リリィは、飛び出した。
急がなければ、何もかも失ってしまうかのように。
そう、事実、急がなければ何もかも失ってしまう。

……思い出した。
私が生まれてきた理由。私の存在意義。
サイファーさんが言っていた、一つになれる、という言葉の意味。
急がないと、銀十字がトーマをどこかにとばして行ってしまう、そうなってしまったら
すべてが失われてしまう。
その前に、コネクトしないと。

リリィは、全速力でトーマの元へ急いだ。

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だが、銀十字の方は、リリィをまだリアクトプラグとして認識できていないようだった。
戦闘プログラムとしての状態を維持したまま、リリィに対しても防御戦闘プログラムを発動したまま
攻撃態勢に入る。

「銀十字、私がわからないの？　シュトロゼック4thだよ。……トーマ、銀十字を止めて」
「リリィ？　リリィなのか？」
「よかった、トーマ、私の声が聞こえるんだ」
「ああ、聞こえる、リリィ……でも、逃げるんだ。僕にも銀十字は制御できない。リリィを傷つけないようにすることも……」
「今のトーマには無理。リアクトプラグがないと、銀十字は制御できない」
「リアクトプラグ？　そんなもの僕は持ってない……」
「……そのリアクトプラグが私、シュトロゼック4th。だから、もう大丈夫。……っ！」
「どうしたの、リリィ」
「大丈夫、トーマは気にしないで……」

大丈夫、といっても、ディバイダーで切られたのだ、深手ではないが、大丈夫といえるほどの怪我でもない。

”リアクト・エンゲージ”

リリィは、トーマと融合した。
文字通りの意味で、リリィはトーマと一体となったわけだ。

”銀十字、自動防衛機能遮断、シュトロゼックによる能動制御に切り替え。
　視覚、聴覚、通常状態に復帰、ゼロ・ドライブ緊急停止。武装解除”

リリィが内部から銀十字を制御すると、トーマの戦闘モードは解除された。

”……抗体作動……”

「リリィ、これはいったい？」

”……これが、シュトロゼックのお仕事です。……エクリプス・ドライバーをサポートすること。
　それが……”
「リリィ？　リリィ！」

「トーマ、大丈夫ですか？」
「戦闘はひとまず終了みたいね」
「アイシス、スティード」
「あれ？　リリィはどこへ行ったの？」
「どこへって……リリィは俺の中にいるよ。
　俺の中にいて、俺を助けてくれたんだ」
「ひとまず、戦闘状態は終了、かな」
「油断は〜してはいけませんよ〜、ここからが〜本番の〜はずですから〜」
「静さん？」

そう、たしかに、静の計算では、これからが本番のはずだった。
トーマを確保するためにフッケバインは反転してくる、それが静の読み。
それを叩くことでフッケバインの身柄を確保する。それが静の勝利の方程式だったのだから。

だが、フッケバインにはフッケバインの計算があった。

「フッケバイン、相転移します」

「なんやて！　トーマをおいていくんか！」
「あら〜。あれだけファミリーと言ってたのに〜トーマさんは〜おいてけぼりですか〜
　これは〜計算が狂いましたね〜」
「今日のところは、痛み分け、やな」
「無駄に損害ばかりでて〜引き分けという気には〜なりませんよ〜」
「それでも民間人は確保できた。それが大切なことや」
「はやて司令に〜そういってもらえると〜すこしはきが〜らくになります〜」

こうして、ヴォルフラムのフッケバイン追撃戦は、ひとまず終わりを告げた。
民間人の救出には成功したものの、フッケバインは取り逃がした。
それが何を意味するのか、それはまだ、特務六課にも、フッケバインにも、わかってはいない。

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そのフッケバインの中でも、意見は分かれていた。

「姉貴、なんであの坊主を確保しなかったんだ。せっかくシュトロゼックも目覚めたっていうのによ」
「シュトロゼックは目覚めたが、あのまま戦いを継続していたら、こちらがやられていた可能性が高い。
　あれ以上は将棋の指しすぎだろう。引くのが正解だな。
　それに、戦利品もそれなりに手に入れたし」
「戦利品？」
「フッケバインの新型航行システム。これでステラの負担もだいぶ減るわよ」
「そうか、そりゃよかった。ほかにはなにか？」
「……あたしらの偽物についての情報のしっぽをね」
「偽物？　本を持った女と、銃を持った男の二人組についてですか」
「そ。ま、あたしらを騙った連中には、ちょっとお灸を据えないとね」

フッケバインのお灸である、ただでは済みそうにない。
近い将来、特務の仕事が増えることになることは、間違いなかった。

 

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