『敵性存在、地上に3体、空中に5体確認、さらに一体接近中』

 

……どうしてみんな近づいてくるんだろう。

ほかのエクリプス感染者とも違って、俺のおかれてる状況は

回復不能のはずだ。もう、景色どころか、音もまともに聞こえなくなった。

いっそ自決しようとも思うが、多分それすら銀十字が許してはくれないだろう。

 

対策は、ないんだ。みんなあきらめてくれればいいのに。

さもなければ、また、エクリプス＝ゼロ発動みたいなことになる。

 

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トーマの意志とは全く無関係に、戦いは続いていた。

にこやかに殺し合いをやってるのは、アルにアイシスの二人である。

 

「にこやかじゃねえ、ていうかあたしが放ったのは誘導性の近接信管付ミサイルだ。

　プロジェクトつるつるぺったんもこれでおしまいだぜ」

「あたしはプロジェクトつるつるぺったんでもなければ、おしまいでもないっ！」

「！……なんで起爆しねえんだよ。確かに至近弾になったはずだぞ」

「ホワイトパフュームは、誘導弾の動作を止める効果があるのよ。

　まっすぐ飛んでくる物をかわすのは、大して難しいことじゃないわ」

「そうかい、じゃ、あたしの全力射撃を受けてみろよ。まっすぐ飛ぶものが

　本当にかわせるかどうか、ナインちゃんにもよくわかるだろうぜ」

「いい加減胸の話題から離れろ、っていうか撃たせてたまるもんですか。

　ブラックパフュームNo.5発動！」

「なんじゃこりゃ、カラスの大群？」

 

突然鳥の群れのようなものが現れると、アルに向かって突撃を仕掛けてくる。

アルはこれを射撃で迎撃するが、打ち落とした先から鳥は爆発してアルの視界を奪っていく。

 

「ちぃ……物騒なもんいろいろ持ってると思ったが、こううまく爆薬を使ってくるとは思わなかったぜ。

　こりゃ、本気にならないといけないかもな、BU70」

「なによ、そのBU７０っていうのは」

「Bust Under ７０ｃｍの略」

「わざわざ略語をつくんな、ブラック……」

「マスター、後ろ！」

「うし……」

 

アイシスは、パフィの声に反応して後ろを向こうとした。

だが、後ろを振り向くわけにはいかなかった。

なぜなら、振り向く前に、後ろに現れたドゥビルにたたき落とされてしまったからだ。

 

「殺ったか？　ビル」

「いや、殺すのはやめておいた。それでも骨を砕いた手応えはある。

　当分戦闘には戻ってこれないだろうな」

「そっか。ま、手早く片付けてくれたことは感謝するぜ。

　これで、あたしらはあいつの救出に全力を挙げられる」

「そううまくいくといいがな……まだ敵は二人残っているぞ」

「あたしとビルがコンビを組めば、すぐに片付けられるさ。そうだろ？」

「まあな」

「援護するぜ」

「頼む」

 

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さて、こちらは見学しかすることのなかった地上組である。

 

「民間人が落とされたみたいね」

「のんびり言ってる場合ではありませんよ楓。すぐに救出に向かわないと」

「そうだな。師匠も心配だが、まずは民間人の確保だ」

「紅葉、短距離転送で落下点に送るわ。きっちり受け止めて」

「わかりました、楓、頼むわね」

「任せなさいって」

 

地上にいる玲奈、紅葉、楓にも仕事が回ってきた。

誰かが落とされたとき、それを無事に拾い上げるのは、地上班の役割なのだ。

 

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さて、こちらはリーゼ姉妹である。

 

「魔力供給が落ちたみたいね」

「だね。……さて、この状況でエクリプス感染者二人＋要救助者一名、ちょっとつらいかな」

「……来るよ」

 

確かに来た。猛烈な射撃がリーゼ姉妹に襲いかかる。

 

「けど、あの坊やの砲撃に比べて特にすごい射撃ってわけでもないね。

　これなら目をつむっててもかわせる」

「へっ、わざとよけられるように撃ってんだよ。楽しみはこれからだぜ」

「へえ、これから楽しませてくれるんだ。それはありがたいね」

「……筋肉だるまが消えたよ」

「消えた？」

 

確かに、ドゥビルの姿はどこにもなかった。

だが、次の瞬間、アリアは背後に気配を感じた。

 

「しまった、短距離転送……」

「遅い！」

 

ドゥビルの必殺の一撃がリーゼ・アリアに振り下ろされる。

長距離戦専門のアリアにとって、クロスレンジからの攻撃は鬼門だ。

リーゼ・ロッテが援護に入ろうにも、二人の間はアルの砲撃で遮断されている。

完全にアリアは詰んでいた。

 

「！」

「フェイト！」

「遅くなった」

「借りが一つ出来たね」

「一体いつ現れた……気配は感じなかったが……」

「フェイト、こいつは任せたよ。あたしらは、なんとかトーマを確保する」

「あたしを無視して話を進めるんじゃねえ」

 

何が起きたのかって？　つまり、ビルの必殺の一撃を、フェイトがブリッツアクションで

食い止めたのである。第5世代デバイスのバルディッシュなら、リアクト状態の

ディバイダーの攻撃を受け止めることも可能だ。

 

「けど、アイシスは守れなかった。……民間人を守れないでは、管理局員としてはまだまだだ」

「耳が痛いね。けど、民間人なら、今紅葉が拾い上げに行ってる。

　これ以上の犠牲は出させないよ」

「けっ、言いたい放題じゃねえか。けどよ、おまえらにあいつを救う手段なんてないってのは

　いい加減認めろよ。さっさと旗巻いて帰りやがれ」

「そうはいかないね。民間人を守るってのは、管理局員のお仕事の第一だよ」

「へっ。お前らに何が出来るってんだ」

「あの特A級ロストロギア、夜天の書問題を解決したチームに、不可能があるとは思ってないよ、こっちはね」

「夜天の書？」

「無駄話はここまで。あんただって、話し合いでなんとかしようって気持ちになってる訳じゃないんだろ」

「まあな。３：２だからといってひるんでるようじゃ、フッケバインの名が廃るってもんだ」

「そうこなくちゃね」

 

リーゼ姉妹と、アルとは、根本的な部分では意見が一致しているようだった。

つまり、管理局とフッケバインとは、実力で決着をつけるしかない、ということである。

 

アイシスが退場しても、戦いは終わる気配を見せない。

 

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