「教導隊も意外ともろかったなあ」
「フェイトちゃんが手も足も出ない相手だよ、仕方ないよ」
「だけど、教導隊も相手の輸送船は沈めた、ハーディス容疑者にはもう手足はない」
「ハーディス容疑者だけを相手にすればいいってことになるね。それは確かに有利な要素だよ。
　だけど、フェイトちゃんが手も足も出なかった相手だよ。一人でも押さえ込むのは難しいよ」
「まあ、そうやな。けど、ハーディス容疑者が逃げ出したら、どっちにせよ私らが相手せないかんかったわけや。
　それ考えたら、状況はむしろ好転してるんやないか？」

隊長達は、ある意味のんびりとした会話をしています。
教導隊は敗北、管理局本局はハーディス容疑者が制圧してるというのに、なんでこうも気楽な話が出来るんでしょう。
あ、僕もこの場に参加させてもらってます。特務六課のメンバー全員がここにいるんです。

そして、なぜかフッケバインのメンバーと、グレンデル一家のメンバーも。

自己紹介が遅れました、僕はトーマ、トーマ・アヴェニールです。

「のんきな話してる場合なのかしら。本局は完全に制圧されてるわ。
　ハーディスが脅迫を実行に移したらどうするの」
「実行に移すタイミングをあたえへん。相手が乗っ取った場所は、静さんの計算通りや。
　それなら対処法はある」
「威勢のいい話ね。だけど、どういう手があるっていうの？」
「まあ、細工は隆々、仕上げをご覧じろや。作戦は出来てる、それも、予想よりは私らに有利な形でな」
「どんな作戦なんですか？」
「明かしてもいいけど、作戦の機密は実行の直前まで秘匿しとくわ。
　まあ、とりあえず、フッケバインには一働きしてもらう、その承諾を得るために、ここに来てもらってるんよ」
「なるほどな、感染者相手にはエクリプスウィルスは通用しねえ。そういうわけやな」
「まあ、そういう訳もあるけど、それはまた別な人の仕事や。
　その程度のことなら、なにもフッケバインでなくてええ。
　命がけの働き、期待してるで」
「……さっぱり話がみえん」
「僕にも分かりませんね。ハーディスと戦うのでなければ、一体何を僕たちに期待してるんです？」
「それは、機密事項や、とにかく、死を賭して管理局の作戦に協力する気があるかどうか、それが聞きたい」
「そんなもん、内容分からずに同意できるかよ」
「内容を聞く前に同意してもらう必要があるんよ。こっちにも事情があるんや」
「つまり、減刑の材料になる、というわけですね」
「ま、ぶっちゃけそうや。内容を聞いてからやと、減刑するにも情状酌量が減らされてしまうからな」
「命がけでハーディスと戦うんじゃだめなのかよ」
「それはまた別な人の仕事や。フッケバインには、別な仕事があるんよ」
「わけわかんねーよ。それで、一方的に、管理局に協力しろっていうのかよ」
「せや」
「別に、私たちは虜になっただけで、管理局員になったわけじゃないわよ。
　管理局員ですら、こんな理不尽な命令は拒否するでしょうね」
「そうやろな。だからこそ、減刑の材料になるとはおもわへんか」
「今さら死刑や、長期禁固は覚悟している、減刑を望むかと言われれば、そんなことはどうでもいい」
「けど、ハーディス容疑者には、借りがあるやろ。かえさんでええんか？」
「おまえ達が妨害しなければ、地力で借りを返せた」
「別にハーディス容疑者を殺しても、借りを返したことにはならんと思うんよ。
　もっと、根源的なところで借りをかえさへんとな」
「どういう意味だ？」
「まあ、それは適当に推測してもらうとして、どうや？　乗るか？」
「減刑だけが見返りでは、割に合わないな。
　エクリプス感染者の未来ははっきりしている。減刑してもそう長く生きながらえられるとはおもえない」
「それに、管理局法の基準からして、死刑になるのは、ロストロギアの不法使用によって、世界を実際に崩壊させた場合のみのはず。
　僕らはそれには当てはまりませんからね」
「確かにそうやな。じゃあ、ほかをあたらなあかん、いうことか……内容を聞いてからやと、減刑の材料として弱いんやけどな」
「あたしは乗るわ」
「ちょ、待てよ。なんでだよ、内容も分からないのに乗ってどうするんだよ」
「あたしはお客が待ってるの。減刑でお客の所に帰れるなら、その方がいいわ」
「成算、あるの？」
「んー、なんか、悪い話じゃないと思うのよね。それも、あたしらが思ってるよりはるかに私らに有利な条件で。
　これは、お客を長い間見てきた、私の勘よ。信じるも信じないも自由だけど、私は乗るわ」
「ただ働きを嫌うあなたが乗るなら、乗ってもいいかもね」
「ちょ、カレン、何言い出すんだよ。管理局の奴らが信用できるっていうのかよ」
「……神にも悪魔にも見放された我々だ。信用するしないの問題ではない。
　それに、管理局は、その気になれば、我々の同意なしに、我々に何かを強制することも出来たはず。
　それをあえて同意を求めてるからには、何か……」
「なんかよほどひどいことを考えてるに決まってるだろ」
「まあ、フッケバインにとっては、ひどいことかもしれへんな。けど、確かにそっちにとって有利な取引やと思うんよ」
「くだらねえ。取引もなにも、選択肢はないだろう。
　協力してもいいが、上から目線なのがきにいらん」
「あ、それは悪かったわ。どうや？　協力してくれるか？」
「土下座してお願いしてくれたら協力してやろう」
「ほんまか？」

はやてさんは、そういうといきなりテーブルの上に飛び乗って正座して頭をさげた。

「この通りや、管理局に無条件で協力してください」
「……約束だからしかたねえ……」
「管理局の友人と相談したい所ですが、それどころじゃなさそうですね。
　まあ、協力しますよ。そこまでするからには、何かあるでしょうしね」
「あるんよ」
「ステラはどうするんだ？」

ステラは、みんなと一緒がいいと、身振りで示した。

「決まりやな、これでフッケバインの協力は得られた。
　あとは……」
「俺たち、グレンデル一家の出番だな。何をすればいいんだ？」
「まあ、こっちも命がけの仕事や。ちょっとハーディス容疑者と戦ってほしいんよ」
「は？」
「だから、ハーディス容疑者と戦ってほしいって言ったんや。
　なに、安心してええ、ゼロ・ディバイド対策はちゃんと考えてある」
「何があるっていうんだ」
「ゼロ・ディバイドに対抗できるのは、ゼロ・ディバイドのみ。
　幸い、こっちにはトーマがいる。それで、ハーディス容疑者のゼロ・ディバイドを封じる。
　生命回復装置があれば、ゼロ・ディバイドからの回復も早い。
　戦って勝つ可能性は圧倒的や」
「相手は、S+級を歯牙にもかけない相手だよな」
「せや」
「トーマは、うちのリーダーにも負けかけたな」
「そうやったな」
「論外だ」
「けど、約束したはずやで、相応の処遇がほしければ、相応の働きをしてもらわなあかん」
「ほかに援軍はないのかよ」
「まあ、そこらは作戦の中にあるんやけど……まあ、管理局員の大半は、ハーディス容疑者が
　脅迫を実行にうつさへんように行動するのがメインやからな。
　ハーディス容疑者を片付ける仕事は、トーマ、リリィと、グレンデル一家にまかすわ」
「そんな仕事ならフッケバインの方が適役だろ。なんであいつらにやらせない」
「まあまてマリーヤ、話は最後まで聞こうぜ」
「最後まで、いうて、これで基本全部や。
　まあ、正面から堂々と全員でのりこむ、とはいわへんから安心しや」
「計略なんかいらねえ。あいつには返すべき借りがある。
　頭のなかに爆弾なんかしこみやがって。
　ぶったぎってやる」
「落ち着けクイン。こっちの実力を考えろ。全員そろっても、未だに
　高町なのはが倒せない。それなのに、S＋が勝負にならないハーディス容疑者を倒せという。
　どう考えても無茶だ」
「勝つための計算はしてあるけど、戦いに絶対はない」
「お断りだ。どうせあたしらを捨て駒にする気だろう」
「乗った、あたしの手でハーディスのやつを始末してやる」
「何考えてるクイン」
「そっちこそ何考えてるマリーヤ、この手で借りを返すチャンスをわざわざ管理局がくれるんだ。
　乗らない手はないだろ」
「乗る手がないだろ、な、ロロ」
「ロロさんは、リーダー一任がいいとおもいまーす」
「ロロ」
「落ち着けマリーヤ、この条件をのまないとしてもだ、どっちみち、管理局が負けたら
　俺たちに未来はない。あいつが裏切り者を許すとは思えないからな。
　この勝負、俺たちは管理局に賭けた、だから、最後まで管理局にかけ続けるしかないんだよ」
「だからって自殺する必要はないだろ」
「頭に爆弾を仕込まれたのは別にしても、だ。
　エクリプス感染者になった時点で、未来は長くない。
　この状況で、危険を避けてどうするんだ？
　リスクをとらなきゃ、リターンはないぜ」
「さすがリーダー、話が分かる」
「ロロ、それでもリーダー一任か？」
「ロロさんはリーダーを信じてるわけじゃありません」
「おい！」
「だけど、一家の意見が割れてたら悲しいとは思います。
　一家はみんなで成功するか、さもなくば、です」
「……多数決２：１か、分かった、あたしが折れるよ」
「決まりやな。細かい作戦は、あとで個別に説明するわ。
　けど、おおざっぱな作戦はいまから説明する。
　本局奪回作戦を実施するんや。
　作戦は単純明快、本局にエクリプスウィルスをまく、いう
　ハーディス容疑者の脅迫を実行できへんように、打撃中隊を投入して
　通風口を物理的に閉塞する。
　なのはちゃんとフェイトちゃん、そしてフォワードチームの4人は、
　物理的に通風口を閉塞したあと、本局に滞在する人たちを、万が一に備えて避難させるお仕事や。
　管理局の外洋艦隊艦に分乗してもらうよう誘導や。
　そして、トーマ、リリィ、グレンデル一家のメンバーで、ハーディス容疑者を拘束する。
　質問は、個別に指示するときに受け付ける。
　今は、質問はなし、や。なにせ時間が貴重やからな。
　異議はないな、せやたら、本局奪回作戦、発動、や」
「もう発動なのかよ」
「発動や、なにせ時間がない。ハーディス容疑者が、本局から逃げ出したら、つかまらんかもしれへん。
　本局に陣取ってる今が、最大のチャンスなんよ」

はやてさんは、自信満々みたいです。
けど、僕はマリーヤさんと同じように不安でいっぱいです。
本当に、僕たちの実力で……なのはさんやフェイトさんやはやてさんやスゥちゃん抜きで……
ハーディス容疑者の拘束なんて、やりとげることが出来るんでしょうか。


　

 

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