「どう、ハーディス氏の様子は」
「相変わらずぼやき通しですよ」
「そう」

こちらは、ハーディス氏を護送しているティアナ達である。
フェイトは飛行しながら後方を警戒している。
アルトが操縦するヘリは前方の警戒に当たっている。

最初は、些細なことだった。
ハーディス氏がぼやくのをやめて、黙り込んだのだ。
あまりに些細なことだから、キャロもエリオも何も気づかなかった。

だが、それからしばらくして起きたことは、とても些細なこととはいえなかった。

「なんだありゃ！」

強力なエネルギー弾。それがヘリに向かって一直線に向かってくる。
アルトが緊急回避をかける。

だが、襲いかかるエネルギー弾は一発だけではない。

「アルト、操縦代われ！」
「あ、はい、ヴァイス先輩。でも、反撃能力が……」
「反撃はフェイトさんに任せるっ！」

ヴァイスは曲芸飛行まがいの緊急降下でヘリの高度を下げていく。

「アルト、脱出準備しとけ」
「え？」
「聞こえなかったか。……どうやら、持ちそうにない。
　着地用のデバイスは保持してるな」
「ええ、それは。でも先輩はどうするんですか」
「俺にはストームレイダーがある。問題ない。
　直撃食う前に脱出しろ」
「脱出しろって、しがみついているのが精一杯ですよ」
「ははっ、それもそうか。だが、脱出するための飛行をしたら、一発で落とされるぞ」
「フェイトさんが援護に入ってくれれば……」
「来たのが一人だけならいいんだが、そうとは限らん。
　いまフェイトさんは、これが陽動かどうか確認に当たってる。
　それが終わるまでは単独で耐えないとな」
「いつまでかかるんですか？」
「さあな」
「そんな……」
「覚悟決めろ。管理局の一員だろ」
「！……わかりました」

アルトは、せめて役に立とうとセンサー類に神経を集中する。
エネルギー弾の発射源の特定、そして、他の敵がみつからないかと。

「今のところセンサーに反応がある敵は一カ所だけですね。
　でも、高速でハーディス氏の護送車に向かってます」
「ああ、そうだな。
　このままだと、あと４，５分でハーディス氏に追いつかれてしまう」
「阻止できないんですか」
「俺らの出番じゃないのは確かだな」
「こちらフェイト、敵性存在は単独であるのを確認。
　これより阻止に向かいます」
「こちらヴァイス。了解」

フェイトはヘリと、謎の敵性存在との中間に入ってから敵性存在へと向かう。
ヘリは曲芸飛行をやめる。
フェイトのシールドで守られることを選択したのだ。

「ある程度高度をとるぞ」
「どうしてです、ヴァイス先輩」
「ちょい、やな予感がするんだよな」
「やな予感って……」
「魔法ってやつは、術者から直線的に放たれるものだけじゃないってのは常識だろ」
「ええ、誘導弾もありますよね。でも、それはヴァイス先輩が避けうるんじゃないですか？」
「そういうやつならいいんだけどな。俺が心配してるのは……」

そう、それは唐突に来た。

「先輩、大丈夫ですかっ！」
「馬鹿野郎、俺の心配より自分の心配をしろ……おめーは即脱出しろ」
「先輩はっ」
「俺はヘリを適当に落とす進路をとってから飛び降りる」
「一体何が……」
「遠隔発生魔法さ。この距離でやってくるのは大魔法使いだけだが……ないとも言い切れなかった」
「先輩……」
「いーから飛び降りろ、いつまで持つかわかんねーんだから」
「はい、わかりました」

アルトは言われたとおりに脱出する。

「へっ。高度をとってて正解だったぜ……と、これでいいだろ……ストームレイダー、俺たちも逃げるぜ」

さて、場面は変わってフェイトである。
ヘリが墜落していくのはフェイトも気づいた。
落下するヘリや、脱出した二人の援護に回るべきか？

否、直ちに攻撃に出てあの二人にちょっかいを出すことを阻止するべきである。

「フォトンランサー！」

敵性存在に向かって魔法弾をたたき込む。
敵性存在の方は、魔法弾をものともせず、突っ走ってくる。
目指すのは、ハーディス氏の護送車だ。

だが、速さでなら、フェイトには自信がある。
敵性存在を先回りして、行く手を遮る。

「止まりなさい。こちらは時空管理局執務官、フェイト＝テスタロッサ＝ハラオウンです。
　公務執行妨害、および殺人未遂の現行犯で逮捕します。抵抗しなければ、あなたには弁明の機会が与えられます」

敵性存在は、行く手を遮られて、一旦足を止めた。
二十歳過ぎぐらいの女性。銀色のロングヘア、ちょっとリリィに似てるかもしれない。

「そこをどいてくれるかしら。人に会いに行くの」
「誰に会いに行くの」
「パパよ」
「パパって、誰？」
「パパはパパよ。ああ、名乗るのが遅れたわね。
　私はシュトロゼック。シュトロゼック＝ヴァンディン」
「つまり、ハーディス氏に会いに行く」
「まあ、そういうことになるわね」
「いずれにせよ、あなたが犯罪を犯したことに変わりはありません。逮捕します」
「実力差考えなさいよ」

S級相手にむちゃくちゃな台詞である。

「感染者？　管理局も、感染者対策の装備はしてある。
　無駄な自信は持たない方がいい」
「生兵法は怪我の元ってね」

そういうと、シュトロゼックは再び走り始めた。
フェイトは、バルディッシュを鎌状にして再び行く手を遮る。

「邪魔っ！」

シュトロゼックはエネルギー弾をフェイトに向かって放つ。
フェイトはこれをかわすが、よけた、ということは、シュトロゼックに対して
進路をあけた、ということでもある。

エネルギー弾はそのままティアナが運転する、ハーディス氏の護送車へ向かって飛んでいく。

「帰っておいで」

シュトロゼックが命ずると、エネルギー弾はシュトロゼックの方へと帰ってきた。
シュトロゼックはエネルギー弾を再吸収する。

この様子は、ティアナからも見えていた。

「エリオ、キャロ、ハーディス氏から目を離さないで。
　どうやら、ハーディス氏の奪回部隊が来たわよ」
「わかりました」
「はいっ」
「さて、と。どうやら娘が来たようだね」
「ハーディスさん？」
「君たちの無礼もここまでだ。
　ここからは、私が礼儀というものを教えてあげよう」

そういうと、ハーディス氏はバインドを解除してしまった。
どうやら、ハーディス氏は管理局と一戦交える気のようである。

 

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