「ハーディスさん、逃げるつもりですか？」
「逃げる？　当然の権利を行使するだけだよ」
「ティアナさん、ハーディス氏が逃走します」
「エリオ、キャロ、制圧を」
「了解」
「子供をいたぶる趣味はないが、悪い子にはお仕置きをしないとね」

ハーディス氏に逆にエリオとキャロはバインドされる。
その様子は室内のモニタで車を運転しているティアナにも見えている。

「！……一瞬で二人をバインド？」
「さてと、ディバイダーも回収しておこうかな」
「させるもんですか！」

運転しながらでは戦えない。ティアナは車を止めてハーディス氏から取り上げたディバイダーを
入れたボックスケースを手にすると車から降りる。

「クロスミラージュ、セットアップ」
『roger』
「スバル、援護に入って、ハーディス氏が逃走しようとしてるわ」
「了解、今向かう」

後方警戒に入ってたスバルがティアナの呼びかけにこたえて急行する。

「速戦即決と行こうかね」
「そう簡単に……」
「遅いよ、キミ」
「え？」
「ディバイダーが入ってる箱は、これだろう？」
「嘘、幻術は完璧だったはずなのに……」

そう、ティアナは幻術で分身をかけて箱もティアナ自身も多数出してごまかしていた。
にもかかわらず、ハーディス氏は正確に本物のディバイダーを見抜いて箱を手に入れたのだ。

「私のディバイダーだからね。どこにあろうとわかる」
「つまり、フッケバインが持ち込んだというのは嘘だったということですね。
　貴重な証言ありがとうございます」
「今更ごまかしても仕方ないことだからね」
「でも、それを装備したところで、逃がしませんよ。ハーディスさん」
「それはどうかな？」

ハーディス氏が四方八方に散った。
もちろんハーディス氏は一人しかいないのだから、幻術を使ったのである。
ティアナは意表を突かれるが、そのうちの誰かを追うことはしない。
落ち着いて、目を閉じる。五感を研ぎ澄ます。

「……だまされないか」
「ええ、私でもそうしますから」
「なら、力比べと行くかね」
「パパ」
「シュトロゼックか」

ここで、合流してきたのが、フェイトと戦っていたシュトロゼックである。
シュロと絶句の目的はそもそもがハーディス氏との合流なのだから
そうなるのも当たり前ではある。

「リアクトを、一気にかたをつけましょう」
「そうだな、管理局に無用な犠牲は出すべきではない」
「ティア、遅れてごめん」
「スバル、ティアナ、気をつけて、この二人、ただ者じゃないわ」
「フェイトさん、リアクトする前に……」
「もう遅い」

ハーディス氏はシュトロゼックとリアクトした。

「……パパとリアクトするのも久しぶりだね」
「そうだな、さて、時間はかけずに行こうか」
「相手が一人になった分話は早いよティア」
「あんたは楽天的でいいわね。でも、考えても仕方ないか。スバル、援護するわよ」
「君たちはいつでも後手だ」

フェイトがリアクトしたハーディス氏の頭を押さえようと空に上がった瞬間、ハーディス氏も空にあった。
フェイトは両腕を固定され、のど元にはディバイダーを突きつけられている。
はっきり言って詰んでいる。

「もう十分だろう。黙って私たちが行くのを許すか、このまま私たちに虐殺されるか、君たちに残された道は二つしかない。
　どちらを選ぶね？　私としては、黙って私たちが行くのを許す方を選んでもらいたいのだが」
「パパって寛大だね」
「フェイトさん……」
「勝手なことを」
「人質に発言権はないよ、もう生かすも殺すも私の意思一つなのだからね」

実力差は歴然としていた。フェイトが手も足も出ない相手、自分の幻術がまるで通用しない相手、
エリオとキャロをディバイダーもリアクトもなしに一瞬でバインドして無力化できる相手になにをしろと？

「……返事は？」
「わかりました。どこへでも行ってください」
「ティア！」
「護送任務は失敗したわ……受け入れたくないけど、犠牲を最小限にとどめることだけが、今できることよ」
「ティアナ、私のことはかまわずに」
「かまわずになんとか出来ればそうします。どうにもならなければ、無駄死にです」
「賢明な判断だな。お礼に車は破壊せずにおこう。私は転送で去る。追うのはあきらめた方がいい、どのみち多重転送をかけるからね」
「そうでしょうね」
「じゃあ、また会う日まで」

そう言うと、ハーディス氏は去った。言葉通り、転送魔法を使って。

「ティアナ……」
「すいません、フェイトさん、独断でことを進めました」
「……捕まった私の責任が一番重い。ティアナを責めてるわけじゃない。
　それより、アルトとヴァイスを回収しないと。それに、ことの顛末を本部に報告しなければならない」
「そうですね」

それは、気の重い仕事だった。
しかし、避けては通れぬ仕事でもあった。
そして、まだ彼らは知らないのだった。
トーマ達の陥った状況のことを

 

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