ここは、管理局特務六課本部。

「相変わらず手がかりなしか」
「まったく手がかりなし、というわけでもありません、八神指令。
　フッケバイン側は手がかりがまったくつかめませんが、ヴァンディンコーポレーション側の捜査はずいぶんと進みました」
「進んだはええけど、枝葉ばっかりやなあ」
「枝葉を払えば幹が見えてくるよ、はやて」
「そうやな、そう願いたいな。で、その払った枝葉の話はどうなってる？」
「ヴァンディンコーポレーションの会長が、ハーディス容疑者と接触を試みようとして失敗したという情報が入ってます。
　一方、フッケバインとヴァンディンコーポレーションの総務部長が接触を試みたという情報もあります。
　こちらは、どうやら成功している模様ですね」
「なんやて！　枝葉どころか本筋やないか。どういうことや」
「どういうことか問いただしました。どうやら、フッケバインにハーディス容疑者の排除を依頼したということみたいです」
「……そんなこと、べらべら管理局にしゃべるところがまたあやしいなあ。
　で、その接触ルートから、フッケバインの居所とかつかめへんの？」
「追ってみましたら無理でした。部長も直接フッケバインとあったわけではありません。
　ですから、それが本当にフッケバインなのか、それともフッケバインを名乗る愉快犯なのか、判別はついていません」
「断言できるんか？」
「アコース査察官が信頼出来る程度には」
「アコース査察官がきてるんか？」
「ええ、重要事項ということで、特別にきていただきました。
　捜査には部長も協力してくださいました」
「あれは特別な礼状がないと自発的協力があっても捜査できへんやろ。
　よう礼状がおりたなあ」
「事情が事情ですので、クロノ提督も尽力してくださいました」
「そうか……」
「ですが、会長は捜査を拒否されました。そのあたりに何か秘密があるのかもしれません」
「あるのかもしれへんな。けど、そこをきちっと捜査するのがお仕事やな。
　もしかしたら、フッケバインと接触したように、ハーディス容疑者とも接触してるのかもしれへんなあ」
「そうかもしれません。だとすれば、ヴァンディンコーポレーションの狙いはなんなんでしょう」
「フッケバインをつぶす？　いや、それはおかしいな。
　いずれにせよ、ハーディス容疑者が目障りなのか、ハーディス容疑者の思惑通りにヴァンディンコーポレーションが動いてるのか
　判別つけがたい。けど、ハーディス容疑者の思惑通りに動いてるとしたら、狙いはむしろわかりやすい」
「それはどういう意味なんでしょう」
「ハーディス容疑者の狙いは、はっきりしてる、トーマくんや。もっと正確に言うと、トーマが持ってる、ゼロ・ディバイドや」
「ゼロ・ディバイドですか。それは確かにハーディス容疑者が身につければ脅威ですね。
　けど、ここまでして手に入れるほどの価値があるんでしょうか」
「わからへん。けど、ハーディス容疑者はそれだけの価値があると踏んでる。
　私も、それだけの価値がある可能性はあると思う。
　なにしろ、すべての魔法力、生命、そして動力を一瞬にして止める力があるんやからな。
　トーマが発動させて、あれや。
　ハーディス容疑者の力で発動させたら、どんだけの威力になるか、あんま想像したくないわ」
「案外威力は小さくなってるかもしれませんよ」
「希望的観測にすがるのもな」
「いずれにせよ、ハーディス容疑者は、フッケバインとぶつかろうとしてるし、フッケバインはハーディス容疑者を捜している。
　そして、ヴァンディンコーポレーションは、両者をぶつけ合わせる手伝いをした。そう考えて間違いない、ということですね」
「そうなるやろな」
「では、もっとヴァンディンコーポレーションを捜査すれば、あるいは両者の居所を見つけることが出来るかもしれない、ということですね」
「そうかもしれへんし、違うかもしれへん。けど、私らに出来ることは、ヴァンディンコーポレーションの捜査しかないんよ」
「ヴァンディンコーポレーションといえば、ラプターに類似した戦闘機械をヴァンディンコーポレーションも作っているという
　情報を見つけました。ただ、開発チームも工場も見つかりません」
「……開発チームも工場もみつからへんのに開発してる、っちゅう情報だけみつかるのも変な話やな」
「おかしいんですが、ハーディス容疑者の書類を解析したところ、開発情報が見つかりました。
　ただ、肝心の部分が暗号化されていて、解読出来ません。
　今本局の解読班に回して解読を依頼しているところです」
「そっか、解読にどれくらいかかるんや？」
「解読班も、流行の人手不足だから、早くても3ヶ月先じゃないかと言ってます」
「手遅れになりそうやな」
「私もそう思う」
「ほかに手がかりになりそうなことは？」
「工場なんだから、人と資材の出入りがあるだろうから、そっち方面を洗うことにしてる。
　特務六課だけじゃ人手が足りないから、地元の警邏の応援を頼んでる」
「そっか、けど、地元も余計な仕事が増えたと思ってるかもしれへんなあ」
「それは、そうだろうね。けど、必要な仕事だから」
「必要じゃない仕事なんてあらへんわ。みんな必要な仕事や。優先度が違うだけや」
「そうだね」
「こっちは優先度が高い思ってても、向こうはそうは思ってくれへんかもしれへんしなあ」
「嘆いても始まらないよ、はやて」
「そうやな」
「……推理でなんとかなりませんか、指令」
「推理かて、当てずっぽうと大差あらへん、地道に捜査するしかないやろ」
「管理世界のどこかには決まってるんですから、ヴァンディンコーポレーションの物件を地元警邏にしらみつぶしにしてもらえば
　一月もしないうちにあたりを引けると思うんですけど」
「……管理世界って決めてかかると大やけどせえへんか？　管理外世界って可能性あるやろ」
「管理外世界に物資を運んでいれば、それがあたりですよ、八神指令」
「物資運ぶ必要のない管理外世界があればええやない」
「原始的な道具を作るなら管理外世界でもいいでしょうけど、高度な戦闘機械をつくるとなると
　どうしても管理世界から物資を輸送する必要があります。それも、常時安定して。
　そんな輸送を管理外世界にすれば目立ちます。そういう輸送をしている情報をヴァンディンコーポレーションのデータベースから見つけ出せば
　それがあたりですよ」
「一度だけ工作機械を運べばええんちゃうん？　そうすればあとは……」
「……それは無理ですよ八神指令。管理外世界にそんなもの作ろうとすれば、製鉄所や発電所から建設するようになります。
　そんなコンビナートを作るようなプロジェクトを管理外世界に作れば、一発でばれますって。
　スカリエッティの工場は、完成した部品だけ送り込んでたからあれでよかったんですけど」
「せやから、部品だけ……ああそうか、常時送るのも、管理局の船が送ってたスカリエッティと違って、民間の船か」
「そうですよ八神指令。だから、船さえ押さえればこっちのものです、三ヶ月待つ必要はありません」
「でも、もし、発電所や製鉄所がそろってる管理外世界があれば、工作機械を送り込むだけで、大丈夫なことになる」
「そんな都合のええ管理外世界なんてあるんか？」
「……ある」
「どこに？」
「……灯台もと暗し、だよ、はやて」
「？」
「第97管理外世界」
「……あーっ！」
「ここなら、最初の工作機械さえ運べば、あとは量産できる」
「けど、地球かて広いからなあ。そのどこにあるか探すのは大変や。
　地元警邏なんて存在せえへんし」
「けど、探してみる価値は、ある」
「せやな……管理世界は管理世界であたってみるとして、管理外世界なら、そこをあたるべきやろ。
　けど、どうやって……そうか、グレアムおじさん！」
「諜報機関は第97管理外世界にもある」
「管理局とつながりがないわけやないしな」
「さっそく動くとするか」

今や第三勢力となった管理局機動六課。
彼らもまた、独自の情報を元に動き始めた。
彼らの動きは、フッケバイン、そして、ハーディス氏の動きに追いつくことが出来るのだろうか。


　

 

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