異聞・少女義経伝・参．後
カリオストロの義経
【第一章】
〜入国〜
俺の名前は武蔵坊弁慶、時空管理局の一員だ。
細かい説明は省略して、今俺たちはカリオストロ公国のある世界への
チャーター便に乗って、作戦会議を開いている所だ。
「最初に確認しておくけど、管理世界といっても、現地では
私たちにはなんの権限もないんだ」
「ちょっと待ってよ、九羅香。クロノ執務官は、現地活動のために
警部や巡査の身分をつけるっていってたぜ」
「弁慶、それは現地の国際警察の身分なんだ。カリオストロ公国内では
私たちには権限がない。そして、権限があったところで、公国内に
ロストロギアがあるか、とか、偽札作りはどこか、なんて探すのは無理だ」
「なんでだよ。国内の犯罪組織の摘発には、公国だって協力してくれるんじゃないのか」
「偽札を作ってるのが、犯罪組織ならな」
「どういうことだよ与一」
「弁慶は鈍いなぁ。かんたんなことだろ」
「はい〜玲奈さんの言うとおり〜かんたんなことなんです〜」
「カリオストロ公国そのものが、偽札を作ってる可能性が高いのよ。
そんなところに、のこのこ”偽札作りの真相をあばきに来ました”なんて
いってごらんなさい。 すぐに証拠も何も隠されて、はいそれまでよ、よ」
「…じゃ、どうやって調査するんだよ」
「それについては〜既に〜考えてありますよ〜」
「それっていったい？」
その答えが、二手に分かれての調査、ということだった。
俺と紅葉と楓は、インターポール〜この世界の国際警察〜の身分を受けた
管理局員という、真っ当な方法で入国する。
九羅香、与一、玲奈、そして静さんの４人は、普通の観光客として
入国…するんだけど、ここで少しトリックを効かせることになる。
そのトリックというのが…
「管理局執務官補佐、そしてこちらではインターポールの弁慶です」
「助手の紅葉です」
「同じく楓」
ここは、カリオストロ公国の首都、というより唯一の街だ。
俺達、…俺と、紅葉と、楓は、この世界の警察本部に乗り込んでいる。
「広域次元犯罪者、源義経がこちらの世界に逃げ込んでいるという情報が
管理局に入りました。それで、こちらの調査に協力してもらいたいのです」
「広域次元犯罪者？」
「かんたんに言うと、泥棒です。ただ、神出鬼没でかんたんには捕まらないのです。
それが、この世界の何かを狙ってカリオストロ公国に潜んでいるという
情報が入ったので、事の真偽を確かめるために、我々が派遣された、そういうことです」
「なるほど。確かに正規の手続きによる書類は揃っているようですな。
とはいえ、我々としては、一週間後の結婚式のための警備が必要ですから
大した協力も出来かねますな」
「一週間後の結婚式とは、なんですか？」
「おや、それも知らずにカリオストロ公国に来られたのですかな。
一週間後の結婚式というのや…
「通って良いぞ」
「はい、ありがとうございます」
こちらは、九羅香達である。一応免許持ちの九羅香が３人を乗せて入国している。
「なあ九羅香、なんか警備が厳しいみたいだけど、なんかあるのか？」
「この国では、一週間後に、カリオストロ公爵と、カリオストロ伯爵の結婚式が
行われるらしいんだ。それで、カリオストロ公国の警察も、ぴりぴりしてる」
「カリオストロ公爵って、王様だろ、男同士で結婚するのか？」
「玲奈にも観光案内は渡したでしょ」
「あんまり目を通してないんだよ」
「この国の公爵は、弱冠１７歳の少女なんだ。」
「我々とそれほど年はかわらないな」
「未成年だから、政治には直接携わってはない」
「なあ、基本的なことを聞くんだけど、この国の政治はどうなってるんだ？」
「議会も形ばかりにはあるが、実質的には公爵の権限の広い立憲君主制になってる。
公爵が未成年だから、現在は伯爵が摂政として政治をやってるみたい」
「それで、公爵様が成人するまえに結婚して政治の実権を維持しようってことかよ。
政略結婚にしても、あざとすぎるぜ」
「よその国から婿をもらうのが普通だと思うんだ、何しろ伯爵は四捨五入して５０歳。
どう考えても、１７歳と結婚する理由がない」
「…つまり、よっぽど知られたくないことをやってるってことなんだな」
「そういうことになるね」
「で、それを裏から調べるのが、あたしらの仕事ってわけだ」
「そういうこと。…けど、どうやって調べるかは今から調査しないと」
「それならあたしに任せろよ…って、静の奴はどこへ行ったんだ？」
「静は、また考えがあるっていって、単独行動だよ」
「ちぇ〜。まあいいや。とりあえず宿を探そうぜ、腹減った」
「食いしん坊だな、玲奈は」
「成長期なんだよ」
カリオストロ公国は観光立国である。この結婚式も、第５３管理世界に
大々的に宣伝され、観光客を呼び集めるのに使われている。
そのため、九羅香達の入国も、それほど目立つこともなく実行できたし
宿もかんたんに…というほどではないが、とることができた。
だが、それはこれでスタートラインに立った、というだけのこと。
カリオストロ公国の闇を調べるのは、これからの仕事になる。
