異聞・少女義経伝・伍

 銀十字

 【第十七章】

〜盲目〜

 
……また、敵が現れてたみたいだ。
いや、敵か味方か、俺には判断がつかない。
銀十字が敵と認識してる存在がある、ということがわかるだけだ。
そして、銀十字は、敵と認識してる”何か”を、自動的に攻撃する。
自動的に、ということは、俺の意志とは無関係に、という意味だ。
……フッケバインの連中もエクリプス感染者だったよな。
あいつらは、一体、どうやって普通の生活をやってるんだろう……
 
 
「さて、と。敵は２つ、要援護者1名、やな任務になっちゃたね」
「だね、……と、ぼやいてても始まらない、まずは威力偵察行くよ」
「あいよ、援護はまかせな」
 
接近戦魔導師のリーゼ・ロッテが、トーマに対してまっすぐつっこんでいく。
もし、同じような砲撃が来たとしても、回避できる自信があるようだった。
だが、銀十字も、近接戦に対しても砲撃で受けるようなまねはしなかった。
トーマの体が動くと、ディバイダーの切っ先がロッテに向かって素早く突き出される。
 
「おっとっと、危ない危ない、あんた、あたしが認識出来るかい？」
「誰だかわからないけど、速く逃げて、今ならまだ間に合うから……」
「あんたを殺してあげればいいっていうんなら、方法はあるんだよ。
　けど、それじゃ何にも解決しないだろ」
 
殺す、という言葉に、銀十字が反応したようだった。
トーマは、ロッテから間合いを開くと……いや、開こうとした瞬間
蜘蛛の巣のような網にトーマはとらえられた。
 
「物理召喚は、何も金属の鎖ばかりってわけじゃないんだよ。
　スパイダーウェブ、粘着性の有機化合物。
　じっとしてな、このままヴォルフラムに収容してあげるから」
「有機化合物で大丈夫かい？」
「さあね、だめならまたべつな手を考えるまで……」
「うあああああああ」
 
トーマの体が赤熱すると、スパイダーウェブが燃えだした。
 
「あらら、人体発火で焼き切っちゃったよ」
「並の感染者なら、これで決まりなんだけどさあ。ま、一筋縄でいっちゃ面白くないか」
 
 
「御師匠様達、なにか楽しそうですね」
「けど、遊んでる訳じゃないみたいね」
「めいっぱいやってあれってことか、なんて化け物だぜ」
「地上戦に持ち込めれば、あたしらも参加出来るんだけどさ」
「参加できたからって、どうするっていうんだよ。あいつを助ける方法なんて
　なんかあるのか？」
「銀十字の書を破壊できればいいんだけどね」
「ディバイダーを破壊か、それ、リアクターの破損を引き起こさないか」
「わかんないわよ。エクリプス感染者については、わからないことだらけだもの」
「そうだよなぁ」
 
玲奈、楓、紅葉の3人は、今のところ、リーゼ姉妹に魔力を送る以外、出来ることがない。
 
 
「なにちんたらやってるんだ、あいつを助けられるのは、あたしらフッケバインしかないんだよ」
「だから犯罪者集団になんて友達を渡せる物ですかっ！」
 
こちらは、トーマから離れた場所で対峙している、ロリ巨乳ことアルと、ぺったん胸こと
アイシスの二人である。
 
「誰がロリ巨乳だ」
「誰がぺったん胸よ」
「なんて言い争いしてる場合じゃねぇ、これ以上じゃますんなフラットボディ。
　あいつのお気に入りみたいだから手加減してやってるが、ファミリーの安全に
　関わる状態になってんだ。これ以上あたしの妨害をするつもりだったら
　遠慮なくまな板に穴あけるぜ」
「あんたらだったら、あいつをどうやって助けるっていうのよ」
「そいつは企業秘密だ」
「どーせ、あんたらだって考えなしで手の施しようがないんでしょうが。
　だったら管理局に任せた方がましよ」
「管理局に何がわかるってんだよっ！」
 
 
「このまま逃げてると、彼らから間合いが開きすぎますねぇ」
 
フォルティスの一人語りに、ステラはうなずいて同意を示した。
 
「だからといって、今反転するのも危険ですし、アルに任せるしかありませんね」
 
ステラは、首を振って指を一本立てた。
 
「ああ、ビルのことを忘れてましたよ。彼も援護に向かってるはずですでしたね。
　彼が参加してくれれば、管理局の連中の妨害を排除して、彼を確保してくれるはずです」
 
ステラは、今度は賛意を示した。
 
「相転移可能になったとしても、そう簡単に転移で逃げるわけにもいかなくなりましたし
　反転して沈める……ふむ、リアクターの確保は必要かもしれませんね」
 
ステラは、きょとん、とした表情を見せた。
それから、手を振り払うような仕草をし、首をかしげてみせた。
 
「そうですね。彼らを一緒に射出したんでしたね」
 
ステラは、二度うなずいた。
 
「彼がこんなまねをするとは思わなかったですからね。
　管理局にかれを助ける方法があるとは思えません。
　僕らが救出するか、さもなければ、死ぬか、二つに一つ。
　我々は、ファミリーを見捨てることは、しませんよ」
 
ステラは、にこっと笑った。
 
 
飛空挺フッケバインの中でこんな会話が繰り広げられてる頃
それを追撃するヴォルフラムの艦上では、与一となのはとヴィータが
フッケバインへの砲撃をつづけていた。
 
「砲撃をつづけると言っても、長くはもたないな」
「はやてちゃんの魔法で、一気にけりをつけるための援護だよ、与一さん」
「それでうまくいけばいいんだけどよ、なんかやな予感がするんだよな」
「どうしたの、ヴィータちゃん、弱気になって」
「……ま、気にしすぎだろ。はやてなら、やってくれるって」
 
 
「アイシスさん、なんとか、トーマのそばに寄れませんか？」
「今やってる最中なんだけど、ロリ巨乳がじゃますんのよね」
「やかましいあばら数えれます。いい加減堪忍袋の緒が切れた、これでも食らえ！」
「パフィ、迎撃」
「了解、ホワイトパフュームNo.7展開」
 
アルは、まずアイシスを叩くことに決めたようだった。
トーマを巡る戦いは、激しさを増している。
 
 

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