異聞・少女義経伝・四
地上の星
【第二十五章】
〜揺籃〜
「アースラより通信。フォワードチームが、地上本部に向かっていた
戦闘機人と、ルーテシアを撃破、首都航空隊が身柄を確保したそうよ」
「そうか、それはよかった。シャマル、それで、他の方面はどうだ？」
「地上本部に向かった騎士ゼストの阻止には、シグナムが失敗したみたい。
地上本部突入を止める手段はないみたいね。
首都航空隊も、こっちは手をつけないことにしてるって。
無駄に犠牲を出す必要はないってことみたい。
ガジェットの方は、はやてちゃんの砲撃支援と、陸士１０８部隊で阻止してるわ。
義経軍団の応援には、今教会騎士団が向かってる最中。
他の地上部隊は、市民の安全を守るために展開中。
こんなところかしら」
「そうか・・・ゆりかご内部の状況は？」
「ヴィータちゃん、フェイトちゃん、なのはちゃん、各々接敵してるわ。
今のところ応援の必要はないみたいだけど、・・・どこも、強敵揃いよ」
「・・・我々の出番は？」
「ザフィーラ…それは、まだ、・・・わからないわね」
「ヴィヴィオ、大丈夫？怪我とかしてない？」
ここは、聖王の間だ。ばかでかい通路の奥にある、さらにばかでかいホール。
かつては、ここで、聖王が、次元世界から訪れる使節を謁見していたのだろう。
見る物を威圧する巨大な空間。その奥に、かすかに見える玉座。
そこに座っている、小さな女の子が、ヴィヴィオであることは、雰囲気でわかる。
「…来ないでっ！」
「ヴィヴィオ、どうしたの？」
レイジングハートのセンサーを最大感度に高めて、玉座へと急ぐ。
来ないで、ということは、何か罠を仕掛けている、ということ。
その罠を素早く感知して、取り除く必要がある。
（レイジングハート、バリアバースト、待機）
（Yes,my master）
バリアバースト、全周に、爆発的に広がるバリアを発生させる魔法だ。
長時間の防御には向かないが、一瞬の隙を突く攻撃を弾くには
一番手っ取り早い。もちろん、馬鹿魔力の持ち主でなければ
こんな防御は不可能だ。
「ヴィヴィオ、今、なのはママが助けに行くからね。大丈夫。…何があっても…」
「…違う！ヴィヴィオにママなんていない！」
「ヴィヴィオ、どうしたの？なのはママじゃなくて、本当のママを見つけたの？」
「そうじゃない！……ずっと忘れてたこと。ずっと忘れてたけど、忘れちゃいけなかったこと。
思い出した。聖王にママなんていない。ヴィヴィオが探してたのは、ママじゃない。
探してたのは、ママじゃなくて、マザーシップ…この船、ゆりかご。
聖王は、普通に生まれてくる人間なんかじゃない。
遺伝子工学で作られる、人造生命体！その存在目的は…ゆりかごのメインパーツとして
ゆりかごを起動し、それを軌道に乗せ…そして、次元世界を力で支配すること。
だから、なのはママ、来ないで、逃げて！…ヴィヴィオ…なのはママとは、戦いたくないの！」
「どういうこと？戦いたくなければ、戦わなければ…」
「だめっ！…もう…遅いっ！」
ゆりかごの魔力が、玉座へと、玉座に座る・・・いや、この距離まで近づけば
はっきりと見える。座っているというより、縛り付けられているというほうが正しい。
これが、聖王？…いや、王というより、むしろ、奴隷の一種ではないか。
ヴィヴィオの姿が変容していく。５歳児から急激に成長し…１６歳ぐらいの姿に変わる。
「…ヴィヴィオ？」
「…なのはママ………逃げて。…ゆりかごの制御システムが、なのはママ達を
敵として認識してる。…だから…ゆりかご固有の生体兵器…聖王も…
なのはママ達を、……排除するっ！」
「ヴィヴィオっ！」
ヴィヴィオが魔法弾を放つ。
今まで見たことのない魔力光。…そういえば、ユーノくんが言ってたっけ。
魔力光の中でも、もっとも特殊な魔力光。古代ベルカの王族は、自らの教化のために
様々な改造を重ねてるから、魔力光も、重ね合わせた素体の魔力光が混ざり合って
透明な宝石のように輝くようになっているって。
これが、ヴィヴィオの…聖王の…力。
けど、…この魔法弾は、せいぜいＡＡＡ級に過ぎない。
なのはは、レイジングハートのプロテクションで魔法弾を弾き落とす。
「…ヴィヴィオ………ヴィヴィオは、ゆりかご固有の生体兵器に、なりたいの？」
「…なりたいとか、そういうことじゃないの！ヴィヴィオは、他の物になんてなれないっ！
レリックに体を制御されてるから、自分の意志で体を動かすことも出来ないっ！
ヴィヴィオに出来ることは、…自分の意志をゆりかごに同化させることだけっ！
ゆりかごになっても、ヴィヴィオは…ヴィヴィオかも…しれないけど…
だけどっ！聖王の義務からは逃げられない。世界を支配するために戦う以外の
選択肢なんてないっ！…ゆりかごの基本システムと違うことは出来ないのっ！」
「…ヴィヴィオ…よく、わかったよ」
「なのはママ…今なら…まだ…間に合うから。まだ、ゆりかごは
月の魔力を受けるところまで上がってないから…聖王の力は発揮されてないから…
だから、今の内に逃げて。……今なら、…」
「ヴィヴィオ。かならず、なのはママが、助けてあげるから。
ヴィヴォオが、ゆりかごに意識を同化させるのがいやだっていうのなら
かならず、なのはママが、切り離してあげるから。…だから、ママは
絶対に、逃げないからね」
「ママっ！だけど…」
「大丈夫。なのはママの辞書に、”あきらめる”って言葉は、ないんだよ」
「…やだあっ！」
ヴィヴィオが直径５ｍはあろうかという砲撃をなのはに加える。
なのはは素早く飛行してこれをかわす。
「レイジングハート、ブラスターモード発動！
ヴィヴィオ、ちょっとだけ、痛いの、我慢できる？」
「なのはママ、無茶だからっ！」
「ちっ、中々しぶといじゃねーか」
「こちらの台詞だ」
「減らず口はさすがだな」
ちっ。壁を爆破するだけが脳の爆弾魔かと思ったら
普通に戦っても、なかなかやるじゃねーか。
シールドはかてーし、動きも速い。フォワードの連中に
空戦魔導師との戦い方の手本に見せてやりたいぐらいだぜ。
よく、スバルの奴が大破させられたもんだ。
「…そこだ」
「けっ。こんなもんであたしが落とされるかよ」
二重炸裂弾。
一度はなった刃を、空中で一部爆発させることで、方向を変え
攻撃する戦術だ。もちろん、至近距離でさらに爆発させ、ダメージを与える。
ヴィータの方も、誘導弾をアイゼンで打ち込んでチンクを攻撃するが
チンクの方も、バリアとシールドを併用して、攻撃を防ぐ。
「…………ぜぇ…ぜぇ…からだがなまってやがる…
動きにキレがねえ…けど、…こっからが本番だぜ」
「……はぁ……はぁ…………おまえ…本当に……人間か……」
「人間じゃなかったら…なんだってんだよ」
「管理局も人造魔導師を作ってるのか？それとも、我々とは違った存在が
作り出した、戦闘機人？」
「どっちでもねーよ。古代ベルカの守護騎士プログラムだからよ」
「守護騎士プログラム？……それは、一体？」
「説明してる暇はねぇ。おめーを逮捕したら、後でゆっくり聞かせてやる。
てか、おまえその眼帯どうしたんだ。今時、見える義眼ぐらいあるだろ」
「…これは、わざと入れてない」
「なんでだよ。片眼のほうがよく見えるってのか？」
「…これは、かつて、戦った戦士の…思い出だ」
「油断しねぇようにってか」
「…いや、敬意のためだ」
「…そっか。………なあ、アイゼン…そういうことを聞かされちゃ
楽にしてやらないわけには、いかねーよな」
「どういう事だ？」
「おめーは、戦士じゃねーよ。こういうのは、向いてねぇ」
「…なぜだ？」
「今、それを説明してやるよ、行くぜアイゼン！」
「ヤヴォール！」
何度目の突撃だろう？いや、今までの突撃とは違う。
ヴィータは、この一撃で決めるつもりだ。
チンクも覚悟を決め、刃を放つ、どれか一つ直撃すれば致命傷のはずだ。
もっとも、ヴィータの方も簡単に直撃させてやるような素人ではない。
シールドで弾き、アイゼンで叩き、ロールで回避して間合いを詰めていく。
「！」
はじき、叩き、回避したとはいえ、結構な打撃は与えた手応えがある。
にもかかわらず、ヴィータは零距離まで突っ込んでくる！
全力でシールドを張る。
向こうの捨て身の一撃をしのげば、カウンターのチャンスは入るはずだ。
「ぶち抜け！アイゼン！」
つあしゅ・・・舌噛んだ。
ともかく、カートリッジを消費してパワーアップさせた
巨大ドリルロケット風のグラーフアイゼンが、チンクのバリアを横から薙ぐ。
シールドに当たってアイゼンが震える。
「うおおおおおおおおおお」
ここで、さらにカートリッジを弾く。
限界を超えたパワーで、強引にチンクのシールドをぶち破る。
「いけえ！」
ハンマー自体ではなく、ハンマーの柄の部分が、チンクを吹き飛ばす。
その反動で、チンクが壁にたたきつけられる。
「…くっ」
「勝負ありだろ。じっとしてろ。無駄な抵抗すんじゃねーぞ。
あたしも、無用な殺生は好みじゃねーからよ」
「…おまえ…その怪我…」
「ああ？怪我？こんなのかすり傷だ。怪我なんて大げさなものじゃねえよ」
「手応えが無かったのではなく、痛みを遮断していたのか」
「そんな器用なことなんてできねえよ。痛みを遮断してるんじゃねえ。
気合いで痛みを感じないようにしてるだけだ」
「なぜ、そんなことをする」
「だからおまえは戦士にむいてねーってんだよ。
戦士だったら、そんな質問、思いつきもしねえよ。
それが戦いだからだ。それで答えはたくさんだ」
「…それが、戦い、か」
「…シャマル、ザフィーラ、聞こえるか？戦闘機人を１人確保した。
シャマル、転送で拾ってくれ。あと、はやてに言って、保護した戦闘機人を
アースラに移せるように手を打ってくれよ。
逮捕した奴を監視しながら、先にはすすめねえからな」
「わかったわ、ヴィータちゃん」
「シャマル。俺がバインドして連れてこよう。
主との念話は頼む」
「ええ、わかったわ」
さて、こちらは、フェイトとトーレ、アルフとセッテの戦いである。
この戦いは、トーレとセッテが優勢に進めていた。
トーレの速さはフェイトを明らかに上回っており、セッテの打撃力は
到底アルフの及ぶところではない。
「フェイトお嬢様。いい加減には、あきらめていただけませんか。
いえ、今からでも遅くはありません。ドクターに…」
「それは、こちらの台詞だ」
「フェイトお嬢様。確かに、お嬢様の能力はたいしたものです。
まだ、私も決定的な一撃を加えることはできておりませんから。
ですが、私は、お嬢様を怪我させたくないのです。
このままであれば、遅かれ早かれ、私に、一撃、入れられますよ」
「………」
この状況を打破する切り札、オーバードライブ、使うべきか、使わざるべきか。
使ってしまえば後がなくなる。だが、使わなければ………
「フェイト！」
セッテのブーメランが、アルフの目の前で方向転換して、こちらに向かってくる。
これをバルデッシュの魔法刃で切り伏せてかわす…そうか。
「バルデッシュ。オーバードライブ」
「Yes,sir」
二段階変身はヒロインのお約束である。
裸身活殺拳はフェイトのお約束である。
だが、しかし………
「フェイトお嬢様。装甲を減らして、スピードアップですか？
しかし、それでは、一撃で、死にますよ」
「…わかっている。…行くよ、バルデッシュ」
サイズフォームから、双剣へとバルデッシュは姿を変える。
トーレのライドインパルスと全くおなじ構えでフェイトはトーレに挑む。
トーレがその速さに驚愕の表情を見せる。
早い、圧倒的に早い、速さが命のライドインパルスを用いるトーレですら
フェイトの動きにはついていけない。
だが、それは防御力を捨てた代償。普通のバリアジャケットなら、かすり傷で
済む程度の打撃でも、今のフェイトになら、致命傷たりうる打撃になるはずだ。
トーレは、フェイトの動きを見きろうと動きを止め、フェイトにカウンターを当てようと
構える。
「アルフ！」
「わかったよ、フェイト！」
アルフがセッテとトーレの中間に入り、トーレの援護に飛ぶセッテのブーメランを阻止に入る。
もっとも、それがセッテのねらい、フェイトを狙っていたはずの
ブーメランは、空中で向きを変え、アルフの方を目指す。
「え？」
フェイトが、そのブーメランを切り落とすと
「プラズマザンバー！」
双剣を重ね合わせ、一本の大剣に変形させる。
その大剣の切っ先が急激に伸びて、セッテを直撃した。
「セッテ！」
次の瞬間、トーレは、目の前にアルフが現れたのに気がついた。
アルフがバインドを掛けようと魔法を放つが、こんなものをかわすのはなんでも…
ばしーん。
ゆりかごの床にたたき落とされた。
フェイトは、ザンバーモードのバルデッシュで、トーレをたたきつけたのだ。
立ち上がろうとするトーレに、容赦ないフェイトの魔力打撃刃モードの
双剣バルデッシュの攻撃が襲いかかる。
トーレもまた、セッテ同様に、床に横たわった。
「フェイト…大丈夫かい？」
「アルフ、二人をバインドして、出口まで持って行って。
わたしは、司令室の機能を、止める」
「わかったよフェイト。司令室に何があるかもわからないから、気をつけて」
さて、こちらは、チンクを撃破、ザフィーラに身柄を渡して、自らは動力炉室に
乗り込んでいった、ヴィータである。
動力炉、これを破壊すれば、ゆりかごは止まるはずだ。
他に補助動力炉があれば別だが、それでも、上昇速度を落とす効果は期待できるだろう。
「いけっ！アイゼン！」
何度もアイゼンをたたきつけ、壊そうとするが、なにぶんにも
全長数キロに及ぶ、聖王のゆりかごである。少々殴ったぐらいではびくともしない。
カートリッジを弾いては殴る、弾いては殴るを繰り返す。
「へっ…今頃になって、傷口がひらいてきやがったぜ………」
チンクとの戦いで受けた傷口から、血が流れ出す。
元々赤いバリアジャケットだが、今は血で赤く染まって、赤黒い部分と
燃える赤い色の部分の、まだら模様に変わっている。
「……けどな。こいつをぶっこわさなきゃ、ヴィヴィオを助けるわけに、いかねーもんな。
こいつをぶっ壊さなきゃ、カリムのために、予言阻止なんて、できねーもんな。
こいつをぶっこわさなきゃ！はやてが迷惑するんだよ！」
両腕を使い、渾身の一撃を動力炉にたたき込む…びくともした様子がない。
「なっ…これは……」
今まで、気がつかなかった？いや動かそうとはしてなかったんだろう。
「てめ……なめんじゃねえ！」
ヴィータを攻撃したガジェット…後に、ガジェットIV型と呼ばれるようになる
光学迷彩機能と、ステルス機能のある ガジェットの攻撃を受けたのだ。
普通の人間なら、即死…とまでは行かなくても、即病院送りの一撃だ。
ヴィータは、そんな打撃を受けても、素早くガジェットを撃破することが出来たが。
「………団体様でご到着かよ……上等じゃねえか！」
１０分後。
団体様のガジェットは、一体残らずがらくたに変わっていた。
覚悟完了した守護騎士が相手では、所詮自動機械ごとき、かなうはずがない。
「………つまらねえ時間、つかわせやがってよ…
……ぶち抜け！」
これが、ヴィータの最後の一撃になった。
動力炉が破壊されたのではない。アイゼンのほうが限界を超えたのだ。
「あ、ぁぁ…」
声にならない叫びを上げる。
アイゼンって、こんなに脆かったっけ？
…はやて、ごめん。……
ヴィータは、とうとう限界を超えてしまった。
いや、限界を超えていることを、自覚してしまった。
限界は、とっくに突破していたのだから……
本来、守護騎士プログラムは、主によるリブートによって
何度でも復活できる。
だが、夜天の書から切り離されて以降、主によるリブート機能は
かなり限定された能力しか意味しないようになってしまった。
普通の怪我程度なら、リブートで修復できるが、致命的損傷を受けた場合には
もはやリブートしても、元に戻らなくなってしまったのだ。
元になるデータ自身が、夜天の書とともに、消滅してしまった のだから。
…ああ、最後にはやての顔、みたかったな………
？あれ…はやて………その格好…。
リインとユニゾンしてる？…けど、リインの奴はシグナムと一緒に…
「ご苦労さまやったな、ヴィータ」
「はやて……」
「大丈夫、わたしが今、回復魔法使うからな」
「ごめん、はやて…動力炉…」
「…それも、大丈夫や。鉄槌の騎士ヴィータと、鋼の伯爵グラーフアイゼンが
こんなになるまでがんばったんや。それでこわれへんものなんて、何一つあらへん。
ほら………な」
はやての言うとおりだった。
見る間に、動力炉にひびが入り、 そして、砕け散った。
「はやて…」
「…さあ、ヴィータ、ヴィータは一旦、帰ろうか」
「ユーノ、聞こえる？」
「フェイト？どうしたの？」
「ゆりかごの管制室にたどり着いた」
「うん、わかった。そっちの状況は？」
「制御室らしい場所には到着したけれど、どうしたらいいのかよくわからない」
「本当はこんな貴重な文化財を壊すのは気が進まないんだけど…
…だけど、今はそんなことを言っていられる状況じゃないよね。
とりあえず、そこから、ゆりかご内部の状況が把握できるかどうか、やってみてくれないかな？」
「それなら見ればわかる。艦内状況がモニタ画面に映っている」
「それなら、話は早い。どんな状況？」
「聖王のまで戦闘が発生中、それから、主動力炉停止、補助動力炉への
動力切り替えが行われてる最中」
「自動で切り替わるんだ。…けど、補助動力システムの場所って、モニタ上でわかるかな」
「それはわかる。主動力炉の左右に配置されている」
「場所のデータを、シャマルとヴィータに送ってあげてよ。
それを含めて破壊してしまえば、ゆりかごを止められるんじゃないかな」
「…わかった、データを転送する」
「あと、制御室を、こちらでコントロール出来ない？」
「今やってみる……？……おかしい。制御室自体が、外部から
何らかの形でコントロールされている。？どういうこと？」
「制御室が制御されている？一体誰が？……」
「今、チェックしてみる…………」
「シャマル、聞こえるかい？」
「どうしたの、ユーノ」
「クラールヴィントで捜索して欲しいんだ。
何かが制御室に干渉してる。今、フェイトに制御室でゆりかごの機能を
停止するように操作してもらうから、それに対する干渉を加えてくる存在が
どこにいるか、確認して欲しいんだ」
「ええ、わかったわ」
「フェイト、非常停止を掛けて。今、制御手順をバルデッシュに送るから」
「わかった」
「うっふふーのふー。まったく、３人ともほんと使えない子ねぇ。
だ・け・ど。 わたし１人いれば、大丈夫よねぇ。
補助動力炉に切り替えればぁ。まだまだゆりかごは動かせるしぃ。
制御室なんて囮で、この第三艦橋から制御室なんて自由にうごかせるしぃ。
それに、ブラスターモードっていうから、何かすごいことでもやるのかと
思ったら、ただ体に負担掛けて、馬鹿魔力ひきだすだけだしぃ。
ほんと、がっかりだわ。聖王陛下には、あのまま戦闘を続けて、過負荷で
ぶったおしてくれれば、十分よね。
そのあとはぁ…」
「みーつけた」
「！」
ここは、ゆりかごの第三艦橋である。
司令室以外にも、ゆりかごを制御かのうな場所が複数存在している。
これは、ユーノが無限書庫から見つけてきたデータにも無かったことだ。
それは、古代ベルカの秘密中の、秘密だったのである。
だが、他の制御システムがあるとわかれば、場所を推測するのは、それほど
難しいことではない。データが空白になっている部分が怪しいに決まっているが
巨大すぎるゆりかごの事、そう簡単に、怪しいところにいる人物なんて見つけられる訳がない。
普通なら。
「レイジングハートのサーチビットを、ユーノくんの転送魔法でとばして
怪しい場所を探らせてもらったよ。そんなところにいたんだね」
「だ、だからといって、そこからあなたたちに何が出来るかしら。
こ、ここにたどり着くまでには、ガジェットや各種の防御システムをかいくぐり………」
「…ユーノくん！ヴィヴィオのこと、ちょっとだけお願い」
「わかった、ヴィヴィオ、すこしだけ、我慢して」
「え？」
「なのは、今、ゆりかごの制御を一時的に落とすよ」
「うん、お願い、フェイトちゃん」
フェイトが、制御室の制御機構を破壊する。
クアットロは、それを把握すると、直ちに第三艦橋で制御を直接
実行可能になるよう、操作を開始するが……
「レイジングハート、ブラスターモードフルドライブ。
長距離砲撃モード発動、カートリッジフルロード！」
「Yes,my master!」
…そうだった。なのはには、これがあったのだ。
ありとあらゆる障害を撃ち抜く、大火力砲撃が。
６年前の空港火災の時にも、貫徹力の強い、砲撃魔法で
スバルを…タイプゼロセカンドを救出した…あの砲撃が。
そして、今回の砲撃は、空港の壁を撃ち抜いた砲撃の比じゃない。
「クアットロ…ごめんね。そんな奥だったら、死なないように手加減して
撃つなんてこと、出来ないから、…全力全開で打ち込むから、死なないように
自分で気をつけて……ディバイン・・・…バスター・・・・・シュート！」
なのはが全力全開で放った砲撃魔法は、クアットロを巻き込み、そのまま
ゆりかごの装甲すら貫通して、クアットロをゆりかごの外にたたき出したという………
なお、墜落しかけたクアットロは、ユーノに捕獲されてアースラに運ばれたという。
俺の名前は武蔵坊弁慶。
やっと俺たちの出番かよ。
「スカリエッティ様。今、ゆりかごの機能を停止させ、ヴィヴィオから
レリックを取り出したという通信が入りました。
地上本部に向かった戦闘機人達も、すでに全員身柄を確保されています。
お約束通り、投降してもよろしいのではありませんか？」
「ふふ…君たちは、わたしを甘く見過ぎているようだねぇ。
まだ、わたしには、本当の切り札が、残っているのだよ」
「切り札？」
「そう、…君たちの、想像も出来ないだろう形でね。ふふ……
ふははは〜はーはっはっは」
この、根拠のない自信は、一体どこから湧いて出るんだろう。
けど、そういえば、まだ、ゼストを阻止したという報告はないよな。
もしかして、ゼストが、スカリエッティにとっての、切り札だとでもいうのか？
それとも、まだ姿を見せない、戦闘機人No.IIが切り札？
…これで、終わったわけでは、ないようだ。
