目覚ましの音が鳴ると、いつもの朝が始まる。

「おはよう、トーマ」
「おはようアイシス」
『おはようございます、トーマ、アイシス』
「おはよう、リリィ」

３人気ままな旅も終わりを告げ、今は特務六課所属の見習い隊員である。
スケジュール表に従った規則正しい生活、それが彼らの日常だ。
部屋の掃除もそんな日課の一部である。

その日常を破る出来事が起きた。
訪問者が現れたのである。

「こんにちは」
「失礼します」
「あ、こんにちは、エリオくんにキャロちゃん」
「トーマくん、しばらくみないうちに大きくなったね」
「ってそれはこっちの台詞、身長何メートルだよ」
「まだ２メートルにはなってないって。バスケの選手になれば、とは言われるぐらいになったけどね」
「それ２メートル近いって意味なんじゃ……。キャロちゃんも成長したね」
「もう伸びないとは言わせないです」
「そちらの二人には初めまして、だよね」
「そうだね、紹介するよ、スゥちゃんの元同僚のエリオ・モンディアルくんに、キャロ・ル・ルシエちゃん」
「これからよろしくお願いします」
「よろしくね」
「こちらこそ」
『よろしくお願いします』
「それはそうと、今日からトーマくんも訓練開始だよね」
「ええ、でも、エリオくんは自分の意志でフッケバインのメンバーと戦ってたんでしょう。
　大変じゃなかったです」
「ま、それなりには鍛えてるし、相棒も強化されてたからね。
　それよりおまえらの方が心配だぜ、鬼のタカマチの訓練だ、覚悟しとけよ」
「う、ま、まあ……それなりには」
「空戦AA級以上を可能な限り短期間に、ってのが目標って聞いてるからな」
「……むちゃくちゃ言いますね、相変わらず……」
「フッケバインが相手じゃ、それぐらいないと対抗できない。それ以下じゃ、命がいくつあっても足りないぜ」
「いつ相手が動き出すかもわからないですしね」
「と、無駄話してると訓練時間におくれちまうな、急ぐぞトーマ、キャロ」
「はいです」
「O.K」
「私たちも急いで着替えて訓練場に向かおう、リリィ」
『はい』

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てなわけで訓練場である。

「初めまして、私が高町なのは一等空尉です」
「同じくヴィータ二等空尉だ。具体的な指示はあたしが出して、なのはは全体をみてプログラムを組むって感じになる。
　まずは見習いも実戦組も合同で軽くウォームアップな、実戦組は見習いに手本を示してやるように、以上」
「それって、エリオくんやキャロちゃんと同じことをやればいいってことですか？」
「そういうこと。トーマもリリィもわかったな」
「はい」
『わかりました』

４０分後。

「……おかしいな……体力には……自信があったのに……」
「……うぅ……完全に体がなまってる……」
『こ、こんなに動くものなんですか……』
「トーマくん、もう限界ですか」
「エリオくんはともかく、キャロちゃんまで動けるなんて……うう、なんかまけた気がする」
「仮にも現職ですから鍛え方が違いますって」
「どうした見習いども、軽いウォームアップで息が上がってるじゃないか。まあいい、ウォームアップが終わったら
　メインメニューいくぞ。これも実戦組がまず手本をみせてやれ。見習いはその後同じ様にやればいいから」
「手本通りにやれってことですね」
「そういうことだ。メインメニューったって、基礎でしかないからな」
「はーい」
「返事は短く」
「はいっ」

１０分後。

「……まあ、所詮民間人だし、一日で完璧にこなせるようになるとは思ってなかったけどよ。
　実戦であれだけ出しゃばった割には基礎ができてなさすぎじゃねーか？」
「ま、否定はできないかもね。けど、実戦でフッケバインをあれだけ手こずらせたのも事実だよ。
　基礎ができてくれば化けるんじゃないかな」
「その基礎ができるまでフッケバインが待ってくれるといーですがね」

そのまた３０分後。

「よーし、見習いども、実戦練習だ、こっちなら少しは自信あるだろ」
「待ってました、パフィ、出番だよ、ジャケット・オン！」
『エンゲージ・スタンバイ……ディバイダーセット……システム・ゼロ・スタートアップ』
『ディバイダー９９６　シュトロゼック・リアクテッド　黒騎士』

『トーマ、視界は大丈夫ですか』
「ん？なんか色が変で情報が出てるみたい」
『そうですか、じゃあ今視界を切り替えますね……視界モードノーマルヴィジョン』
「あ、元に戻った」
「よし、見習い組の準備も整ったところで実戦組も防護服着装、見習い組の相手をしてやれ」
「な、いきなりAA級とやるの？」
「大丈夫、私たちだってやれるってば」
「アイシスは気楽に言ってくれるよ……」

それが、彼らのこれからの日常。この訓練の日常を、フッケバインはいつまでゆるしてくれるだろうか。

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さて、ヴァンディンコーポレーションの襲撃跡地の現場を地道に調べているティアナのぼやきは深かった。

「どうです、ティアナさん」
「完璧な襲撃ね、生存者なし、監視カメラ等の情報はすべて破壊、完璧な破壊こそフッケバインの犯行の証と
　いわんばかりの完璧なまでの破壊っぷりだわ。フッケバインの逃走経路についての手がかりは多少残ってるけど
　そこから先の手がかりも一切なし。どのみち最後は飛空艇で逃げてるんだから、考えるだけ時間の無駄だしね。
　けど、完璧な破壊の中に奇妙なものがあるのよね」
「奇妙なもの？　なんです？　それは」
「私たちより先に、ここへ来てる存在があるわ。何かを消し去ってる」
「どういうこことです？」
「わからないわ。だけど、フッケバインより後に来て、私たちより先にこれる存在はひとつだけでしょう？」
「……そうですね。けど、それでどんな利益が……」
「それを調べるのは、フェイトさんに任せましょう。私たちの仕事は、現場をありのままに調べることよ」
「わかりました、ありのままに、ですね」

さて、そのフェイトは、というと、ヴァンディンコーポレーションの専務と会談していた。

「では、御社のエクリプス研究の成果がねらわれたのだと判断されているわけですね」
「ええ、我が社は同業他社とは異なったアプローチでエクリプスについて研究を行っております。
　その成果を彼らがほしがるのも無理はないでしょう。
　それに、エクリプス感染者は人を殺さざるを得ない……それこそ、息をするようにね」
「そうですか。しかし、御社の研究は研究と呼ぶには度が過ぎてるように見えますが」
「それは価値観の相違でしょう」
「そうかもしれませんね、しかし、管理局もエクリプス感染者に関しては研究を進めてます。
　管理局に御社の研究成果を提供していただくわけには行きませんか？」
「相応の対価なしには無理ですね」
「相応の対価、御社は企業でしょう？」
「ええ、企業ですな」
「私の一存では決めかねますが……ところで、エクリプス感染者のサンプルはどうやって入手されました？」
「企業秘密ですよ」
「そうですか、わかりました。御社がそこまで非協力的だと、次にフッケバインに襲われる地点の予測すら立てようがありませんね。
　エクリプス関係の施設が次にねらわれるとしても、それがどこかすらわからないのですから」
「たしかにそうですね。これは失礼しました。……次にフッケバインが襲撃しそうな施設の情報についてはお教えできると思います。
　我が社としても、貴重な人材を失うことは本意ではありませんから」
「そうですね。フッケバインは捕まえなければなりませんものね」
「そう願いたいですね」

非協力的な企業への捜査、これもフェイトにとっての日常だった。
だが、ヴァンディンコーポレーションが何をしているのか、それはまだ特務六課にはわからない。

 

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