「……以上で報告を終わります、八神司令」

「そんなかしこまらんでも、はやてでええよ、弁慶さんたちなら」

「それはオフの時にさせてもらうよ、八神司令」

 

　俺たちは、ヴェイロンの襲撃の後始末をやっと終えたところだ。

　被害は、死者6名、負傷者20名。不祥事もいいところだぜ。

　たかだか、軽火器で武装した一団から、ロストロギアを回収する任務と

心得ていたのが油断だったのかもしれない。

 

「それはわたしの判断ミスや。悪かったな」

「そういうことも含めて現場の責任です。それより

　トーマという少年の保護が必要だと思われます。至急応援を願います」

「そうなんやけどな。いま、こっちもいろいろ事件を抱えてて

　すぐに動くいうわけにいかんのよ。

　今、旧機動六課のメンバーを集めてる最中や。

　それがそろう頃には、全力で、フッケバイン事件に対応出来るようになると思う。

　けど、今はまだや」

「だけど、こちらもあまり時間がない。ヴェイロンはもう少年を捜しに出かけてる。

　もし、我々より先にヴェイロンが少年と接触したら、少年も、リリィも

　命はないと思わなければいけないだろう」

「それもそうやな。けど、人手不足は相変わらずやからなぁ。

　少年……トーマいうたかな。ちょっとまった。トーマやて？」

「確かに、そう名乗ったけど、それがどうかした」

「弁慶さん、トーマいうて、もしかして、トーマ・アヴェニールいう名前やないやろな。

　15歳ぐらいの少年で、長期旅行中の」

「確か、そうだったと思うけど、それがどうかしたの？」

「その少年なら、わたしも知ってるわ。確か、スバルの弟分で、しばらくナカジマ家で

　やっかいになってたはずや。今は長期旅行中で、ちょうどルヴェラ方面に出かけてるいう

　話を、スバルから聞いたことがある」

「スバルからか。それなら、スバルが探すのがいいのかな」

「いや、やっぱり、捜索魔法が使えるメンバーが対応したほうがええやろな。

　けど、こっちもいろいろと物いりでな。シャマルがいけるとええんやけど

　今抱えてる事件で引き抜けへんのよ。なんとか、九羅香さん達だけで

　接触、こころみるわけにいかんか？」

「機動力が全然違うよ。今回の不祥事の対応だけで、私たちは手一杯だ」

「……そうやろな。わかった、なんとか、応援を送れるようにしてみる。

　実は、今、機動六課メンバーの再招集をかけてる最中なんよ。

　明日の便で、エリオとキャロが、自然保護区から合流してくれるはずや。

　それから、スバルも救護隊からこっちに出向してくれることになってる。

　教導隊からは、なのはちゃんとヴィータが加わる計画になってる。

　義経軍団も再招集の最中や、集まり次第、ルヴェラに投入することにする」

「集まり次第じゃ間に合わないかもしれないよ」

「それはわかってるんやけど、今再招集の最中やからな。

　二日だけ時間をくれへんか。二日あれば、なんとか人を集めてそっちにも

　投入できると思う。けど、今は無理や、フッケバインだけ追えばええんならともかく

　エクリプス事件は根が深いんや。エクリプスを作ってる組織の謎も解明せなあかんし

　銀十字の拡散も阻止せなあかん」

「だけど、はやて……ごめん、八神司令の部隊だけで事件を処理しなければならない

　わけでもないんでしょう。なんとか、フッケバイン事件だけに

　手を縮める訳にいかないの」

「それが出来ればええんやけど、エクリプス事件も、JS事件っぽい流れになってるからな」

「あぁ……わかった。そういうことなんだね」

「そういうことや。静さんも頭を抱えてるわ。信頼できるメンバーだけやと

　とても手がまわりきらへん、いうてな」

「はやての部下は信頼できるんじゃない？」

「信頼はしてる。けど、図体が大きくなれば、それだけ誘惑の余地も大きくなる。

　わたしが信頼するばかりじゃなくて、信用出来るメンバーとなると、なのはちゃん達に

　ヴォルケンのみんな、そして、義経軍団……つまり、旧機動六課のメンバーしかないんよ」

「騎士カリムのところは手を借りられないの？」

「事件がミッドチルダで起きてるなら、ベルカ自治領の教会騎士団も動ける。

　けど、よその管理世界となると、教会騎士団が動けるのは、教会の中だけや」

「教会の中だけでも助けにはなるよ。トーマが教会に助けを求めてきた場合には

　すぐに保護できるようになるからね」

「せやな。そのことについては、騎士カリムに相談してみる。

　それで、事後処理が終わったら、いったん次元港で待機してや。

　義経軍団勢揃い、とはいかんけど、伊勢忍軍の玲奈さんに、静御前、それから

　紅葉さんに楓さんの佐藤姉妹は、明日にでも合流出来ると思うわ。

　教導隊の与一さんは、なのはちゃんやヴィータと一緒にあさって

　機動六課に合流することになると思う」

「わかった。だけど、忘れないでね。今は、時間との競争なんだ。

　あまり悠長なことはやっていられないって」

「それは、わかってる。フッケバイン一家と遭遇したこともわかってる。

　ヴェイロンがトーマを探してることも認識してる。

　けど、事件の拡大に、こっちの対応はまだおいつけてへんのよ。

　それに、闇雲に探し回っても、問題あるやろ」

「……なあ、八神司令」

「なんや、弁慶さん」

「やっぱり、俺たちは今すぐトーマ達を探した方がいいように思う。

　紅葉達には、後で俺たちと合流するように言ってほしいんだ。

　なんだか、いやな予感がする。機動力ではフッケバイン一家の方が

　俺たちを上回ってるんだ。俺たちがここで足止めされてるうちに

　もしかしたら、ヴェイロンの奴が、トーマを発見してるかもしれない。

　そんなことになったら、俺たちの責任はさらに重い。

　いや、わがままなのはわかってる。だけど、見殺しには出来ないんだ」

「……そうやな……わかった。紅葉さん達は、後から弁慶さん達と

　合流するようにするわ。ところで、探すいうて、どうやって探すつもりなん？」

「安全なところに避難するように言ったから、たぶん、教会に向かったんじゃないかと思うんだ。

　いくらフッケバイン一家でも、人口1万人の町で破壊活動を始めたりはしないだろうし

　もし、万が一、そんなことをやってたのなら、すぐに地方警邏隊が出動してるはずだ。

　だから、まだ、ヴェイロンはトーマを見つけてはいないんだとおもう。

　それなら、トーマが向かった先は、教会で間違いないはずだ。

　いったん教会に行って、それからのことは、そこから連絡してまた決めたいと思う」

「わかった。教会なら、次元港に向かうとしても通りすがりや。合流するにも

　悪くない選択やと思うわ。それなら、わたしの当初計画とも矛盾せえへん」

「そうだ、紅葉に伝えておいてほしい。次元港で馬を調達しておくようにって」

「わかった。この世界で一番機動力のある移動手段を確保しよういうんやな」

「自動車じゃ、文化保護区域の保護レベルを超えちゃうし、目立ちもするからね。

　馬なら、私たちなら乗れるし、この世界の文化レベルにも適応してる」

「了解や。こっちから次元港に連絡をして、すぐ馬が入手出来るよう手配しておく」

「お願いするよ」

「連絡事項は以上。じゃあ、後は地方警防にまかせて、私たちは

　教会に向かうからね」

「了解や。気をつけてな」

「了解、以上」

 

　報告終了。紅葉達と明日には合流か。紅葉達と一緒に仕事をするのも、久しぶりだな。

 

「弁慶、感慨にふけってる暇はないよ。急いで教会に行って、トーマ達と合流しないと」

「そうだね、九羅香。……はしってみるか？」

「かけっこなの？　弁慶、かけっこなら負けないからね」

「いったな、俺だって九羅香と会った頃に比べれば鍛えてるんだぜ」

「あはは、よーい」

「どん」

 

　俺たちは、比較的明るい気持ちで、教会を目指してはしっていった。

すでに、教会が、あんな惨劇の舞台になっているとも知らずに。

 

 

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