「相棒、それで、これからどうする？」

『まずは、この部屋からの脱出でしょう、トーマ』

「そうだなスティード。とりあえず手かせを外すか」

 

連中は、俺がファミリーの一員になるものと決めてかかっていて

俺への手かせはたいしたものをしこんでないようだ。

アンロックの魔法一発で手かせは外れたた。

 

『それにしても、そのイカした格好はどうにかならないんですか？　トーマ』

「こいつは俺の意志でやってるわけじゃないよ。てか、どんな格好になってるんだ」

『全身炎のタトゥーが入ったみたいになってますよ』

「弱ったな、これじゃまるで俺もあいつらの一員みたいだ」

『事情は聞いてましたよ。さて、無駄話はここまでです』

「了解相棒」

 

俺は、アンロックの魔法で鍵を開けると部屋を出た。

まずは、リリィとアイシスの確保、それから先は3人で相談だな。

 

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さて、こちらは突入したフェイト達と、その迎撃に出たサイファー達との戦いである。

３on3の戦いは、フェイトvsサイファー、エリオvsドゥビル、そして、スバルvsヴェイロンの

1on1へと変貌していた。

 

「リアクト状態の私と互角か、管理局も質量兵器に手を出したと見える」

「これは質量兵器じゃない、第五世代デバイスだ」

「ふふ、だが魔力分断に対抗するためのエネルギー消費は莫大なものに見えるぞ。

　短期で私を叩けないようなら、力尽き出死ぬのを待つだけだな」

「その前に……勝つ！」

「剣技では、あのピンク髪の公僕に劣るな、それで私が切れるものか」

「切る必要は、ない。制圧するのみ」

「甘い」

 

サイファーとフェイトは、今のところは互角に戦っているようだ。

 

「たった3人で乗り込んできただけはあるな」

「僕だって、あの機動六課の一員だったんです。

　この程度で音は上げませんよ」

「それがどうかしたか」

「くぅ……馬鹿力だけはありますね……」

「このまま押し切ってやろうか」

「馬鹿力だけなら僕のスピードについてこれるわけないでしょう」

「見た目で速度が出せないと思うな」

 

ドゥビル、ああ見えて意外と敏捷なようだ。

しかし、建物内ならソニックフォームのフェイトをしのぐ速さを持つ

エリオが相手では、さすがに速さでは一歩譲るようである。

 

「つっかまえた」

「くっ」

 

そして、唯一リアクターを持たないヴェイロン相手に戦っているのがスバルである。

リアクター持ちの能力のほどを考えると、ここはスバルががんばるのが

特務六課突入班にとって、もっとも有利な展開ということになる。

 

そして、スバルはその期待に応えていた。

ヴェイロンのディバイダーを左手でつかむ。

 

「ソードブレイカーはつど……」

「甘いんだよ公務員！　ほらこっちも捕まえたぜ、ナパーム……」

「スバルさん、危ない！」

 

スバルの危機を見て取ったエリオは、素早くドゥビルから間合いを開くと

ストラーダでヴェイロンを射撃した。

槍型デバイスストラーダ、だったはずであるが、今やストラーダには

射撃モードも設定されているのだ。

 

「よそ見する暇があると思うな！」

 

だが、援護射撃も長くはつづけられない、すぐにドゥビルに間合いを詰められて

斧で斬りつけられる。それを受けるストラーダにヒビが入る。

リアクター持ちの力は伊達ではないのだ。

対エクリプス感染者用装備となっているストラーダといえども、不利な戦いに

なっていることは否定できなかった。

 

---

 

けど、俺はそんなことはわからなかった。

ひとまずリリィとアイシスを探すだけだ。

 

と、廊下を歩いてくる人影がある。

俺はさっと身を隠した。

 

『トーマはそこに隠れていてください、私が偵察に出ます』

「頼むよスティード」

 

スティードがちょこっと廊下の曲がり角から顔をのぞかせる。

俺は身を隠したままスティードの報告を待つ。

 

『トーマ、隠れる必要はありませんでしたよ。向こうから来るのはアイシスさんです』

「アイシスだって？」

 

俺は、アイシスと聞いて、視線をどこにやったらいいのか、少し迷った。

 

「トーマ、何よそ見してるかな」

「え、別によそ見とか……なに、その格好？」

「ん、これはあたしのアーマージャケット。露出部が多いのは

　動きやすさ優先してるからなんで気にしないで。

　ていうか、トーマ、あんただってあたしの格好のこといえた義理じゃないでしょ」

「俺は好きこのんでこんな格好してるんじゃないってば。

　フォルティスが言うには、エクリプスとかいうウィルスの影響らしいんだよ」

「エクリプスねぇ」

『二人とも、話は後です。まずはリリィさんを探しに行きましょう』

「そうだな、リリィと合流するのが先だ」

「よし、決まり。で、どこを探すの？」

「リリィがとらわれてる場所の映像を見た、倉庫を探せばいいはずだ」

「了解、じゃあ、あたしがつかまってた場所のそばかもね、案内するわ。こっちよ」

「ありがとうアイシス」

『後ろの目は私が担当しますよ、二人とも』

「ありがと、スティード」

 

俺たちは、アイシスの誘導で倉庫区画を目指した。

倉庫区画は、俺がとらわれてる部屋からそう遠くはなかった。

そして、倉庫区画の警備は全く存在しなかった。

どうやら、侵入者対応で、フッケバインのメンバーはみんな出払っていて

俺たちの監視にまで手が回りかねているらしい。

これは、脱出するだけなら、割と簡単にいくかもしれないな。

アイシスもバリアジャケットみたいなものをもっているみたいだし

リリィを背負って飛び降りるぐらいなら、俺のバリアジャケットで

落下の衝撃を受け止めるぐらいのことは出来るはずだ。

 

「と、この部屋かな」

「鍵開けなら俺の方が得意なはず」

「言うねぇトーマ、まあ、任せるわ」

「ありがとうアイシス。……スティード、サポートを頼む」

『了解、トーマ』

 

なんということはない、ただのシリンダー錠のようだった。

これなら魔法使いなら誰でも簡単にあけることが出来る。

ていうか、魔法を使わなくても、体重を掛けてノブを折ったら

鍵が露出するんじゃないのか。この船、内部の警備態勢はかなりずさんみたいだ。

 

『トーマ！』

「リリィ、助けに来たよ」

『ありがとう、トーマ』

 

リリィは、毛布をまとって立ち上がった。

毛布の下は何も着てないように見える。

どうやら、彼らはアイシスとリリィは身ぐるみはいだらしい。

何か隠し持っているとでも思ったんだろうか。

 

「アイシス、服か何か持ってない？」

「さすがに今回は服屋のあたしも手も足もでませんって。

　リリィ、毛布を背負って、あたしが負ぶって運んであげるからさ」

『ありがとう、アイシス』

「お礼は後、行動が先、さて、3人そろったことだし、さっさとこんなところ

　おさらばしますかね」

「それがそうもいかないんだ、アイシス」

「そりゃまたどうして？」

「エクリプス感染者について、フッケバインのメンバーから話を聞いた。

　なんでも、エクリプス感染者は、破壊衝動で、人を殺さずにはいられないらしいんだ。

　けど、フッケバインのメンバーは、それを制御する技術を持っているらしい。

　その方法を、なんとか探り出さないと、もしかしたら俺がアイシスやリリィを

　殺してしまうかもしれない。それはなんとしても避けたいんだ」

「……ただのはったりっていう可能性はないの」

「そうかもしれない。だけど、調べてみる必要がある」

「そういえば、管理局員がこの船に乗り込んで来てるって話だったよね」

「うん、そうだけど……？」

「どうしたのトーマ」

「いや、何かが俺の頭の中に流れ込んできてる」

「流れ込んできてるって、どんなものが流れ込んできてるの？」

「破壊衝動とか、戦いの感覚とか、そんな感じ、……なんかざらついた負の感情だ。

　いやな感じだな」

「そんな物が察知できるなんて、トーマってもしかしてテレパスか何かなの？」

「いや、そんなことはないよ、普通に念話が使えるだけ」

「念話ぐらいならあたしも使えるけど、そういえば、この船の中じゃ念話がうまく通じなかったわね」

『この船自体が魔力解除の空間を発生させているようですからね、長距離の念話では

　通じないのが当然だと思われます』

「そっか、スティード。……どうしようか、3人そろったとはいえ、フッケバインの

　首領のところに行くのは、……なんだ、この感覚」

「どうしたの？　ニュータイプに目覚めた？」

「そんなことはないはずなんだけど……だけど、痛いんだ」

「痛い？　どこか怪我でもした？」

「違う、悪意が突き刺さるんだ。……だめだ、やめろ、やめてくれ」

「悪意が突き刺さるって……」

「……はぁ……はぁ……」

『トーマ、汗が。また熱が出てるじゃない』

「熱なんかじゃ……ない……」

 

そうだ、熱なんかじゃない。……なぜだ、なぜこの船も

管理局の船からも、突き刺さるような敵意を感じるんだ。

だめだ、やめろ、やめるんだ……ヤメロ。

 

『ディバイド　ゼロ　エクリプス』

 

その瞬間、衝撃がはしった。

 

「……はぁ……はぁ……はぁ……なんだったんだ、今のは」

「……」

「……」

『……』

「スティード、リリィ、アイシス、何があった、なあ、何が起きたんだ」

 

『緊急事態発生、緊急事態発生、本艦の動力停止、高度低下中、直ちに復旧措置にかかれ。

　繰り返す、直ちに復旧措置にかかれ』

 

「船が……機能を停止した？」

 

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さて、場面はヴォルフラムへと移る。

 

「与一さん」

「与一、おい、大丈夫か、与一」

「こちら艦長、なのはちゃん、ヴィータ、何があったんや」

「何か急激な衝撃がはしったあと、急に与一さんが倒れたんだよ」

『マスターにも、私にも強烈な打撃を受けてます。幸い

　機能停止には至っていませんが、マスターの戦闘続行は不可能です』

「ちぃ、こっちのウォーハンマーも急に魔力切れだぜ。戦闘どころじゃねえよ。

　ていうか、この船、急激に沈みかけてないか」

「それは私も感じた、ルキノ、何が起きてるんや」

「……ルキノ？」

「……」

「シャマル！　直ちに操舵室へ、ルキノからの応答があらへん」

「わ、わかりましたはやてちゃん」

「う、うぅ……」

「与一さん」

「与一、気がついたか」

「……なんだ、今の衝撃は……」

「ディバイド・ゼロかもしれへん……」

「はやて、なんだ、そのディバイド、ゼロ……というのは」

「ヴィータは聞いたことなかったんかいな。

　あらゆる魔力、生命力を断ち切るエクリプスの力のことや。

　今のところ、遭遇例がないから、どんなものなんか本当のことはわからへん。

　けど、今のがディバイド・ゼロやったとしても、わたしはおどろかへんな」

「はやてちゃんは大丈夫なの？」

「今のところな。魔力はだいぶ持って行かれた気がするけど、まだ大丈夫や。

　それより船をなんとかせなあかん。向こうも無事で済んでないみたいやけど

　こっちも船が沈みかけてる。これはフッケバインを追うどころのさわぎやない」

「フッケバインを追うどころの騒ぎじゃないって……あの船にはまだ

　フェイトちゃんやスバルやエリオが乗り込んでるんだよ」

「わかってる。まずはヴォルフラムの体勢を立て直して、それからフッケバインの追撃や。

　あれが単なる向こうの攻撃のはずがない。向こうの攻撃やとすれば

　向こうの方が被害甚大に見えるはずがないんや。……打撃中隊各員。

　ヴォルフラムを立て直ししだい、突入班の救出に当たる。気合い入れてや。

　各部署は被害状況を報告のこと、修理班は機関の復旧に全力であたるんや。

　……ヴォルフラムをぶつけてもかまわん。とにかく、突入班を無事収容するで」

 

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もちろん、衝撃はフッケバインの艦内をも突き抜けていた。

 

「……リアクトさえ解除されるとは……こんな衝撃は初めてだ……」

 

サイファーは床にうつぶせになって倒れている。

 

「うぅ……」

 

フェイトの方は、床に仰向けに転がったままだ。

 

（あの……坊主だ……）

 

ヴェイロンは、体を壁にゆだねていた。

 

（姉貴の探してた当たりが、こんな形で見つかりやがった……）

 

当たり、ゼロ因子適合者。ディバイド　ゼロを発動させる能力の持ち主。

トーマがそれだというのだろうか？

 

「はっ、はっ、はっ……」

 

エリオは、ストラーダを突いてなんとか体勢を立て直そうとしていた。

しかし、受けた打撃はそれを許さない。エリオも動ける状況ではなかった。

 

「……」

 

スバルは、機能を停止していた。

戦闘機人スバルといえど、耐え切れる打撃ではなかったのだ。

 

（まだ……死んではない。けど、体も動かないし目も見えない。

　とにかく視力回復が優先だ。早く、早く……）

 

かつーん、かつーん、かつーん、、、

 

廊下を靴音が響く。

 

「管理局の方ですか。要救助者2名です、救助をお願いします」

「その声は……もしかして、トーマ」

「えと、……その声は、スゥちゃん？」

 

突入してきた管理局員って、スゥちゃん達だったのか。

けど、この状況はいったいなんなんだ？　いったい、何が起きた？

 

 

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