「申し訳ありません、八神指令」
「フェイトちゃん、そんなかしこまらんでええよ。
　現場の兵力不足と敵の能力を見くびったのはこっちの責任や。
　現場の責任とは違う。けど、……痛いなあ。
　ハーディス氏は逃走、フッケバインはトーマとリリィとアイシスを拉致。
　特務六課はいいとこなしや」
「……」
「けど、これでハーディス氏には後ろ暗いことがあることが明白にはなった。
　重要参考人から、エクリプスウィルスの感染者にして、逃亡者に変貌や。
　捜査は一歩前進やな」
「一歩前進かもしれませんが、本人はいまいませんよ」
「そうやな、どこへ向かったかさっぱりわからんからなあ」
「それでも、八神指令。管理局内のヴァンディン派は、これでずいぶんと信用を落とすのではありませんか？」
「そう都合良く行くとええんやけどな、ティアナ。ヴァンディン派の信用は、ハーディス氏の逮捕の時にもう落ちるところまで落ちてるからな。
　ハーディス氏が逃亡したからいうて、それほど影響が出ると期待できへんのよ。
　むしろ、拉致の方がこっちにとって逆手にとられて痛いかもなあ」
「どういうことなんですか？」
「なに、簡単なことやエリオ。特務六課は、ヴァンディン派からフッケバインとなれ合ってる思われてるからな。
　こんどの一件も、拉致やのうて、派遣やおもわれるかもしれん。あのフッケバインが殺しもせんと
　生かして連れて行ったいう時点で、おかしいいうて主張されたら、申し開きするのにちょっと骨が折れる」
「トーマちゃんが特殊な事情をもってますもんね」
「せやな、キャロ。そういう人材抱えてる時点でなれ合いやいう言い方されたらなんもいえんしなあ……」
「いずれにせよ、善後策は必要です」
「そうやな、過ぎたことをぼやいててもはじまらへん。けど、起きたことを総括することも必要や。
　フェイトちゃん、結局何が起きたいうてええん？」
「最初に拘置所でハーディス容疑者が
　フッケバインの襲撃を受けました。襲撃者はカレンとヴェイロン、そしてソニカと呼ばれる女性。
　ソニカは戦闘要員ではないようです。何のためにフッケバインが連れてきたのかは不明。
　彼らは特務六課の介入よって一時撤退しました。
　ハーディス容疑者はディバイダーで武装。このときはディバイダーをティアナが回収しています。
　その後、ハーディス容疑者がヴェイロンから奪った心臓をトーマ、リリィ、アイシスの3名で輸送。
　残りのメンバーはハーディス容疑者の護送に入りました。
　トーマ、リリィ、アイシスの3名はフッケバインによって誘拐され、心臓も奪われた模様。
　ハーディス容疑者護送組は、シュトロゼック＝ヴァンディンを名乗る女性の襲撃を受け
　ハーディス容疑者を逃がすことになります」
「そんなところやな。ハーディス容疑者の戦闘力はどのくらいや」
「リアクトしてない状態でS+以上は確実、リアクトしていればSS以上でしょう」
「リアクトしてなくてS＋やて？」
「以上です。SSあってもおかしくはないかと。シグナムを一刀のもとに斬り捨てたカレン相手に2対１で優勢に戦いを進めていたぐらいです」
「そんなんが野に放たれたんか……」
「八神指令、見える相手ならやっつけられますよ。相手がどこにいるかさえわかれば」
「そうやな、、スバルの言うとおりかもしれんな」
「八神指令、それで、これからの方針は」
「ティアナ、これからの方針いわれてもな。情報がすくなすぎて雲をつかむような話や。
　今までは見える敵との戦いやった。これからはフッケバインもハーディス容疑者も姿を消すやろ。
　こっちはそういうわけにいかん。こっちだけ姿が見えてるのは不利やな」
「……こちらも隠密活動する部隊を作るわけにはいかないんですか？」
「報告は本局にあげなあかんし、そしたら情報はどこからもれるかわからへん。
　黙ってこっちだけでやれることは限られてるし、そんな弱小戦力じゃ各個撃破されるのが落ちや。
　フッケバインにせよ、ハーディス容疑者相手にせよ、やるなら全力が必要やな」
「そうですね」

ここで、ノックの音がした。

「どうぞ」
「そろそろ〜軍師の出番〜でしょうか〜」
「静さんか、報告書はまわってへんはずやけど」
「けど〜生の情報でしたら〜ヴァイスさんと〜アルトさんから〜お聞きしました〜」
「けが人から話を聞いてたんか」
「シャマル先生から〜許可は得ましたよ〜」
「そうか、改めて報告はいるか？」
「こちらから〜作戦を出して〜間違ったことがあれば〜訂正してもらえれば〜十分かと〜」
「それやと困るわ、静さんの作戦は、いつでも理解出来るのはことが起きたあとなんやから」
「では〜報告を〜聞かせてください〜」

はやては、かいつまんで今まで受けた報告の説明をした。

「大体〜ヴァイスさんから〜聞いた〜ことと〜変わらない〜ですね〜」
「そうか」
「でしたら〜作戦は〜簡単にして〜明瞭です〜」
「私には簡単にして明瞭な作戦なんておもいつかへんけどな」
「ヴォルフラムの〜修理は〜終わってますか？〜」
「終わってるけど、それがどないしたん？」
「我々の〜最優先課題は〜トーマさんたちの〜回収ですよ〜」
「フッケバインを見つけて、トーマ達を回収することか。
　確かに民間人を奪われたままいうんは、問題やな。
　預かった人間に責任はもたなあかん。言われてみればその通りや。
　静さん、ありがとう」
「そういう心づもりでいると〜大やけどするんですけど〜」
「どういうことや？」
「すべての鍵が〜トーマさん〜なんですよ〜」
「どういうことや？」
「ゼロ〜ディバイド〜ですよ〜」
「？」
「まだ〜わかりませんか〜ゼロ〜ディバイドを〜ハーディス容疑者も〜
　フッケバインも〜自分のものに〜したいんですよ〜」
「……確かに、あれは強力や、けど、制御できるんか？」
「フッケバインは〜わからないです〜。けど〜ハーディス容疑者になら〜」
「ハーディス容疑者になら、出来るいうんか？」
「ヴァンディンコーポレーションの〜捜索で〜出てきた〜情報ですけど〜」
「何が出てきたん？」
「ハーディス容疑者は〜エクリプス感染者のもつ能力〜すべてを〜
　手に入れることが〜出来る〜力を〜求めてる〜みたいです〜」
「それなら、ゼロ・ディバイドを手に入れようとしない訳がない」
「そういう〜ことですよ〜」
「逆に言えば、それがわかってるから、フッケバインはトーマ達をさらっていった」
「そうとも〜いえますね〜」
「それはわかったわ。けど、じゃあ、フッケバインは一体何を狙って
　ハーディス容疑者を襲撃したんやろ。
　ヴァンディンコーポレーションの捜索から何か情報出てへんか？」
「それは〜わかりませんでしたけど〜シュトロゼックを〜名乗る〜女性が〜
　現れたのなら〜最後のピースが〜はまりました〜」
「どういうことや」
「リリィさんの姓が〜シュトロゼック〜、そして〜現れた女性は〜名前が〜シュトロゼック〜
　どうして〜姓が〜シュトロゼックじゃ〜ないんでしょうね〜リアクトプラグ〜なのに〜」
「言われてみれば妙やな」
「冥王イクスヴェリア〜そして〜イクスヴェリア因子〜」
「どういうことや」
「簡単なことですよ〜古代ベルカの〜生物兵器〜エクリプスにも〜原初の〜種が〜
　存在すると〜いうことです〜」
「……つまり？」
「つまり〜シュトロゼック〜ファーストと〜そのシュトロゼック〜ファーストが持つ〜銀十時〜
　それこそが〜冥王イクスヴェリアが〜マリアルージュにとって〜原初の種であるのと同様に〜
　原初の種〜ということです〜」
「けど、マリアルージュと違って、エクリプスウィルスは人を選ぶ」
「そう〜だから〜不完全な〜兵器ですね〜」
「……そんなものを使って、ハーディス容疑者は一体何をしようというんだろう」
「それは〜わかりません〜ヴァンディンコーポレーションを調べても〜まだ情報は〜出てきてません〜」
「いずれにせよ、ハーディス容疑者も、目指しているのは、フッケバインということで、間違いないいうことか」
「私は〜そう見てます〜」
「静さん。その情報は正確なんですか？　偽情報に踊らされてるという可能性は？
　本命の情報は別にあって……」
「それなら〜フッケバインを捕まえるだけですよ〜損はしません〜」
「なんにせよ、特務六課の全力がいる作戦になるな。出し惜しみして勝てる相手やないやろ」
「そうなりますね〜けど〜」
「けど？」
「一人だけは〜ここに残る必要がありますよ〜」
「どういうことや？」
「誰が〜グレンデル一家の〜面倒を〜見るんですか〜」
「そうやったな……なのはちゃん抜きか、痛いなあ……」
「誰を外すかは〜司令官の〜考えですよ〜」

ともかく、今日は敗北を受け入れねばならぬ日であった。
だが、いつまでもうちひしがれてはいられない。
時は待ってくれない。なすべきことはすぐに現れ、特務六課はそれに向かわねばならなかった。

　

 

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