異聞・少女義経伝・四
地上の星
【第二十六章】
〜青天〜
時間は少しさかのぼる。
騎士ゼストに、シグナムが落とされた所だ。
「…追うぞと言ったのはいいが、到底おいつけんな」
「けど、急がないと逃げ切られてしまうですぅ」
「………リイン、ユニゾンを解除しろ。おまえは、主の元へ向かえ」
「ちょっと、シグナムちゃん、何を言い出すですか。
ユニゾンしても太刀打ちできなかったのに、ユニゾンを解除したらますます
勝ち目がなくなってしまうですよぉ」
「…思い上がりかもしれんが、少し、ゼストの言葉で思い当たる事がある。
もしそうなら、リインがいないほうが、話が早くなるだろう」
「騎士ゼストが、アギトちゃんのマイスターとして判定したのが、シグナムちゃん
だっていうことですかぁ」
「そうだ。…まあ、その可能性は低いだろうが、そうでなかったとしても
わたしとユニゾンを続けるより、主の元に帰ったほうが、リインの能力が発揮できるだろう。
リミッター解除の抜け道のためにユニゾンをする必要もない」
「そうですけどぉ……ここからリインがはやてちゃんの所に帰るんじゃ
よっぽど時間が掛かってしまいますよぉ」
「案ずるな、転送魔法を使う。地上本部に入るには使えないが、アースラに
おまえを送り届けるぐらいのことは出来る」
「シグナムちゃん、転送魔法なんて使って大丈夫なんですかぁ？」
「大丈夫だ、許可は必要ない」
「必要ないって…地上本部が黙ってないですよぉ」
「心配するな、リイン。…わたしの事だ」
「だから心配なんですってばぁ」
「案ずるな、事後承認は必ずもらえる」
「シグナムちゃんがそこまでいうなら…」
「アースラ、こちらライトニング２だ。リインをそちらに転送する。
受け入れ準備を頼む」
「…こちらアースラ、ライトニング２了解。直ちに転送の受け入れ準備を開始する」
さて、シグナムがアースラと通信していた頃、騎士ゼストは地上本部への突入を開始していた。
飛行魔導師の突入である。レジアスの執務室に入るのに、わざわざ地上階から順次階段を
昇っていくような悠長なことをする必要はない。
いきなり、執務室に飛び込めばいい。オーバーＳ級魔導師の渾身の攻撃に耐えられるほど
地上本部の外壁は強度がない。
「…手荒なまねをして済まんな」
「……ゼストか…」
「そうだ。…おまえに、一つ聞きたいことがある」
「なんだ？」
「……俺を…いや、俺たちを殺したのは、おまえなのか？」
そう、ずっと昔、俺とレジアスの士官学校時代。
俺とレジアスとは、士官学校で、どちらが主席になるかのライバル同士でもあった。
俺は古代ベルカの伝承者というレアスキルと、魔力資質の高さで成績を稼げば
レジアスは、法務と作戦指導の面で優秀さをアピールしていた。
陸では、海ほどレアスキル持ちが優遇されているわけではない。
海でなら、レジアスが出世コースにのるチャンスはほとんど無かったろうし
士官学校の成績で、俺と優劣を競うこともなかったろう。
陸は、良くも悪くも、ミッドチルダ軍の気風を引き継いでいて
前線で戦う者ばかりではなく、支援担当者としての士官の育成にも力を注いでいた。
ある意味当たり前だ。海は、次元航行艦が独立行動単位として完結していて
補給や支援はあまり考える必要がないが、陸では、すなわち、戦争を前提として
それに備える軍を引きずっている所では、補給の軽視は、自滅につながる。
そうやって競っている中で、俺とレジアスは、いつしか腹を割って話し合える仲になっていた。
「レジアス、おまえは、卒業した後、一体どういう進路に進むんだ？」
「士官学校を卒業したらやるべき事は一つだろう」
「だが、ミッドチルダでは、大規模な戦争は終わりだ。もはや大した事件などおきんよ。
何かが起きるとすれば、むしろ次元の海の向こうだろう」
「なら、なんでおまえは陸に入ることを選んだんだ？
第一、海ならレアスキル持ちのおまえは、エリートコース間違いなしだろうに」
「ここが、おれの故郷だからな。…俺は、俺の生まれ育ったこの世界、ミッドチルダの
安全を守るために、働きたい」
「そうか…だが、事件の規模こそ小さいが、決して危険が小さいわけではない。
魔法依存な上に、優秀な魔導師が海に優先的に回される現状では、陸の魔導師には
どうしても負担が掛かる。特に、優秀なレアスキル持ちには」
「望むところさ」
「まるで、自分が優秀なレアスキル持ちみたいな言い方をするな」
「事実だからな。妙な謙遜をしても始まるまい」
「全くだ。…おまえなら、伝説の三提督よろしく、世界を救えるかもしれんな」
「…まだ、俺はおまえから、答えを聞かせてもらってないぞ」
「なんの質問だったっけか？」
「おいおい、俺は、おまえが卒業したら、どんな方向に進むつもりなのか聞いてるんだぜ。
管理局に入るにせよ、いろいろと進路っていうのがあるだろう」
「俺は、陸の頂点を目指すつもりだ」
「陸のトップか。トップをとって、それからどうするつもりだ？」
「陸の戦力の大規模なリストラをやる」
「人手不足を増やすつもりか」
「いや、言葉通りの意味でリストラをやる。魔法の使える奴を実働部隊として
可能な限り前線に廻し、後方勤務は魔力資質のない奴に割り当てる。
いや、可能な限り魔法の使える奴らから雑務の負担を軽減して
魔法使室のない奴らがサポートに回れるよう対処する。
…それまでは、魔力資質の高い奴の負担が大きくなるだろうが…
…いずれ、改革する」
「そうか…壮大な夢だな」
「それで、おまえは卒業したら、どうするつもりなんだ、ゼスト」
「俺か？俺はおまえと違って、難しい事を考えるのは苦手だからな。
この空を守れれば、それでいい」
「…この空を守れれば、それでいい、か。…俺も、おまえみたいに
魔法使いに生まれていれば、そんな台詞も言えたのだろうな…」
「レジアス、おまえには、出世する才能はあるだろう。
どうも、俺は次席で終わるような気がしてならない」
「いや、おまえみたいなレアスキル持ちが優遇なんだよ。管理局は。
それは陸も大してかわらんさ」
「えらく自虐的だな」
「………ミッドチルダは、平和だからな。
平和な世界に名将などいらん。英雄がいればそれでいい。
後は、お役所仕事でやっていても、なんとか問題が片づくものだ」
「そんなものかね。…俺にはわからんな」
「そうだろうな。おまえは、お役所仕事で終わる人間じゃない。
英雄になる側だ」
「英雄か。…出来れば、なりたくないものだな」
「いやでもなってもらわなければ困る。陸志望のＳ級魔導師など、おまえぐらいだ。
実力もなしに、演出で作り出す英雄では、物の役にたたんぞ」
「英雄なんていうものは、すみっこに追い詰められた臆病者がなればいい。
いくらかの幸運と、必要最低限度の実力があれば、誰でも英雄になれるさ」
「その、すみっこに追い詰められた臆病者を作らないのが、名将の条件だ」
「はは、レジアス、名将は必要ないんじゃなかったのか？」
「そういうおまえはどうだ？英雄には誰でもなれるなら、おまえがなってもかまわんだろう」
「おいおい、俺は英雄なんて必要ないって言ってるんだぜ。
ま、名将も英雄も必要のない時代が来れば、俺たちも何か仕事をしたってことだろうな」
「そうだな。だが、急がねばならんぞ。俺たちの先輩が、すぐに
そんな時代を作ってしまうかもしれんからな」
「そうなったら、俺は管理局を辞めるよ」
「辞めてなにを始めるつもりだ？」
「そうだな…次元世界を旅して、俺より強い奴に会いに行くってのはどうだ？」
「闇の書とでも戦うつもりか？」
「それも悪くないな。…だが、まずは、ミッドチルダからだ」
「ああ、まずは…この空を守る、それからだ」
あのとき見あげた青空…そうだ。
あの日も、空はあのときと同じように、清みきった青天だった。
「…レジアス、ついに一佐に昇進だな、おめでとう」
「おまえの活躍のおかげだ。首都航空隊打撃中隊特別行動班。
世間一般には、その活動内容は明らかにしてないがな」
「おまえの予言は外れたな。ミッドチルダに必要なのは、英雄ではなく、名将だ」
「おまえさえ引き受けてくれれば、今でもすぐに英雄は作れるぞ」
「断る。四六時中マスコミに追いかけ回されて、愚にも付かんインタビューを
やらされたくはない」
「そうだろう。おまえにはそういうのはあわんよ。
…しかし、遠いな、ミッドチルダの平和を手に入れることすら」
「自由な人の行き来は、自由なテロリストの行き来でもある。仕方ないことだ」
「交通の中心は、テロの中心でもあるわけだ。
あらゆる人がいる場所には、あらゆる人間が隠れることが出来る」
「…海の連中には、わからんだろうな」
「ああ、わからんだろうな。…」
「どうしたレジアス、急に笑い出して」
「いや、海の連中でも、世界が吹き飛ぶような大きなものなら、見えるのだろうと思ってな」
「事件がそこまで広がる前に対処は出来ない、ということか」
「小さい芽の内につみ取れば、巨大な戦力など不要なはずだ」
「だが、小さい芽ですら、一般隊員では手に余ることが多い。
いや、あれはもはや小さい芽と言える大きさではないだろう」
「…なんのことだ？」
「とぼけるな。…スカリエッティの事だ」
「ああ、広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティか。
だが、あれは海の扱う事案だろう。ミッドには関係ないな」
「奴の根拠地を見つけた。ミッドチルダだ。…奴が、それに気づく前に、けりをつける」
「あれは誤報だ。情報部がそう言っている。おまえはそんなことは気にするな。
毎日事件の芽はいくらでもある。そんなものに関わっている暇は無いはずだ」
「情報部が接触したという報告はないぞ」
「…どういう事だ？」
「メガーヌの画鋲虫にアジトの回りを監視させてある。
情報部だろうと、動きがあれば、俺の所に報告が来ているはずだ」
「…余計なことはするな。…これは、命令だ」
「レジアス、正気か？」
「ゼスト、何が言いたい？」
「…いや、おまえについて、いやな噂を聞いているだけだ。
信じている訳ではないがな」
「ああ、週刊誌にはいろいろと書いてあるな。
企業との黒い癒着の話だろう」
「ああ、…だが、おまえの生活ぶりを見ていれば、それが噂にすぎんことはすぐわかる」
「出世すると、いらん出費も増える物だ」
「体重もな」
「言ったな…まあ、その通りだ。士官学校時代みたいに体を絞る暇もない」
「そのせいで、遊びほうけてるように言われるだけだろう。
本局出張も多いが、本当に本局での折衝であることも知っている」
「俺は、管理局全体での、陸の立場を守らんといかんからな。
コネも作っておかねばならん」
「接待費に黒い金を使うんじゃないぞ。…いつか、命取りになる」
「わかっている。…だからこそ、おまえの力はこれからも必要だ。
余計なことに手は出すな。…わかったな」
「…余計なことには、手をださんよ」
「そうか…」
あのときのレジアスは、間違いなく、俺に大事なことを隠していた。
奴とはながいつきあいだ、言葉が語らずとも、目が語る。
「…それで、おまえ達は一体なにをやっている？」
あのとき、物陰に隠れて、メガーヌとクイントが、俺とレジアスの会話を
聞いていなければ、あるいは、俺も何もしなかったのかもしれない。
いや、あの二人が、行くべきだという目をしなければ、俺も
レジアスの言わんとすることを、理解出来たのかもしれん。
だが、俺は、管理局員であるよりも先に、ベルカの騎士だった。
「…今夜、決着をつける。二人とも準備しておけ」
その結果は、さんざんな物だった。
俺達は、熊わなに飛び込んでいった熊同然だった。
スカリエッティは、俺たちについての情報を十分すぎるほど手に入れていて
完璧に待ちかまえていたのだから。
それでも、俺はスカリエッティの研究所を大破させ、殺人ガジェットの
一個大隊はスクラップに変えてやった自信はある。
メガーヌとクイントも、奴らの想定以上の戦果は上げたろう。
いや、それは事実として知っている。
スカリエッティ当人から聞いたことだ。
予想以上の損害で、あの研究所は完全放棄を余儀なくされたと。
だが、そんなことでは、全く足りなかった。
クイントは殉職、メガーヌは植物状態でスカリエッティ研究所の培養槽の中、そして
俺はといえば、奴の実験動物という訳だ。
いや、何より問題なのは、メガーヌの娘…ルーテシアすら
スカリエッティの実験体にされたことだろう。
…だが、どうしても俺には理解できん。
奴が俺たちの襲撃を予期していたことは、奴らの洞察力だと見なしてもいい。
だが、奴らは、一体、どんな手段で、俺たちの能力を完全に把握していたのだ？
俺たちの活動は、一般には全く知られていない。能力についてはなおさらだ。
俺の使う魔法が、近代ベルカではなく、古代ベルカだと知っているのは
レジアスと〜あえて言えば、本局の人事局ぐらいだ。
だが、あの戦闘機人〜チンク〜は、俺を古代ベルカの騎士と言った。
なぜだ？…どこから情報が漏れた？
すこし、場面を変えよう。
こちらは、レジアスの執務室に向かう、シグナムである。
管理局の局員シグナムは、空から執務室にどかん、なんて
入り方をするわけにはいかない。
ちゃんと、玄関から走って向かう必要がある。
いや、なぜ執務室にまっすぐ向かえるのか？ということは聞かないで欲しい。
「どこ行くんだよ！」
「…アギトか」
アギトは、目一杯シールドを張って、シグナムを通せんぼしていた。
「旦那は、本当にレジアスと話をするだけなんだよ。
大事な話なんだ。命がけのお話なんだよ…だから…じゃますんなっ！」
シグナムは、黙ってレヴァンティンの柄に手を掛ける。
「！」
アギトが覚悟したように目を閉じる。
「…わたしも、騎士ゼストと話をしに行くだけだ」
シグナムの剣は、アギトの結界を砕いただけだった。
「…おまえも、一緒に来るのだろう」
「当たり前だ、あたしは、旦那を守るって決めたんだよ。
おまえが、旦那に何をいうか、きちんと見届けてやる」
「そうか…」
廊下は走る物ではない。が、時と場合によりけりである。
さて、再びレジアスの執務室に話を戻そう。
騎士ゼスト、レジアス、オーリス。
この場にいるのは、この３人だけだ。
「答えろ、レジアス」
レジアスが、何か言葉にしようとしたその瞬間、ゼストがバインドされた。
バインドしたのは、オーリス。…いや、あれはオーリスではない。
レジアスの背中に立っていたオーリスが、その正体を現したのだ。
ピアッシングネイル…鋼の爪が、レジアスに襲いかかる…
そのまた次の瞬間、鋼の爪を構えた何者か〜ナンバーズの制服を着た誰か〜
もまた、何者かによってバインドされる。
だが、一体だれが？なぜ？
「壁に耳あり障子に目あり、天井裏には忍者あり。
機動六課打撃中隊所属、伊勢玲奈ってのはあたしの事だ」
１０ｍを超える天井から、魔法の助けなしに落下して、怪我一つせず着地する。
さすがは化け猫疑惑のかかる…
「こらナレーション、その話題からはいい加減離れろよ！」
「どういう事だ？」
「んーと、簡単に言えば、ここまでが全部予測の範囲内、ってことかな。
スカリエッティのスポンサーが、レジアスの口封じに出る事ぐらい、ちゃーんと
わかってたってことよ」
そういって、破れた壁〜ゼストが突入するときに開けた大穴だ〜に立って
声を掛けてきてるのは、リーゼ姉妹の片方、リーゼアリアである。
こちらは、文句なしに化け猫…
「だからそのネタからいい加減に離れなさいって。
使い魔と化け猫じゃ大違いでしょ」
「…レジアス、これは一体…」
「レジアスくんはここにいないよ」
「馬鹿な！…そんなはずはない。変身魔法もＩＳも感知していないのに…」
「…ドゥーエくんだったね。聖王教会最大のスキャンダルの立役者。
管理局とスカリエッティとの連絡役。…聖王の遺伝子を盗み出したやり方は見事なものだったらしいね」
「…なぜ、それを……いや、おまえは一体…」
「魔法という進んだ技術に慣れてしまうと、魔法を使わなくても出来ることがあることを忘れてしまう。
ＭＩ６の変装術も、捨てた物ではないだろう。…いや、素顔を見せられなくてすまんね。
この特殊メイクは、外すのにも一時間以上かかる」
「…それで、あなたは一体だれなんです？」
「…ギル・グレアム。元管理局提督だよ」
「グレアム提督？あの、闇の書事件を解決した後勇退した…」
「…そんな話をしに来たわけではないだろう、ゼストくん。
君を執務官として引っ張りたかったのだがね。君の意志は固かったな」
「…グレアム提督、それで、レジアスはどこに？」
「こんな展開、三文小説の編集者ですら没にするのだろうけれどもね。
残念ながら事実だ。…君は、レジアスくんと話す訳にはいかない。
なぜなら、彼は既にこの世にはいないからだ」
「どういう事です」
「…君の生存を証明する映像を見た後、彼は倒れたよ。
入院先で明らかになった…末期癌、医者に言わせれば、生きているのが不思議な状態だったそうだ。
きみの生存を知って、気持ちが切れたのだろうね。…残念な事だ。
だが、君の質問には、明確に答えられると思う。
レジアスくんは、ゼスト隊の壊滅とは無関係だ。だが、レジアスには
君をスカリエッティのアジトに向かわせるわけに行かない、事情があった」
「それは一体…」
「…レジアスくんは、評議会と結びついていた。
その評議会が、スカリエッティの黒幕だった。
それが君の質問に対する答えだよ。
評議会の取った行動も、管理局システムからの論理的帰結ではある。
管理局の戦力を、魔法だけに限るとすれば、管理局が戦力を向上させるには
数少ないレアスキル持ちを、ただ死亡したというだけの理由で、失うわけにはいかない。
そのために、量産できるレアスキル持ち〜戦闘機人と、高レベル魔力保持者を
使い魔としてでも復活させる古代ベルカの魔法〜人造魔導師の制作に手を染めた。
そういうことだ」
「…では、俺は、評議会と〜管理局そのものと〜戦わねば、ならぬということか」
「いや、その必要はない。…もう、すべては終わったよ」
「どういう事です？」
「…シグナム二尉、入ります」
「ああ、シグナムくんか……遅かったな」
「申し訳ありません」
「旦那、無事だったかよ！」
「…アギトか。どこへ行っていた？」
「旦那がレジアスとゆっくり話し出来るように、じゃまな奴がこないよう見張ってたんだよ。
ていうか、一体この有様はどういうことなんだ？
なんで、機動六課の奴がもうここにいるんだよ」
「あとで説明する」
「…なんだよ、けっきょくあたしはのけものなのかよ」
「べつにそういう訳でもないが…」
「…シグナムくん。ここは大丈夫だ。アースラと連絡を取って、スカリエッティ逮捕に
向かってもらいたいんだが」
「わかりました」
「アギト、おまえも行け」
「旦那、旦那はどうするんだよ」
「…俺のするべき事は、終わった。だが、おまえには、まだやるべき事が、残っているはずだ」
「あたしは旦那を守るって言ってるだろ。だから…」
「そう思うなら、シグナムと一緒に行け…俺は、おまえのマイスターにふさわしい騎士を
ずっと探していた。…属性も一致する古代ベルカの騎士。これほどの相手はまずみつかるまい」
「だからって、今行かなくても…」
「今いかねば、意味がない」
「あのさ、アギト。いい加減にはゼストの言ってることを理解してやんな。
ゼストは、あんたまで犯罪者の仲間入りするのを、望んじゃないんだよ。
…それに、ゼストの体は、ぼろぼろなんだろ？あたしも使い魔だから、おおかた
ゼストに何が起きてるかは想像がつく。…生き物の体ってのは、常に再生していなければ
簡単に崩壊してしまうものなんだ。その再生にも、エラーが徐々に蓄積されていく。
使い魔なら、魔法生物みたいなものだから、プログラムの更新で対処できる。
けど、人間を、…ていうか、生き物一般を、そのままの姿で維持するような魔法なら
エラーの蓄積は、ガン細胞の増殖と変わらない結果をもたらすだろうね。
あたしらみたく、リセットして元に戻すってわけに、いかないんだろ？
あたしらは、定期的にリセットして…生まれ変わってるわけだけどさ。
…てか、リセットなしの、使い魔の本来の寿命なんて、一年ないんだよ。
人造魔導師が、それよりましだとしても、１０年なんてことは、まずないだろうね。
…だから、アギト………ゼストのために、ゼストの思いを、くんでやんな。
ゼストを守るっていうんなら、ゼストにこれ以上、…負担をかけるんじゃないよ」
「…旦那…」
「アギト、わたしは、これからスカリエッティのアジトに行く。…案内してくれるか？」
「…わーった、けど、旦那、約束しろよ。あたしが帰るまで、死ぬんじゃねーぞ」
「ああ、約束しよう…おまえが帰るまでは、生きていると」
「よし、行くぞ」
「てか、シグナム。ユニゾンしろよ。転送魔法で一気に飛ぶぜ。
ユニゾンすりゃ、転送魔法使うぐらい、楽勝だろ」
「…そうだな、行くか、アギト」
「ああ」
シグナムとアギトがユニゾンする。
「こちらシグナムだ、…ロッテ、転送受け入れ準備を頼む」
『りょーかーい。って、その呼びかけってことは、地上本部は片づいたみたいだね』
「ああ、片づいた、ドゥーエの捕獲も完了している」
『んじゃ、とっととこっち来て。スカリエッティの奴が、悪あがきするかもしれないからね』
「わかった、今行く」
説明しよう。打撃中隊〜弁慶達と一緒に行動していた玲奈は、実は
リーゼロッテが変身魔法を使った姿で、本物の玲奈は、レジアスの執務室の
天井裏で、わなを張って待ち受けていたのだ。
リーゼアリアと忍ねこ達も、玲奈と一緒にレジアスの執務室の監視をしていたのである。
だが、スカリエッティのアジトでの、打撃中隊＋ユニゾンシグナムと
スカリエッティ最後の切り札との最終決戦などは、起きなかった。
スカリエッティは、自分たちの切り札〜ドゥーエが逮捕され
黒幕だった評議会が、辞任〜実際には、伝説の三提督が、辞任か
弾劾裁判かを、スカリエッティとのつながりの証拠を示して迫ったこと〜を知ると
自分の作品を危険にさらすより、むしろ、自ら逮捕される事の方を選んだのだから。
ジェイル・スカリエッティ事件は、 終了したのである。
