「こちらはトーマ、現在のところ異常なし」
「こちらは九羅香、現在のところ異常なし」
「こちら管制、現在のところ異常なし確認」

グレンデル一家が襲撃する、という情報が入ってるラプター輸送だけど、今のところ順調に進んでいる。
警備は通通りパトカーが先導してるだし、航空戦力は僕ら新米の特務六課組だけだけど
グレンデル一家も、無謀な攻撃はかけるのをやめたのかな、ラプターも起動状態だし。

不安要素と言えば、よりによって夜間に輸送することになったってことぐらいか。
昼間の輸送じゃ渋滞するから夜間にしたらしいけど。
まあ、ラプターも起動状態にしてあるし、たぶん大丈夫だろう。

それは、突然の出来事だった。

「やあやあ遠からんものは音にも聞け、近くばよって目にもみよ」

街灯の上に立って叫んでる馬鹿が現れた。

「なんだありゃ？」
「なんなんですかね？」

僕、つまりトーマ＝アヴェニールは先頭を行くパトカーに同乗してリリィと一緒にいるんだ。
その後ろにはラプターを起動させて輸送してるトラックがある。
その後ろには、またトラックの後ろを守ってるパトカーがいる。

護衛と行ってもこれだけだ。
グレンデル一家相手ならこれで十分、っていうのが警備の判断らしい。
逮捕したら護送用に追加のパトカーを出せばいいんだって。

『トーマ、リアクトを』
「分かった、リリィ」

念のためにリリィとリアクトしておく。
パトカーはいったん停車して、街灯の上の馬鹿対応に入る。

「へえ、走って突っ込んではこなかったか。ちったあ知恵使ったな。
　俺はこの街のボスになるグレンデル一家の頭領、カート・グレンデル様だ」

どっかーん。

道路が爆破される。
これで前方への突破は不可能になったわけだ。

「道路を爆破したのはおまえか」
「だったらなんだってんだ、まあ、その通りだが」
「じゃ、器物損壊で逮捕する」
「加勢します」
「ラプター6体か、まあ、ちょうどいいハンデだな」
『トーマ、脅威判定度低、油断しなければ楽に戦える相手のはずです』
「了解。じゃ、行きますか……あー、カート・グレンデルだったかな。
　武器を捨てて投降してください。抵抗しなければあなたには弁明の機会が与えられます」
「エクリプス感染者に投降しろだの逮捕するだのとはえらく威勢がいいなぼっちゃん」
「エクリプス感染者だって？」
「あんたもそうだろ？　まあ、実力のほどを見せてやるよ」

そう言うなり、カート・グレンデルは両手を挙げた。
降参するつもりなのか？

次の瞬間、ラプターが倒れていた。

「なんだ？　何が起きた？」
『分かりません』
「金属片の襲来、実体弾と推定」
「へえ、一撃じゃ破壊されないか、さすがに頑丈だな」
「ラプター、ディフェンスシフト！」

ラプターを防御態勢にいれて突撃かけるか。
相手は一人なんだ、パワープレイで行けるはず。
接近戦で仕留める。

「もう一撃入れてやるよ、ほら」

早いっ！　防御を固める前にラプターがたたきつぶされる。
ていうか流れ弾がパトカーとトラックの運転手に当たってる。
僕の影にいた2体は無事か。

「ラプター、2人は運転手さんの救護に当たれ」
「了解」

僕一人でやらないとだな。

「クリムゾン……」
「へっ、接近戦ならやれつもりか、甘いんだよ」
「なっ。なんだこの馬鹿力……」

くっ、首を絞められた、ふりほどけない。

「初心者丸出しだな。俺の勝ちだ」
「滅殺、神風陣！」
「なにっ！」
「弁慶さん！」
「手こずってるみたいだな」
「すいません」
「謝ることはないさ、初陣なんてそんなもんだ。
　トーマはいったん下がってディバイダーの再構成を。
　動けるラプターは破損した同僚の救護を」
「了解」
「さてと、おまえさんの相手は俺でいいのか？」
「いや、おまえの相手は……」

ずっきゅーん。

「あっぶねー。弁慶が七つ道具の一つ、対狙撃兵用レーダーがなきゃ死んでたぜ」
「なんだそりゃ」
「手の内ばらす必要もないが、特別に教えてやるよ、第97管理外世界とマリエル・アテンザのコラボレーションさ。
　対砲兵用レーダーを小型化して、狙撃兵用の銃弾でも監視できるようにしてあるんだ。
　ま、もちっと魔法的にも技術的にも工夫があるんだが、そいつは企業秘密ってね」
「って、どこ行くんだおまえ」
「ん？　俺の仕事はラプターの護送さ、おまえの逮捕じゃない。トーマっ！　ディバイダーの再構築は終わったか？
　俺は俺を狙撃した奴を捕まえに行く。おまえはこの馬鹿の相手をしてやってくれ」
「え？　あ、はい、分かりました」
「ずいぶんとなめられたものだな。え……まあいいや。
　クイン、足止めしろっ！」

セーラー服着て、刀持った女の子が現れた？
これがクインって子か。

「グレンデル一家の特攻隊長クイン・ガーランド参上！　マリーヤのところにはいかせねえ」
「残念だけど遊んでる暇ないんだ。またな」
「馬鹿にするなっ！」

抜刀！

だけど、弁慶さんは長刀でかるくうけた。　え？　うけた？
あの距離じゃ刀が到達するはずないのに……。

「あとは任せたぞトーマ。心配するな、すぐに九羅香が来る。
　まあ、招かない客もくるだろうけどさ」
「招かない客？」
「すぐ分かるさ……じゃあな」
「じゃあなじゃねえよ。行かせるわけには……」
「……招かない客で悪かったな」
「悪いとは言ってないさ。で、あんたはどっちの味方なんだ」
「どっちの味方でもないが、そっちの少年はうちのファミリーだ。
　こいつらに殺させるわけにはいかんな」
「そうだろうな。九羅香が来るまで保護は任せた。というわけで俺は自分の仕事をしに行く。
　正直油断があったのは認めないわけにいかんな。全員が感染者かよ。んなもん想定できるか。
　確率無視してるだろ」
「起こりうることは起こりうるものだ。想定しないのが悪い」
「肝に銘じておくよ」

サイファーが現れた？
一体どういうことなんだ？
それに、グレンデル一家全員が感染者だって。
なんでそんなことになってるんだろう。

 

---