「はやてちゃん、ハーディス容疑者は工場の外へ出たわ、フッケバインのメンバーも工場の外。
　工場内にいるのは工場長と逃げ遅れた従業員だけよ」
「了解や、シャマル。工場内の従業員の誘導は紅葉さんと打撃中隊のみんなに任せるわ。
　工場長は、九羅香さんと弁慶さん、たのむ」
「分かった」
「さて、と。ハーディス容疑者、どこへ行くつもりやろ」
「はやて指令、追わなくていいんですか？」
「ん？　追ういうても、闇雲に追って紛れられても困る。
　それよりフッケバインのメンバーに逃げられへんようにせなあかんけど、飛空挺の位置は捕捉できてるか？」
「それはまだ捜索できてません、彼ら、かなり遠くから来てるみたいです」
「そっか、まあ、私らも軌道上から転送で来たしな。……って、まてよ。
　ルキノ、捜索はどこからやってる？」
「捜索ですか?　当然軌道上から順次行ってます。我々のそばにいる可能性が一番高いと思われます」
「灯台もと暗しや、ルキノ、捜索対象を海鳴市にも広げてや」
「海鳴市ですか？　しかし、現地の人たちもUFOなどの目撃情報はなかったはずですが」
「それはそうや、しかし、フッケバインのステルス性はかなり高いはずや」
「それはそうですが……」
「とにかく、この工場の近くにいると考えるほうがむしろ自然や、頼むわ」
「了解しました」
「指令、それで、我々フォワードチームはどうしましょう」
「予備に回ってや。フッケバインが発見されしだい、そちらにむこうてもらう。
　今カレン達をフェイトちゃんのチームが追ってる。そっちと合流になるかもしれん。
　打撃中隊は工場に回ってるから、戦力外になるな。……意外ときつい戦いになったなあ」
「そうかもしれませんが、まだ、これからですよ」
「そうやな」

そんな会話がなされてる頃、当のフッケバインにいる俺たちは、状況をモニターで見ながらお留守番をしていた。
お留守番なのは、ナビゲーターのステラと病み上がりのヴェイロン、そしてフィフスと呼ばれてる少女に
参謀役のフォルティス、そして占い師っていうか、一回触れば相手のことは何でも分かる特殊能力持ちのソニカだ。

「トーマ、始まったみたいだね。だけど、工場はもう管理局が完全に制圧したみたいだよ」
「みたいだね。フッケバインは逃げ支度をしてます」
「逃げ支度っていうか、ハーディス氏を追ってるって言うか」
「ハーディス氏は何かを探してる？　いや、探してない。まったく探してないよ」
「ええ、そうですね。すごいものだ、あれも原初の種の力かな。こちらを確認してますね」

ステラが何かをいいたそうにしている。
ソニカがステラに触れる。

「海鳴市の海に潜るところを察知されたらしい、ってステラが言ってる」
「浮上するか？」
「それはカレンの指示を待ちましょう、今はまだ水中にいた方が有利ですよ」
「ふん」

フィフスが、心細げにしている。

「心配いりませんよ。たとえ、ここが分かったところで、カレン達の方が……ああ、管理局の連中ハーディスよりカレン達を優先して妨害してますね。
　これは計算外だ」
「ハーディスには我々だけで対処ということか」
「なによそれ、まったくの計算外じゃない。管理局と協同でことに当たるっていうのが当初予定じゃなかったの」
「ぼやいてもはじまらんだろう」
「……勝ち目、あるの？」
「トーマ君をどうやってかくまうかが問題ですねえ」
「管理局と話をつけなきゃならないわね」
「話をつけるには、何か交渉の手立てが必要ですよ」
「それはカレンが考えるでしょう」
「すいません、フォルティスさん、どうして、俺がハーディス氏と接触するとまずいんです？
　ゼロ・ディバイドをハーディス氏が身につけるからですか？
　でも、ゼロ・ディバイドって、そんなに簡単に身につくものなんです？」
「ハーディス氏なら簡単に身につけられるかもしれない、そう思ってるんですよ」
「あのピンクの髪の剣士、サイファーを足止めしてるな」
「赤毛のハンマー使いがドゥビルの相手ですか、一撃で落とされないだけ腕が立つみたいですねえ」
「あの金髪、カレンを速さで翻弄するつもりらしいわよ、どうするのよ」
「管理局を説得して、ハーディスの危険性を説くしかないですね。正直は計略に勝ります」
「ハーディスが海に近づいてくる、時間がないぞ」
「開けたところに来ればこちらにもチャンスがあるんですよ。……ステラ、通信回線を！
　アル！　あなたは自由でしょう。今なら周りに人はいません、座標は送ります。全力射撃を！」
「了解！　このチャンスを待ってたぜ！」

アルが火力を集中して海岸線に出た瞬間のハーディス氏を叩く。
だが、それは同時にアルの居所を明らかにする行為でもあった。
そして、フッケバインが送信したということは、フッケバインの居所を明らかにする行為でも。

「こちらルキノ、八神指令、フッケバインからの通信を傍受しました」
「でかしたでルキノ、それで、座標は？」
「今から夜天の書に送ります」
「……海の中か、考えたな、フォワードチーム、出番や。直ちにフッケバイン制圧に出動。私も一緒に行く」
「了解」
「玲奈さん達はハーディス容疑者の追跡を、九羅香さんと弁慶さんは捕縛した工場長を武装隊に任せて
　アルの追跡を」
「分かった」

さて、場面をカレン達の所へ移そう。

「ちょろちょろしつこいわね」
「つ、強い……」

カレン相手に、ソニックフォームのフェイトは逃げるのが精一杯であった。
S級のフェイトが、だ。
それでも、カレンの足止めには十分成功していた。

「公僕、自分達が一体何をしているのか分かっているのか?」
「分かっているとも、おまえ達を確保する」
「それが何を意味するのか分かっているのかと聞いている」
「病人を救う」
「何も分かってないな」
「分かってないのはおまえ達だ」

サイファーとシグナムは、激しく剣を交えていた

「けっ、ショートジャンプって手品が分かってしまえば対策はあるんだよ」
「それだけだと思うか?」
「それだけならここまで生き残ってきてないだろうよ」

ヴィータとドゥビルの戦いは、一進一退を繰り返していた。
地力では互角、だがドゥビルにはショートジャンプがある。それを警戒しなければならない分
ヴィータが不利だった。それを埋め合わせるためにヴィータはカートリッジを普段より多めにはじく。

「こちらはやて、フッケバインを見つけた。フッケバインは海中や、今ハーディス容疑者が海中に潜ったところや。
　私とフォワードチームも海中にはいってハーディス容疑者を追う。そっちは足止めを続けて」
「こちらカレン、ステラ、フッケバインを浮上させて、今すぐ。
　それから、八神はやてだったっけ、こちらはフッケバインのボスカレン、こちらの話を聞いて」
「なんや、投降するんか？　抵抗をやめるんやったら、弁明の機会があたえられるで」
「違うわ。無駄な争いをやめてハーディス捕縛に全力を投じなければ大変なことになるわ。
　とにかく、トーマとハーディスを接触させてはダメよ。接触させたら取り返しのつかないことになる」
「取り返しがつかない、って、なんや？　一体何が起きるっちゅうんや」
「原初の種に、ディバイド･ゼロが備わるわ」
「接触させなええんやろ」
「方法があるとでもいうの、今すぐ止めなければ、手遅れになるわよ」
「対策はあるし、手は打てるけど、そのためには、フッケバインの協力が必要や」
「どんな？」
「フッケバインの捕縛が必要なんや。悪くおもわんでや」
「交渉決裂ってこと？」
「ハーディス容疑者は強い、ディバイド・ゼロが備わってもそなわらんでもな。
　それに対抗する切り札は、ある。あるけど、それを使うには、どうしてもフッケバインの捕縛が必要なんよ」
「協力はするわ、でも、捕縛はごめんよ」
「協力じゃたらへんのよ。捕縛がどうしても必要なんや」
「どう違うのよ」
「決定的に違う……議論は後、行動が先や」
「八神指令、フッケバイン、浮上します」
「了解」
「はやてちゃん、ハーディス氏、フッケバインに乗り込みます」
「手遅れになるっ！」
「ルキノ、切り札は用意してるな？」
「当然」
「なら問題なし」
「どういうことよ」

はやては、それにはこたえなかった。

場面は再びフッケバインに戻る。

フッケバイン船内では、フォルティスが俺たちを避難させるので大忙しだった。

「トーマ君、リリィ、アイシス、操舵室まで避難してください、必要とあれば船外に脱出してもらいます。
　足止めはヴェイロンがします。時間を稼げばアルが戻ってきますから」
「アルが戻ってくるって、それでなんとかなる相手なんですか？」
「船内は迷路に出来ます。通路をいじってなんとか時間を稼ぎますよ」
「ま、やっつけりゃいいんだろうが」

爆音が響いた。どうやら、ハーディス氏が装甲に穴を空けたらしい。

「来ましたよ」
「じゃ、いってくらあ」

ヴェイロンがこともなげに言う。
フィフスが何も言わずついて行く。

「おめーは下がってろ」

フィフスは首を横に振る。

「足手まといだっていってんだよ」

フィフスは、立ちすくんだ。

ヴェイロンは、走り出した。
俺たちも走って操舵室へと向かう。

フィフスは、決然としてヴェイロンの方へと走っていった。

「またきみですか。懲りない人ですね」
「てめえみたいなやつがむかつくだけなんだよ」
「何度やっても結果は同じですよ」
「パパ、リアクトしてるんだから同じ結果ですらないよ」
「そうかもしれないね」
「黙れ」

ディバイダーを発射する。

「何かしたかい？」

なんの手応えもない。
直撃だったはずだ、だが、全く効き目がない。
平然と立っている。

「射撃というのはね、こういうのを言うんだよ」

一撃で吹き飛ばされる。

「パパ、もう少し手加減してあげなきゃかわいそうだよ」
「そうかい？　致命傷になるようにしたつもりなんだが」

勝手なことを言っているが、確かに致命傷になるような怪我かもしれない。
ほっとけば、感染者といえど死ぬだろう。
一撃即死とは行かないが、身動き出来る気がしない。
全然実力ってものが違う。
目が見えるだけましってやつか？
いや、目が見えるだけ、次が予測できるのが不幸ってやつか？

「とどめを刺すのが慈悲だとおもうかい？」
「パパって優しいね」

急に体に力が入る。
とっさにハーディスの攻撃をかわす。

「今リアクトした相手は誰なのかしら?」
「……確か、ロザリアとかいうリアクトプラグのはずだよ。失われたと聞いていたが
　フッケバインに拾われていたのか」
「逃げろって言っただろ、そんなに死にたいのかよ」
「恩返し」
「じゃあ、これで貸し借りなしだな」
「一回は外したが、今度は外さないよ」
「そうかい」

ハーディスの計算、ヴェイロンの行動パターン、読みは完璧なはずだった。
だが、今度はフィフスという別な要素が入っていた。
そして、ヴェイロンに守るべきものが出来たことも。

ヴェイロンは逃げ出した。

「！」
「逃げたよ、パパ」
「追う必要はない、トーマ君さえ確保すればいいんだからね」
「そうだね、パパ」

通路は、迷路になるように配置を工夫されていた。
だが、ハーディス氏は通路を爆破して直線的に操舵室を目指していく。

「やっぱりそうしますよねえ。トーマ君、ソニカと一緒に脱出してください。
　そしてアルと合流を。僕はステラを守ります。ヴェイロンはハーディスを奇襲しようと機動してます」
「じゃあ逃げない方が」
「逃げてください。時間がない」
「分かりました」
「トーマ、逃げるの？」
「よく分からないけど、ハーディス氏が危険なことは分かった。
　俺が接触したらまずいっていうことはみんなが言ってる。
　だから、接触は避けよう」
「私もトーマに賛成です」
「ん、分かった。接触して、取り返しのつかないことになったら大変だもんね」
「分かってくれてありがとう、じゃあ、こっちから出てください、ソニカ、道案内を」
「高くつくわよ」
「生き残れたら払いますよ」
「物騒なこと言わないでよね」
「生命保険に入れる身分じゃないんでね、病気持ちなもので」
「しゃれになんないわよ、それ」

とにかく、僕らは脱出を試みることになった。

「……さて、操舵室へのルートを安全にして、トーマ達の脱出……なんてことだ。
　操舵室を目指してるんじゃなくて、トーマ君の居所を正確に狙ってる。
　もう、この距離になったら、トーマ君を把握できるのか。
　ヴェイロン……あなただけが頼りですよ」

その、ヴェイロンは、ワンチャンスに賭けていた。
その賭に勝つか負けるか、Do or……

「フィフス、合わせろ」
「はい」

トーマ達は、直線的に船外を目指す。
ハーディス氏は、直線的にトーマ達を追う。
ヴェイロンもまた、直線的にハーディス氏の下に潜り込んだ。

「くたばれ」

ハーディス氏の床が吹き飛ぶ。
続いて、ヴェイロンが踏み込んでハーディス氏に格闘を挑む。

「君、気づいてないとでも思っていたの?」
「そんなことか」

ハーディス氏はヴェイロンの攻撃を迎え撃つ。
格闘でもヴェイロンは分が悪い。
だが……。

「時空管理局や、ヴェイロン、ハーディス容疑者、二人ともそこまでや。
　おとなしく抵抗をやめて……」
「時間がないな、悪運の強い男だ」

ハーディス氏は逃げ出した」

「ちっ」

ヴェイロンもハーディス氏を追おうとしたが、体が言うことを聞かない。

「エリオ、キャロ、ヴェイロンを捕縛して、ティアナ、スバル、二人はハーディス容疑者の後を追って」
「分かりました」
「まだ……」
「無理はあかんよ。動けるのが異常な怪我や、この手錠は感染者でもはずせへん。おとなしくするんやで」

ヴェイロンの目は死んでない、が、体は死にかけだった。

さて、トーマ達に話を移そう。

「脱出成功だよ」
「アルと合流って言ってたけど……」
「いないじゃない、どこなのよ」
「トーマ君、もうどこにも行く場所はないよ」
「！」

ついに、ハーディス氏はトーマ達に追いついた。

「パパ、これがゼロ・ディバイダー？」
「ああ、そうだよ」

俺は思わず身構える。
リリィは俺とリアクトした。
アイシスも爆薬をセットして戦える態勢に入る。
そっとソニカは後ろに回った。

だが、ハーディス氏は身構えるでもなく、気楽に近づいてきた。
気勢をそがれる。

「そう身構えることもないよ、とって食おうっていうわけじゃないさ。
　そういえば、工場長はどうしたのかな」
「俺たちはしらないです」
「工場長なら逮捕したぜ。こんどはあんたの番だ」
「ひとまず、逃亡の容疑で、ハーディス・ヴァンデイン、それから、公務執行妨害で、シュトロゼック＝ヴァンディン、両名を逮捕します」
「やれやれ、そういうことか、じゃあ、もう会えないかもしれないね。せっかく知り合えたのに、残念だ」

何気なく、自然な感じでハーディス氏が俺に近づく。
あまりに何気ないので、何をしていいかわからない。
ハーディス氏は、ぽん、と俺の肩を叩いて、そのまま立ち去ろうとする。

「！」

一瞬、何が起きたかわからなかった。

次の瞬間、理解した。
ラーニングだ。そして、ハーディス氏が・ゼロ・ディバイドを発動したんだ。

「こちらルキノ、ハーディス氏の逃走を確認、これより救護班を海鳴市に派遣します。
　ええ、フッケバインは全員武装班により確保します。
　本局には連絡済み、全域で警戒度A発令を要請します」

こうして、海鳴市でのミッションは終了した。
フッケバイン捕縛という特務六課の目的は１００％達成された。
ヴァンディンコーポレーションの秘密工場もまた、摘発された。
ここ以外に秘密工場のたぐいがないことは、確実だってフェイトさんも静さんも太鼓判を押している。

だけど、ハーディス氏は、ゼロ・ディバイドを習得して逃走した。
そして、ここの生産物もまた、行方不明のままだ。
大丈夫なのだろうか。

　

 

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