ここは、時空管理局の本局、つまり、無数にある次元世界の治安を守るべく

設立された時空管理局の中枢である。

次元世界そのものの中心は、ミッドチルダなのだが、ここはミッドチルダからは

次元の壁で隔てられた世界に構築されている。

管理局を生み出した評議会は、ロストロギア無限書庫の存在場所に、本局を設立したのだ。

 

その時空管理局の本局に、義経軍団の面々は帰り着いていた。

 

「お疲れ様…といっても、納得は出来てないだろうね」

「当然です、クロノ執務官。一体どういう理由で管理局が全面降伏なんですか」

「管理局が、というより、義経軍団が、というべきだ。

　これは管理局の決定でもある」

「ロストロギアがある可能性があるのにですか」

「それについては、カリオストロ伯爵の説明が受け入れられた」

「つまり、観光客向けの演出で、実際にはロストロギアなんかない、ってことですか？」

「そういうことになる」

「…納得いかねーよ。全然なっとくいかねーよ。偽札作りは、もう

　動かぬ証拠を捕まえたってのに…」

「静御前が偽札工場の場所を見つけた、それだけじゃ管理局を動かすには不十分なんだ」

「私の〜証言が〜信用されない〜ということですね〜」

「管理局も万能じゃない。治外法権で介入できるのは、世界が崩壊するかもしれない

　特定ロストロギアの場合に限られるんだ」

「…それで、私たちの次の仕事は？」

「それについては…」

「待ってください〜九羅香さ〜ん。私には〜策があると〜言ったはずですよ〜」

「策があるって、一体どういう策がある。

　私もどうにかならないかと考えた。だけど、何も打つ手は無いんだ。

　管理局を辞めてしまえばいいのかもしれない。盗賊団義経として

　介入したっていい。けど、それは私たちの目指したこととは、違うはずだ」

「ええ〜その通りです〜ですけど〜」

「ですけど」

「管理局の提督には〜管理外世界での〜自由行動権が〜認められてますよ〜」

「あそこは管理世界だ。提督といっても好き放題出来るわけではない」

「ですけど〜提督なら〜私たちを〜再びカリオストロ公国に連れて行ってはくれます〜

　公国の中に入ってからなら〜私に〜ちょっとした作戦が〜あります〜」

「一体何をするつもりだ」

「禁則事項です〜」

「静の考える事は、私たちにも全くわからないわ。

　けれども、何かすでに作戦があることは、確かみたいね」

「一体どんな作戦なのか、僕にも言えないというのか」

「おおざっぱなアウトラインでしたら〜今お話できますよ〜」

「どうするつもりだ」

「観光客として〜カリオストロ公国に行くのは〜べつにかまわないですよね〜

　それに〜ロストロギア捜査のために〜すこしばかり聖王教会の手を借りても〜

　特に問題はないですよね〜」

「それはどちらも問題無い。だが、一体それが何の役に…？…！」

「うふふ〜さすがはクロノ執務官〜だんだんからくりがわかってきたようですね〜」

「カリオストロ公爵と伯爵の結婚式には、聖王教会から司教が派遣される。

　その司教を警護する騎士に九羅香軍団が入っても問題はない。

　提督は…そうか、第97管理世界の提督がいるのか」

「ええ〜観月さんの手も借りて〜一つ〜大掃除といきましょう〜」

「だが、管理外世界のようには行かないぞ」

「外交官特権を使わせてもらいますよ〜」

「…裏技の連続だ。とても承認は出来ない」

「うふふ〜その点はぬかりないですよ〜」

「どういうことだ？」

「義経一味の指名手配は〜まだ有効ですから〜」

「確かに、僕が指名手配は手を打った」

「ですから〜広域次元犯罪者源義経は〜存在するんですよ〜」

「静様、それは一体どういうことなんですか？」

「それは俺もわからない。義経は九羅香なんだろ。一体それが

　どういう秘策になるんだ」

「うふふ〜企業秘密です〜」

「秘密だらけでは承認出来ないと言っている」

「…そうですねぇ〜承認してもらうためには〜

　まず〜義経一味の指名手配が〜正式の物であることを〜

　思い出してもらう必要が〜あるでしょうね〜」

「確かに、そういう方針でやった。必要に応じて非合法な

　捜査を行う必要があるという説明で正式にとった。

　だが、それは逮捕後の取り調べで不起訴になる…そういうシナリオだったはずだ」

「ええ〜そういうシナリオでした〜けど〜シナリオを書き換える必要が出来たんですよ〜」

「どういうことなんだ」

「義経一味を〜本当に次元犯罪者にしてしまおう〜そういうことですよ〜」

「犯罪は承認出来ない」

「犯罪ですけど〜犯罪じゃないんですよ〜聖王教会の助けがあれば〜

　それが出来るんです〜」

「一体どういうことなんだ。何か犯罪を犯そうというのはわかるが〜」

「犯罪だけど犯罪じゃないんですよ〜無理矢理結婚させられようとしてる

　女性を〜救出することは〜」

「！…クラリス姫の結婚を妨害するというのか」

「クラリスさんの〜思い通りに〜させてあげるだけですよ〜」

「…確かに、それは違法ではあるが違法ではない…わかった

　クラリス姫の救出に必要な範囲で、行動を承認する。

　だが、これは管理局の問題だ、カリオストロ公国では、違法である

　ことに、変わりは、ない」

「ええ〜わかってます〜ですから〜提督の助けが〜必要なんですよ〜」

「外交官特権…亡命…シナリオは見えた」

「ええ〜そういうことなんです〜基本のシナリオは〜

　詳細については〜まだ〜詰める必要がありますが〜」

「管理局から何か必要なことは？」

「承認さえ得られれば〜むしろ管理局は〜知らぬ存ぜぬの方が〜

　幸せだと〜思いますよ〜」

「…わかった。クラリス姫の救出を、承認する」

「感謝します〜クロノ執務官〜」

 

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それから、数日が過ぎた。

クラリスは相変わらず塔の中でふさぎ込んでいる。

カリオストロ伯爵は、上機嫌で結婚式の準備を進めている。

花嫁衣装のできばえも、花婿としての衣装のできばえにも満足だ。

管理局が偽札作りについて感づいたことも、見事に対処した。

何も心配はない。観光客も続々と詰めかけてきている。

今度は第９７管理外世界の提督も、特別にやってくるようだ。

表敬訪問したいというのに対処すべく正装で待っている。

 

「観月様、お手を」

「ありがとう、廉也」

「これはこれは平提督、わざわざ次元の海を越えてお越し頂き

　恐悦ですな」

「こちらこそ、わざわざカリオストロ城にお招きいただき、ありがとうございます」

「どうですかな、我が国の景色は」

「…」

「どうなさいましたかな」

「伯爵、観月様は目が見えないのです」

「これは失礼いたしました」

「いえ、いいのです。ここの風景は、光で見なくとも

　音と風が教えてくれます。非常に清んだ、美しいところなのですね」

「ええ、その通りですとも。特に今は六月、新緑が湖面に映える…

　…いや、若草、若葉の香りは十分に楽しんでいただけると思いますぞ」

「ええ、私も楽しんでおります」

「さて、明日の結婚式には、特別な席を用意いたしましょうか。

「いえ、私は一般の見物客に紛れて見学したいと思います」

「そうですか、では、そのように手配いたしましょう。警備も我々で

　万全を尽くそうと思うのですが」

「いえ、警備なら廉也とその仲間で十分です。

　ですが、お心遣いには感謝しております」

「そうですか、では、私は準備があるのでこれで失礼」

「いえ、こちらこそ、お時間を取らせて申し訳ありませんでした」

 

カリオストロ伯爵の前から退出した観月と廉也は念話で会話する。

念話の魔法は、廉也もなんとか会得したのだ。

 

（観月様、あの伯爵、慇懃ではありましたけど、何か隠している感じはいたしました）

（私もそれは感じました。ですが、明日になれば、あの伯爵の化けの皮も剥がれるでしょう）

（明日、何があるか、僕は知らないのですが…それに、観月様の警護に

　義経軍団が入ったとは聞きましたが、だれも姿は見せておりませんが）

（私には、だれがどこにいるのか、概ねわかってますよ）

（どういうことなのですか？）

（光では見えない物もあるのです）

 

その、光では見えない物。それが何かは、明日の結婚式で明らかになる、はずである。

 

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