異聞・少女義経伝・参．後
カリオストロの義経
【第九章】
〜時計〜
「玲奈さん、そちらは時計塔ですよ、なぜそちらに逃げるのです。
こっちは行き止まりです」
「知ってるぜ。けど、こっちに逃げなきゃいけない事情っていうのがあるんだよ」
「その事情とは…」
「その事情とは…っと、これが時計塔か。扉は…べつに鍵は掛かってないな」
「ええ、時を刻むことのない時計塔。メンテナンスもだれも行ってません」
「けど、中の歯車は完全に生きてるぜ。こりゃからくりがあるって
思うのが普通だろう」
「ええ、そうですね…」
（九羅香、与一、伯爵だけ時計塔に通してくれよな）
（わかってる、うまく伯爵とカゲを誘導するよ）
（まかせておけ）
カリオストロ伯爵を時計塔に誘い込むことがどんな意味を持つのか。
とにかく、最先頭を切って接近するカゲを、一本橋の上で待ち伏せて
与一は射すくめていた。
「モーターボート部隊はどうした、狙撃隊は」
「カリオストロ伯爵、モーターボート部隊というのはあれのことか？」
与一が金剛の三矢を迫り来るカゲに打ち込みながら目で湖岸を示す。
カリオストロ伯爵の見た先には、大破したモーターボートの姿があった。
「あらぬ方向に矢を放ったわけではなかったのか」
「私をだれだと思っている。私は那須与一なのだぞ」
「与一、私の獲物も残しておいてね」
「心得た」
「鞍馬流奥義、縮地の法…一騎刀閃！」
「ええい、不甲斐ない、下がれ、ワシが相手じゃ」
「年寄りの冷や水ってことばはしってる？」
「ふん、伊達にカリオストロ伯爵の執事は勤めておらん」
「…！…アームドデバイス…最新型だ」
「疾風一陣！」
「わっ、と、よ、…危ない危ない、…玲奈と同じような戦い方だね」
「今のがきまらんだと？」
「さすがに動きは見えてるよ。あれで全力?」
「まさか。これからが本番よ」
「そう、じゃあ、楽しめそうだね」
「ええい、何をしておる、花嫁が時計塔に逃げ込んだではないか」
「伯爵、言うだけならただだよ」
「ええい、どけ！」
言うなり、カリオストロ伯爵は九羅香をかわして
サーベルを振りかざし与一へと切り込んでいく。
「むっ。背後に回られたか」
「おまえ達に用はない！」
カリオストロ伯爵もまた、時計塔へと走り込んでいく。
（玲奈、カリオストロ伯爵が時計塔に入ったよ）
（了解。なんとかクラリスを連れて最上階まで逃げさせてもらうぜ）
「よそ見をする暇があるとおもうな」
「そうだな。…無想の一矢！」
カリオストロ城の塔から狙撃しようとした銃士隊員を与一が狙撃する。
九羅香のほうは、カゲの連続攻撃をいなしつつ、突破はさせないように動く。
「くっ。伯爵様、このジョドーも今加勢いたしますぞ」
「出来る物ならやってみたら」
「はぁ…はぁ。…なぜ一本の刀で同時攻撃が受けられる」
「一本の刀だから受けられるんだよ。それに、あなたの動きも
玲奈ほどのキレはない。 これぐらいなら楽勝だよ」
「余裕を噛ましていられるのもここまでよ…高速機動疾風迅雷」
「甘い！」
体を低く落として九羅香の脇をすり抜けようとするジョドーを
九羅香は刀を石橋に突き刺して待ち伏せる。
がちん。
ジョドーが構えていた短刀と九羅香の刀とがぶつかって火花を飛ばす。
（玲奈、急いで、こっちはがんばってるけど、非殺傷設定だと辛い）
（了解、…と、こっちも大変なんだぜ）
そう、確かに玲奈は大変だった。
片手でクラリスを抱え、片手で短剣をかざして
長剣型デバイスを持つカリオストロ伯爵の追撃をうけつつ
クラリスをかばいながら、からくり時計の中を昇っていかねばならないのだから。
「クラリス、あたしから離れるなよ」
「え、ええ…」
「クラリスを返せ、この泥棒猫」
「泥棒猫いうな。…ちぃ、なんであたしを先回り出来るんだ」
「この時計塔の構造は一度調べさせたことがある。
始めてはいるおまえを先回りするなど造作もない」
「そうかい、けどさ、あたしだって手札はまだ全部晒したわけじゃないぜ」
「どういう意味だ？」
「にゃー」
「よし、そっちか」
「むっ。なぜ先がわかる」
「ねこを甘く見るんじゃないぜロリコン」
「だれがロリコンだだれが」
「ねらいはクラリスなのか？それとも、クラリスが持ってる
指輪なのか？」
「どういう意味だ」
「…静が謎を解いたんだよ。二つの指輪が鍵なんだろ」
「そこまで知られたらいかしてはおけん。
ここで刀のサビになれ」
「冗談じゃないっての。…つまり、クラリスはどうでもいいってことか」
「…世界の前には大事の前の小事」
「世界征服をするロストロギアは、本当にあるんだな。
で、地道にこつこつと下調べしてたってわけだ」
「ふん、公爵め、ロストロギアかもしれないものを見つけただけで
臆病風にふかれおって」
「けど、偽札はその前からつくってたんだろ」
「答える義務はない！」
「そりゃそうだ…っと、ついたぜ。頂上だ」
そう、確かにたどり着いた、時計塔の頂上…常に９時１５分を指している
時計塔の針の上に。
「もはや逃げ場は無いぞ」
「それはこっちの台詞だぜ、ロリコン伯爵」
「…クラリスはくれてやろう、指輪を渡せ」
「そっちこそ指輪を渡せよ」
「断る」
「…そうか…じゃ、仕方ないな」
「玲奈さん！」
「クラリスはわたせねえ、…指輪を受け取れ」
「玲奈さん！世界が破綻するかもしれないんですよ！
私のことにはかまわず伯爵を」
「一人が守れない奴が、世界を守れるわけないだろ。
さ、受け取れよ伯爵。…けど、おまえが
ロストロギアを使って、世界を征服しようと
本気で企てるなら、時空管理局が黙ってないぜ」
「ほざけ。ここはワシの勝ちだ」
「そうだな。ここは、あんたの勝ちだ」
そういうと、玲奈は指輪をクラリスの指から抜き取って
カリオストロ伯爵に投げて渡した。
「ほら、約束通りクラリスはもらっていくぜ」
「ふん。ここからどうやって…」
「魔法使いのバリアジャケットには、いろんな使い方があるんだぜ」
そういうと、玲奈は時計塔から、クラリスをお姫様だっこして飛び降りた」
（九羅香、静の計画は全部終了した、…やっちまおうぜ）
（O.K。）
（よし、義経軍団の力、みせるとするか）
「ジョドー、次で決めるよ」
「よかろう…おまえたちは手を出すな」
「…鞍馬流奥義…」
「ワシの最大奥義…」
「紫電一閃！」
「うわっ！」
ジョドーの奥義が発動する前に、素早く九羅香の一撃がジョドーの
バリアジャケットを切り裂いた。
「非殺傷設定だけど、半日は動けないよ」
「く、…無念じゃ、とどめを刺せ」
「無益な殺生は好まない」
リーダーのジョドーがやられたことで、カゲ達は
殺意もむき出しに襲いかかってくる。
「鞍馬流最終奥義明鏡止水」
「愚かな…無限連弾」
九羅香めがけて飛び込んでくるカゲに対して、九羅香めがけて
矢を次々と射る与一。それに
「忍法、水鏡の術」
「玲奈、クラリスは？
「右助と左助が守ってるぜ」
「よし、それなら大丈夫だね」
「…そろそろ、始まる頃かな」
「…始まったよ」
何が始まったって？
こちらは、時計塔の上のカリオストロ伯爵である。
「ふはは、はーははは、管理局もたいしたことはないな。
さて、これをこちらに嵌めて、これをこちらに嵌めれば…な、なに？」
時計塔が、鍵をはめ込まれたことで、目覚めた。
二つの針が９時１５分から、正午を目指して急速に動く。
「な、ななななななな…」
ぷち。
ゴーン…ゴーン…ゴーン…
時を告げることのなかった時計塔が、時を告げた。
それと同時に、湖から水が急速にひき始める。
「うふふ〜無限書庫で下調べした〜通りでした〜
この湖が〜人造湖であることがわかれば〜後はかんたんな問題でしたよ〜」
「では、この湖の底に、ロストロギアが眠っているのですね、静様」
「ですが、それなら湖底調査するだけでロストロギアがわかったのでは」
「時計塔と連動して動くロストロギアでなければ〜ですよ〜」
「…何が現れるのでしょう」
「さすがに〜そこまでは〜わかりません〜」
湖底から現れるもの、それは次回のお話になる。
