……ううぅ……うぅ……どこだ、ここは。

　確か、俺はロープで捕縛されて、そこから……記憶がない。

いったい何が起きたっていうんだ、誰が俺を捕まえた？

 

「やあ、お目覚めですか」

「誰だ、あんた」

 

　俺の前に現れたのは、マッチョな土方のおじさんといった風情の男と

どこかとらえどころのない、中性的な感じのする青年だった。

 

「だれだ、あんた達は」

「僕ですか、僕の名前はフォルティス。こちらの、タオルを肩にかけてるのが

　ドゥビル。僕らは凶悪犯罪者集団とも呼ばれてる”フッケバイン”のメンバーです」

「フッケバイン？」

「ああ、君にわかりやすく言うとすれば、”ヴェイロンのファミリー”ですね」

「ヴェイロンのファミリーだって！」

「まあまあおちついて。君に危害を加えるつもりなら、なにも僕らは

　こんな面倒な手間をかけて君を連れてきたりはしません。さっさと殺してます。

　僕らのやり方について、少しでも知っていればわかると思いますが、僕らは

　意味もなく誰かを生かして連れてくる、なんてことはしませんからね」

「どういうことなんだ？」

「一から、順を追って説明しますよ。ああ、その前に、君と一緒に行動してた

　二人のことについて話しておきましょう。安心してください。二人とも無事ですよ。

　なんなら、今映像を映しましょうか」

 

　そういうと、フォルティスは、映像を示した。

確かに、リリィの方は、毛布にくるまって眠ってるようだった。

そばに女性が建ってるのが見える。確か、九羅香さん達と戦ってた奴だ。

けど、アイシスの方は……

 

『おら、起きろ、起きろこのハゲ』

 

げしげしげし。

 

「……蹴ってるじゃないか」

「……みたいですね。アル！ちょっといいですか？」

『なんだよ、いまこいつを起こそうとしているところなのに』

「今、彼が目覚めましたよ。今二人が無事なところを見せようと思って

　映像を送ってるっていうのに、あなたがそんなことをしていると

　まるで、僕らが彼女を虐待してるように見えるじゃないですか」

『映像を映してるなら映してるっていえよ。よぉ、あたしはアルっていうんだ。

　こいつの名前はなんていうんだ？』

「アイシス」

『やっぱりか。悪いけど、荷物は全部調べさせてもらったぜ。

　こいつ、やたらと物騒な物をもってたんで、ちょっと拘束させてもらってる。

　ていうか、お前も念のため拘束だけはさせてもらってるぜ。

　まあ、あたしらのアジトの中をうろうろされても困るしな』

「まあ、はなしはそれくらいでいいでしょう。彼女に対しても、丁重に

　もてなしてくださいよ」

『うぅ……うう……』

『やっと目覚めたようだな、眠り姫』

『ここはっ！』

『ここはフッケバインの倉庫、あたしはアルっていうんだ。

　悪いけど、あんたと、シュトロゼックと、坊主の三人は

　あたしらのアジトに連れてこさせてもらったぜ』

「ちょっとまった、拘束するといっても、何も裸にして

　鎖でつなぐことはないじゃないか」

『わりぃわりぃ。坊主には目の毒だったか？』

「そういう問題じゃなくて……」

『彼女への説明は任せましたよアル、僕は、トーマ君に事情を説明しますから。

　シュトロゼックへの説明は、サイファー、任せますからね』

『心得た』

「サイファーっていうのが、九羅香さん達と戦ってた奴の名前なのか」

「ええ、そうですよ」

「……で、なんで俺たちを捕まえたんだ」

「その前に、君が今一番重要視してるだろうことについてお話ししましょう。

　君は、確か、故郷を破壊した犯人を捜しているんだったんですね」

「ああ、そうだけど」

「それで、僕らのマークが手がかりだったんですね」

「そうです」

「ですが、残念ながら、というべきか、その集落破壊は僕らの仕業ではありません」

「どういうことなんだ」

「ヴェイロンに頼まれて、調べたんですよ。

　君の故郷の事故現場に、確かに僕らは立ち会ってはいました。

　でも、君の故郷を壊したのも、住人を殺したのも僕らではありません。

　少し調べてもらえればわかりますよ。僕らがよくやる集落殲滅と

　君の故郷の壊滅では、状況も結果もかなり違います」

「なんで、そっちがやるのは殲滅で、俺の故郷の方は壊滅って呼ぶんだ」

「いい質問ですね。聡い子は好きですよ。

　僕らがやるときには、集落殲滅で理由なく生存者を残すようなミスはありません。

　依頼や報酬があるとき、武器を向けられたとき、僕らの目的の障害となるとき、

　感染者である僕らが生きるために必要になるとき、そういうときには遠慮無く、

　殲滅させてもらってます。

　君の故郷の方は、少なくとも君が生き残ってます。意味もなく生存者を残すような

　ミスは、用意周到にやる僕らのやり方では、ありえないんですよ」

「いったい、何のために殲滅なんてやるんだ。大体、感染者ってどういうことなんだ」

「感染者というのは、エクリプス感染者って意味ですよ。僕らや、君のようなね」

「生活のために人殺しをやってるってわけか」

「ああ、君はまだ知らないんですね」

「何を？」

「エクリプス感染者は、人を殺さずにはいられないんです」

「どういうことだ？」

「自分が死なずに、まともな精神と生命を維持するためには、人を殺し続ける必要があるんですよ」

「俺はまだ誰も殺してない！」

「ええ、”まだ”、ね。どうして”まだ”なんて言ったんです？

　普通の人なら、殺人なんてしてないのが当然だというのに」

「それは……」

「……わかりますよ、僕もそうでした。

　君も感じたでしょう。ディバイダーを手にしているときの、常軌を逸した殺意と憎しみ。

　それが、エクリプスウィルスが呼び起こす、強烈な破壊と殺戮の衝動です」

「故郷を破壊した奴への憎しみ、それがエクリプスウィルスの呼び起こした衝動だっていうのか」

「ええ。そして、感染が進めば、発狂するレベルの肉体的苦痛も伴うようになります。

　たとえそれに耐えたとしても、その先に待っているのは、ウィルスによる体組織の

　自己対滅のみです」

「自己対滅？」

「簡単にいうと、自己再生機能の暴走ですね。もっと手っ取り早くいうと

　全身がガン細胞化するんですよ、結果は、言うまでもないですよね」

「……信じろっていうのか」

「急には信じられないのも無理はありません。……そうですね、しばらく

　気晴らしにほかのはなしでもしましょうか」

「ほかのはなし？」

「エクリプスウィルスについて、知りたいことがあるんじゃありませんか。

　僕らが知ってる限りのことであれば、教えてあげますよ」

「そうだ、リリィは、自分のことを”お前は毒だ”って言われてたって聞いた。

　それはどういう意味なんだ」

「ああ、シュトロゼック４ｔｈのことですね。

　シュトロゼックというのは、一言で言うと生体リアクターです」

「リアクター？」

「ああ、リアクターの説明からしないとわからないですよね。

　リアクターというのは、因子適合者とディバイダー、そして、ストレージの

　３つのユニットを正しく接続、励起させるための道具ですよ。

　普通は、……サイファー、リアクターを見せてあげてください

　シュトロゼックへの説明中なんでしょう」

『自分のを見せればいいだろうに……まあいい、これがリアクターだ』

「えと、確か、九羅香さんとの戦いで手に突き刺してたナイフみたいなもの？」

『そうだ。これを取り込むことで、感染者はその能力を最大限に発揮することが出来る』

「はい、ありがとうサイファー、説明を続けてください」

『ああ』

「ぶっきらぼうですいませんね。さてと、シュトロゼックのはなしですね。

　詳しいことは我々も知りません。銀十字と、シュトロゼックは古代ベルカの

　魔道書を参考に作られているらしい、ということだけです。

　そして、毒と呼ばれてるということは、ある意味当然です。

　感染者は、世界を汚す毒物そのものですからね」

「どういう意味なんだ」

「言葉通りの意味だ。お前がここを逃げ出したとしても、殺戮衝動と自己対滅との戦いになるだけ。

　誰であろうとお前を救ってはくれん。……たとえ、神であろうとも」

 

　今まで、黙っていたドゥビルが口を開いた。

殺戮衝動と自己対滅との戦い？　殺戮衝動に身を任せても行く先は自己対滅のみ。

 

「じゃあ、あんた達も、殺戮衝動と自己対滅と戦ってるってわけだ」

「そう見えますか？」

「……いや、あんた達は殺戮衝動に支配されてるようには見えない。

　だけど、殺さずにはいられないんだろう」

「ええ、僕らも完璧にエクリプスウィルスを制しているというわけではありませんから。

　けど、エクリプスウィルスをあるていど制御する方法なら知ってるんですよ」

「それはいったいどういうことなんだ？」

「その話をするまえに、お友達の話をしましょうか」

「リリィとアイシスのことか？」

「ええ、まえに言いましたよね、僕らは無意味に人をさらってきたりはしない、と」

「確かそういう意味のことを聞いた」

「君の友人を連れてくることに、どういう意味があると思いますか？」

「ヴェイロンは、ディバイダーとシュトロゼックを渡せと言った。

　だけど、それなら俺やアイシスを連れてくる必要はなかったはずだ。

　ディバイダーを手に入れて、リリィだけ誘拐して、……俺たちは殺されてるはず」

「ええ、そういうことです。多少扱いが手洗いのは勘弁してください。

　今のところ、君たちは僕らの虜なんですからね。

　まだ、僕らは、君に心を許した訳じゃないんですよ、君が僕らに心を許してないように」

「……」

「さて、我々フッケバインのメンバーは、全員エクリプスウィルスの感染者です。

　そして、君も、エクリプスウィルスの感染者です。ここまで言えば

　僕らが君たちをさらった目的もわかるでしょう？」

「仲間になれ、ということなのか」

「ええ、そうです。仲間が増えるのは心強いですし、僕らも君の目的達成に

　多少なりとも協力できます。

　人殺しには抵抗があるかもしれせんが、まあ、すぐに慣れますよ。

　僕もそうでした。

　君が選べる道は、いくつかあるでしょう。ですが、君がエクリプスの運命を受け入れる

　というのであれば、僕らとともに来るのが、合理的な選択だと思いますね。

　僕らは、同じ運命の共同体の一員として、君を歓迎します」

「……」

「まあ、一度にいっぱいのことを話しても、混乱するばかりでしょう。

　しばらく時間を上げます。ただ、逃げようとするのはあきらめた方がいいですよ。

　僕らは、殺人しないことに努力を必要とするんです。そのことの意味が

　わからないほど、こどもじゃ、ありませんよね」

 

　それが質問ではないことがわからないほど、俺はこどもじゃなかった。

 

「そういう意味もあって、アイシスまで連れてきたのか」

「まあ、そういうことですね。逆に、君がファミリーの一員となるのなら

　彼女たちも我々の一員として歓迎しますよ。君の大切な人が

　何かの間違いで、僕らの殲滅対象にならないともかぎりませんからね」

「……相棒と相談するわけにはいかないですかね」

「相棒？　シュトロゼックのことですか？」

「いや、……」

「？」

 

　そうだ、いったいスティードはどこへ消えた？

彼らはスティードのことは知らないみたいだ。

この情報が俺の切り札になるかもしれないな。

 

「……なんでもない」

「そうですか」

 

　フォルティスは、納得した風じゃない。

だけど、そんなことはどうでもよくなった。

艦内に警報がはしったからだ。

 

『現在、本機に向かって大型港空戦力が接近中。

　対象はXS級管理局艦船、識別名、ヴォルフラム』

 

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「はやてちゃん、敵艦捕捉しました」

「フッケバインの移動拠点、飛空艇フッケバイン。

　あらゆる魔道兵器が通用しない装甲と、非常識なレベルの機動力。

　そら天狗にもなるわな。

　ルキノ！　これが最後のチャンスのつもりで頼むで」

「了解、艦長」

「射程に入りしだい、敵推力部に対して砲撃を開始する。

　いけるか？」

「愚問だ、私を誰だと思ってる。私は那須与一なのだぞ」

 

大型戦艦ヴォルフラム、その艦載魔道砲といえど、飛空艇フッケバインには通用しない。

だが、新兵器を手にした那須与一、そして教導隊より出向してきた

同じく新兵器を手にした、なのはとヴィータの二人は、フッケバインを

とめる自信があるようだった。

それが、過信か、自信か、それは事実をもって証明される。

 

 

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