「弁慶、無事だった？」

「ああ、俺は無事だ、それよりトーマは？」

「トーマなら弁慶より先に出てきたよ。ロストロギアの暴走のおかげで

　脱出口が開けたらしい」

「そうか、それでトーマは？」

「とりあえず、安全なところに逃げるように言っておいた。

　私たちと一緒にいるよりは安全だろう」

「そうだな。それに、俺たちはしばらくここでロストロギアの捜索を

　行わないといけない。トーマの安全確保は、現地に任せておいて大丈夫だろう」

「うん、そうだね。トーマ自身、弱くはないんでしょ」

「ああ、俺たちが想像しているよりはやれるはずさ」

 

　俺の名前は武蔵坊弁慶。義経軍団の一員だ。俺たちは今……

 

「弁慶、そんな説明はいいから、とりあえず本部に連絡を入れてよ」

「ああ、いいぜ。っと、管理局本局特製の次元通信用デバイスを展開してっと」

 

　ひとまず次元通信用のアンテナを広げる。広げると言っても、衛星放送用の

パラボラアンテナみたいに巨大な代物じゃない。さすがはミッドチルダの科学力。

CB無線機程度の大きさで、次元の海を越える通信を送ることが出来るんだ。

ちっちゃな弁当箱ぐらいの大きさ、っていったほうがわかりやすいかな。

それでも、一般的なデバイスにしては巨大すぎなので、こんなものを組み込んでる

デバイス使いなんてまずいない。

 

「こちら弁慶、紅葉、聞こえる？」

「弁慶様、こちらは紅葉です、感度良好です、今から画像回路を開きますね」

 

　そういうと、空中にモニター画面が現れた。

この空間投影も、ミッドチルダの科学力のたまものだ。

クラナガンの町中にいると、まるで東京にいるような錯覚を起こすぐらい

俺たちの世界と似ているが、テレビ電話が当たり前なんだから、やっぱり

俺たちの世界よりは進んでるんだな、と実感する。

 

「こっちは片付いたよ、紅葉。そちらから地方の警備隊に連絡を入れて

　ロストロギア発掘の手配と、逮捕した研究者たちの護送を要請してほしい」

「了解しました、弁慶様。……そういえば、上着はどうされたのですか？」

「ああ、上着なら、道中で知り合ったトーマって男の子に貸してるんだ。

　そうそう、トーマっていう、15歳ぐらいの少年旅行者の保護も

　現地の方へ頼んでほしいんだ、たぶん、近くの町か教会へ避難してると思う」

「わかりました。その件についても、依頼を入れておきます。

　それから、ちょっと九羅香様と変わってもらえませんか」

「九羅香と？　ああいいよ、ちょっと待ってて」

 

　九羅香と話がある？　いったいなんだろう？

 

「はい、こちら九羅香。紅葉、わたしに用事っていったい何？」

「第18管理世界で調査中のティアナ様はご存じですよね」

「ああ、与一が補佐についていってるから知ってる。

　それがどうかしたの」

「エクリプス感染者によると思われる破壊活動に遭遇しました。

　どうやら、この事件も、かなり根は深いようです」

「……エクリプス、かぁ……確か、刃のついた拳銃みたいなものだよね」

「ええ、そうです。直接お話されるほうがよろしいと思うので、回線をつなぎます」

「了解、お願い、紅葉」

「なあ九羅香、紅葉はなんだって」

「わからない。だけど、与一達と直接はなしをするべきだ、というんだから

　何か重大なことに間違いはないよ。……と、ほらつながった」

「こちら与一、九羅香殿か？」

「そうだよ、こっちは九羅香。それで、与一。いったい何があったの？」

「イスタの村が壊滅した。ほぼ間違いなくエクリプス感染者による仕業だ」

「壊滅って、どういうこと？」

「村人の概ね8割が死亡、もしくは行方不明になっている。坑道があった場所は

　ほぼ完全な破壊」

「坑道のあった場所はほぼ完全な破壊、かぁ。それだけならこちらと状況は同じだね。

　だけど、こっちでは死者は出てないよ。未然に感染は予防できたってことじゃないかな」

「エクリプスについては、わからないことが多い。予断は禁物だ、九羅香殿」

「それはわかってる。だけど、うまくいけば、ここで、エクリプス感染前の

　銀十字が手にはいるかもしれない。発掘がうまくいけば、だけどね」

「……ふふ、発掘がうまくいけばか」

「？　なに？　何がおかしい」

「秘密だ。黙秘権はあるのだろう」

「見つけられない自信でもあるのか。まあいい、明日の朝には、地元警邏隊が到着する。

　発掘要員もすでに確保してからこちらにきている。あのロストロギアの暴走で

　ロストロギア自体が破壊されてるのでないかぎり、すぐに見つけられる。

　黙秘していても、無駄だよ」

「そうだろうな。ロストロギア自体が破壊されているのでなければ、見つけられるだろうね。

　手遅れになる前かあとかはしらないが」

「？　まだ切り札が残っているとでもいうのか」

「我々にとっての切り札は……いや、わたしは沈黙を守ろう」

「何事だ、九羅香殿」

「いや、逮捕した、この場所の責任者が話しかけてきただけだ。

　さすがに、二人で全員を見張るというのは大変なんだよ」

「死者は誰かでてるのか？」

「連中が生き埋めになってるんでなければ、誰も死んでないはずだよ。

　今、わたしたちは、坑道の出口を押さえてるんだ。

　坑道の奥に、べつな出入り口があったら、どうしようもないね」

「その隙にロストロギアを回収して反撃に出られたらどうするつもりだ、九羅香殿」

「そんなことが出来るぐらいだったら、はじめからロストロギアを使ってるはずだよ。

　その心配は無用だって」

「与一さん、ちょっと変わってもらえませんか」

「ああ、わかった、ティアナ執務官」

「あ、ティアナ、どう、そっちの様子は。虐殺があったって聞いたんだけど」

「ええ、ひどいものね。これが、たった二人の仕業だっていうんだから」

「たった二人っていっても、エース級魔導師なら、村一つつぶすぐらい簡単でしょ。

　二人がかりなら驚くには当たらないよ。それより、動機とか、犯人の手がかりとかはない？」

「今のところ、犯人に直接結びつく手がかりはないわね。

　犯人は、男と女の二人連れで、男の方は、刀のついた拳銃を、女の方は黒い本を持っていた、と

　言う証言だけ。エクリプス感染者の犯行と決めてかまわないとは思うけど

　動機まではね」

「フッケバインの犯行だとすれば、とりあえず動機ははっきりするね」

「そうね。けど、フッケバインだと決めてかかっていいとは限らない」

「んー。わからないことだらけか。そちらに生存者はいるの？」

「ええ、十数人は生存が確認されてます」

「そっか。生存率が高いから、フッケバインじゃない可能性もあるわね」

「そうですね。ともかく、こちらは生存者の救出を最優先にします。

　犯人を追うには、時間がたちすぎてますから、こちらは現地の管理局員に任せることにします」

「深追いはしないように伝えておいて。地元管理局員が相手にするには、手強いから」

「わかりました。そう伝えておきます」

「……ふう。フッケバイン対策に、特別チームがいるのかもしれないなぁ」

「昔の、機動六課みたいにですか、九羅香さん」

「あはは、あれぐらいの戦力があれば、フッケバインも目じゃないかもね。

　はやてに言って、とっとと機動六課を再建するようにって」

「はやて司令にですか。そんな余裕があればいいんですけど」

「余裕は、あるものじゃなくて、作り出すものだよ。

　……それに、フッケバインがらみと見られる殺戮事件の犠牲者は

　もはや、戦争並みにふくれあがってる。本局教導隊が投入されてもおかしくないレベルだ」

「本局教導隊……というと、ヴィータさんやなのはさんたちも動けますね」

「そうだね。ヴォルケンリッターのみんなは、はやてが声をかければすぐにあつまって

　くれるだろう、けど、フォワードのメンバーはどうかな。みんな自分の仕事があって

　離れられないんじゃない」

「フッケバインを追うとなれば、みんな集まってきますよ。

　スバルはなのはさんがくれば絶対にくるでしょうし、エリオとキャロも

　フェイトさんの手助けとなれば、手は抜かないでしょうから」

「参謀部の静に、情報部の玲奈が加われば、機動六課再結成だね。

　けど二人ともきてくれるかな」

「九羅香が声をかければくるだろ。今、聖王教会にいる楓だって、九羅香が

　声をかければすぐにこっちにきてくれるさ」

「そうだといいんだけどね。……やっぱり、大きい仕事をするときには

　義経軍団が全員そろってる方が、心強い」

「観月殿と廉也殿は、さすがに無理だろうがな」

「そりゃちょっと無理だと思うよ。だけど、彼らが第97管理世界に

　やってくるようなら、話は別だ」

「……九羅香さんたちのヤマがうまくいってくれると、エクリプスを

　感染前に捕獲できるかもしれません。そうなれば事件は

　いっきに解決に向けて動きますね」

「そうだね。……それをオトリにして、フッケバインが動いてくれればいいんだけど」

 

そう、俺たちはまだ、何もわかっていなかったんだ。

俺たちは正解を捕まえる寸前だった、ってことに。

 

そして、幸運の女神は、前髪しかもっていない、っていうことにも。

 

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