さて、ここはカリオストロ公国である。

今日はカリオストロ公クラリスと、カリオストロ伯ラサールの結婚式の日である。

世界中から、招待客や観光客が、ロイヤルウェディングを見ようと

カリオストロ城内にある大聖堂に詰めかけている。

もちろん、TVでの放映権はカリオストロ伯爵によって売却済み。

次元世界全土へ、この結婚式の模様を宣伝して、出来れば

カリオストロ公国の観光をさらにPRしようという意図も感じられる。

 

警備の方も万全を期して、近衛隊ががっちりと城を固めている。

カゲの方は姿が見えないが、おそらくは城内を固めているのだろう。

カリオストロ伯爵も、クラリスも、まだ式場に姿を現しては居ないが

観客達は、静かに入場する、聖王教会から特別に派遣された

司教と、その警護の騎士の姿を盛んにカメラに納めている。

 

---

 

「クラリスの様子はどうだ、ジョドー」

「公爵様、もう姫は覚悟を決められたようです」

「ふむ。警備に抜かりはないだろうな」

「はい。管理局の妨害はないでしょうが、万が一に備えて

　カゲの方も観客に紛れさせておりますし、近衛隊は

　すべてに目を光らせております。万が一、賊が来るとしても

　彼らの行動は、まず無数のカメラと報道陣によって察知される

　ことになるでしょう」

「報道陣か…信用できるのか?」

「報道陣の中にも、カゲを入れております故、万全かと」

「ふむ、…では、そろそろ行くとしよう」

 

カリオストロ伯爵は、おもむろに礼拝堂に入場する。

この日までずっと独身だった、カリオストロ伯爵にとっても

人生に記念すべき、大事な日なのだ。

 

---

 

胸をはって入場したカリオストロ伯爵と異なり、クラリスは

二人の子供にヴェールをもたれて、伏し目がちに入場する。

カメラのフラッシュが、クラリスに集中する。

あまり世間には知られてない、麗しの姫君の登場である。

報道陣の目も、むさ苦しいおっさんのカリオストロ伯爵や

老人の司教などより、クラリスに向かおうというものだ。

クラリスは、足取りも重く、しかし、何かの決意を込めた

瞳で、ゆっくりと祭壇へと歩いて行く。

カリオストロ伯爵には、それが、クラリスが自分の運命を

受け入れた証拠に見えた。

 

「…クラリス、これは、運命なのだよ」

「…ええ、カリオストロ伯爵、…これが、運命です」

 

祭壇に並んだ二人が小声で会話する。

司教が咳払いをして、二人の注意を自分に向けさせる。

いや、二人だけではなく、観客の注意も引きつけていた。

 

「…汝、ラサール・ド・カリオストロは、病めるときも健やかなるときも

　変わることなく、クラリス・ド・カリオストロを愛することを誓うか」

「誓います」

 

ラサール・ド・カリオストロ伯爵は胸を張って答える。

 

「…汝、クラリス・ド・カリオストロは、病めるときも健やかなるときも

　変わることなく、ラサール・ド・カリオストロを愛することを誓うか？」

「…誓いません。私は、父母の敵に嫁ぐことを望みません」

「姫、今になって何をいいだすのですかな。

　それに、あれは不幸な事故だったのです。私の…」

「お黙りなさい。あなた方の不正…」

「はーい、茶番はここまでにしようぜ。

　クラリス姫、それだけ言えれば上出来だぜ。

　あたしが想像していた以上だ」

「なにっ！」

 

祭壇の向かいに居るのは、もはや聖王教会から派遣された司教ではない。

そこにいるのは、義経軍団の一人、伊勢玲奈であった。

 

「クラリスがいやだっていうんなら、この結婚は無効だな。

　じゃ、姫さま、あたしと一緒に抜け出そうぜ」

「待て、クラリスをたぶらかしたのはきさまらか。

　生きてここを出られると思うな」

「正体現したなロリコン伯爵。クラリスの意志は今聞いての通りだ。

　いい加減あきらめなっ！」

 

そういうと、玲奈はクラリスを抱えて走り出す。

 

「ジョドー！賊を捕らえよ！」

「かしこまりました伯爵様」

 

観客の中に紛れていたカゲが玲奈を捕らえようと動き出す。

だが、…

 

「無限連弾！」

「奥義、縮地の法！」

「な、きさまら、管理局の捜査は打ち切りになったのではなかったのか」

「管理局は関係ない、今の私は次元を股に掛ける盗賊団、義経軍団だ。

　クラリス姫の身柄は確かに預かったよ」

「平和な観光の国には似つかわしくない警備だな。

　これで一体何を守るつもりなのだ」

「きさまらのような賊に備えたのだ」

「長居は無用！」

 

そう、教会騎士の二人というのが、義経こと源九羅香と、与一だったのだ。

二人の攻撃でカゲの突進が一瞬止まる。

その隙に、先に逃げたクラリスと玲奈とは別方向に、九羅香と与一も逃げ出した。

 

「待て〜次元盗賊義経ども〜まてまてまて〜」

 

そこから飛び出したのは、どう見ても弁慶である。

その後ろを、テレビカメラを抱えた紅葉と、マイクをもった楓が追いかけていく。

 

「待て！どっちへいく、そっちは…」

「義経を先回りするんだよ。異変にあっては臨機応変、今度こそ

　義経を逮捕してくれるわ」

 

義経一味に対する逮捕状は、正規の管理局のものである。

義経一味が現れたことで、管理局員…そう、観月の警備にあたっていた

弁慶がそれを追うのも正当な行為であるし、さらに、それを

報道しようとマスコミが突入していくのも、仕方のないことであろう。

だが、それをさらに誘導する、一人の踊り子の姿があるとあった。

しかし、それにはジョドーとカゲも反応しきれない。

今追いかけるのは、クラリスとその強奪犯である義経一味が優先なのだ。

 

ここでは、銃撃も無理である。観光客に当たる心配がある。

しかし、彼らが分散して逃げれば、チャンスもある、それだけが

カゲの勝機であった。

一部のカゲは、事実、弁慶達を追うことを選んだのだが…

 

「滅殺、神風陣！」

「むっ」

「孤高の桜花！」

「龍樹萌芽」

 

３人の連続攻撃で撃退される。

 

「まてまて義経〜…と、ここはいったいどこだ？

　なぜこんな所に印刷機があるのだろう？

　お、なにか刷り上がっている。…これはなんだ、福沢諭吉が出て居るぞ。

　なんと、これは偽札ではないか。

　あーなんということだ、義経一味を追いかけていたら偽札工場を見つけてしまった。

　あーたいへんだたいへんだ」

「大変です。なんと、カリオストロ城の地下には偽札の製造所がありました。

　これは大発見です。では、発見された武蔵坊執務官補佐にインタビューしてみましょう…」

 

---

 

「やってくれたな…後始末をどうするつもりだ」

 

こちらは、本局で、TVを見ていたクロノ執務官である。

義経軍団の行動について、概略は聞かされていたが

まさか、こうおおっぴらに、出来るだけマスコミに

露出するような形でやるとは思わなかったのだ。

 

いや、逆のことが言えるか。マスコミの報道があるからこそ

カリオストロ伯爵も自制せざるを得ないのだと。

それに、偽札工場が見つかっただけでは、まだ

伯爵にとって致命的とまではいえない。

トカゲのしっぽ切りで知らぬ存ぜぬを

押し通すことも出来るのだ。

 

それに…偽札工場を暴いたところで、クラリスの危機が去ったわけではない。

カゲと、カリオストロ伯爵は、全力でクラリスを追ってるのだから…。

 

---