ここは、カリオストロ城の執務側、の地下。

最近カリオストロ伯爵に雇われた美人秘書が1人、壁に聞き耳を立てている。

 

「聞き耳というより〜シャマルさんに教わった〜透視術ですけどね〜」

 

さすがに、ミッドチルダ製の防犯装備をしているカリオストロ城といえど

あらゆる場所を万全に守っているというわけにはいかない。

 

「あら〜対魔法障壁入りですか〜」

 

どうやら、この美人秘書のあては外れたようだ。

 

「うふふ〜、バイタルパートだけを頑丈に守るというのは〜間違いなんですよ〜」

 

この美人秘書は、そっと姿を隠す。

 

正体がだれなのか、読者にはバレバレであろうが、まだカリオストロ伯爵は

気づいてないようである。

そう、 静御前は、秘書として一足先に、カリオストロ城へ潜入していたのだ。

 

「…余りよい出来ではないな」

「は、すいません。なにぶん製造量が級に増やされまして、納期を送らせて

　頂かなければとても…」

「顧客との約束もある、納期は維持しろ、出来も落とすな」

「は、はい。ですが…」

「必要な人員は手配する」

「あ、ありがとうございます伯爵様」

 

「うふふ〜魔法が使えなくても〜いろいろと役に立つ物は〜あるものですね〜」

 

静が使ったのは、ミッドチルダ製聴音機。

１ｍのコンクリート壁の先にあるささやき声さえ拾うという最新型だ。

 

「さて、これで偽札作りの場所は確定しましたけど〜」

 

けど、なんだというのだろう？

 

「どうやって〜、九羅香さんたちと〜合流しましょうか〜」

 

そう、カリオストロ城からの脱出は、また別の話なのだ。

 

「…やっぱり〜お姫様の手を借りるのが〜一番ですね〜」

 

静は、そうつぶやくと、クラリスが幽閉されている塔へと向かった。

こちらの方が、警備は厳しいはずなのだが、静はカリオストロ伯爵の

命令だといって平然と進んでいく。

城外に出るならともかく、城内は自由に歩けるぐらいまでの信任を

すでに静は得ているようだった。

 

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こんこん。

 

「どなたですか？」

「はい〜静御前ですよ〜」

「…断っても、入ってこられるのでしょう？」

「そう拗ねなくてもいいんですよ〜」

「拗ねているわけではありません。…ですが、私の境遇では

　何も選ぶ権利は残されていないのです。

　一度、脱走を試みましたが、失敗いたしました」

「…一度であきらめる程度のことなのですか〜」

「…静さん？」

「うふふ〜私は〜あなたの味方なんですよ〜、ねえ、右助さ〜ん」

「にゃー」

「あら、右助ちゃんの名前を知っているんですか」

「ええ〜、玲奈さんの忍ねこですよね〜」

「玲奈さんもご存じ、一体あなたは〜」

「…うふふ〜ここが、カリオストロ伯爵に監視されてるのは〜よく知ってます〜

　ですから〜ここで予告しちゃいましょう〜。この結婚は〜義経軍団が〜
　かならず花嫁を頂いていきますよ〜」

「そ、そんなことをして」

「…さて、ではそろそろ逃げるといたしましょう〜」

 

静御前は、そういうと、塔の窓を開けた。

 

「窓から逃げるのですか？しかし…」

「私も〜魔法使いの端くれなんですよ〜」

 

そういうと、静御前は、秘書の姿から、普段の踊りの服へと姿を変えた。

秘書の服の下に、どうやって和服を着込んでいたのかは謎である。

 

「ただのバリアジャケットですよ〜。では、〜来週またお会いしましょう〜」

「にゃー」

「右助さんも〜連れて帰りますね〜」

 

そういうと、静は窓から普通にダイブする。

すでに警備隊がクラリスの部屋へと向かっているが

静は一体どうするつもりなのだろうか？

 

「うふふ〜」

 

滑空しながら、湖にどぼん。

水面には静の服がゆらゆらとどこかへ向かって泳いでいく。

 

「撃て、撃ち殺してもかまわん、撃て」

 

カリオストロ城の警備とて、ぼんくらではない、同じ手に二度かかることもなく

銃士隊が服に向かって射撃を開始する。

 

…命中弾多数のはずだが、何も起きない。

いや、命中した服が静かに水面を流れると、やがて文字へと変わった。

 

『今は、これだけ』

 

「…静さん…希望を、持ってよいのでしょうか…」

 

逃げた静を追おうとする近衛隊の喧噪が、隔離された塔の上でさえ感じられる中

クラリスは1人つぶやく。

 

「…自分の意志。…運命を自分の手でつかむこと…一度であきらめないこと…」

 

クラリスの中に、何かが芽生えたようだった。

 

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