異聞・少女義経伝・四
地上の星
【第二十二章】
〜騎士〜
さて、時間は少しさかのぼる。
こちらは機動六課宿舎。隊長達がアースラに去り、義経軍団がスカリエッティの
アジトへ向けて、アルトのヘリで出かけてしまっているので、ずいぶんと
寂しくなっている。それでも、グリフィスとルキノ、シグナムにリインは
司令室に待機しているし、ヴァイスはヘリのチェックに余念が無く、フォワードチームは
待機室で、いつ出撃になるのか、気を揉みながら待っている。
「ティア、九羅香さん達、大丈夫かな」
「あの人達なら大丈夫でしょ。そんなことより、自分の心配をしたら」
「自分の心配って？」
「何があるかわからなくても、多少は状況について考えてみるべきでしょ。
そりゃ、アジトにスカリエッティ一味が勢揃いしててくれれば、話が早くていいわよ。
だけど、それを期待するのもね」
「騎士ゼストだけは、また、地上本部へ向かうんでしょうか」
「たぶんね。シグナム副隊長に期待してるけれど、ヴィータ副隊長を一撃で落とすほどの
魔導師相手じゃ、楽観もしてられないわ」
「フォワードチームを含む全力で対処しなければ、ならないんでしょうか」
「ていうか、騎士ゼストを到達させるための陽動作戦あるっていうのも、想定する必要があるわ。
こちらの主力をゆりかご向けに待機させてるってわかっていたとしても、すこしでも
戦力を地上本部防衛に回させるために、いくらか戦闘機人を引っ張り出してくるっていうのも
あり得る事よ」
「…銀ねえは、どうなってるのかな」
「…ギンガさんね…普通に考えたら、アジトに幽閉されてるんでしょうね。
そっちは、九羅香さん達が、上手くやってくれると思うわ」
「…ルーテシアとガリューは、どうだろう？」
「ルーテシア…か。どうかしらね。陽動で来るとしたら、あの子の可能性は高いわね。
転送で騎士ゼストを地上本部の目の前に送り出す。阻止する手段はないわ。
だけど、それだとしたら、前回転送で襲撃してこなかった理由がわからない。
…この期に及んでも、情報が少なすぎるわね。
いずれにせよ、あたしらが呼び出され…」
『フォワードチーム全員、シグナムだ。直ちに司令室へ集合せよ』
「…と、本当にお呼び出しだわ。急ぐわよ」
「わかった、ティア」
「はい」
「急ぎましょう」
というわけで、司令室である。
メインモニターには、首都クラナガンの防空マップ。
マップの端、ちょうどスカリエッティのアジトがあるあたりに、ゆりかご出現の
マークが現れている。サブモニターには、ゆりかごの姿が映し出されている。
アースラから転送されてきた映像だ。
「あれは…」
「あれが、ゆりかごだ。クロノ提督が無限書庫で発見したゆりかごの外見に良く似ているな。
だが、おまえ達を呼んだのは、あれが目的ではない。
ゆりかご出現と同時に、エインヘリアルの配置予定地が襲撃を受けた。
第一地区のエインヘリアルを撃破したのが、騎士ゼスト。
第二地区はガジェットの襲撃を受けた。
第三地区は戦闘機人だ。
私は、当初の予定通り、騎士ゼストに対処するために出動する。
第二地区、第三地区のどちらかへ、おまえ達フォワードチームを出動させる。
残った方は、主の長距離砲撃で、牽制する予定だ」
「それで、どちらに出動するんですか？」
「それは、おまえの判断に任せる」
「…………どちらが、より危険でしょうか」
「それも、おまえが判断しろ、ティアナ。おまえが、フォワードチームのリーダーだ」
「…ですけど、あたしは二等陸士ですよ」
「海では階級は関係ない。おまえがリーダーである以上、おまえがチームの責任者だ」
「………わかりました。では、フォワードチームは戦闘機人に対処すべく出撃します。
ガジェットについては、八神部隊長の長距離砲撃にゆだねます」
「…わかった。…グリフィス、ここは撤収すべきだろうな」
「そうですね、僕も同意見です。ルキノ、行こうか」
「わかりました、グリフィスさん」
「ティア…なんで、戦闘機人の方を選んだの？」
「ガジェットが相手なら、長距離砲撃でつぶせるかもしれないけど、戦闘機人は
砲撃だけで撃破出来ない可能性があるわ。
地上部隊が態勢を整えるまで、なんとか、戦闘機人を足止めしないと」
「そうですね。…戦闘機人の方が、より脅威である可能性が、高いです」
「ルーちゃん、いるかな」
「どうかしらね」
『おら、新人ども、ヘリの準備は出来てるぜ。急いで来いよ』
「はい、わかりましたヴァイス陸曹。フォワードチーム、これよりエインヘリアル第三号機
配備予定地へ向かって出動します」
「よろしい、では、私も騎士ゼストの元へ出動する」
さて、こちらは、ゆりかごに向かった、なのは達である。
ゆりかごの防御火力は、ないに等しく、なのは達は楽々とゆりかご内部に侵入できた。
「古代ベルカの究極兵器って言う割には、簡単に中に入れたね」
「なのは、油断したらだめだよ。古代ベルカ時代の戦いは、王自らが強大な魔導師、あるいは
戦士として、主力を担っていたんだ。
聖王は、その、古代ベルカ時代最強の王なんだよ。
だから、ゆりかご自体には、それほどの攻撃力は備わってない。
ゆりかごも、その戦闘力の大半は、聖王が担っているんだ」
「…だけど、ここまで私たちは攻撃を受けなかった」
「ヴィヴィオちゃんが、私たちを攻撃するのを嫌がっているのか、それとも
スカリエッティが、ヴィヴィオちゃんを使ってゆりかごを動かすことは出来ても
ヴィヴィオちゃんを聖王として覚醒させることは出来ていないのか…」
「うだうだ考えててもしかたねーぜ。ユーノ、このゆりかごってのは、どうやったら止まるんだ？」
「だから、前にも説明したと思うけど、動力炉、司令室、聖王…この三つのすべてを取り除けば
止めることが出来ると思う。問題は、どうやって止めるかだ」
「うだうだやってる暇はねーだろ。３つに別れて、同時に制圧するのが手っ取り早いぜ。
こんなばかでけーしろものだ。一個ずつ潰してたんじゃ、その間に、ゆりかごが
二つの月の魔力を受けられるようになるかもしれねー。
そうじゃなくて、自己修復機能とやらで、一旦潰したはずの場所が元通りって
ことになるかもしれねー。各自がそれぞれの持ち場を、全力で潰すのがいちばんはえーよ」
「だけど、危険だよヴィータ。できるだけ戦力は集中した方がいい」
「同感だな、ヴィータ。転送魔法を使えば必要な場所に移動できるはずだ」
「どうしたザフィーラ、あんまりのんびり構えて、盾の守護獣の誇りをどっかに置き忘れたんじゃねーか？」
「ヴィータちゃん！」
「…あたしが、えらそーなこと言えた立場じゃねーのもわかってるけどよ。
あたしも、ゼストとやるまで、騎士の心構えを、どっかに置き忘れてたみてーだ。
……あのさ、死ぬ気で掛かってくる奴が相手だったらよ、
こっちも、死ぬ気でやんなきゃ、止められるわけねーだろ。
奴らだって命がけなんだよ。あたしらも、命がけでやってやんなきゃ、悪いだろ」
「ユーノ、ヴィヴィオの居場所はわかるかい？」
「ああ、アルフ。それなら聖王の間に決まってる。そこが聖王にとってもっとも
力を発揮しやすい場所なんだ。魔力がもっとも集中する場所にあるからね」
「…ユーノくん、じゃあ、私は、聖王の間に行くから」
「まってなのは、僕も行くよ」
「…アルフ、私は司令室を潰す。…そこに、スカリエッティがいるかもしれない」
「わかった、あたしも一緒に行こうか」
「あたしは、動力炉を潰すぜ。…シャマルとザフィーラは、ここに残ってろよ。
出口を確保する奴は、必要だからな」
「待てヴィータ、一緒に行こう」
「シャマルを１人でおいとくのかよ」
「じゃあ、私も…」
「いーから、あたしを１人で行かせろよ。この先、何があるかわかんねーんだぜ。
予備はいなきゃ不味いだろ。… ま、どじ踏んだら呼ぶからよ。安心してろ」
「……わかった」
「ヴィータちゃん…気をつけて」
「たりめーだ。とっとと終わらせて、はやてにご褒美の御飯、作ってもらわねーとな」
「旦那、エインヘリアルぶっ壊してよかったのかよ」
「壊したのは土台だけだ、２，３日あれば復旧できる。今撃てなくしただけだ」
「けど、これで確実に犯罪者だぜ。…旦那は、何もあいつらの手助けすることもないじゃないか」
「アギト、おまえは気にするな。おまえは何も見ていないし、何も聞いていない」
「旦那ぁ。なんであたしをのけ者にするような事を言うんだよ。
旦那、なんかおかしいぜ。大体前の時だってそうだ。なんでルールーに転送してもらわなかったんだよ。
ルールーに、地上本部ん中に転送してもらや、レジアスんとこにだって直ぐに行けただろ。
旦那…一体、何考えてるんだ？」
「…俺が死んだ後の事だ」
「だから、なんでそんな事考えるんだよ。何も今日死ぬって訳じゃないんだろ」
「どうだろうな」
「旦那ぁ。…旦那がしんじまったら、ルールーどうするんだよ。
あいつらの手に完全にゆだねちまうっていうのかよ」
「それはちゃんと考えてある、心配するな」
「じゃあ心配させないように…。と、ほらいわんこっちゃない。
空飛んで行くから、また管理局の奴に捕まった」
「……器物損壊と、飛行制限違反ですね」
「誰だ、おまえは」
「機動六課訓練中隊ライトニング小隊副隊長、シグナム。
元首都航空隊所属…あなたの、後輩と言うことになります」
「…一度は、航空隊の制服を着た者同士のよしみで、見逃してはくれんか？」
「それは、出来かねます。…それに、あなた自身、それを望んで折られるわけでも、ないでしょう」
「…ベルカの騎士か？」
「夜天の書の守護騎士の１人です。…ですが、このような会話も、お望みではないでしょう」
「ちょっと、シグナムちゃん、何を言い出すですか」
「私が騎士であること、私があなたに伝えるべき事は、騎士の言葉で、語るとしましょう」
「…それでこそベルカの騎士。行くぞ、シグナム」
「…始めましょう」
「シグナムちゃん、一体何を…」
「旦那、なんで好きこのんで戦う…」
「アギト、ユニゾンアウトしろ、このものとは、自分の力で戦ってみたい」
「冗談じゃない！あたしは、旦那を守るって決めたんだっ！」
「シグナムちゃん、アギトちゃんから、旦那を守ってくれって言われたの忘れたんですか」
「案ずるなリイン。これは、話し合いにすぎん。…行くぞ、レヴァンティン！」
「ヤヴォール」
「シグナムちゃん、ユニゾンするですよぉ…なんでみんなこんなに血の気が多いですかぁ！」
さて、こちらは、第三建設予定地へ向かうフォワードチームの乗ったヴァイスの操縦するヘリである。
「ヴァイス陸曹。なんでヴァイス陸曹のバイクを積んでるんです？」
「車庫に置いておくと、何があるかわからんからな。
泥棒に取られないように安全のためだ」
「ちゃかさないでください」
「ちゃかしてるつもりもないぜ。…ま、必要ならティアナ、おまえが使えよ。
鍵はついてるから、いつでも乗れるぜ」
「…ありがとうございます。必要な時には、借りさせてもらいます」
「ああ、そうしろ…と、アースラから戦闘機人の動きについて情報が入った。
今後部座席で見れるようにするから、ちょっと待てよ」
「ありがとうございます、ヴァイス陸曹」
「…第三建設予定地から、廃棄都市区画経由で地上本部を目指してるわね」
「地図の上ではそうですね」
「ティア、なんで人のいるところを避けるんだろう。それにエインヘリアルはどうして破壊を？」
「万が一を避けたんでしょうね。ゆりかごをエインヘリアルで砲撃されたり、地上本部を
目指す戦闘機人やガジェットをつぶされないように」
「ヴァイスさん、これ、戦闘機人の映像は出せませんか？」
「ああ、ちょっとまて、長距離望遠で拾った映像が来た」
「………」
「………」
「………これって………」
「銀ねえ！なんで！」
「…考えてもはじまらねーだろ。どうすんだ？」
「銀ねぇを確保しなきゃ！」
「スバル、落ちついて……ヴァイス陸曹、戦闘機人達を先回りしてください。
ギンガさんを確保するために、戦闘機人を迎撃します」
「わかった、それで、俺はどうすればいいんだ？」
「………上空援護と、アースラとの通信維持をお願いします。
あ、バイクは不要です。この程度なら、走っていけます」
「よし、わかった。…気をつけてな」
「はい、ヴァイス陸曹も」
ヴァイスは、ヘリを加速し、認識された戦闘機人の想定ルートを先回りする位置へヘリを向ける。
「よし、ここならいいだろう」
「はい、では降下します。…エリオとキャロは、フリードを使って上空からあたしらを援護して」
「わかりました」
「はい」
「スバル。ギンガさんの説得は任せるわよ。あたしは、幻術である程度戦闘機人の誘導を試みるわ」
「了解っ！」
ヘリから降下する４人。降下しながらのバリアジャケット展開も今は当たり前の行動だ。
降下後、直ちに、訓練通りのフォーメーションをくんで待ち受ける。
だが…
「！…ルーテシア」
「エリオくん？」
「ティアナさん、あっちにルーテシアがいるんです」
「………転送魔導師を放置しとくわけにも行かないか。
エリオ、キャロ、ルーテシアに対処して。出来れば説得してみて」
「はいっ！わかりました」
「行こう、フリード」
「ティア、いいの？」
「あれは、止めても行きそうな雰囲気だったしね。
それより、姿かくしてなさい。ヘリの幻影を…」
「ティア、危ない」
「え？」
砲撃魔法が二人の立っている場所に襲いかかる。
すばやく、スバルが、戦闘機人の接近して来るであろう方へ、逆にティアナは
戦闘機人が離れてくる方へ移動してかわす。
「ヴァイス陸曹。砲撃魔法のきた場所を…なっ！」
「ティア、何が？」
「ちょっと接近戦魔導師が転送で送り込まれてきただけっ。なんとか防いでるわ」
「ティア、待ってて、今助けに…」
「あんたはギンガさんの確保に専念しなさいっ！そうしてくれれば
戦力が上がるわ」
「わ、わかった…ティア、ちょっとだけしのいでて」
「大丈夫、距離さえとれれば…」
そういうと、ティアナは、アンカーガンで、降下ポイント…放棄された高速道路…から
隣のビルへと飛び移る。
ビルの窓からの射撃で、スバルやエリオやキャロを援護するつもりだ。
ヘリに乗ったヴァイス陸曹との十字砲火も期待できる。悪くない作戦だ。
…もし、ここまでの状況すべてが、戦闘機人側の作戦通りでなかったとしたら。
「！」
結界魔法で、ビルが覆われる。
これでは、射撃魔法で支援などやっていられない。
「ようこそ我等がクラブへっス。
ここまで全部オットーの計画通りっスよ」
「どういうこと？」
「チームは頭を潰せば終わりって事っス。
４人揃って一人前、幻術使って逃げるだけが能の豆鉄砲使いでも
チームリーダーとして、４人を連携されちゃ、面倒だから
分断して各個撃破っスよ。
ま、殺さないようにはするつもりっスけど、死んじゃったらごめんっス。」
「ウェンディ、…逃げたぞ」
「あー、また逃げたっスか。全く行儀悪いッス。人の話は最後まで聞くッスよ」
「おまえがのたのたご託を並べ過ぎなんだ。…ガジェットは全部牽制に使って
あたしらの所には廻ってないんだ。それに、こいつはとっとと片付けるぜ。
あたしは、ハチマキ相手に、返さなきゃならないかりがあるんだから」
「確かに、大変っスね……と、念話は全部聞こえてるから、逃げ回って
他の奴に指示を出そうとしても無駄っスよ」
「だからなんで教えてやるんだこのタコ！」
「絶望してもらうためッスよ。オレンジ頭は１人じゃ何も出来ないはずッス」
「油断すんなよ。…時間がねーんだ」
「けど、オレンジ頭の幻術を破る新装備をドクターにつけてもらってるッスよ。
幻術でちょろちょろ逃げ回っても、だいじょう…」
「ウェンディ！」
「物陰から射撃ッスか！」
「ていうか、幻術使って分身射撃かよ…けどな……見えてるってのは、ハッタリじゃねーんだよっ！」
ティアナの射撃〜弾の大半は幻影なのだが〜をかいくぐったノーヴェは、本物のティアナに回し蹴りを加える。
ティアナはその威力で吹き飛ばされる。
「やったッスか？」
「…いや、完全にシールドでガードされた。幻術が見えてるかどうか試しやがったみたいだな」
「生意気っスね」
「けど、一フロアずつ、確実に追い詰めて、絶対に潰してやる」
「そうッスね。それで、今オレンジはどっちに向かったッスか？」
「…このビルはまん中がすぽっと抜けてる廃屋。床や壁を抜けば音でわかる…。
「つまり？」
「つまり…ほら、そこっ！」
アンカーガンで、ティアナは上へ向かって脱出をはかろうとしていた。
それを待ちかまえていたディードが奇襲する。
「！」
アンカーガンはまっすぐにしか移動できない、と思うのが素人。
両手にアンカーガンがあるのだから、片方を外してガードに廻し
もう片方で移動することも出来るし、一旦アンカーガンを外して
ダガーモードで双剣をガードすることも出来る。
ティアナが選択したのは後者だった。
したにたたきつけられそうになってから、アンカーガンで横に…。
どっかーん。
砲撃魔法がティアナを襲う。
S級砲撃魔法。こんどは直撃だ。さすがのティアナも避けきれなかったようだ。
直撃を確認した戦闘機人４人が、ティアナにとどめをさすべく態勢を整えて接近する…。
「…いい騎士だ。アギト…おまえのマイスターにふさわしいかもしれんな」
「だから死ぬこと前提の話をすんなよ旦那。旦那には、生きてやるべき事があるんだろ」
「むろんだ」
「…騎士ゼスト。あなたの太刀筋は、悲しみがこもっている。
なぜです？なぜ、捨て身の太刀を振るうのです」
「おまえの太刀には、人を切る気魄がない」
「むろんです。この勝負は、あなたを殺すためのものではない」
「そうか…では、なぜ刀を抜いた」
「騎士の言葉を…聞くためです」
「おまえの太刀…それが、おまえの、言葉か」
「そのつもりです」
「濁りのない太刀筋。騎士の言葉を解する瞳。…ベルカの騎士は、こうでなくてはな」
「…ですが、あなたがなぜレジアス中将の元を目指すのか、それがわかりません。
あなたの太刀筋と、あなたのされてることが、一致しないのです。それは…」
「…そうだったな。…私は、レジアスの元に行かねばならぬ。
礼を言う、シグナム。…おまえが、私に、それを思い出させてくれた」
「…礼にはおよびません。それより、騎士の言葉ではなく、普通の言葉で
こんな形で、レジアス中将の元にいかねばならぬ理由を、教えてもらえませんか」
「…アギトにふさわしいマイスターを捜すためだ」
「…ベルカの騎士を捜しておられるのですね」
「そうだ」
「…見つかりましたか？」
「見つけた」
「…………では、後は、レジアス中将に会うのみ」
「…そうだな。…次の太刀で、決めよう」
「望むところです…」
互いに魔力を高め合う。だが、命を削ってフルドライブを掛けるゼストが相手では
さすがにリインとユニゾンしているシグナムといえど、魔力でゼストを上回るというわけにはいかない。
「…烈風一陣！」
「…隼一閃！」
正面から、魔力と魔力がぶつかり合う。
「ぐあっ！」
落とされるのはシグナムの方だ。
「……」
「旦那っ！旦那っ！あいつの攻撃は当たらなかったんだろ！…旦那ってばっ！」
「…………ぅ……あ、ああ、大丈夫だ。まだ…飛べる」
「早くレジアスんとこ行こうぜ。…あいつ、致命傷は負ってないみたいだ」
「…そうだな。…先を急ごう」
ゼストは、残された力を振り絞って地上本部へと向かう。
シグナムが落とされた今、オーバーS級魔導師を押しとどめる物は、何もない。
「シグナムちゃん、シグナムちゃん、大丈夫ですかぁ…」
「………思ったより、強烈な打撃だったな」
「シグナムちゃん…なんで、リインをかばって打撃を受けるですか」
「……お互い、放ったのは魔力打撃だ、心配するな」
「だけど、まともに当たったですよ」
「１，２分、休めば魔力も回復する。…その程度の打撃にすぎん」
「それだけ待ったらゼストが地上本部に入ってしまうですよ」
「……すまんな、阻止するには少しまにあわないかもしれんが…」
「そんなことより…」
「…よし、騎士ゼストの後を追うぞ」
「は、はいですぅ！」
シグナムも、ゼストの後を追う…だが、どうやら、地上本部にゼストが
たどり着くより先に、シグナムが追いつくことは、無理そうだった。
何しろ、飛行速度自体、ゼストの方が早いのだから。
