異聞・少女義経伝・伍

 銀十字

 【第二十章】

〜待避〜

 
「ステラ、相転移可能まであとどれだけ時間が必要です？」
 
ステラは、こぶしを示した。
 
「いつでも相転移可能ですか。……カレン、相転移可能になりましたけど、どうします？」
「まだ相転移で逃げるには早い、あの子を収容しないとね。
　けど、今は体勢を整えるのが先だよ、フォルティス。……ま、すこしあたしに考えがある」
「了解、カレン。ドゥビルのアルの二人も待避でいいですね」
「そうだね。あたしもいったん下がるよ」
 
 
さて、こちらは指揮官と、次席指揮官を一気に失ってしまったヴォルフラムである。
ユニゾンでの一撃で勝負を決めるつもりだったはやての作戦は裏目に出てしまい
はやても、ユニゾン状態だったリィンも、深傷を負ってしまったのだ。
 
「……だからいうて、のんびり療養なんてしてられへん、応急手当受けたら
　すぐに指揮にもどらへんと」
「そんな〜無理をするものでは〜ありませんよ〜」
「この声は？」
「うふふ〜敵を欺くには〜まず味方からと〜言いますし〜」
「静さん！　無限書庫にいたんじゃないんですか？」
「そのつもりだったんですけど〜こんなこともあろうかと〜救護員の一人にまじって〜乗艦してました〜」
「静さん、それで、これからどうするつもりなんや？　静さんが今現れたちゅうことは
　何か作戦があるっちゅうことなんやろ」
「それより、まずは応急手当ですよ〜……私は、看護員の仕事が第一ですから〜
　シャマル先生に言って〜紅葉さん達と〜お師匠さんたちを〜早く収容してください〜
　あの少年は〜なのはちゃんと〜スバルと〜フェイトちゃんに〜まかせて〜」
「……フッケバインを砲撃する要員がおらんようになるけど、ええんか？」
「ええ〜それはかまわないんです〜ともかく〜いま必要なことは〜あの少年を〜我々が〜確保することです〜」
「わかった……そういう指示を出すわ」
 
 
さて、こちらは空戦中のリーゼ姉妹にフェイトである。
 
「ちょろちょろちょろちょろ動き回りやがって、ねらいが定まらないことおびただしい」
「じっと撃たれるために待ってる馬鹿がいますかって。それより撃ってこなくていいの？
　血、流れてるんじゃない？」
「うっせぇ、かすり傷だ、てかどんな手品を使いやがった」
「かまいたちぐらいでびっくりされてもね」
「かまいたち？　うそつけ、そのくらいで切るほど柔な皮膚してねぇよ」
「やっぱだまされてくれないか。……ま、正体は企業秘密ってことでね」
 
空中の水分を凍らせて武器にするぐらいのことは、リーゼ・アリアにとって常識であった。
水分を凍らせるときに出来る空気の渦を使って副次的な攻撃を起こすことも、また同様である。
 
「ドゥビル、姉貴からの命令だ、いったん撤退だってよ」
「撤退か……わかった」
「逃げるのか？」
「何とでもいえ」
「ビル、援護してやるよ」
 
アルはめいっぱい砲撃を加えながら後退していく。
さすがのフェイトも回避するのが精一杯だ。
ビルの方は、短距離転位でアルの砲撃をかわしてフッケバインの方向へと飛んでいく。
 
「さて、あたしらも玲奈達の方へ向かうよ」
「あいよ、フェイト、坊主の方はまかせたよ。すぐになのはとスバルが来るからね。
　それまでなんとかしのいで」
「わかった」
 
 
さて、こちらは玲奈達である。
 
「……はい、これでもう大丈夫。骨折だけだから治ったはずよ。
　けど、あまり無理な運動はしない方がいいわね」
「ありがとうございます。シャマル先生。けど、あたし、あいつを助けにいかないと」
「さっき落とされたばかりでしょ。素人が無茶するんじゃないわよ」
「ただの素人ってわけじゃないです。それに、私、トーマと約束したんです。
　何かあったら、必ず助けに行くって」
「本職のレスキューが出てる時に、素人が出てもじゃまになるだけよ、ひっこんでたら」
「楓、それは言い過ぎですよ」
「それくらいいってやらなきゃわからないわよ。こういう子は」
「だけど、私にも出来ることがあるはずです」
『私からもお願いします』
「スティード」
『私の相棒が苦しんでるときに、私が何も役に立たないでは、相棒失格ですからね。
　トーマのデバイスとして、私は、トーマのためにそばに行かなければならないんです』
「それだけのことなら、あたしらがつれてってやるよ」
「お師匠、帰ってきたのか」
「はやての指示でね。いったん地上班はヴォルフラムに帰還しろってさ」
「わかった、……あんたもいったん帰れよ。シャマル、転送魔法を頼む」
「ええ、3人を連れてヴォルフラムに帰還するわ」
「3人？」
「アイシスさん。あなたは自力で戻れるわね？」
「それって……」
「無事に帰ってきなさい」
「はい、無事にかならず帰ってきます。……絶対に」
「シャマル様、それでは……」
「なのはちゃんやフェイトちゃんも、こんな子だったのよ。
　きっと、足手まといにはならないはずだわ」
「シャマル様がそこまでおっしゃるなら……」
「じゃ、あたしらはさっさとヴォルフラムに帰還しようぜ」
 
 
さて、こちらはトーマである。
 
とはいっても、実質戦闘を管制しているのは、銀十字の方だ。
 
『危険因子急速接近中、迎撃開始』
 
銀十字が再び砲撃を開始する。
接近している危険因子が何か、というのはトーマにはわからない。
その危険因子が打ち返してくるが、それが何かということもトーマにはわからない。
撃ってきてるのはなのはで、撃ってきている武器が、第5世代デバイスストライクカノンなのだが
それがどういう意味なのか、トーマには理解できない。
だが、銀十字はそれを理解していた。
危険度最高の相手として認識し、高速でなのはの砲撃を回避すると、遠距離砲戦を不利と見なして
接近戦闘を挑むことに切り替える。
こうなるとなのはの方が不利だ。
近接戦闘もこなせるよう訓練されてるとはいえ、近接戦闘用武器を備えている銀十字に対して
ストライクカノンは、そもそも近接戦用武器ではない。
なのはは、距離を開いて砲撃戦に持ち込もうとするが、トーマの〜というか銀十字の〜攻撃に
防戦一方になる。
 
トーマがなのはを追い詰めつつあるのを見たフェイトは、すぐになのはの援護に入る。
だがそれも銀十字に察知される。
 
『危険因子接近、排除します』
 
銀十字は、牽制の射撃をフェイトに加える。
フェイトはその射撃をかわすのに手一杯となり、なのはに十分な援護が加えられない。
だが……。
 
「振動破砕・ソードブレイク！」
 
なのはの懐へ飛び込もうとしたトーマの一撃を、スバルもまたなのはの懐へ飛び込んで
トーマのディバイダーを受け止め、振動破砕で破壊した。
スバルの接近を感知したなのはが、わざとすきをつくってトーマの攻撃を誘導したのだ。
接近戦闘を封じられた銀十字は、遠距離戦にうつるべく、距離をひらこうとする。
だが、それはなのはの思うつぼ。
ストライクカノンと、バルディッシュの飽和射撃は、銀十字の防御射撃能力を超えて襲いかかり
銀十字本体を破損させることに成功した。
 
だが、……それは問題を解決することにはつながらなかった。
銀十字には、まだ打つべき手が残されていたからだ。
 
『緊急事態発生、転位により使用者を保護します』
 
 
「おい、姉貴、銀十字が転位モードに入ったみたいだが」
「それでいい、ヴェイロン。これでシュトロゼックも目覚めるだろう」
「もしかして、シュトロゼックを目覚めさせるために、管理局を？」
「ふふっ」
 
戦いは、まだ続く。
 

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