こちらは、大型輸送船の船内。
忙しく働いてるのは、戦闘機械のロボット達。
艦橋にいるのは、ハーディス・ヴァンデインとシュトロゼック、そして船長とそのリアクトプラグ、セカンドの4人だ。

「本局教導隊はどこで待ってるんでしょう？」
「君が心配する必要はない、私がすべて片付ける」
「パパ、私たちでしょ」
「そうだな。我々が片付ける、君は、本局制圧後、部隊を指揮して無限書庫を制圧してもらいたい」
「分かりました、しかし、無限書庫はそんなに重要なものなのですか？」
「本局の最重要要素だよ、そこにはどんな情報でもある。
　探し方を知っていればだがね」
「探せる人物を拘束するんですね」
「そう、特に司書長は殺さないように捕獲。ほかは、必要に応じてだね」
「分かりました」
『センサーに反応、管理局艦隊です』
「数が少ないな、本局防衛とも思えない。
　3隻だけか」
「３隻といっても、速力からみて、最新鋭です。
　旧式の大型輸送船でかなう相手ではありませんよ」
「君は心配性だね、感染者になってからも、慎重に慎重を重ねた性格は変わらないな」
「心配もします。逮捕されてから、管理局によってうちはぼろぼろですからね。
　工場長も捕獲されてしまい、工場は破壊、後がない状況には間違いないんですよ」
「夜明け前が一番くらいさ」
「もうすぐ、管理局艦隊の射程圏に入ります。
　どうするんですか」
「シュトロゼック、リアクトだ。攻撃を開始する」
「了解、パパ」
「どうするんです？」
「君達は生命維持装置を装着したまえ」
「……ゼロ・ディバイドですか」
「そうだよ」
『管理局艦隊より入電』
「通信回線を開きたまえ」
『了解』
「どうするんです？」
「リアクトは終わったね、じゃあ、我々の勝ちだよ」
『ハーディス容疑者、及びその部下に告ぐ。直ちに武装を捨てて投降するように。
　投降すれば、諸君には弁明の機会が与えられる』
「投降するのは君たちの方だよ。君たちは、圧倒的に不利な状況にあるのだからね」
「それは、戦闘を望む、ということか？」

ハーディス氏は、それにはこたえなかった。
返事は転送魔法で行ったのである。

『ハーディス容疑者が消えた？　どこへ行ったかこたえなさい』
「私に聞かれても困りますよ、あの人の考えることは分からないことだらけです」
「私はここだよ」
「！」

ハーディス容疑者は、通信を仕掛けてきた管理局艦隊旗艦の艦橋に転送を完了させていたのである。
だが、それはある程度まで、管理局側の想定だったようだ。

「教導隊、ハーディス容疑者の確保を！」

艦橋の要員全員が武装する。
教導隊で艦橋を固めていたのだ。
もちろん、艦長も教導隊の一員である。

『ゼロ・ディバイド』

先制攻撃は、ハーディス容疑者の方から仕掛けた。
この、次元の海に浮かぶすべての船……そう、すべての船の機能が停止する。

「なめられたものだね」
「なめてるのはハーディスさんの方ですよ」
「援軍か？」
「ゼロ・ディバイドについては、我々も調べてます。連射が効かないこともね。
　ハーディス容疑者、あなたを拘束します。
　輸送船の方にも教導隊を送りました。
　あなたはもう終わりです」
「終わってるのは君たちの方だ」

そう、管理局側は、後詰めで教導隊の主力を転送で送り込んだのだ。
総員8名。そのうちの4名……SS級の最精鋭4人が、ハーディス容疑者に対峙する。

「輸送船は終わりだね。じゃあ、管理局の船をいただくか」
「そうしましょ、パパ」
「甘く見るな」

次の瞬間、甘く見るな、といった当人が倒れていた。
ディバイダーが心臓を貫いている、即死だろう。

「まさか」

そういう間にも3人はハーディス氏から距離をとって戦闘態勢に入っている。
想定外の状況にも、即応できなければ、教導隊には入れない。

だが、彼らは、ハーディス氏を取り囲むように位置をとった。
それが何を意味するか、すぐに理解することになる。

「分散は致命傷だよ」

そう、ハーディス容疑者ははやい。それは教導隊の最精鋭といえど、実感したことのない速さだった。
たちまちに、一人がハーディス容疑者の体当たりを受ける。
体当たりを受けた当人は、壁にたたきつけられる。
包囲したのこりの二人は、それを見て直ちにハーディス容疑者の背後に二人で回る。
救援を捨てて挟み撃ちのようだ。

しかし、ハーディス氏の方はディバイダーの速射を、その二人に浴びせる。
二人とも、バリアもシールドが効かない、ということが、頭で分かっていても体では分かっていなかった。
反射的にシールドを張ったのだ。

その判断ミスは致命傷だった。二人とも倒れる。

「あと一人」

振り向きざまに残りの一人の首を飛ばしにかかる。
言うまでもなく、反応できないようなぼんくらは教導隊に入れない。
デバイスで受け反撃しようとする。

それも、致命的判断ミスだったが。
その反撃を、体で受けたハーディス容疑者は、そのままヘッドショットで最後の一人を片付けた。

「パパ、艦橋のメンバーが復帰しようとしてるよ」
「分かった」

艦橋にディバイダーを乱射する。
まだ復帰しきれてない、艦橋の要員にとって、それは十分命を落とすのに十分だった。

「パパ、輸送船が」

虐殺が艦橋で起きてる間に、教導隊も一矢報いていた。
輸送船を爆破したのだ。

「ロボットなしか、ちょっと苦しいね」
「この船の自爆システムが動作を始めたよ、パパ」
「この船だけかい？」
「ううん、3隻とも自爆しようとしてる。
　転送魔法の発動を確認。
　大型転送装置で乗員をサルベージしてる」
「私なら、乗員全員を見殺しにして、自爆させるね。
　転送で拾おうとするのが、管理局の弱さだ」
「どうするの？　パパ」
「跳べるね」
「もちろん」

どこへ？　それはすぐに分かった。
転送装置を動作させてる、援護艦隊に、ではない。
一気に本局へと跳んだのだ。

本局は、まったく備えがなかった。
だが、一人で制圧できるほど本局は小さくない。
そのために戦闘機械の軍団を用意していたのだ。
どうやってハーディス氏は本局を制圧するつもりなのだろう。

ハーディス氏が転送で現れたのは、本局の居住区生命維持システム管理装置の制御室だった。

「本局は維持システムが分散しているからね、一カ所で全体を制圧は出来ない。
　だが……」
「管理局は生命を大事にする。それが弱さになる」
「そういうこと」

制御室の要員が、ハーディス氏から逃れられるはずもない。
全員死体になって転がった。

「さて、始めようか」
「うん、パパ、始めよう」

制御室を乗っ取ったハーディス氏は、早速そこから管理局の維持システムのハッキングを始める。
それは簡単に終わった。

『管理局本局の諸君、私は、ハーディス・フッケバインだ。
　諸君は直ちに私に降伏するように。
　さもなければ、本局居住区にエクリプス・ウィルスを散布する』

ハーディス氏の声が、本局全体に響く。
本局は、この脅迫に屈した。

こうして、あっさりと管理局本局は、ハーディス容疑者の制圧下に入ったのである。


　

 

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