異聞・少女義経伝・参．後
カリオストロの義経
【第十章】
〜遺跡〜
『これはどうしたことでしょう。カリオストロ公爵とクラリス姫の結婚式に
賊が現れたかと思いきや、突如として鳴り響く時計塔からの鐘の音。
その鐘の音によって何かが湖底から姿を現そうとしています
これは一体…』
集まった報道関係者が一斉に水の引き始めた湖面へとカメラをうつす。
その先には、どこへともなく消えていく水の姿があった。
乱れて流れる水は日光を乱反射して湖底はよく見えない。
だが、何かがそこにあることは確実であった。
「…玲奈さん…これは一体？」
「あたしにきかれてもここまではわからねーよ。
静も知らないんじゃないか。けど、この湖底から
現れる何かが、カリオストロ伯爵が人殺しまでやって
手に入れようとした、秘宝であることは間違いないぜ」
「…父も母も、このために命を落としたんでしょうか…」
「あたしに聞かれてもな。けど、そろそろ、何か見えてきたぜ」
「…そうですね、何か文様のような物が…」
「…魔法陣の何か?…いや、これは…魔法陣」
「ああもう、答え言ってしまおうかアリア」
「そうだね、もう、あたしらもねこの格好してる必要なさそうだからね」
「右助ちゃん、左助ちゃん、しゃべれるの？」
「右助と左助の本人は、もう忍ねことして現役は引退してるんだ。
今手を貸してくれたのは、あたしらの御師匠様、リーゼアリアと
リーゼロッテっていう、すげー使い魔なんだぜ」
「使い魔?…そんなすごい使い魔が作れるんですか、玲奈さんは」
「いや、これはグレアム提督の使い魔なんだけどさ。
で、ロッテ師匠、一体これはなんなんだよ」
「見てわかんないかい」
「わからないのも無理ないよロッテ。こんな巨大な魔法陣は
古風だから、玲奈達が見たこと無いのも当然だよ」
「うーん、まあ、その通りなんだけどね」
「もったいぶらないで教えてください、ロッテさん、アリアさん」
「ま、クラリス姫にまでいわれちゃ仕方ないか。
これは、転送魔法陣だよ」
「原始的で、非効率的な魔法陣だね。年代物だよ」
「けど、術式は、ベルカともミッドとも違う、独自のものだね」
「…転送魔法陣か。魔法文化レベルDやCの世界なら、確かに
世界を我が手に出来るようなすごい代物だよ」
「そうだな。九羅香殿。どんな防御を施そうと、その弱点に
精兵を送って制圧できる」
「いや、与一、爆弾を送りつけてどんな奴でも暗殺、なんてこともできるぜ」
「弁慶、そっちは大丈夫か?」
「ああ、報道陣が印刷工場に俺達以外にもなだれ込んだら、近衛兵達もあきらめたよ。
どうやら、あいつらは、カリオストロ伯爵が偽札を作ってるなんて
知らなかったみたいだな。証拠を見せられたら、やる気を失ってたよ」
「おねえさま〜ご無事でしたか〜」
「ちょ、ちょっと楓、まだ報道陣がいるんだから」
「いいじゃないですか〜お姉さまといっしょでなくて楓はさみしかったです〜」
「楓、まだ仕事は終わってないんですよ」
「ちぇ、紅葉のけち」
「あらら〜私も〜何かロストロギアがあるとは思ってましたけど〜
まさか〜こんな巨大なものだとは〜思ってみませんでした〜」
「大きすぎるが故に、断片だけではだれも気づくことがなかたのですね」
「そのようですね、観月様」
「これで、一件落着かな」
「そうだね。この転送魔法陣は、ロストロギア指定するほど危険じゃない。
管理局で適切に助言を行えば、この世界でも十分管理出来るものだ」
「そうだそうだぜ、クラリス、良かったな」
「…」
「どうした、クラリス？」
「…私も、管理局に連れて行ってください」
「…どうしたの、クラリス」
「私、塔の中でずっと考えてました。自分がなりたいものは何なのか。
自分は、ただ運命に流されるだけで、自分の力で何かが出来るなんて思わなかった。
けど、玲奈さん達は、違うんです。自分の意志で、自分の出来ることを
自分の力でやり通す力と、、、なにより意志があります。
魔法だったら覚えます。覚えられなくても努力と根性でなんとかします。
ですから、…」
「…クラリス。…気持ちはわかる。
あたしも、伊勢の山で粋がってた所を、九羅香に会って
広い世界があるっていうことを知って、それで九羅香達と
一緒に行動して、いまじゃ時空を飛び回る仕事にまでついた。
そのときのあたしと、クラリスとは、同じ事を考えてるんじゃないかって
思うんだよ。けどさ、クラリス。
…この遺跡は、…いや、この国中の人がさ、クラリスを待ってるんだ。」
「私に、政治なんかが出来るでしょうか…」
「…管理局がサポートしてくれるぜ、たぶん、だけど」
「多分じゃないよ。それに、カリオストロ伯爵が作り出した闇を
払わないと、この国は良くならない。それは、クラリスにしか出来ないことなんだ」
「…管理局の一員には、なれると思うよ」
「どういうことですか？」
「ロストロギアではないにせよ、この世界では、この転送装置も十分
強力な魔法アイテムだろうからね。管理局からサポート要員は送られると思う」
「ですけれど、玲奈さんたちとは、これで、お別れですよね」
「生きてれば、また会うこともあると思うぜ」
「そうだね、ここはいいところだから、休暇がとれたら観光にでも来るよ」
「……はい、そのときには是非歓迎させてください」
「クラリス、この国の公爵になる、覚悟は出来た?」
「はい、…玲奈さん、みなさんのおかげで、自分でもなんとか
やっていけるような気持ちになりました。ありがとうございます」
「…けど、ほんとうに勇気があったよ、クラリスには」
「どういうことですか、義経・・・いえ、九羅香さん」
「あの場面で、結婚を断ったでしょ。回り中から結婚しろっていう
プレッシャーの中で、自分の信じる言葉を口に出来た。
それだけでも、大した物だよ。…こんな言い方したら悪いかもしれないけど
天国の父母も、ほめてくれるんじゃないかな」
「…そうだと、いいのですけれど」
「きっとそうよ。お姉さまの言葉に嘘なんてあるはずがないわ」
「じゃ、そろそろお別れしなきゃ。第５３管理世界の警察機構に
後始末は任せないといけないだろうからね」
「そうだね、じゃあ、クラリス、後のことは任せたよ」
「…はい、ですけれど、九羅香さんや玲奈さんにはしばらく
残ってもらわないといけないですよ。弁慶さんにも」
「どうして？私たちに出来ることはもうなにもないよ」
「いえ、この国を救った英雄としての仕事をしてください」
「英雄なんかじゃないよ、管理局員として、当たり前のことをしただけ」
「ですけれど…」
「…ごめん、今回のことは違法行為すれすれ、っていうか、違法行為なんだ。
英雄として出されても困るよ」
「ですけれど、あなた方が出ないとなると、一体どう説明すれば…」
「弁慶、後は任せた」
「ちょ、ちょっと九羅香」
「そうですね、武蔵坊警部、インターポールより委託を受けた
捜査官として、一緒に来てください。管理局も、サポートは
惜しまないのではありませんか?」
「…俺、そういうがらじゃないんだけどな」
「私も、公爵という柄ではありません。ですが、私の責務からは
逃げ出さないつもりなんです。ですから、武蔵坊警部も
するべき事から、逃げないでくださいね」
「よわったな…」
「そういうこと、だから、義経一味はこれにて退散。
あとは弁慶、観月、よろしくね」
「はい、私から、クラリスさんには、助言できることもあるでしょうから」
「観月様、お手を」
「ありがとう、廉也」
こうして、カリオストロ公国の謎は解けた。
クラリスは、美しい公爵として、カリオストロ公国の指導者として
やっていけるだろう。自分を見失ったりしない限り。
……けど、このことがある人物に影響を与えたことは
はなしておかなければならないだろう。
それは、次の機会に。
