スゥちゃんと出会ったのは、何年前になるのだろうか。

スゥちゃんがいるのが当たり前になってしまって、もう忘れてしまった。

だけど、俺の故郷が謎の二人組に襲われてから、それほど時間は経ってないはずだ。

一人で過ごしてた時には、日数を数える、なんていうところまで気が回らなくて

何日経過したかわかってないから、正確な年数も思い出せないんだけど。

 

「キミ、地元の子？」

 

スゥちゃんの第一声は、それだった。

俺が物陰から、食料をかっぱらってやろうと思ってのぞいていたのを

見とがめたらしい。気づかれたことにまず驚いた。

 

「ねえ、ちょっと作りすぎたから、一緒に食べていかない？」

 

第二声が、それだった。

ドラム缶でスープを作るのは、作りすぎなんていうレベルじゃないだろうと思った。

気づかれたことより、まだびっくりしたことだ。

 

「おなか、すいてたんだ」

「うん」

 

俺は、黙々と、スゥちゃんから差し出された料理をがっついた。

スゥちゃんは、のこりのスープを平らげていた。

大食いコンテストがあれば、間違いなく優勝できるだろう。と思ったけど

スゥちゃんは、似たような大食いのいる姉妹の一員に過ぎなかったと後で知った。

エンゲル係数は凄まじいだろうな。

 

話が脱線した、スゥちゃんとの出会いのことだった。

 

「おうちはどこ？　この近所なの？」

「いや、遠く。北の鉱山町にいた」

「一人なの？」

「そう」

「そうなんだ。家族とかは心配してないの？」

「……みんな死んだ」

「悪いこと、聞いちゃった？」

「べつに」

「そっか……」

「ごちそうさま」

「あ、もういいの、まだ余ってるよ」

「おなかいっぱいになった」

「そうなんだ。どこか、行く当てある？」

「ない」

「じゃ、しばらくここにいればいいよ。あたしも今は一人だから、気兼ねすることもないし」

「家族は心配しないのか」

「大丈夫、家族には言ってあるからね」

「そうなんだ。けど、ここは観光地でもなんでもない、なんで来た」

「一人になりたくってね。誰もいないような辺境地で、気分転換の修行中」

「行き詰まっちゃったのか」

「ちょっとね。……あたし、消防士さんなんだ」

「消防士って、火を消す仕事？」

「あたしはレスキューの方で、人命救助の方なんだけどね」

「そっか」

「そう」

「それで、これからどうするの」

「決めてない」

「……はっきり言うけど、キミ、孤児だよね」

「こじ？」

「誰も身よりはないの？　親戚のおじさんとか、おばさんとか」

「いない」

「そっか。……じゃあさ、いい保護施設を紹介してあげるよ。

　そういう知り合いがいるんだ」

「……かんがえとく」

「ゆっくり考えるといいよ、時間はたっぷりあるからね」

「消防士さんが休んでていいのか」

「痛いところつかれちゃったかな。うん、たまってる休暇を全部使い切る勢いで

　休んでるから、大丈夫だよ。……司令からも、休んでいいって言われたからね」

「そんなに休めるなんて信じられない」

「どうして？」

「故郷じゃ、風邪を引いても1日休んだら根性で働きに出さされてた」

「そっか。けど……ちょっと、風邪とは違うからね」

「なんで休んでる？」

「大きな火事があってね、助けられれなかった人がたくさんいたんだ」

「そっか」

「それで、気分転換に行っていいって」

「……レスキューの練習はしなくていいのか」

「帰ったらするよ。けど、基礎体力作りは一人でも出来るからね。

　そうだ、キミも一緒にやる？」

「一応名前ぐらいある」

「そっか、まだ自己紹介がまだだったね。あたしはスバル。スバル＝ナカジマ」

「俺はトーマ。トーマ＝アヴェニール」

「そっか、よろしく、トーマ」

「よろしく」

 

それが、俺とスゥちゃんの出会いだった。

その後、俺はスゥちゃんに連れられて保護施設に入った。

ほかにもスゥちゃんにはいろいろ世話になった。

鉱山事故の再調査を、親友の執務官に頼んでもくれた。

再調査しても何も出てこなかったけど、それはまた別の話だ。

親類縁者も探してくれた、誰も見つからなかったけど。

 

それで、ゲンヤおじさん、つまり、スゥちゃんのパパになるわけだけど

おじさんはこういってくれた。

 

「うちの子にならないか、息子が出来るのはうれしいもんだ」

「血はつながってないですよ」

「心配ないっス。うちの姉妹、全員血はつながってないっスよ」

「……おじさんも波乱の人生を歩んでるんですね」

「おいおい、そうむちゃくちゃな人生でもないぜ。

　俺は普通に管理局で暮らしてただけだ。まあ、保護観察の娘が

　そのまま養女になっただけだって。あと一人増えるのも同じことだ」

「まあ、考えてみます」

 

その、考えてみます、が、つまりこの旅行になったわけだ。

家族、か。鉱山事故をいつまでも引きずっていても仕方ない。

何かの形で、ふんぎりをつけなきゃいけない、俺はそう思って……

 

『本当にそうなのか？』

？

『お前が家族とやらと向き合わなかったのは、ほんとうに踏ん切りがつかないだけなのか？』

区切りをつけたかった、それに間違いはない。

『じゃあ、どうして区切りをつけられなかった？』

それは……鉱山事故のことが忘れられないから……

『そうだ。鉱山事故のこと、そして、事故を起こした奴らへの復讐の気持ちが忘れられないからだ』

！　あんた、誰だ。

『誰でもかまわないさ。憎しみの炎を燃やせ、復讐への情熱に油を注げ。

　お前が家族を受け入れられなかった本当の理由に思い至っただろう』

本当の理由だって。

『幼い日の誓いを思い出せ、時は満ちた、今のお前にはそれだけの力があるはずだ』

……そうだ、俺には力がある。

 

『トーマ、トーマ！』

「リリィ、どうも、トーマは気を失ってるみたいだね」

「うああああー、あー！」

『トーマ、しっかりして』

「はぁ・・・はぁ・・・り、リリィ、……大丈夫、まだ、……俺は……」

「ちっ、感染が悪化しやがった。こりゃ手遅れになったかもな」

「手遅れって？」

「エクリプスは、発症した後の治療法は、まだないんだ。

　むしろ、この状態でも自分の意志を維持してるんだからたいしたものさ」

「弁慶さん、俺は……平気です。別に……」

「肩で息しながらいうことじゃないぜ、もうすこし休んでろよ。

　もう逃げていいっていう状況でもなさそうだ。応援が来るまでここにいてくれよ。

　治療法はなくても、悪化を食い止める方法なら、あるかもしれないから」

「わかり……ました……」

 

そういいながらも、弁慶さんは、こっちはちらっと見ただけで

注意は、ずっと、九羅香さんとサイファーの戦いの方に向けている。

リアクターを装備したサイファーが、自信に満ちてることは、俺の目にもわかる。

いきなり切り捨てられかけたっていうのに、あの自信はどこから湧いて出るんだ。

 

「さて、公僕、あの少年は、今や我々の同志となったわけだ」

「どういうことだ」

「エクリプスが発症した、ということは、今や彼はこの世界を憎む存在になったということだ」

「勝手な理屈を言うな」

「ふふ、まあ、どちらでもいい。リアクターを装備した以上、お前には私に勝つ要素はない」

「そんなことはやってみなければわからない！」

「いいや、わかるね」

「！……動きが、読めない？　そんなはずは……」

「ふふ、やはり、明鏡止水は魔法の一種だったか。

　魔道殺しの前では、一切の魔法は通用しないぞ」

「十分な距離を開けば問題ない」

「開かせると思うか」

「事情が変わった！　すぐに逃げろ！　俺は九羅香に加勢する！」

「すぐに逃げろって……」

「はなしてる暇はない！」

 

サイファの一撃を九羅香さんは、確かに刀で受けた。はずなのに

サイファーの刀はそのまま刀を砕くと九羅香さんの右腕を切り落とした。

九羅香さんが右腕の止血点を押さえているが、血が止まる様子はない。

 

次の瞬間、弁慶さんがフラッシュムーブでサイファーに突撃をかけていた。

 

「魔法を無力化できても、運動エネルギーをキャンセルするわけにはいかないだろ」

「くぅ……この体に当たって砕けないとは、その武器はいったいなんだ」

「これぞロストロギア、弁慶さんの薙刀だ。覚えとけ」

「だが、貴様がどうあろうと、そこの女はもう助かるまいな」

「それはどうかな……滅殺！神風陣！」

「炎がエクリプスドライバーに通用すると思うか……炎だと！」

「そう、炎さ。そして、これが弁慶が七つ道具の一つ、バインドロープ」

「私にバインドが通用すると……」

「バインドするのはあっち、いったん距離を開けば魔法が使えるんだろ。

　ここはいったん退散させてもらうぜ。勝負はお預けだ」

「逃げるか公僕」

「逃げるね」

「弁慶！」

「勝ち目がない。逃げるしかないよ九羅香。……こりゃいったん本局まで帰らないといけないかもな」

「……せっかく、ここまで追い詰めたのに。私の力不足で……」

「エクリプスドライバーの本気を見ただけもよしとするさ。とにかく逃げるぞ」

 

弁慶さんは、九羅香さんをつれて逃げ出した。

 

「ほら、トーマ、ぼけっとしないで、すぐに逃げるよ。

　あいつが戻ってこないうちに」

「あ、ああ……」

 

あれ、体が動かない。ていうかリリィとアイシスの体にロープが巻き付いてる、いったいいつの間に？

 

「ヘイヘイヘーイ。どうよこの見事な捕獲術。そしてアル様さっそうと登場ってね」

 

アルだって？なんだこのロリ巨乳。こいつも体にタトゥーが入ってる。

ということは、俺の故郷を破壊した奴の仲間ってことか。

 

「そういきりたちなさんなって坊主。すぐに楽にしてやっからよ。……と、

　そこのぺったん胸、関節を外して逃げだそうなんて10年早いんだよ。ひとまず麻酔銃でねむっとけ」

 

そういうと、アルと名乗った女は、麻酔銃でアイシスを、続いて、わたわたしている

アイシスを眠らせた、そして俺も、麻酔銃の餌食になった。

 

「なんだ、アルか、食後の昼寝でもしてると思ったが」

「そのつもりだったんだけどさ。サイ姉、バイクで出てったじゃん。どーやって

　こいつらを連れて帰るつもりだったのよ」

「……そういえばそうだな」

「ヴェイ兄といい、暴力脳の人はこれだから」

「ほっとけ」

「ま、これでドライバーとディバイダーは確保したし、3人ともアジトに連れて行くとしますか」

「3人とも？　一体は単なる破損プラグだぞ」

「この二人が坊主のお気に入りだったら困るでしょ。殺す必要がなかったのも、何かの縁じゃね？

　９９６とドライバー、シュトロゼック４ｔｈとおまけ一人、うちらでまとめて面倒みてやろうよ」

「お前もたいがいお人好しだな」

「とどめささなかったサイ姉に言われたくない」

 

何勝手な話をしてやがる、とはいえなかった。

麻酔銃で完全に意識が飛んでる状態だったから。

……しかし、どういうことだ、俺の復讐の相手は、あいつらのはずだ。

その俺を仲間に入れるっだって？　そういえば、ヴェイロンの奴が言っていた。

”事故の詳細について調べたければ俺たちを追ってこい”

詳細について、彼らは何を知っているというんだろう……。

 

 

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