異聞・少女義経伝・参．後
カリオストロの義経
【第三章】
〜奇襲〜
カリオストロ伯爵が、弁慶の所から立ち去ろうとしたとき、近衛隊の一団が
カリオストロ伯爵、ジョドー、そして弁慶と紅葉、楓のそばを走り抜けていった。
「…何か騒ぎでも起きたんですか？」
「さあ、ちょっとした警備の訓練でしょう」
弁慶とカリオストロ伯爵のそばを近衛隊の一団が駆け抜けたのを見ての
弁慶とカリオストロ伯爵との会話である。
もちろん、玲奈がクラリスの部屋に侵入したことに対応しての
行動なのだが、お互い、それを知っていることは黙っている。
「…では、私はこれで」
「ご協力感謝します、カリオストロ伯爵」
「なに、礼にはおよばんよ。あとはジョドーと相談するといい」
カリオストロ伯爵は、今度こそ城の奥へと消えた。
「それで、ジョドーさん、近衛隊の装備についてですけれど…」
「我々の文化レベルで最良の装備をしているとだけ、申し上げておく。
火器は携帯しておりませんが、サーベルと警棒は持たせてますな」
「概ね状況はわかりました、ご協力感謝します。
では、我々としても、出来ればこの城の中で警備に…」
「いやいや、それには及びません。我々の実力を見くびってもらっては困りますな」
「…ですが、相手は百戦錬磨の次元犯罪者ですよ」
「…武蔵坊警部、我が国は管理世界に所属するとはいえ、独立国であることをお忘れ無く」
「わかりました、では、我々は独自に調査いたしましょう」
「それにも及ばないかもしれませんな」
「どういう事です?」
「我々を見くびってもらっては困る、ということです、武蔵坊警部」
「見くびっているつもりはありませんが…」
「我々の手で、義経一味は捕らえて見せますよ。いや、もう捕らえてるかもしれませんな」
「どういう事なんです？」
どういうことかって？
つまり、こういうことである。
「…玲奈は無事に潜入できたかな」
「弁慶に佐藤姉妹が陽動でカリオストロ伯爵を引っ張り出したのだ。
玲奈に限ってへまはすまい」
こちらは、義経こと源九羅香と那須与一の隠れ家である。
普通の安宿が、義経一味のアジトに早変わり、というわけだ。
一通りの装備…といっても、個人が携帯出来る物ばかりだ。
がしゃーん！
「何事っ！」
「敵襲だ、九羅香」
問答無用、殺意むき出しでまどから侵入してくる黒ずくめの一団。
「バリアジャケットがなければ即死だったね。…何者？」
奇襲で一撃を入れられた九羅香が、それでも無傷で立ち上がる。
黒ずくめの一団は、名乗ることもせず、ナックルクローで襲いかかってくる。
「鞍馬流最終奥義明鏡止水」
九羅香に向かった一団の攻撃は、九羅香の最終奥義で流されてしまう。
「喰らえ、金剛の三矢！」
九羅香に向けて…そう、九羅香にむけて与一が矢を放つ。
九羅香に向かって襲いかかっている黒ずくめの一団は九羅香に
接近しなければ攻撃できない。つまり、九羅香へ矢を打ち込めば
必然的に距離を取らなければならない、…はずだった。
「なにっ！直撃したはず…」
与一の矢は黒ずくめの男達が初めて口を開いた。
「バリアジャケットを装備しているのは、おまえ達だけではないぞ。
義経一味、いやさ、時空管理局執務官源九羅香。」
「そこまでわかっていて、なぜ襲う。ここは管理世界のはずだ」
「ミッドチルダにも、おまえ達の行動を面白く思わない者がいるということだ。
そして、おまえたちはここで任務を遂行することなく果てる」
「それはどうかなっ！奥義縮地の法！」
一瞬、黒ずくめの男達が防御の態勢を取る。
だが、九羅香のねらいは全く別だった。
「逃げるよ与一！」
「心得た。バリアジャケット装着なら手加減無用だな。
奥義無限連弾」
金剛の三矢は、同時に矢を3発放つ技。
無限連弾は、3本の矢をつがえ、時間差で放つ奥義だ。
本来の無限連弾は、連弩を用いるのだが、普通の弓で
無限連弾が可能なように、与一が自ら編み出した技である。
「こっちだ、与一」
「わかった、九羅香殿」
曲がり角で二手に分かれる。
黒ずくめの男達もまた二手に…
「一騎刀閃！」
「無想の一矢！」
フラッシュムーブの応用である。二手に分かれたとみせかけて
高速機動で合流、その後、先頭の1人に攻撃を集中するのだ。
さすがに、奥義を立て続けにたたき込まれては、黒ずくめの男と
いえども、耐えきれずに倒れる。
「安心しろ、非殺傷設定だ。…薄緑、カートリッジロード」
「…どうやら、おまえ達にはカートリッジの矢が必要なようだな」
狭い路地で、自分たちより実力が上の相手と戦うのは不利とみた
黒ずくめの男達は、分散して背後に回ろうとする。
「無想の一矢！」
与一が真上に矢を放つ。また1人、黒ずくめの男が倒れる。
「いい感じだね、与一」
「だが、長くはもたん。カートリッジの矢はそれほど持ってきていない」
「よし、じゃあ、逃げることに専念するよ」
そういうと、九羅香は全力で前にいる黒ずくめの男を攻撃して突破口を開く。
「逃げるのはいいが、どこへ逃げ込むつもりだ」
「あいつらが追ってこなくなるまで！」
「ここはカリオストロ公国だ。そんな場所があるのか?」
「事前情報が正しければ、一カ所だけある」
「それは一体？」
「話は後、逃げるのが先だよ与一」
黒ずくめの男達は、再び態勢を立て直して追撃してくる。
どうやら、お互い念話で会話を交わしているらしい。
「…まいったね、魔法使いがいるなんて、聞いてないよ」
「私もだ。しかし、これでカリオストロ公国が普通の国ではないことはわかった」
九羅香と与一の逃避行は続く。
さて、場面は変わって玲奈のいるクラリスの部屋である。
「どうやって逃げるおつもりなのですか？ここは孤立した部屋。
私も一度脱出を試みましたが、すぐに捕まって閉じ込められてしまいました」
「あたしは忍者だっていったろ、忍者は、普通の道は通らないんだぜ」
そういうと、玲奈は窓を開ける。
「玲奈さん、そっちは…」
「よっくみてな、これが忍者の本領だぜ！」
そういうと、玲奈は袖口から魔法のワイヤーでつながったくないを離れた屋根に打ち込む。
「魔力の糸だぜ、とらわれのお姫様はまた助けに来るけど…そうだな、
右助、このお姫様のこと、守ってやってくれよ」
「にゃー」
「右助？」
「あたしの忍ねこさ。ま、あたしの忍ねこのなかで一番ひとなつっこいから
気にせずに、普通の猫だと思ってつきあってやってくれよ。
いざというときには、役に立つはずだぜ。
じゃあな」
そういうと、玲奈は窓から飛び出し、屋根から下へと降りていく。
クラリスの部屋に向かう近衛隊は、その様子をみて、玲奈の降下地点へ
先回りしようと懸命に走る。
「ただ、平凡に降りるなんてだれがするか、
左助、ジャンプだ！」
もう一本のくないを、左助に持たせて魔力糸を向かいの壁に貼る。
クラリスがとらわれている塔のワイヤーを切って捨てると、そのまま
玲奈は紐を引き縮めて加速し…カリオストロ城が浮かぶ湖の中へと消えた。
「にゃー」
もちろん、左助は飛んでいく玲奈に捕まって一緒に跳んでいた。
「湖に逃げたぞ」
「どこかには上陸するはずだ、湖岸を固めろ」
「…ジョドー様の許可が出た、射殺してもかまわん、銃士隊準備！」
「待て」
館内放送で、カリオストロ伯爵の声が響く。
「あれは公爵の指輪を持っている、指輪は必ず回収しろ。わかったな」
「は、はい」
「なあ、紅葉、あの伯爵、まだ俺達が城内にいるって、わかってるのかな」
「どうでしょう。ですが、あのあわ手振りからすると、玲奈様は
何かうまくやったようですね」
「これだけ大変なことをしたんだから…」
「武蔵坊弁慶警部、あなたを、逮捕します」
突然、近衛隊の隊長が、弁慶に向かって宣言した。
「それはなんの冗談だ」
「私は近衛隊隊長グスタフ。あなたが義経一味の一員である証拠があります。
逮捕令状は伯爵様よりすぐに交付されます。さあ、おとなしく付いてきてもらいたい」
「冗談じゃない、こっちは時空管理局執務官補佐でインターポールから警部としての
待遇を保証されている、逮捕されるいわれはない」
「それについては、いずれ時空管理局と伯爵様が会話される。
さあ、おとなしく…」
「せめて令状ぐらいは持ってきてから逮捕するといってもらおうか」
「それは、力ずくでも逝くと言うことか?」
「層受け止めてもらって結構…行くぜ、紅葉、楓」
「弁慶様…今は自重するべきです」
「紅葉、いってもききゃしないし、生きて帰れる保証もないわよ」
「………残念ながら、あのミッドチルダ製の防御システムをかいくぐって
脱出できるような、ＡＡＡ級の魔力は俺達にはない、な」
「…どうやら、立場がわかったようだな」
「ああ、立場はわかった…けどな、今はカートリッジシステムってのがあるんだよっ！」
そういうと、弁慶はなぎなたを振るってグスタフに斬りつける。
「な、貴様」
「令状なしの逮捕に無抵抗でいろなんて決まりはないぜ。
じゃあ、俺達は逃げさせてもらう」
「く、くそ…」
弁慶達は、城外へ…一般観光客の区画へという意味だが…逃げ出した。
どうやら、義経一行のことを、カリオストロ伯爵側は十分に察知して
準備していたようである。奇襲を仕掛けてきたのは、カリオストロ伯爵の側だったのだ。
