異聞・少女義経伝・四
地上の星
【第二十四章】
〜雷鳴〜
さて、同じ頃、ゆりかご内部に突入した隊長達は、各々自分の割り当てへ向けて
進んでいた。
馬鹿みたいに巨大な船、聖王のゆりかご。
まず通路からして馬鹿みたいに巨大だ。
高さが１０ｍぐらい、幅も同じぐらいある。古代ベルカ人は、身長７ｍの巨人だったのかと
言いたくなる巨大さだ。
「ゆりかごの通路が巨大なのは、聖王の偉大さを艦内に入った人に見せつけるためって
いうのが定説だけどね。構造図を見たけど、ほとんどがらんどうなんだ」
「ユーノくん、がらんどうなら、もっと小さく作れなかったのかな？」
「実際に古代ベルカ人が巨大だったって説を唱える人もいるよ。
だけど、古代ベルカ人って言っても、ミッド人の祖先筋の種族が
そんなに大きさに差があるっていうのも不自然だからね。
・・・なのは、この先が、聖王の間だ。気をつけて」
「わかった、ユーノくんはそこで待ってて」
「なのは、危険だよ」
「わかってる、だから、ユーノくんはそこで待ってて」
「だから僕も…」
「…ユーノくん、ほんと、変わってないね」
「なにが？」
「…ユーノくんには、わたしって、まだ、魔法文化のない世界に住む
普通の女の子なんだ。…だけど、わたしは、あれから１０年経ったんだよ。
他のことならともかく、危ない事になるんだったら、管理局のエースオブエースの
ほうが、考古学者より詳しいんだから。…だから、わたしは大丈夫。
それより、ユーノくんには、ここにいてて欲しいんだ。
…きっと、ユーノくんの知識は、他の人にとっても、必要な場面って、あると思うから」
「……わかった、なのは。…だけど、気をつけて」
「もっちろん。…さあ、行くよ、レイジングハート」
「…シャマル。様子はどうだ」
「今のところ、なのはちゃんも、フェイトちゃんも、ヴィータちゃんも、順調に
目的地に向かってるみたい」
「アースラからの情報はどうだ？」
「アースラからは、ゆりかごが高度を徐々に上げてるって情報しかないわね。
大気圏を突破するのに、あと２時間は掛かるみたい。
一時間以内に、ゆりかごを止められるなら、脱出で手間取ることがあったとしても
十分脱出できるわね」
「…今のところ、この突入穴をふさぎに来る存在もないか」
「…このまま、すべてが順調に過ぎてくれればいいんだけど…」
どっかーん。
「…と、あぶねえ。なんだ、急に壁が…」
動力炉を目指すヴィータが、壁際によった瞬間、壁が爆発した。
それを避けて反対側の壁に向かうと、そちらが爆発する。
爆発を避けてまん中を飛ぼうとした時。
「まじかよ…」
天井が爆破されて落ちてきた。
「いくぜアイゼン！」
「ヤヴォール」
ギガントフォームで天井を殴って壊す。
「こんな無茶苦茶な戦法、誰が使ってやがる」
ヴィータは地図を確認する。
動力炉へ向かう通路も、十分に巨大だ。飛行魔導師が楽々飛行しながら行けるぐらいに大きい。
しかし…。
「そこかっ！」
こんどは、地上から金属製の刃が飛んできた。
刃をかわそうとした時、至近距離でその刃が炸裂する。
炸裂した破片を、シールドでかわす。
「…誰だてめえ」
「…戦闘機人、No.Vチンク…ここから先へ行ってもらっては困るな」
「悪いけど、おめーの相手してる暇ねーんだよ。
飛べないんなら、この先へ行かせてもらうぜ」
「行かせるわけにはいかない」
「っても、空飛べないんだろ。んじゃあたしのじゃまするんじゃねーよ」
「行かせると思うのか？」
「行かせてもらう！」
ヴィータは、チンクを無視して先を急ぐ。
どっかーん。
「！」
「…姉のＩＳだ。姉は、どんな金属でも、爆発物に変えることが出来る」
「………無視して先に進もうとしても、あらゆる壁が仕掛け地雷になって阻止するって事かよ」
「そういうことだ」
「…けど、ただそれだけの事なら、おまえが姿を現す必要もねーよな。
なんか、企んでることがあるだろ」
「そんな物があっても、おまえに教えてやる義務はない」
「そりゃま、そうだよな。………けど、おまえを無視して先に進むのが
やばいってことぐらいは、あたしでもわかるぜ」
「…その気になったか」
「たりめーだ。船自体を壊される前に、てめーをぶっ飛ばす！」
「出来るか？ユニゾンしていても、騎士ゼストに落とされたおまえに」
「スバルにぶっ壊され掛けたおまえに負けるわけにはいかねー。
あたしにも、教官としての意地ってのがあるんだよ」
「！…行くぞ、ヴィータ」
「おら、来てみろよ！」
同じく、司令室を目指しているフェイトの前には、再会になる
戦闘機人が待ちかまえていた。
「フェイトお嬢様、どちらへ向かわれるのですか」
「…トーレと、セッテだったね」
「はい、その通りですフェイトお嬢様。お嬢様なら、ドクターの
されていることの意味がおわかりでしょう。
今の管理局体制は、間違っているのです」
「たとえ、管理局が間違っているとしても、スカリエッティはもっと間違っている。
聖王を復活させ、ロストロギアであるゆりかごまで使って、一体何を始めるつもりだ」
「ドクターは、生命の限界に挑戦されているのです」
「古代ベルカの王族の様にか。それは、破滅への道だった」
「ですが、古代ベルカに、ドクターはいらっしゃいませんでした」
「…ゆりかごが、どんなものなのか、おまえ達にはわかっているのか」
「我々は知りません。ドクターが知っていれば良いことです」
「ドクター・スカリエッティか。…わたしも、あなたたちと同じように思っていたことがあった」
「では、お嬢様も、私たちに協力して、くださいますね」
「あった。過去形だ。今は違う」
「どう違うのですか？」
「…自分で考えて、調べて、反省して、正しいと思える事でなければ
してはいけないことなんだ。…口で行っている事、目に見える態度で示していること
それだけにとらわれてはならないんだ。…１０年前のわたしには、それがわからなかった。
わかっていれば…もっと早くわかっていれば……」
「フェイト…」
「…あなたたちが、わたしと同じ過ちを繰り返す必要はない。
考えを改めるべきなのは、わたしではなく、スカリエッティだ。
いや、それより先に、あなたたちが考えを改める必要がある」
「我々は、ドクターを裏切ることはしませんよ」
「セッテ、それは違う……あなた達は、ゆりかごが何かも知らずにゆりかごを動かしている。
それではいけないんだ。ゆりかごがどんな物か知らないのなら、…スカリエッティが
ゆりかごで何をするのかわかっていないのなら、…それに手を貸してはいけない。
それは、…それが、…後悔の原因になる」
「…我々は、ドクターを信じます。…フェイトお嬢様が、ドクターの敵になるのなら
私たちも、不本意ながら、お嬢様と戦わざるを得ません。…ご理解ください」
「盲目的な忠誠は、…忠誠を誓う相手にとってさえ、望むべき事ではない」
「フェイト！危ない！」
「バルデッシュ！」
「Yes,sir」
トーレのライドインパルスを、素早い機動でかわす。
「一撃目はかわされましたね。ですが、その速さでは、私には勝てませんよ」
「アルフ、アルフはセッテを」
「わかったよ、フェイト」
場面は再び、フォワードチーム達へと戻る。
ここは、廃棄都市の一角、ビルの屋上で、戦闘機人達の戦況を見守るルーテシアがいる。
「ルーテシア！」
「…だれ？」
「機動六課ライトニング小隊、エリオ・モンディアル」
「同じくキャロ・ル・ルシエ」
「…何をしに来たの？」
「…話をしに来た」
「そう…わたしには、何も話すことはない」
「じゃあ、廃棄都市で何をしているのかを聞かせてよ。
ここは立ち入り禁止区画なんだ」
「…わたしには、関係ない」
「関係ないじゃ済まないよ。一応は犯罪なんだ、事情を聞かせてもらわないと」
「どうして？」
「どうしてって…僕は、一応は、管理局員なんだから」
「だから？」
「………どういう事？」
「あなたは何も見なかった。何も聞かなかった。それでいい」
「いいわけがない！」
「どうして？」
「どうしてって…」
「ルーテシアちゃん。エリオくんは、ルーテシアちゃんのこと、心配してるんだよ」
「わたしは心配される理由がない」
「どうして？」
「…どうして？」
「…ルーちゃん、なんで、悪いことするの？」
「悪いこと？」
「………悪いことだって、思ってないんだ」
「悪い事って、何？」
「何って…やっぱり、犯罪は悪いことだよ」
「…誰が決めたの」
「誰がって……それは…ほら、偉い人がみんなで集まって決めたんだから…」
「…偉い人って？」
「……偉い大人の人…」
「…管理局が決めたことに逆らうのが、犯罪者。
だけど、管理局が正しいとは限らない」
「間違ってるとも限らないよ！」
「エリオ、それ、違う。…管理局は、間違ってる」
「どうして？」
「レリック１１番」
「？」
「レリック１１番、どこへ行ったの？」
「えっと…あれは、地上本部襲撃の時には、機動六課の隊舎に置いてあったけど
あの襲撃事件の後で、安全な所に移すっていって、本局に持って行ったんだ。
それから先は、僕も知らない」
「そう…ありがと。………レリック、あそこにあったんだ」
「…どうしたの、ルーちゃん」
「わたしに必要なの、知っていたのに」
「必要かどうかなんて聞いてないよ」
「…持って行っちゃったんだ」
「持って行ったって…だから、レリックがどうして必要なのか
教えてくれなかったじゃないか」
「………持って行っちゃったんだ…本局に……」
「ルーちゃん？」
「…ガリュー…………あいつら、捕まえる」
ルーテシアはガリューを召喚する。
ガリューは、ルーテシアの命令を待つように傅く。
「ルーテシア！だからまず話をしてよ。どうしてレリックが必要なのか。
どうしてこういう事をしてるのか」
「…大嫌い……あなたたち…あなたたちみたいな、知った風な顔して
近づく人は……誰より……だいっきいらい！」
ルーテシアがエリオを指さし、それから親指を下向きに下げる。
ガリューはそれを見て、エリオに襲いかかる。
「エリオくん！」
「僕は大丈夫、それよりキャロはルーテシアを」
「うん、わかった」
ガリューとエリオが一騎討ちを始める。
キャロはまだルーテシアに何か話しかけようとするが、次の瞬間。
何も言えなくなってしまった。
ルーテシアが、切り札中の切り札を使ったのだ。
ハクテンオウ…もはや召喚獣というより、怪獣と呼ぶ方がふさわしい、巨大生物。
「ハクテンオウ………あいつら…やっつける。…やっつけちゃえ！」
「ルーちゃん！そんな巨大召喚獣を使ったら、廃棄都市区画全体がめちゃくちゃになっちゃう！」
「…うるさい！あなたたちの言うことなんか…もう、…何も聞きたくないっ！」
「…ルーちゃん！いいから話を聞いて…」
ハクテンオウが攻撃態勢に入った。
話を…なんて言っている場合ではない。
いや、今のルーテシアの状態では、いつハクテンオウがルーテシアの
制御を外れてしまうかもしれない。そうなったら、廃棄都市区画どころか
クラナガンの一般市街地だって、無事では済まないだろう。
「…ヴォルテー〜ル！」
キャロも、切り札の中の切り札を使う。
いや、むしろ、ヴォルテールの方が、キャロを守りに現れようとしたと言うべきか。
どちらが原因で、どちらが結果か、それはもはやどうでもいいことだろう。
アルザスの守護龍、ヴォルテールが、キャロの危機に応じて、現れたのだ。
怪獣大決戦の始まりである。
「ヴォルテール、ハクテンオウを止めて！」
何もかも事情は知っている、という風に、ヴォルテールがハクテンオウに近づく。
ハクテンオウの方は、自分に匹敵する強敵の存在を確認すると、全力で
ヴォルテールを押さえにかかる。
「…ルーちゃん…本当に、こんなことがしたいの？
こんなこと、ガリューも、ハクテンオウも、望んではないよ」
返事は、言葉ではなく、魔法弾で帰ってきた。
「…ルーちゃん………」
キャロは、魔法弾をシールドで弾く。
回避しなければならないほど、強力な魔法ではない。
さて、ガリューとエリオの戦いは、若干ガリューが押し気味に進めていた。
本来飛行できるガリューと、ストラーダを操ると言うより、ストラーダに振り回されて
空を飛んでいるエリオでは、ガリューの方が自然に闘えるのも当然である。
「くっ……」
「…………」
まっすぐ飛ぶだけなら、エリオにも出来る。その速さはガリューの追随を許さない。
だが、方向転換をしようとする時の減速時を、ガリューに狙われるのだ。
そこで防戦一方になり、また逃げるようにしてストラーダを使う。
それをガリューに追いすがられ…繰り返しだ。
わかってはいる。わかっているが打開策が見あたらない……。
『シグナムさん。九羅香さん相手に戦うのなら、空から遠距離攻撃してるだけで勝てるはずですよね
どうして、地上に降りて戦うんですか？』
『一度、それを試したことがある』
『どうなったんです？』
『攻撃の呼吸が切れる一瞬の隙に、フラッシュムーブで間合いを詰められて一撃入れられた』
『攻撃の呼吸？』
『どんな魔導師も、常に攻め続けるというわけにはいかない、必ず、終わりがある
その、攻撃の始まりから終わりまでの一続き、それが一呼吸だ。
切れ目のない攻撃とは、相手の受けの一呼吸と、こちらの攻めの一呼吸とが調和して
全体として、相手に反撃の余地が現れない状態。逆に、こちらの攻めが相手の受けと
調和してしまうと、呼吸の切れ目に攻守が逆転する』
『どちらも、調和してなんですね。それで、どちらがどちらの呼吸にあった状態か
わかるんですか？』
『それは、言葉で説明出来るような物ではないな。実地に体験してもらわねば』
『じゃあ、その実地の体験というのをお願いします』
『まだ早いだろう』
『ですけど、今、教えてください』
『…いいだろう、思う存分打ち込んでこい』
『はいっ！』
………呼吸。相手の攻撃の切れ目……そうか！シグナムさんのいわんとしたことは
そういうことだったんだ。
エリオは、一つのビルの屋上に止まる。
高速機動を止め、相手の攻撃を待ちかまえる。
もちろん、ガリューの方は、エリオを待ってやる理由がない。
ガリューは、高速機動が不可能になったエリオに対して、一撃離脱で攻撃を加えていく。
シールドで攻撃を受け流そうとするエリオ。だが、攻撃は一撃、一撃、すこしずつ
エリオの魔力も体力も削り落としていく。
（もうすこし、…もっと…もっと攻撃をっ！）
普通に見れば、エリオがサンドバッグ状態に入ったとも見えただろう。
ガリューも、そう見たようだった。
とどめを刺すべく、大技を使うための態勢に…
「紫電一閃！」
ストレージデバイスの特徴。特定の魔法に特化している分、封じられている
魔法を使う時には、発動が早く、その効果も安定していること。
ストラーダは、高速機動の補助と、近接戦闘に特化している。
空飛ぶ槍、それがストラーダの仕様だ。
エリオは、ずっと待っていたのだ、この瞬間を。
ガリューが、一つの攻撃の流れから、別な攻撃の流れに切り替えようとする瞬間を。
攻撃の呼吸の切れ目、息継ぎする瞬間を。
ガリューは、一瞬、何が起きたかわからなかった。
エリオには、それだけで、十分だった。
エリオの特殊能力、変換資質で電撃に変換された魔力のこもったパンチは
一撃でガリューを落とすのに十分だった。
「ガリューっ！」
「ルーちゃん！もう、十分でしょ。…お話、聞いて！」
「……許さない…絶対許さない…」
ある意味、ルーテシア最強の召喚獣、画鋲虫がキャロに襲いかかる。
これはやっかいだ。攻撃力はたいしたことがないが、小さくて狙いにくい。
そして数が多い。まとめて叩く能力でも無ければ、たたきつぶせるものではない。
これに対する、キャロの選択は、ルーテシアに飛びかかることだった。
これは、ルーテシアにとって、予想外だったらしい。
今まで、魔法戦しか見たことがなかったし、第一キャロは召喚師、強化士である。
そのキャロが肉弾戦？そんなはずはない。
その思いこみが、ルーテシアに対応を遅れさせた。
キャロの〜そう、キャロの〜渾身のストレートが、魔法でもなんでもない
こぶしが、ルーテシアの頬を打った。
「…！」
殴り飛ばされたルーテシアが、キャロをにらみつける。
「…痛い、でしょ。…だけど、ルーちゃんは、そういうこと、召喚した子達にやらせてるんだよ。
召喚師だったら、召喚した子達のこと、召喚した子の痛みのこと
わかってあげなきゃ、いけないんだよ。
ルーちゃんは、あのこたちのこと、どう思ってるの？
ルーちゃんに取って、あの子達は、ただの道具なの。いくらでも代わりのいる
ただの道具に過ぎないの？…ねえ、それだけでも答えて、ルーちゃん！」
「………」
ルーテシアも、黙ってキャロの頬を平手打ちする。
「あの子達は、わたしのことを知ってる！
わたしが何を求めてるか！わたしがどうしてこんな事してるか！
どうしてレリックを集めてるか！みんな知ってる！
あなたなんかに…あなたなんかにお説教される理由なんてないっ！
管理局が殺したわたしのママが…わたしのママを助けるのに
レリック１１番が必要だから…だから探してるって知ってる！
あなたたちが…あなたたち管理局が殺した！わたしのママを殺したんだっ！
あなたたちに…何がわかる。管理局員は、みんな、ママの敵！
あなたたちだって…優しい振りして近づいてくるあなたたちだって
所詮は、管理局員なんだ！」
「だけど、ルーちゃんのママだって、管理局員だったんだよ！」
「！…」
（ママ、今日はどこへお仕事に行くの？）
（秘密）
（ママ、教えて〜）
（ママは管理局のエージェントだから、お仕事の事は、秘密にしないといけないの）
（エージェント？）
（そう、エージェント。ほら、ルーテシアも、テレビで見たことあるでしょ）
（うん。悪い奴らの秘密基地を、魔法でやっつけるの、見たことある）
（エージェントって、みんな、自分がどこで何をする人か、秘密にしてるでしょ）
（うん。秘密にしてる）
（だから、ママも、今日のお仕事でどこに行くかは秘密）
（…秘密なんだ）
（そう、秘密。…だけど、晩ご飯までには、帰ってくるからね。
お昼は、用意してあるから、自分で食べて）
（うん、日が暮れるまでには、帰ってきてね。約束だからね）
（約束ね）
…………ずっと、忘れてた。
………忘れて、いたかった。
……管理局を憎んでる方が、楽だった。
…ママが、やっつけに行った、悪い奴らの秘密基地が、何かとか、考えたくなかった。
ママが、ドクターのところで、仮死状態のまま、保存されてるのなら
ママが向かった先は、ドクターの所、なんだ。
ドクターは、ママを殺した、悪い奴らの、仲間、なんだ。
…だけど、管理局だって、悪い奴らの、仲間なんだ。
……管理局が、ママを殺したって、ドクターは言ってた。
………騎士ゼストを殺したのも、管理局だって、ドクターは言ってた。
…………騎士ゼストも、そういっていた。
……………じゃあ、誰が正しいの？誰が、悪い奴ら？誰が………
「ルーテシア。君は少しつかれてるんだ。休んだ方がいい」
呆然と突っ立っているルーテシアをバインドして、落としたのは、オットーだった。
「予想外だったよ。ルーテシアを言いくるめるなんて。
だけど、直ぐにティアナを片付けた僕の仲間が…」
オットーの言葉も、そこまでだった。
魔法弾が、一撃でオットーを打ちのめしたのだ。
魔法弾はどこから？答えは直ぐに明らかになった。
ヘリのローター音が響いてくる。そして、聞き慣れた声が。
「おーい新人ども！首都防空隊の精鋭を連れてきたぞ。
全員まだ無事か！さあ、反撃開始だぜ」
「こちらスターズ４ティアナ。戦闘機人３人を撃破、１人を拘束。
直ちに応援願います」
「こちらスターズ３スバル。銀ねぇを保護しました。ヴァイス陸曹、収容をお願いします」
「こちらライトニング３エリオ、ガリューを撃破しました。僕は無事です。
ガリューは、ルーテシアなら回復出来ると思います」
「こちらライトニング４キャロ。ルーちゃんを保護、オットーをヴァイス陸曹が
撃ち落としたのを確認、今バインドしてます。応援をお願いします」
「なんだよヴァイス。急いで助けに行けっていうから、押っ取り刀で来たってのに
来てみたら全部終わった後かよ。ったく、俺たち、何しに来たかわからないぜ」
「…推定ＡＡ級戦闘機人４人が１人に全滅。ＳＳＳ級召喚獣を召喚出来る
Ｓ級召喚術師を無傷で確保。さらに、ＡＡ級魔導師を怪我させることなく捕獲。
…機動六課の陸士は化け物か？」
「ま、先輩が優秀だからかな」
「姐さんの事か？」
「なのはさんやフェイトさん、それに義経軍団も忘れるなよ」
「自分の名前が挙がるのを期待してるんだろヴァイス。けど、言ってやらんぞ」
「俺はただの落ちこぼれだからな」
「嘘付け、地上の星計画の一番星、姐さんの期待を一身に背負った
首都航空隊打撃班一の狙撃手のくせしてよ」
「まったく、ヘリを飛ばすだけにしておくのは惜しい腕だぜ。
あんな遠距離狙撃、誘導弾でも滅多当たるものじゃねぇ」
「ばーか、無誘導弾の速度だから当たるんだよ」
「で、なんで地上の星計画から降りたんだ、おまえは」
「言ってやるなよ、まだ姐さんを引きずってるんだろ」
「あのな、姐さんと俺とは何の関係もないっての。
俺が降りたのは、…純粋に、ドジっただけだからな」
「……ああ、あの誤射か…けど、あれは仕方ないだろ。人間、誰しもミスすることはある」
「…わかってる。…けど、俺は、有頂天になってた自分が許せなかったんだよ。
俺は、スポットライト浴びる立場になるような、そんな人間じゃないってな。
それで…」
「それで、姐さんをすっぱりあきらめた、と」
「無理矢理そっちの話に持って行くな！」
「で、アルトとは進展したのか？」
「ああ？アルトぉ？ったく、あの不肖の後輩が。未だに宙返り一つできやしねえ」
「インメルマンは出来るようになったのか。そりゃすごい」
「あんなもん、誰だって練習すりゃ直ぐ出来るようになる」
「つきっきりで教えりゃだろ」
「そりゃそうだが…と、そろそろ到着だぜ。みんな、気を抜くなよ」
「わかってるぜ、ヴァイス。戦闘機人達は、俺たちが確実に保護しておくよ」
「ああ、頼む。…聞こえるか新人ども。確保した戦闘機人やギンガさん、ルーテシアは
首都航空隊に任せておけ。…俺たちは一旦アースラに戻るぞ」
「了解しました、ヴァイス陸曹」
機動六課フォワードチームは、期待された通りのこと。
いや、それ以上の事をやってのけたようだった。
だが、これで取り除かれたのは、危機の一部にすぎない。
地上本部に向かった騎士ゼストも、二つの月の魔力を受けるべく
上昇中のゆりかごも、まだ、阻止されてはいないのだ。
