神様は、いるんだよ。

「フィフス、なにぶつぶつ言ってやがるんだ、おら、とっとと行くぞ」
「……」
「何だんまり決め込んでやがる」
「旦那、あんまいじめるなよ。大事なリアクトプラグだろ」
「俺はこいつ見てるといらいらしてくんだよ」

ここは、第14管理世界のひなびた村。

「でもよ、依頼主も趣味悪いぜ。サンプル集めにエクリプスウィルス撒くなんてよ」
「変異株集めってわけだろ。ま、俺たちには関係ない話だ。
　とりあえず、食事ができる」
「そうだな。ま、依頼は依頼、お仕事はお仕事、食事は食事ってね」
「……」

入れ墨の長身の男が一人、軽そうなバンダナの男が一人、そして、ぼろをまとった幼女が一人の三人連れ。
この三人が、村を見下ろす崖の上で、何を始めるつもりなのか。
それは、すぐにわかる。
いや、軽そうな男がすでに話したとおり。エクリプスウィルスを散布するのだ。

「んじゃ、取りかかりますか」

軽そうなバンダナ男が銃を取り出すと、崖の上から村に向かって射撃……いや、その火力は
砲撃と言っていいだろう……を開始する。
エクリプスウィルス入りの砲弾が村一円に襲いかかる。

「さて、と、旦那、行きますか」
「そうだな、おい、フィフス、そこ動くんじゃねえぞ。で、呼んだらすぐに来い」

フィフス、と呼ばれた少女は、黙ってうなずいた。

「よし、じゃ、行くぞ」
「了解、さて、じゃあ食事と行きますか」

崖の上から二人は飛び降りる。まあ、飛べるんだから飛び降りるもなにもないものだが。
村のど真ん中にある守護聖像を打ち崩すと、その上へと二人は降り立った。

「さあ人間ども、天敵様のお出ましだぜ」

いくら平和に暮らしていた村人といえど、この状況で逃げなきゃどうかしている。

「エクリプスウィルスの洗礼を受けて、さてどれだけ生き残れるかなぁ」

バンダナ男が、銃を構えながら楽しそうにつぶやく。
狩の時間の始まりなのだ。……今殺してしまっては、エクリプス＝ドライバーの選別にはならない気もするが。

次の瞬間、入れ墨の男が異変に気づいた。

「！」

ロケット弾の群れが、彼ら二人に襲いかかってくる。
次の瞬間、大爆発。

「ちっ、こっちは外れだ、どう見ても本と銃剣の二人組じゃねぇ」
「それ以前に男と女の二人組ですらねえよ」
「何者だてめえら」
「それはこっちの台詞だこのタコ！　こっちは本家本元のフッケバイン。
　てめえらこそ、こっちを騙ってなにやってんだ」
「フッケバイン…？」
「黙っとけアル……こいつらに言葉が通じるって思うのが間違いだ……
　全身ぶち抜いてから、体に聞けばいい」
「さすが兄貴、わかりやすいぜ」
「思い出したぜ……凶鳥フッケバイン……こいつらも感染者だ、おもしれぇ」
「俺はちっともおもしろくねぇんでねぇの」
「ぶつくさいうな。やるぞマティ」
「ああもう、かったりぃんでねぇの」
「アル、俺はあの入れ墨の方をやる」
「わかった、じゃあ、あたしはあのバンダナの方な」

組割りが決まると、アルはさっそく射撃を開始する。
マティ、と呼ばれたバンダナ男の方は、逃げの一手だ。

「なあ、おんなじエクリプス感染者同士、干渉し合わないのが一番でねえの」
「てめえらがうちを騙ったりしなけりゃな」
「そりゃ誤解じゃねえの。お役所が勝手に誤解してるだけでね」
「それ以前に、てめえらがやってることも気にいらねぇ」
「感染実験のことか？　あれも下請け仕事なんでね。
　文句は上の方に言ってほしいいんでねえの」
「……？」

アルの姿が消えた。

「責任転嫁はかっこわるいぜ。それに、こっちも改善要求してるわけじゃねえ。
　気にイラねえからぶっ飛ばすって言ってるんだよ！」

一方、ヴェイロンと入れ墨男の方は、ヴェイロン優位に格闘が進んでいた。

「ちっ、化け物め。こんなことなら油断せずにリアクトしときゃ……」
「後悔先に立たずだ。……念仏でも唱えるんだな」

入れ墨男は壁にたたきつけられて動けない。
ヴェイロンはディバイダーを構えて撃つ。
殺してしまっては情報を聞き出す、というわけに行かないはずだが……。

「？」

ヴェイロンの周りに、光の帯がまとわりつく。
それがやがてバインドの帯へと替わり、ヴェイロンを拘束した。

「フィフス……遅いじゃねえかっ！」

入れ墨男はフィフスを蹴り飛ばす。

「呼んだらすぐに来いっていったろうが。
　まあいい、本家のフッケバインは本物の化け物だぜ。
　リアクトしなけりゃとてもじゃないがもたねぇ……来いよ、リアクトだ」
『リアクト……オン』

「こいつで……死んどけっ！」

ヴェイロンの頭を片手で万力のように締め付ける。
原始的だが、確実にやれる自信があった。

「……このクソカスが……」
「？」
「嫌な物思い出させやがって……」
「！」

相手はリアクトプラグを持ってない……はずだった。
それなのに、リアクトしてる自分を超える力を発揮して、そんな、ばかな……

顔面にヴェイロンのパンチがまともに入る。
それでヴェイロンを押さえていたちからがゆるんだ。ヴェイロンを取り逃がしてしまう。

「てめえ……」
「うるさい」

次の蹴りが、入れ墨男の顔面どころか、頭を粉砕して、勝負は終わってしまった。

一方のアルとマティの戦いはというと……

「あー、ぶっ殺しちまったかな、どうしよう、ヴェイ兄に手加減なんて無理だし、殺しちまったら情報を聞き出すなんてわけにいかないし……」
「ま、なんとか生きてるんでねぇの……」
「な……」
「こいつで……しんどけっ！」

強烈なパンチがアルのボディをとらえる。

「げーほげほげほ、いってえなあ……けど、そっちの病化特性は大体理解した。
　皮膚や筋肉の弾性化と強化、ま、うちの兄貴たちには遠くおよばねえな」
「だからって、対策はないんじゃねぇの」
「ちゃんと対策はあるんじゃないの……プラズマケイン」
「へっ」
「プラズマディスチャージャーっ！」

まともにプラズマを浴びれば、いくらエクリプスドライバーといえどもたまらない。
勝負は完全についたのだった。

「参りましたぁ」
「よくプラズマ食らって生きてるな」
「手加減したんだって、ヴェイ兄と違ってあたしはできる子っ」
「説明しろ、てめぇらの目的と背後関係だ」
「あと、あの汚らしいちび助は」
「あれは、ディーゴの旦那のリアクターでよ、俺もシュトロゼック５thとしか聞いてねぇんじゃねーの」
「町中にばらまいたのはエクリプスウィルスか？」
「イエスじゃねえの」
「なんでそんなことをしてる？　エクリプスドライバーになれる遺伝子ならとっくに見つかってるだろう」
「変異株を探してるって言ってた」
「変異株？」
「詳しいことはしらないんじゃねえの」
「で、スポンサーは誰なんだ」
「俺も詳しいことはしらないんじゃねーの。大体俺は単なる下請けで……」
「じゃ、おまえは用済みだな」
「あ〜今思い出したんじゃねえの」
「で、誰なんだ」
「とりあえず、俺らに指示をだしてんのは……」

ぱったり。

「狙撃か？」
「いや、違う……自壊ユニットだな。
　一定のキーワードに反応して脳を破壊するようにプログラムしてある。
　7年前と同じ手口だ」
「そっか、せっかくの情報源だったんだけどな」
「……姉貴の指示通りに後始末して帰るぞ」
「あいよ……と、あのシュトロゼック５thだけどよ、せっかくだから連れて帰ろうぜ。
　貴重なリアクトプラグなんだし」
「連れて行くのはかまわんが、世話はおまえがしろよ、俺はしないからな」
「いや、犬猫つれて帰るわけじゃないんだから……けど、カレン姉の予想が正しければ
　トーマには、やっぱうちに来てもらうべきかもね」
「ん、どうしてだ？」
「特務とうち、両方に融通の利く子になってくれれば、いろいろとおもしろいことになりそうだから」

 

---