異聞・少女義経伝・四
地上の星
【第二十三章】
〜星光〜
「よぉ、ティアナ、…生きてるか？」
「ヴァイス陸曹、念話は盗聴されてるようです」
「そっか、けど、こいつは大事な話だからな、盗聴されていても伝えておく必要がある」
「なんでしょう？」
「陸士１０８部隊は、ガジェット対策に出動することになった。
それから、教会騎士団は、全力でスカリエッティのアジトの確保に向かっている。
それから、地上の他の部隊は、ゼスト対策で総動員…要するに、こっちには援護が
全く来ないって、アースラから連絡があった。
グリフィスが掛け合って、なんとか、戦闘機人護送担当ぐらいは、回してもらえることになったけどな」
「どういう意味なんですか？」
「簡単にいうと、フォワードチームだけで戦闘機人の無力化をやれってことだ。
一旦戦闘能力を奪いさえすれば、後のことは、護送担当がやってくれる」
「…わかりました。ヴァイス陸曹、ここの結界を作ってる戦闘機人について、何か？」
「何か…なにもわからねぇな。上手いこと隠れてやがる。
それに、俺は今から護送担当を運んでこなけりゃならん。すこし現場を離れる。
とにかく、何とか生き延びてくれ。…じゃあ」
「………わかりました。出来るだけ早く戻ってきてください」
…………
S級砲撃魔法の接近を感じた瞬間、ぎりぎりでシールドを発生させ、わざと吹き飛ばされた。
なのはさんのディバインバスターを、デバイスなしでシールド防御する訓練のおかげで
砲撃魔法への対処法も、それなりには体が覚えている。
だけど、まさか状況がここまで悪くなるなんて。
フォワードチーム4人相手に、戦闘機人4人…いや、結界担当を加えると5人。それに
ギンガさんとルーテシア。しかも、戦闘機人のすべてが、わたしに向かってきている。
わたしに出来るのは、幻術で身を隠しながら、逃げ回ることだけ。
期待していたのは、外部からの救援。…だけど、それも今のヴァイス陸曹の念話で
あきらめざるを得ないとわかった。
どうしろっていうのよ。…なのはさんなら、そりゃま、こんな状況でも
切り抜ける方法があるのかもしれないけど、…わたしはなのはさんなんかじゃない。
けど、戦闘機人に見つかったら、命はないかもしれない。
…これで、終わりかな…。
『あきらめるには早すぎます、マスター』
「…この状況で、どうしろっていうのよ。スバルがギンガさんを説得して救援に来てくれるとか
キャロやエリオが、ルーテシアを説得して援護に来てくれるっていうのを期待するの？
…だけど、それは、向こうも想定しているはず。その上でこれだけの戦力を
わたしに集めてきているのなら、何か、それには大差句句があるはずよ。
必要なのは、計算外のファクター、…向こうが想定してないような、何か…
…何か向こうが見落としていてくれない限り、可能性はないのよ」
『見落としてくれているファクターはあります、マスター』
「…なに？」
『奴らの話はお聞きになったでしょう。あの砲撃で、マスターを落としたと思いこんでました』
「ま、確かにね。普通、S級砲撃魔法をB級魔導師にたたき込んだら、死なないとしても、重傷よ」
『ですが、マスターは未だに無傷です』
「………どういうこと？」
『マスターの個人的戦闘能力が、奴らにとっては、計算外のファクター、そういうことです』
「…ありがと、クロスミラージュ、元気づけてくれて。
だけど…頼りにならない計算外の要素ね。確かに、戦闘機人が1人だけだったら
勝てる自信はあるわ。…正面からのたたき合いでも。だけど、4人を相手にどうしろって？
あれで連携に隙でもあれば、つけ込めるけど、教科書通りのフォーメーション。
おもしろみはないけど、隙もない、無難なやり方ね。
あれを崩す方法も、教科書通りで行けるとは思うけど………勝てる気がしないわ」
『マスター。マスターなら、出来ます』
「根拠のない精神論ならお断りよ。
……わたしがここで逃げ延びてる限り、少なくとも、戦闘機人4人を引きつけていられる。
ギャンブルに出てわたしが落とされたら、あいつらは、スバルや、エリオや、キャロに対応出来る。
…わたしは、落とされるわけには、行かない」
『その通りです、マスター。ですが、長くは逃げ回れません』
「残りカートリッジ数を考えるとね。……今は幻術で時間を稼いでるけど、この調子で
カートリッジを消耗したら、20分で、カートリッジが尽きるわ」
『10分で、AAA級魔導師が、奴ら4人を撃破する方法を、見つけられませんか？』
「AAA級魔導師1人vsあいつら4人…それなら、崩す方法はあるわよ。だけど、それが何の役に立つの？」
『オーバードライブでAAA級の出力を出します。30秒なら、制御仕切れます。約束します、マスター』
「AAA級の出力？…フレーム、持つの？」
『大丈夫です。S級魔法対応のフレームで私は構成されてます。マスター』
「………A級魔導師には、えらくオーバースペックな強度ね」
『なのはさんの経験から、デバイスの強度は、オーバースペックでもいいから高くするように
調整してあります。魔力の制御を気にせず、デバイスが使えるように』
「………なのはさんの経験、ね。…レイジングハートを壊しかけた、エクセリオンモードの
反省なんでしょ。それは聞いたことがあるけど…だけど、AAA級なんて、制御出来るの？」
『出来ます。…わたしは、そのために作られたんですから。…地上の星計画、最後の希望のために』
「…地上の星計画、か。名前はわかるけど、一体どんな計画だか、皆目見当もつかないわ。
名前だけは聞こえてくるけど、内容は、さっぱり。一体どんな機密なのかしら」
『べつに機密というわけではありません。マスター以外の人なら、よく知ってます』
「…どういうこと？」
『…忘れてください、マスター』
「今教えて。どうして、わたし以外の人ならよく知っていて、わたしは知らないことなの？」
『………………マスター。約束してください。私を信じてくれると。
それ以上に、マスターご自身を、信じることを。そして、あの4人を、…必ずマスターが
無力化することを』
「…………………」
『マスター。私を信じてください。マスターになら、出来るはずです。
あの程度の4人を、単独で撃破することは、出来るんです』
「………どうして、そこまでわたしを高く評価するの？…誰が、わたしをそんな
風に評価してるっていうのよ。……一体、誰が………」
『…信じて、くれないのですか？マスター』
「………根拠なしに何かを信じられたら、…気が楽になれるかもしれないわ。
わたしは…そこまで、楽天的には、なれないわよ」
『…そうですよね。…あまり長く話もしていられないようです。
同じフロアまで戦闘機人が来ました。…ですから、手短に、お話いたします』
「なにを？」
『地上の星計画…一般陸士の士気向上と、先天資質、レアスキル偏重の管理局のあり方を
改革するためのプロジェクト』
「それは知っているわ」
『それを実現するために、一般陸士中、先天資質もレアスキルも持たない一般陸士の中から
才能があり、厳しい訓練に耐える得る志のある人物を選抜、養成し、誰もが認めざるを得ない
結果を上げさせ、その結果に対する処遇を行う。これによって、他の一般陸士にも
やれば出来るという認識を与えると同時に、魔力に欠ける隊員など訓練するだけ無駄という
管理局一般に流れる空気を払拭する。機動六課はそのための訓練部隊であると
同時に、結果を出させるための実戦部隊です』
「…つまり、わたしたち、フォワードメンバーが、地上の星計画で、成果を上げなきゃならない
一般陸士ってわけね。…だから、なのはさん達と合同で行動するんじゃ…」
『達ではありません。マスターだけです』
「？」
『地上の星計画での育成対象は、マスターだけです。他のフォワードメンバーは、マスターの
補助役として選ばれただけです。…思い出してください、マスター。
スバルさんや、エリオさんや、キャロさんが、先天資質もレアスキルもない一般陸士と言えますか？』
「………」
『信じてください。…マスターなら、出来ます。出来るはずです。そうでなければ
最後の希望として、選ばれているはずが、ないのですから』
「………………………なんで…なんで、今更…こんな事…」
「みつけたッス！」
「！」
タイムアップ。見つかった。
残りカートリッジ数から考えて、まだ逃げるだけの時間はある。だけど…
『マスター』
「クロスミラージュ、オーバードライブ待機」
『roger』
「やっと追い詰めたッスよ。もう、逃げられないッス」
「油断するな、何かまだ切り札が残ってるようだ」
「ディードは悲観的すぎだろ。幻術で逃げるしかない奴に、何が出来るっていうんだよ」
「ノーヴェ、落ち着く。…S級の直撃に耐えることも、私たちの想定外だった」
「ディエチの言うこともわかるけどよ」
「…ま、普通にやれば絶対負けないッスよ」
「…油断するな」
「フォーメーションを崩さなければ、大丈夫ッス」
（クロスミラージュ。幻影発生）
「？…4人に分裂した？」
「けど、どれが幻影かはバレバレッス、何の役にもたたないッスよ」
「クロスミラージュ、オーバードライブスタート！」
『roger,my master』
「来るぞ！」
「突っ込んで来てるのは幻影だけ、本人は動いてない…」
「ノーヴェ！」
ノーヴェ、スバル同様のシューティングアーツの使い手。
まずは、突進する幻影を囮に使い、ローラーブレードを魔法弾で潰す。
同時に飛びかかっていったもう一個の幻影…これは、カバー役のウェンディに向けてある。
「なっ！」
予想通り、シールドでセンターガードをカバーするのがあの子の役目。
これでタイミングがわずかだけずれた。
「そこっ！」
ディードの姿が消えたことで、わたしのもっとも弱い位置に現れることが想定できる。
クロスミラージュのセンサーが、わたしの後ろについた目として機能する。
オーバードライブ中のクロスミラージュをダガーモードに設定して、ディードの双剣を
受ける。…よし、今っ！
「あ…」
普段のキャロポジション…第3の幻影にかくして置いた魔法弾をディードの後頭部に直撃させる。
ディードの弱点。奇襲メインの高速機動タイプで、防御力は薄い。
AAA級魔法弾を、急所に直撃させれば、一発で落ちるはず。…よし、計算通り。
「クロスファイア…シュート！」
「！」
振り向きざまにクロスファイアを打ち込む。
ディードが落ちたのを確認する前に、魔法弾による攻撃など出来ないはず。
なのはさんやフェイトさんと違って、味方を信じて、受けること前提の
攻撃が出来るほど、意思疎通が出来ているとは思えない！
これで、ディエチを暴発で撃破。
「ディエチ！ディード、何が起きたっスか？」
ウェンディ。あなたはガードの基本がわかってない。
シールドで幻影からディエチを守っても、味方の射線が空いた瞬間には
シールドによる防御を行うことは出来ない。
魔法弾には、誘導能力がある。見える物には当てることが出来る。
そして、当てることが出来る物は、やっつけることが出来る！
「ウェンディ！後ろだっ！」
「うしろ？」
ノーヴェって子は、あの4人の中では、頭一つ抜けてるみたいね。
わたしの意図を正確に読み取った。…0．5秒だけ遅かったけど。
ディードを落としたのと全く同じ流儀、シールドで防御した幻影の中に
かくして置いた誘導魔法弾が、ウェンディの後頭部にも直撃する。
「うぉおおおお！」
ローラーブレードが動かなければ、普通に走ればいいじゃない。
全く正しい。ここで、リボルバーナックルによる射撃を選択しなかったことは
あなたが、あの３人よりも、戦闘について、経験を積んでることを示している。
フォワードが突撃することで、他の戦闘機人が立ち直る時間を作れるかもしれない。
そこまでが、わたしの想定でなければ。
「！」
走る勝負だったら、わたしも負けてない。スバルのマッハキャリバーと同じ速さで
走る練習だってしてる。短時間だけなら、その速さで走れる。
ノーヴェがわたしの突進に対して受けようとする。
けど、違う、わたしのねらいはそっちじゃない。
ノーヴェの攻撃をシールドで受け流して、そのままクロスミラージュの
射撃を、ディエチとウェンディに打ち込む。
確実に、あの二人の戦闘能力を、奪い取るために。
さらに、もう一度振り向いて射撃、ノーヴェは楽にかわすけど
そう、この射撃の標的も、あなたじゃない。
「！」
「…クロスミラージュ、オーバードライブ終了」
『roger』
「どういう事だよ」
「勝負はついたわ。…戦闘機人ノーヴェ、ディエチ、ウェンディ、ディード。
あなた方を、保護します！」
「…………まだ…勝負は…」
「試してみる？」
「……………」
「銀ねえ！なんで…なんでこんなことを…」
「…スバル、そこをどきなさい」
「だめだよ銀ねえ。…どくわけにはいかない」
放棄区画の高速道路だった場所。その上で、ギンガとスバルの２人は対峙していた。
ギンガの服装は、管理局の制服でも、通常のブリッツキャリバーによるバリアジャケットでもなく
ナンバーズが着ている戦闘服だ。
「銀ねえ…なんで、あいつらなんかに…」
「…スバル、これは、必要なことなのよ。…母さんの死の真相を知るために」
「だからって、こんな事しちゃだめだよ」
「どうしてかしら？」
「…どうしてって…」
「…それに、騎士ゼストには、レジアス中将に会う権利がある」
「だけど、こんなやりかたをしていいいって言う理由はないよ」
「どうして？」
「…どうしてって………」
「答えられないでしょ。だったら、そこをどいて。…スカリエッティは、少なくとも
殺人者ではない、むしろ、管理局の方が、人殺しかもしれないのよ」
「そんなことはない！…銀ねえ、目をさまして」
「どうしてわかるの？」
「じゃ、どうしてスカリエッティが人殺しじゃないなんてわかるの。
ママのことを持ち出すのはずるいよ銀ねえ」
「どうして？わたしは本当の事を言ってるの。
騎士ゼストがレジアス中将に会えば、すべての謎が明らかになるわ。
それが何かを知るためには、私たちも、地上本部に行かなければ。
それとも、ギンガ、あなたも一緒に来る？」
「………それも、出来ないよ、銀ねえ」
「どうして？」
「どうしてって………そう、あたしには、あたしを信じてる仲間がいるから！
あたしが、ここにいて、銀ねえをつれもどすって、そう信じてる仲間がいるから！
だから、あたしは、自分のやるべき事からは逃げない！
あたしは…かならず、銀ねえを連れて帰る！」
「…それは、母さんの死の真相よりも、管理局の不正を暴くことよりも、大切なことなのかしら？」
「そんな比較に意味はない！あたしは、自分で選んで管理局員になったんだから。
あたしは…泣いてる子を助け出せる、…そうなるために、管理局員になったから
だから、銀ねえも、かならず、…助けだす！」
「…わたしも、泣いてる子の１人なの？」
「……そうだよ、銀ねえ。…銀ねえも、泣いてる子…なんだ。
ママを探してる子は、いくつになっても、泣いてる子なんだって…
…フェイトさんが、教えてくれた。
銀ねえ、目をさまして！こんなやり方じゃ、ママの死の真相とか、管理局の闇を暴くとか
出来るわけないって」
「……スバル、思いだけじゃ、何も伝わらないわ」
「……力だけじゃ、何も解決しないよ、銀ねえ」
「…あなたに、思いを貫く力があるか」
「銀ねえに、本当の思いがこもってるか」
「…ブリッツキャリバー」
『Yes,sir』
「行くよ、マッハキャリバー！」
『Yes,my buddy』
シューティングアーツ使い同士の戦いは、基本的に小細工がない。
ウィングロードでお互いの隙…側面、ないし、背後に回り込む機動を試みることもあるし
実際、ギンガもスバルもそれを試してはみているが、極端な実力差でも無い限り
あるいは、よほど相手に隙が無い限り、それが成功する見込みはない。
これは、お互い、相手の実力を測るための、手合わせといったところだ。
「デバイスを教化したのね、スバル」
「銀ねえ……改造、されちゃったんだ」
「…………真実を得るための…代償よ」
「…………行くよ」
「…そうね」
正面から激突し合う。
お互い、バリアで相手の攻撃をガードすると同時に
お互いが相手のバリアを突破すべくこぶしを振るう。
どちらが先にバリアを砕くか。正面からの力比べだ。
ギンガの改造された腕〜ドリルアームが、力任せにスバルのバリアを砕く。
まだギンガのバリアをスバルは貫いていない、勝負あった…
違う、これはわざとバリアを砕かせた。
バリアが砕けた瞬間、スバルは身をかわしてドリルを避けた。
どうしてわざと？…バリアに回す魔力をこぶしに込めるため！
こっちのバリアも砕ける…回避…
「一撃必倒…ディバイン・・・・」
だめ、この距離じゃ回避する時間がな
「バスター！」
スバルの全力の魔法打撃が、ギンガを貫いた。
ディバインバスターA.C.S。なのはのA.C.S特攻と
本質的には同じ魔法である。直撃であれば
A級魔導師ギンガといえど、一撃で落とす威力がある。
そして、スバルのディバインバスターA.C.Sは、確実にギンガを直撃したのである。
