「ご機嫌いかがですか、トーマ君、リリィさん、アイシスさん」
「ご機嫌いかがって、フォルティスさん、機嫌はいいわけないでしょう。
　無理矢理つれてこられたんですから」
「ははは、そうでしたね。でも、そうせざるを得ない事情を今から説明させてもらいますよ。
　そうすれば、これは、あなた方だけではなく、特務六課にとっても、これが最善のことだったとわかるはずです」
「あたしらをフッケバインに乗せることが、あんたたちだけじゃなくて、特務六課にとって最善ってどういう意味なのよ」
「それを今から説明しようと思いましてね。特務六課への説明は、管理局にいる僕達の友人が、それとなくやってくれるはずです」
「……僕達の友人って、どういうことなんです？」
「それは秘密です。親しき仲にも礼儀あり、ってね」
「まあ、話したくなければかまいませんよ。無理に聞いたって教えてくれないでしょうし。
　それより、一体どういうことなんです。ファミリーの一員というのと関係があるんですか？
　でも、それならアイシスまで連れてくることもなかったでしょう」
「まあ、そうですね。アイシスさんを連れてくる必要は、今回もなかったかもしれません。でも、今はうちも猫の手すら
　借りたい状況なのでしてね」
「あたしは猫か」
「おこらないでください。言葉の綾ですよ。我々は、ひとまず、ヴェイの回復を待たないといけないのでね」
「そうだ、ヴェイロンは無事なんですか？」
「ええ、無事ですよ。手当が早かったおかげでね。心臓を抜かれましたけど、心臓を新鮮な状態で保管してあったこともあって
　しばらく静養すれば回復するでしょう。でも、しばらくの安静は必要です。いま、フィフスが看病してます。
　立場が逆転ですね」
「フィフスって？」
「ヴェイとアルが連れて帰った……シュトロゼック５ｔｈですよ。名前はロザリア」
「私と同じ……」
「ええ、リアクトプラグです」
「リアクトプラグだから連れてきたのか？」
「どうなんでしょうね。それはアルに聞いてみないと。まあ、我々は、必要なときには殺しますが
　無益な殺人を好むわけでもないんですよ」
「なんか勝手な理屈にも聞こえる」
「そうですか。まあ、そうかもしれませんね。でも、我々には我々なりの基準があってやってるんですよ。
　決して無意味に人殺しをやる集団じゃない。少なくとも、殺すための人殺しをするような集団じゃないってことです。
　ヴァンデインコーポレーションの無能集団とは違ってね」
「ヴァンデインコーポレーションの無能集団？」
「ああ、説明が追いついたらわかることですよ。説明が前後しました。一から説明していきましょう。
　我々がヴァンデインコーポレーションをつぶす世直しをするつもりなのはご存じですね」
「ええ、それは聞きました。でも、何のために？」
「それが世の中のためになるからでは不服ですか？」
「犯罪者集団が世の中のためになるだけでそんなことするわけ？」
「我々は、生きるために必要なことをしてるだけですよ。別段犯罪を犯したいわけじゃありません。
　世界が我々の生存に適合してないだけです。人間を殺さなければ生きていけない病気にかかってる以上
　自殺するのでなければ、犯罪者になるしかない。それだけのことですよ」
「……仕事でも人殺ししてるんじゃないの？」
「まあ、そうですね。お金は必要ですからね。けど、殺す相手は選んでるつもりですよ。
　話を先に進めましょう。それに利得がないわけじゃありません。
　ヴァンデインコーポレーションは、原初の種を持ってます。我々は、管理局ではなく、我々が
　それを手に入れるつもりでいます。それがヴァンデインコーポレーションをつぶすというお仕事の報酬」
「原初の種？」
「シュトロゼック１ｓｔにして銀十字の原書です。それがあれば、エクリプスウィルスのすべてわかる可能性がある」
「ということは、治療法もわかる可能性があるわけだ」
「そうかもしれませんね。手に入れてみなければわかりませんが」
「それを手に入れるのが目的なのか」
「目的の一つです。世直しも目的ですからね」
「どっちが主目標なんだ」
「どっちもですよ。ヴァンデインコーポレーションをつぶすことと、原初の種を手に入れることとは同じことのはずです。
　結局の所、ハーディス＝ヴァンディンの力の源は、原初の種なのですから」
「……ヴァンディンコーポレーションの力もあるんじゃありませんか。原初の種はそれよりも強い？」
「ええ、大企業ヴァンディンコーポレーションすべてより、原初の種の方が強大でしょうね」
「それほどまでの力があるって信じられないわ。どんなロストロギアよ」
「その力を完全に解放できれば……管理局システムを停止させることができるぐらいには」
「まさか……なのはさんやフェイトさんやはやてさんみたいな化け物がごろごろいるんですよ、管理局には」
「でも、彼らだって、ゼロ・ディバイド相手には無力ですよ」
「あ……」
「そういうことです。原初の種は、それすら自在に操れる、と、我々は考えてます。
　ただ、今それが出来るとは思ってない」
「どうしてです？」
「ハーディス氏がトーマ君と接触したがったからですよ」
「どういう意味？」
「データがあれば、それを覚えることが出来るけれど、ゼロ・ディバイドのデータがなければ
　原初の種といえども、ゼロ・ディバイドの能力が得られない、ということです。
　言い換えるなら、ゼロ・ディバイドは、トーマ君の固有能力ということですね」
「じゃ、トーマにしか使えないってことじゃないの？」
「原初の種は、トーマ君の固有能力をコピーできるのではないかと考えてます」
「……つまり、一度接触すれば、それ以降は、原初の種の力を持つものは、自在にゼロ・ディバイドが使えるってこと？」
「ええ、そうですよ」
「でも、それならなにもフッケバインにいなくたって……」
「管理局にいれば、遅かれ早かれハーディスの襲撃を受けてトーマ君はハーディス相手にゼロ・ディバイドの能力を引き出されていたでしょう。
　そうなれば、ハーディスはゼロ・ディバイドの能力を身につけることになります。
　それが何を意味するか、聡明なトーマ君には説明の必要はありませんね」
「説明の必要がないって……説明してください。ハーディス氏の目的はなんなんです。
　確かに、それを身につければハーディス氏は無敵になるとおもう。
　ヴァンディンコーポレーションが非人道的な実験を繰り返していたのはわかる。
　だけど、それから導かれる結論がわからない。大企業ヴァンデインコーポレーションをつぶすまねをしてまで
　一体彼は何を狙ってるんだろう」
「意外と鈍いですね。管理局の友人と僕達の見立ては一致してるというのに。
　ハーディス氏の狙いはただ一つ、管理局システムの転覆ですよ」
「管理局システムの転覆？　まさか……そのためにはむしろヴァンディンコーポレーションがつぶれたらまずいだろうに。
　なんで、またヴァンデインコーポレーションをつぶしてまでそんなことを……。
　それに、管理局システムを転覆させて、その後一体どんな体制を作ろうと言うんだろう、ハーディス氏は」
「そこまでは我々にもね。でも、論理的に考えて、ハーディスの狙いが管理局システムそのものへの挑戦であることは
　間違いない、ということで、友人と僕らとの見解は一致しています。
　それ以下の狙いにしては、やってることの規模が大きすぎる。
　ハーディスが勝利するには、管理局システムそのものを乗っ取る以外に方法がないんです。
　もちろん、ヴァンデイン派がCW派に勝利することで、管理局を乗っ取る方法もないわけではなかった。
　だが、ハーディスの逃走でこの手段はたたれた。彼に残された手段は、実力で管理局を打倒することのみ」
「……ハーディス氏は、すでに詰んでるんじゃありませんかね。それだと」
「ハーディスを過小評価しすぎですよ、トーマ君は。ハーディスはバカじゃありません。勝算があるから逃走という賭に出た。
　勝算がなければ、おとなしく護送されてましたよ」
「勝算？　管理局が血眼になってハーディス氏を追いかけてくるというのに、勝算もなにもあったものじゃないでしょう」
「だれがハーディスをとめられるというんですか。あの特務六課のフォワードチームに管理局の黒い天使を一方的に蹂躙したというのに」
「え？　逃げたのはわかりますけど、一方的にハーディス氏が蹂躙したんですか？」
「ええ、一方的にね。あれだけのメンバーが手も足も出なかったそうですよ。ハーディスはそれだけの実力の持ち主です。
　生半可な管理局員では、返り討ちにあうのが落ちでしょう」
「……それでも、教導隊を投入すれば……」
「そうですね、投入できれば」
「どういうことなんですか？」
「教導隊の誰がヴァンデイン派かわからないっていう話をしてたのは、当のはやてではありませんでしたか？」
「……そういえば、そうでしたね……」
「まあ、それでも投入するかもしれませんね。でも、よく考えてごらんなさい。
　こんな巨大な飛空挺フッケバインだって容易にはみつかりません。まして普通の男女二人組です。そう簡単に見つかるわけがないでしょう。
　ただ……」
「ただ？」
「彼らが見つかる可能性はあります」
「どうしてです？　逃げ隠れしてる限りでは、フッケバイン以上に見つけにくい存在なんじゃありませんか」
「ええ、普通に逃げ隠れしてる分には、管理局が見つけるのは不可能といってよいでしょうし、見つけたところで見つけた管理局員の命がないだけでしょう」
「それじゃ絶望しかないじゃない」
「でも、彼らには探さなければならない存在があります」
「どういうこと」
「そのために、トーマ君達に来てもらったんですよ」
「……フッケバインを探さなければならない、そのためには、情報を得るために動かざるを得ない」
「そういうことです。僕達を探そうと思えば、ぼんやりと待ってるだけじゃだめですからね。
　使える情報網を総動員しないと」
「つまり、まだ生きてるヴァンデイン派の情報網が活性化する」
「そう、だから、それを逆探知して、一網打尽にさせてもらう……機動六課と、我々と、共同でね」
「共同作戦なんですか？」
「意外ですか？　管理局の友人とは、打ち合わせが出来てるんですよ」
「管理局の友人って一体……」
「それは秘密です。……さて、一休みしたら、始めましょうか」
「始めるって、何を？」
「決まってるじゃないですか、戦闘訓練ですよ。ここにいるうちに体がなまったなんて言われちゃ
　八神指令に合わせる顔がないですからね」

どこまでもとらえどころのないフォルテスであった。
ヴェイロンが治るまで、フッケバイン雌伏の時でもあった。
だが、いつまでの雌伏を続けるつもりは、ないみたいであった。
しかしながら、戦いの時が来たとき、彼らに勝利の女神はほほえむのだろうか。

　

 

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