「伯爵自らご案内いただき恐縮です」

「いやなに、時空管理局から派遣されてきた捜査官に協力するのは当然ですよ」

 

ここは、カリオストロ公国の中心にあるカリオストロ城である。

カリオストロ公国の重要な観光資源で、観光客のために多くの場所が開放されている。

 

しかし、この城にはもう一つ、カリオストロ公国の政治の中心という意味もある。

摂政にして、未成年のカリオストロ公爵の後見人、中年と呼ぶにもやや

高齢に達しているラサール・ド・カリオストロが執務しているのも、このカリオストロ城なのだ。

 

そして、今、俺達が案内されているのは、一般見学の側ではなく、執務側の区画だ。

 

「それで、武蔵坊警部、その広域次元犯罪者義経が、ここのロストロギアを狙っているというのは

　確実な話なのですかな」

「確実かどうかを調べるために来たのよ、ね、紅葉」

「え、ええ、そうです、伯爵閣下」

「はは、ここにロストロギアなどありませんよ」

「ですけれど、伝説はありますよね、観光パンフレットで読みましたよ」

「ああ、”青と赤が一つとなる時、告げよ我が声、世界にとどろき、飛び行く”ですかな」

「ええ、この国のどこかにロストロギアがある事を示す伝説だということになってますね」

「その通りですな。ですが、あれはあくまで伝説ですよ。

　そんな物を真に受けて、本当に次元犯罪者が来るものですかな」

「それを調べるために、我々が来ているんです」

「ロストロギアの存在を調べるのは、時空管理局の任務ですから」

「そうですか。しかし、我々の学術団も調査はしています。

　夢のある伝説ですよ。あっと、庭に出ようとはしないでくださいよ」

「何かあるんですか」

「ご覧なさい」

 

そういうと、伯爵はもったいぶってコインを茂みに投げ込む。

 

びしっ！

 

「魔法弾！」

「自動警備システム。ミッドチルダ製ですよ。猫の子一匹、執務区画に入ることは出来ないでしょうな」

「それだけの警備システムで、一体何を守っているんです？」

「答えなければならないものですかな」

「ええ、出来れば」

「おつきあいですよ。ミッドチルダからの観光客を呼ぼうと思えば

　それ相応にお金を使って、つきあいを広げておかなければね」

「それが、警備システムの導入ということですか」

「そうすれば、メンテナンス要員ぐらいはこちらに訪れるでしょう？」

「なるほどね。筋は通ってる」

「何も我々がやましいことをしているわけではないですからな。

　さて、他に聞きたいことは何か？」

「公爵閣下にお目通りは出来ませんか」

「それはご遠慮願いたい」

「どうしてです？一応は国家元首でしょう」

「まだ彼女は未成年だ、国政には関与していない。あなた方の姿を見せて

　無用の心配を掛ける必要はない」

「そうかも、しれませんけど、出来ればお会いしたいですね」

「近いうち、嫁入りする娘に、あまり心の動揺を与えたくはないのですよ」

「結婚?そんなことがあるんですか？」

「ええ、その通りですよ」

「それで、そのお相手は?」

「…不肖、このラサール・ド・カリオストロが」

「・・・・なるほどね、それはまだ公表してない?」

「 明日にでも発表する予定ですよ、結婚式には、観光客もたくさん訪れるでしょうな。

　もちろん、テレビの中継も入る、映画化もできるかもしれない。

　我が国にとって非常に喜ばしい」

「未成年…でしたよね、公爵閣下は」

「クラリス・ド・カリオストロ、岩山にさく百合のように可憐な女性です」

「…後見人から夫になろうということですか」

「ええ、そういうことです」

「…まあ、内政干渉は行わないことにしておきます」

「その方が賢明ですな。それで、他に見ておきたいことは」

「警備は自動装置だけ?」

「近衛隊１５０名が交代で城を守っておりますな。

　あと警察が２００名程度、人口３５００人の国ではこれが限度なのでね」

「そうですか。…なるほど、ミッドチルダの自動警備システムも必要になるわけだ」

「そういうことです。…さて、では私は執務があるので失礼する。

　他に見ておきたいことや聞きたいことがあれば、私の執事ジョドーに聞いてください。では」

「ジョドーさん、一応確認して起きたいのですが、近衛隊の装備について…」

 

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「猫の子一匹潜入できない、ねぇ。

　ミッドチルダ製の警備装置の情報なら、管理局だって持ってるっての」

 

そうつぶやく近衛兵が１人。

「…右助、動くんじゃないぜ…変身魔法使わずにこの服着るには、おまえらの
　助けが必要なんだからな」

「にゃー」

 

どうやら、この近衛兵、玲奈の変装のようである。

 

「…クラリス・ド・カリオストロ、か。…ちょっと会ってくるとするかな」

「こら、貴様、どこへ行くつもりだ」

「はっ、ジョドー様の言いつけで、公爵閣下のご機嫌をうかがいに」

「ジョドー様の…だが、それでは方向が違うぞ、こっちだ」

「はい、ありがとうございます」

「…まて」

「何か?」

「俺が教えた方が間違いなのにおまえはそちらへ向かおうとした、おまえは一体…」

「左助！」

「にゃー」

 

玲奈が声を上げると、玲奈の左腰から 忍ねこが飛び出して、声を掛けてきた

近衛兵ののど笛にキバを立てる。

 

「…あたしの言うとおりにしないと、左助がのどぶえをがっぷり行くぜ。

　クラリス・ド・カリオストロの所に案内しろ。」

「…」

「そっか、左助、遠慮はいらな…」

「ま、まて、案内する」

「最初からそう素直に言えばいいんだ。先に歩いてもらうぜ。

　まあ、だまそうったってそうはいかないけどさ」

「…ど、どういう事だ」

「…ま、手の内を明かす必要はないだろうね」

 

玲奈は、そっと手の中に魔力光をともす。

透視術、ミッドチルダで覚えた魔法だ。

 

「…こ、ここだ。」

「自分で開けろ」

「…く、クラリス様、入ってよろしいでしょうか」

「え、ええ、どうぞ。近衛兵の方でしょう」

「…お役目ご苦労さん、右助っ！」

「にゃー」

 

玲奈の右腰からもう一匹の忍ねこが飛び出すと、ここまで案内した近衛兵をノックアウトした。

 

「ちっ、かぎがかかってんのか。面倒だから…よっと」

 

玲奈は、くないで鍵を打ち壊して中に入る。

 

「あ、あなたは…」

「あんたがクラリス公爵かい、あたしは、伊勢玲奈ってんだ。

　義経の配下さ。」

「義経？」

「…世間知らずにもほどがあるぜ、まあいいや、単刀直入に聞きたいんだけどよ。

　こんど、親子ほども年のある伯爵と結婚するんだって？」

「はい。…伯爵はそのように段取りを進めてます」

「…それで、いいと思ってる？」

 

クラリスは黙ってうつむく。それで答えとしては十分すぎる。

 

「なるほどな。…じゃ、ここから逃げ出すか？」

「逃げ出す?どうやって逃げるのですか？ここは城の中でも特別に警備されてる場所。

　逃げるとしても、途中で…」

「あたしはさ、忍者なんだ。忍者は不可能を可能にする力があるんだぜ」

「不可能を可能にする?」

「…今すぐ、逃げるって手もあるけど、どうする」

「…おやめになった方がいいでしょう。カリオストロ伯爵は、表向きの

　近衛兵や警察の他に、”カゲ”という諜報組織を持ってます。

　ここでのあなたの行動も、カゲに見張られてますよ」

「そいつは計算済みさ。あたしは、義経がはったりじゃないってのを示すためにここに来たんだ。

　けど、言っていいか、クラリス」

「…なんでしょう」

「自分の意志ははっきり言った方がいいぜ。逃げたきゃあたしが手助け出来るが

　逃げたくないんだったら、あたしはそのままにしておく…」

「玲奈さんとおっしゃいましたね」

「ああ、そうだぜ」

「これを持ってお帰りください。…どうかご無事で」

「わかった」

 

玲奈が受け取ったのは、青い印章のついた、指輪だった。

 

「じゃ、期待して待っててくれよな」

「…無事にここから帰れましたら」

 

行きはよいよい、帰りは怖い。

問題はここから先…高い塔のてっぺん、長い一本道の通路の先にあるどん詰まりの部屋。

お姫様が幽閉されるには実に絵になる場所だ。

ここから、玲奈はどうやって帰るつもりなのだろうか。

 

…義経軍団の腕の見せ所が始まる。

 

 

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