異聞・少女義経伝・参．後
カリオストロの義経
【第四章】
〜昔話〜
「…ふう、なんとか追っ手をまいたみたいだね」
「というか九羅香殿、追っ手の方から身を引いたように感じたが、一体どういうことだ」
「ここは、一応安全地帯だよ、与一。彼らにも、少しは良心が残っているのならね」
「どういう事だ？」
「ばう、ばうばうばう…」
「あはは、カール、こんにちは。…いや、初めましてかな」
「…なんじゃ、なぜカールがおぬしになつく？こいつは
クラリス様にしかなつかないはず…」
「動物好きなのは、 何もクラリスだけじゃないよ」
「この方は？」
「…カリオストロ公爵家に使える執事さん」
「今は隠居の庭師じゃ。火事でこの館が燃え落ちてから、だれもここへは来たりはせん」
「けど、管理局だと、不審火だと思ってるみたいだよ」
「ワシも同意見じゃ」
「…九羅香殿、一から説明してくれ、話がみえない」
「あ、ごめん与一。…事前に説明しておくべきだったね」
「なんじゃ、ワシのことは説明しておらんかったのか」
「必要になるとは思わなかった。まさか、初めから不意打ちしてくるなんて」
「カリオストロ伯爵を甘くみすぎじゃ」
「ミッドチルダから情報が漏れてた気がする」
「…だから、九羅香殿」
「ごめん、与一、今から説明するから待って。
一方、こちらは水中の玲奈である。
「…魔法っていうのはこう言うとき助かるな。
水から酸素を取り込む魔法っていうのは、忍者には必須。
覚えていて良かったよな、左助」
「にゃー」
玲奈は水中呼吸の魔法で、どこかを目指しているようだった。
「はぁはぁはぁ・・・なんとか、まけたな」
「弁慶、もう息が上がってるの、鍛え方足りないわよ」
「ですけれど、私もつかれました」
「おまえらとちがって、俺は魔法で体力増強なんて余裕、ないんだよ」
「…けど、これであたしらの手でカリオストロ城を調べるなんて
無理になったわよ。この先どうするの？」
「なに、静さんがちゃんと手を打ってくれてる。それは大丈夫」
「本当に大丈夫なの?いや、それより、静のやつ、一体どこへ消えたんだよ」
「さあ？俺にもわからない」
「で、弁慶、これからどうするの？」
「九羅香達と合流する。…他に、出来ることもないし」
「静は探さなくていいの?」
「探す必要はないさ、静さんなら、静さんの出来ることを、やってるはずだよ」
「それはどこで、どんな風に?」
「さあ？」
「静様の計略は、そのときになってみなければわからないものですよ、楓」
「紅葉の言うとおりだけど、こう後手後手廻ると、静の計略も
上手く行ってるかどうか、不安になるのよね」
「ここまでが計算通りかもしれないぜ」
「…来週、クラリス姫とカリオストロ伯爵の結婚式だそうですね」
「それがどうかしたの？」
「…いや、年齢差考えると、どう考えても伯爵の陰謀ですね」
「…けど、それは、あたしらが介入できる事じゃないわ」
「…普通に考えれば、権力を手放したくないカリオストロ伯爵が
政略結婚で…というだけのこと。
けど、それだけじゃないような気がするな」
「弁慶まで、一体どうしたのよ」
ちなみに、今、弁慶達は、一般観光客の中に混じってカリオストロ城を巡っている。
近衛隊も、観光客に大捕物を見せるつもりはないようだった。
「…さて、そろそろ、九羅香達の所へ行くか。源九郎、場所は覚えてるよな」
「なんで弁慶が源九郎に言うのよ」
「源九郎が、においを頼りにたどり着いてくれるはずよ」
「だからなんで飼い主に無断でそういうことするか」
「静さんの計略だよ」
「なんでも静さんの計略で済ませるつもり？」
「実際、そうだもの」
「…全員揃ったね」
「お姉さま〜別行動は寂しかったです〜」
「ちょ、ちょっと楓ってば」
「ふふ、相変わらずですね、楓は」
「けど、静さんはまだ合流してないんだね」
「うん、静は、まだ、やるべき事があるみたい」
「…そろそろ、話をしてくれてもいいんじゃないか」
「そうだね、与一」
「そうだな。これじゃぬれねずみになっただけだぜ」
「玲奈、首尾はどう？」
「ばっちりだぜ。クラリスと連絡は取れたし、右助を置いてくることも出来た」
「それなら、必要最小限度の手は打てたってことだね。じゃあ
執事さん、クラリス姫のことと、公爵家のことについて
話をして欲しいんだ。」
「そうじゃな。…不審火で公爵様夫妻が亡くなられた所からでよいかな」
「ええ、そこからお願いします」
「10年前じゃな、ここには、木造の美しい別荘があった。
公爵様は、ことのほかこの場所を好んでおられたものじゃ。
城の方は、カリオストロ伯爵に任せておられてな。
それが悪かった」
「どういうことです？」
「カリオストロ伯爵は、何かわからないが、闇の事業に手をだしているようでな。
それに気づいた公爵様が何かを考えるより先に、気づかれたと知った
伯爵が、公爵様を無き者にした…わしは、そうおもっておる」
「それで、クラリスってお姫様だけが残った訳ね」
「そうじゃ、姫と、…それから、公爵家の紋章をかたどった指輪だけがな」
「指輪？」
「世界を支配する事も出来る力を秘めた指輪だという話じゃ。
じゃが、管理局が調べてもべつになんの魔力もひめてない
ただの指輪だということじゃ」
「その指輪って、これのことか？」
「！どうやってそれを？」
「そりゃ、クラリスから直接手渡されたんだ」
「…ふむ…だが、この指輪が無いとなると、伯爵はどう出るか…」
「それはいずれわかるよ、けど、なんでここが安全地帯かはわかるよね」
「全然わからない。」
「ここは、管理局の目が届いてるんだ。…一種の治外法権、かな」
「じゃが、それもいつまで続くか…来週のクラリス様と伯爵の結婚を
止める方法はない。そして、結婚が成立してしまえば、もはや
わしもお払い箱になろうし、伯爵を止めるものもなくなる」
「そして、偽札の秘密は暴く手段もなくなる、ということね」
「…そういうことになるね」
「…それで、お姉さま、これからどう動くの？」
「静の出方待ちだよ」
「静の？」
「…上手くいっていれば、城で必ず何かが起きるよ」
「何かって？」
「そんなの、私にだって想像つかないよ、だって、静のやることだもの」
さて、その姿の見えない静の計略とはなにか。
それはまた今度。
