……九羅香さん、じゃ、行ってきます……お気をつけて」
「大丈夫だよ。薄緑も第五世代デバイスに強化されてるからね」
「第五世代デバイスを手にすれば対抗できるつもりか？」
「剣技で劣るつもりはないよ」
「大きく出たな」

九羅香さんは、一度サイファーと戦ってる。そのときには片腕を失った。
こんどは、本当に大丈夫なんだろうか。

 

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