「さてと、トーマにアイシスにリリィの訓練は順調に進んでるかな」
「ええ、八神指令、予定通りには進んでます」
「そうか、それは良かった。フッケバインも九羅香さんが治るまでおとなしくしててくれた……とはいかんかったけど
　九羅香さんたちも戦線復帰したし、特務六課も、いつまでも待機状態やおれへんな」
「待機状態やおれへん、って、僕たちも会議にでていいんですか？　大事な話なんでしょう？」
「大事な話やから呼んでるんよ。どうでもいいことなら文書回覧で済ませてるわ」

僕らが呼ばれてるのは、特務六課の会議室です。
八神指令以下、高町なのは教導官たちに源九羅香以下打撃部隊のメンバーたちもそろってます。
要するに、特務六課の主要なメンバーは全員いる、ということです。
そんな中に、僕ら新人がいるというのは、何か場違いな気がしなくもありません。

「シグナム、体調はどうや？」
「主はやて、もう問題はありません。いつでも行けます」
「九羅香さんも腕はもう治ったかいな？」
「うん、大丈夫だよ、くっついた」
「スカリエッティの技術流用だよな。管理局に協力しないとはいいながら、ある程度のスピンアウトはあるみたいだ」
「そうっスね」
「なにはともあれ、戦力的には整ってきたわ。トーマたちも計算できるようになってきたし、九羅香さんたちのための
　デバイスも出来たし、シグナムたちも戻ってきた」
「けど、相手の情報は相変わらず入ってこないね」
「フッケバインは姿を消したっきりやからなあ……何を考えてるかわからないあたりは不気味やな。
　ヴァンデインの方も情報をつかませへんし、捜査を進展させようにもなかなか令状がおりへん。
　捜査にもまるで協力的じゃあらへんしな」
「捜査に協力的じゃないって、フッケバインに付け狙われてるんでしょう？」
「フッケバインに付け狙われてるのは事実やけど、管理局に言えへん研究をやってるのも、間違いないところやからな」
「それで、管理局の捜査はノーサンキューってところなんですね」
「有り体に言えばそうや」
「けど、それが分かってるなら、捜査令状とれる証拠を集めて捜査はできないんですか？」
「それはフェイトちゃんやティアナがやってる。けど、普通ならつかえるコネが、今回は裏目に出てるからな」
「どういう意味なんです」
「うちらはCW社派や思われてるからな。ヴァンデインに捜査を入れるとなると、CWの息がかかってる捜査やと
　思われんだけの、しっかりした証拠がいるんよ。普段ならとれる令状も、今回は上の方で止められるんや」
「大人の事情って奴ですか」
「せやな。大人の事情といえば、そういうことになるかもしれへんな」
『私もCW社の製品なんですよ』
「そういえば、そうだったね、スティード」
「けど、地道に証拠を固めて、なんとかヴァンデイン側の捜査を進めなあかんやろ。
　これはフェイトちゃんとティアナ、頼むわ」
「分かりました」
「それで、問題はフッケバインや、動き全然ないのが不気味でたまらんけど、いずれヴァンデインかうちらに仕掛けて
　くるやろうし、そのときにはこっちが準備整えてるのと同様、向こうも何かしら準備整えてるやろうからなあ。
　何を整えてるかは全然わからけんけど、何が起きてもええように……」
『信号入電、送り主、カレン・フッケバイン』
「銀十時、おまえ、状況考えろよ」
『状況的に、フッケバインの情報が必要な場面だと思われますが』
「……あけていいですか、八神指令」
「そうやな、みんながいる時にあけてくれた方がええわ。あけてみてな」
「はい、分かりました」

『は−い、よい子のみんな、ていうかトーマくん元気してた？　カレンお姉さんだよ。
　ペタ子ちゃんにアイシスちゃんも元気してる？　こちらは今お仕事のために
　移動中。場所は秘密だけど、うちのアルがそっちのこと気にしてたから
　そのうち会いに行くかもね。ていうか、気が向いたら拉致っちゃうかもしれないぞ。
　ま、保護者はいらないから、子供たちだけで会いに来てね。じゃ、また、チャオ〜』

「……これだけです」
「絵はがき送る感覚で通信送ってきてるなあ……まあええわ、本部に情報送って分析してもらってや」
「分かりました」
「フッケバインの動きはこれだけか。お仕事をするのは分かるけど、どんなお仕事かはさっぱりやな」
「そうだね。不気味なほど、どこも動きがない。……まあ、それを言えば、こちらも水面下でしか動いてないんだけど」
「うごけば叩くつもりやあるけどな」
「動けば叩くと言えば、うちの情報部にCW社とそれに関する動きが入ってるぜ」
「CW社の？　それってなんや玲奈さん」
「CW社のラプターが完成して、いよいよ管理局に納品になることになった」
「それなら私も知ってるわ。CW社が開発した自立型警備アンドロイドやろ。それがついに納品になるんやな」
「まあ、それだけのことなら問題ないんだけどな。そいつを狙ってる奴らがいるらしい」
「警備アンドロイドを狙ってるって、どんな連中が？」
「グレンデル一家」
「グレンデル一家？　聞いたことないな」
「一応管理局の犯罪者リストには載ってる。たいしたことない連中じゃある。CW社の技術者も、地元の管理局の警備担当も
　ラプターを起動させて、普通の警備をしとけば返り討ちにしかならないだろうっていうのが判断だ。
　あたしもそう思う」
「それだけのことなら、たいした情報じゃないだろ」
「けどさ。それだけのことならグレンデル一家だって分かってるだろう。だから、何か切り札をグレンデル一家が持ってるんじゃないかと思うんだよ」
「どんな切り札があるっていうんだ？」
「わかんねーよ。分からないから警戒しようっていうんじゃないか」
「けど、ヴァンデインコーポレーションとも、フッケバインとも、無関係な話やな」
「それはそうだけどよ」
「それなら華麗にスルーしていいんじゃないか、玲奈」
「だといいんだけど、いやな予感がすんだよな。時期的に」
「時期的に？　どういうことだ、玲奈」
「エクリプスウィルス感染者がグレンデル一家の中にいるかもしれない、そう言いたいのだな、玲奈殿は」
「まあ……可能性はあると思ってる。証拠もなんにもないけど、時期的に切り札ってそういうものじゃないかって気はする。
　あいつら勝てる気でいるんだぜ、ラプターに。だったら、徒手空拳じゃこないだろ。なにか秘密兵器があるはずだ。
　それがエクリプスウィルスだっていう証拠はないけど、そうかもしれない」
「それがなんであれ、放置はできんわなあ。けど、特務六課の仕事でもないわな。雲をつかむような話や」
「それはそうだけど、今のところとっかかりもないぜ」
「そうやな……けど、たいした危険もないなら、新人の実戦訓練にはええんやないかな。
　どう思う、なのはちゃん」
「どう思うって、トーマたちだけじゃやっぱり不安だよ」
「そうか……」
「私も行こう。弁慶、ついてこい」
「そうだな。俺たちが援護する。それならなんとかなるだろう。フッケバインに備える人員は確保しておかないといけないんだろう？」
「それは当然や、……分かった。万が一に備えて九羅香さんと弁慶さんが行くなら、エクリプス感染者がいたとしても
　なんとかなるやろな。それで警備の応援に加われるよう現地の管理局と交渉してみるわ」
「ごめんね、私たちも行けるといいんだけど、フッケバイン優先だから」
「いえ、謝られることでもないですよ。たぶん、何事も起きないでしょうし」
「玲奈さん、グレンデル一家って、そんなにたいしたことない相手なんですか？」
「暴走族に毛が生えた程度の犯罪者集団だぜ。ギャングですらねーよ。本来なら、いまのおまえらで余ってるはずなんだよ。
　余ってるはずなんだけど……なんか胸騒ぎがするんだよな。まあ、九羅香がいるなら大丈夫だろ」
「俺はどうなんだよ」
「九羅香の足をひっぱんなよ」
「おい」
「あはは、弁慶、期待してるよ」
「ま、話はそれくらいでええやろ。ともかく、フッケバインの動きはまだみえへん。
　地道に出来ることをやっていくしかない。みんな、戦力はそろったいうても、気を引き締めてな」
「はいっ」

グレンデル一家、暴走族に毛の生えた連中、情報ではそうなっていた。
だが、情報はいつでも過去のものに過ぎないことを、僕らはまだ知らなかった。

 

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