「ただいま〜戻りましたよ〜」

「お帰り静。状況はどうなってる？」

「はい〜偽札作りの証拠はばっちり〜場所もほぼ特定済み〜」

「じゃあ、あとは、この世界の国際警察機構から正式に捜査令状をもらって

　踏み込むだけだね」

「なんじゃおまえさんら、本気で伯爵と対決するつもりなのか」

「もちろん。私たちは時空管理局の局員だもの」

 

九羅香が静から報告を受けているのは、カリオストロ公爵の別荘跡地である。
九羅香軍団が完全に集結した今となれば、戦力の点でカリオストロ公国の

カゲや 近衛隊に遅れを取るとは思っていない。

それは、ここを管理する元執事も同意することだろう。

陸戦AAAやAAは、それぐらいの実力があるのだ。

 

「さてと、弁慶、電話を掛けようよ」

「電話って？・・ああ、そういえば衛星携帯電話を

　任務開始時に渡されていたっけ」

「ちゃんと乾かしてあるわよね、弁慶」

「その点はばっちり、防水もしてあるし」

「こっちはずぶ濡れになったけどな」

「玲奈さ〜ん。わたしも〜ずぶぬれですよ〜」

「静、お互いそれも計算の内だろ」

「カリオストロ伯爵が私たちの介入を予測していたとしても

　管理局の捜査官としての証拠集めが…」

「もしもし、え？撤収、それはどういうことなんです？」

「弁慶、どうした」

「いや、九羅香。インターポールに電話したんだけど、様子がおかしいんだ」

「どういう風に」

「偽札に関する調査は中止して撤収して欲しいっていうんだ」

「なぜだ。証拠は十分に揃えたと説明しろ。あと一歩なんだ」

「それは俺もさっきから…ええ、わかってます。管理世界には自治権がある

　ことは、俺もよく承知してます。ですけれど、もう証拠は十分に…

　え？カリオストロ公国に対する捜査の権利があるわけではない？

　それはその通りですけど、ここは管理世界なんですよ。

　管理世界にまで偽札が出ているんですからその調査…

　…なんですって！」

「どうしたのですか、頓狂な声を出されて」

「い、いや、紅葉、・・・楓、済まないけど、直接本局と連絡を取って欲しいんだ」

「どうしたのよ弁慶」

「管理局本局からも捜査中止の許可は得てるっていうんだ」

「まさか。ほらじゃないの？」

「俺もそう思うから、楓に、本局へ連絡を取って欲しいんだよ。

　楓の霊力なら、ここから本局まで念話が飛ばせるだろ」

「そうね。時間は少し掛かるけど」

「お願いするよ、楓」

 

楓は、補助魔法陣を描くと、本局に対して通信を試みる。

 

「…妨害は一切なし、ていうか、弁慶との通信も全く妨害なし。

　ということは…」

 

---

 

一方こちらはカリオストロ伯爵である。

悠然とジョドーを従えて、クラリスが幽閉されている

塔の中へと入っていく。

 

「お目覚めですかな、クラリス公爵殿」

「カリオストロ伯爵、あなたは一体、父や母の亡き後

　摂政として一体なにをしていたのですか。

　時空管理局の介入を招くような何かを

　していたということはないのですか」

「それについて、私は弁明に来たのですよ、クラリス姫」

「何を弁明するというのです」

「時空管理局から誤解を受けるような行為は確かにありました。

　ですが、二つに分かれたカリオストロ家を一つにするべき

　時が来たというのに、…まあ、この年の差ですからな」

「わかってるのですね、この結婚が不自然だということは」

「わかっていても、今がちょうど良い潮時なのです」

「管理局の誤解を招くこととは一体なんです」

「まるでロストロギアがあるかのごとくはなしたことですよ。

　あの観光案内が良くなかったのでしょう。ロストロギアなど

　あるはずがないのですよ」

「…そうかもしれませんね、ですけれど、鍵は既に

　時空管理局に引き渡した後です。あなた方には

　決して届くことはありませんよ」

「それは誤解ですなクラリス。

　私を甘く見ない方がいいですよ」

「どういう事です？」

「結婚式は予定通りに行われますな。そのとき

　鍵となるべき指輪は、どちらも我々の…

　つまり、あなたと私の物になる」

「管理局がロストロギアの鍵かもしれないものを

　おとなしく引き渡すはずがありません」

「おとなしく引き渡すほかないのですよ」

「どういう事なのです？」

 

---

 

どういうことなのか？

その答えを、九羅香達は呆然と聞いていた。

 

『…こちらはクロノ・ハラオウンだ。

　偽札製造に関する調査は中止だ』

「けど、ロストロギアは調査していいんでしょう？」

『ロストロギアに関する調査も中止になった』

「どうして！ロストロギアの管理が時空管理局の

　存在意義じゃなかったの、クロノ執務官」

『残念ながら、僕の権限より上で決まったことだ。

　それから、カリオストロ公爵から預かった指輪も

　公爵に返却してから、撤収してもらいたい』

「それって、私たちの全面的敗北、ってことじゃないの！」

『僕だってこんな指示は出したくない、けれど、決定事項なんだ』

「わかったわ。…管理局がそんなやり方するのなら、…

　…管理局の枠内で、最大限あがかせてもらうわ」

『何をするつもりだ？』

「楓、気持ちはわかるけど、私たちは管理局員なんだ。

　命令として指示が出た以上、それに従うしかない」

「…お姉さま…」

「私だって悔しいんだ。そこに犯罪組織があるとわかっていて

　黙って見過ごさなければならないなんて」

「…どうすればいいの？」

『明日の定期便で本局に戻ってもらいたい、こちらからは以上だ』

「わかったわ…指示には従います、以上」

「…あーぁ、ここまでの努力が全部水の泡かよ」

「おかしいな…ここは吹けば飛ぶような小国のはず。なぜこれだけの

　影響力が保持できる」

「…偽札ですよ〜」

「静どの？」

「偽札を〜使ってるのは〜犯罪組織だけじゃない〜そういうことですよ〜」

「…この世界のいくつもの組織が、偽札の使用に関与してるってことだね」

「本物より本物らしいのなら〜自分で印刷せずに発注して印刷してもらうことすら〜

　考えられますから〜」

「赤字垂れ流しの国がインフレ政策を密かに実行するにはうってつけですね」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。どうするの」

「どうするもこうするも、命令じゃ仕方ないよ。帰るしかない」

「…なあ、九羅香、本当に黙って帰るのか?」

「この場は、カリオストロ伯爵の勝利を認めるしかない。

　けど、このままで終わらせるつもりも、ないよ」

「…一体どういう手があるというんだよ」

「…それは、まあ、…静が考えてくれるかな」

「他力本願ですね〜」

「けど、何か策は考えれるんでしょ」

「ええ〜まあ〜いささか過激な手ですけど〜」

「よし、決まり。ゆっくり静が計略を寝る時間を作るためにも

　ここは一旦撤収だ」

 

こうして、ミッドチルダ本局と、インターポールの介入により

九羅香軍団の偽札調査も、ロストロギア捜索も、打ち切りになってしまった。

静には、何か策略があるようだが、一体どんな手を使うつもりなのだろうか。

それは、まだ静にしか、わからない。

 

---