「追っかける、って言ったのはいいけど、手がかりが何もないな」

「顔と名前だけじゃ、個人で探すにも限度があるよね」

『私としては、彼らを探すのは、管理局に任せるというのを、強くおすすめしますね』

「そういう訳にはいかないよスティード。せっかく、ヴァイセンの手がかりを見つけたんだ。

　なんとかして、奴を見つけ出さないと」

『見つけ出さなくても、向こうから来るかもしれません。今度は、大人数で』

「？　どうしてそう思うの、リリィ」

『いえ、何となくですが』

 

　俺たちは、今、教会から、また旧道を通って街へと帰っている最中だ。

　急いで出たから、食料とかの補給が必要になったというのと、奴の手がかりが

何かないか、探しに出かけているっていうのがその理由。

　だけど、ちょっといろんなことがあって疲れたな、少し休みたい。

　いやいや、休んでいる暇なんてないな、街に着いてからゆっくり休めばいいか。

 

「トーマ、どうしたの。ふらついてるよ」

「い、いや、なんでもない。ちょっと熱っぽくって、寝不足なだけ」

「熱っぽい？」

 

　そういうと、アイシスは俺のおでこに手を乗っけた。

 

「熱っ。それ、ちょっと熱っぽいなんてレベルじゃないよ。すぐに休まないと」

「休むのは街に入ってからにするよ」

「そんなこと言ってる場合じゃないってば。もう夜も更けてきたし、いったん眠った方がいいよ：

「そんなこと、してる場合じゃないんだ。急がないと」

『気持ちが急ぐのはわかりますが、自重してください、トーマ』

『休みましょう、トーマ。追っ手が来たときのためにも、体調を整えておく必要があります』

「……わかったよ、リリィ」

「あー、リリィの言うことなら素直に聞くんだ」

「そんなんじゃないよアイシス。……なんだか、休むっていう言葉を聞いただけで、体が

　ふらつくんだ。こんなんじゃ、確かに、街まで持ちそうにない」

「素直でよろしい。じゃ、買い出しはあたしがやってくるからね」

「買い出し？」

「そ、薬とかも用意してきてあげる。ついでに、街の様子も偵察してきてあげるから」

「ありがとう、アイシス」

「いえいえ、長期旅行にはやっぱ冒険がなきゃね。じゃ、行ってきます」

『私も一緒に行きましょう、アイシス』

「あれ？　トーマはおいていっていいの？」

『トーマなら、大丈夫ですよ、リリィもいますからね』

「……なんか、それって、あたしが信用されてない気がする」

『そういう意味でもありませんが……気に触ったのなら謝ります』

「謝らなくてもいいよ。押しかけで来たんだし、信用されそうにないってのもわかるから。

　けど、スティードがついてきてても、特にすることないんじゃない？」

『トーマの体調のデータを持ってます。これで、なんとか薬屋から必要な薬を調達しますよ』

「そっか。けど、メモに書いていけばよくない？　こんな世界で、自立型インテリジェントデバイス

　なんて現れたら、かえって目立っちゃうよ」

『すいません。私のせいなんです』

「アイシスの責任じゃないでしょ」

『私がさわったから、こうなったんです』

「どういうこと？」

『みんなが私に言うんです。お前は毒だって、ふれた人を殺してしまうと』

「トーマは生きてるじゃん」

『ええ、そうです。だから、そんなのは嘘だと思ってたのに……っ』

「リリィ、大丈夫、俺は死んだりしないよ」

『は、はい、トーマ』

『それで、私はどうしますかね、やっぱり、一緒には行かないほうがいいですか、アイシス』

「うんにゃ、一緒に来てよスティード。疑われるのもやだし、一人でない方が

　こういうときは心強いからね」

『了解です、アイシス』

 

　そんなこんなで、アイシスとスティードは、俺から離れて街に買い出しに出かけた。

俺はというと、そんな二人を見送ったら、急に疲れが出て、眠り込んでしまった。

 

　どれくらい、時間が経ったろう。周りが薄明るくなってきている。

 

『気がつきましたか、トーマ』

「う、うん……まだ体は熱っぽいけど、気分は少しよくなったよ。

　リリィは眠れた？」

『ええ、少しは』

「それはよかった。……アイシス達が戻ってくるまで、もう少し寝かせてよ」

『ええ、いいですよ、トーマ』

「ありがとう、リリィ、お休み」

 

　今、追っ手がかかったら、相手が誰であれ何も出来そうにないな。

リリィは戦力として数えるわけに行かないし、相棒のスティードはといえば

アイシスと一緒に街に出てる。アイシスにも護衛が必要だっていうのは

わかるから、それを責めても始まらない。何かあったときには、俺が

しっかりしていればそれで済む話だ。

 

　それにしても、奴らは、いったい何のために現れたんだ。

　いや、奴らのねらいはいったいなんだ。リアクター？　ディバイダー？

シュトロゼック？　いったい何のことなんだ。

　俺にわかるのは、奴らが……そう、奴らが俺の故郷を破壊したということ。

そして、俺の大切なものを、また怖そうとしている、ってことだけだ。

　俺の手には、ディバイダーとリアクターとかいうものがあるらしい。

もし、俺がそれを使いこなせるなら、奴らにも対抗できるんじゃないだろうか。

　それなら、そうだとするなら、……復讐するは我にあり、だ。

 

『トーマ、どうしました』

「い、いや、なんでもない。ちょっと吐き気がしただけだから。

　すぐによくなる、心配はいらないよ」

『だといいんですけど……』

「EC因子適合者があるべき姿になるだけだ」

『誰ですか？』

「？　誰だ、あんた……」

 

　現れたのは、日本刀を左手に持った女性だった。

右目には金属の眼帯をはめている。たぶん、俺より背が高いな。

 

「私が誰でも問題はないだろう。我々にはその少年が必要なのだ」

「俺はあんた達に用事はない」

「すぐに用事が出来るさ。探しているのだろう、ヴァイセン鉱山の事故のことを」

「あれは事故なんかじゃない！」

『トーマ、無理をしないで』

「心配するな、お前もすぐその少年と一つになれる……ん？

　倫理破損か、リアクトプラグが役目を忘れるとは」

『トーマは私が守ります』

「リリィ、よせ」

 

　リリィは、現れた女性と、俺との間に立ちふさがった。

 

「判断機能すら破損したか。仕方あるまい、破損プラグは破棄するとしよう」

 

　こいつ、刀を抜いた。リリィをやる気だ。

　やらせるかよ。

 

「うげげげ・・・」

『トーマ！』

「無理をするな少年。適合するまでにまだ時間がかかる。

　我々についてくれば真相はわかる、安心しろ」

「そこまでだっ！」

「誰だ」

「管理局の源九羅香」

「同じく武蔵坊弁慶」

「これは、どう見ても殺人未遂の現行犯だね、逮捕する。

　抵抗しなければ、あなたには弁明の機会が与えられる」

「ふ、魔導師が私に立ち向かおうというのか？」

「抵抗するつもりなの？」

「そこの少年には、俺たちも用事があるんだよ。それに、そこの少女にも聞きたいことがあるんだ」

「ふふ、楽しくなってきたな」

 

　まさか、こんな形で弁慶さん達と遭遇するなんて思っても見なかった。

だけど、リリィに用事があるって、弁慶さん達、どういうことなんだろう。

 

　俺には、まだ、わからないことだらけだ。

 

 

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