異聞・少女義経伝・四
地上の星
【第二十章】
〜通報〜
俺の名前は武蔵坊弁慶。…
「弁慶、何やってるの？」
「いや、久しぶりに出番があって感動してるとこ」
「訳わからない事言ってる暇があったら、次のスカリエッティの動きへの
対策ぐらい考えろ。いくら部隊長がアースラを受領に行ってるとはいえ
スカリエッティがそれを待ってくれる保証はないんだぞ」
「わかってるよ九羅香。だけど、ユーノの予測じゃ、スカリエッティが動くのは明後日だろ。
明日にはアースラが帰ってくる。機動六課メンバーだけじゃなくて、ユーノやアルフも
戦力として加わるんだから、さすがに負ける要素はないんじゃないか？」
「弁慶、だから問題なんだ。こちらの準備が整わないうちに、何か仕掛けてくる可能性もある」
「そりゃそうだけど、半ば杞憂だろ。いくら連中が物量を誇るとはいえ、あの一日で
破壊したガジェットの数は、今まで破壊したガジェットの総数を超えてるぜ。
それこそ、ロストロギアでも使うんでなけりゃ、何か出来るような気はしないけどな」
「弁慶、だから問題なんだってわからないのかよ」
「何だよ玲奈、人を頭の不自由な人みたいに言って」
「…今だからこそ、切り札を使ってくる可能性がある、ということよ。馬鹿弁慶」
「馬鹿だけ余計だ。だけど、それなら、逆に、地上本部襲撃の時に、切り札を使うんじゃないか？」
「これが〜本当に〜スカリエッティの〜意志による〜犯罪だという保証も〜ないんですよ〜」
「え？」
「観月殿の言う、自作自演の可能性は、まだ捨てきれない、ということなのだな」
「ええ〜そういうことです〜」
「…自作自演だとしたら、目的は一体なんなのだろう」
「エインヘリアルの配備〜というのは〜良く疑われてますけど〜それは別にしても〜
管理局体制の〜強化の必要性を〜示す行動では〜ありますよね〜」
「管理局体制の強化か。確かに、その必要性ははっきりとさせた」
「ええ〜フェイトさんの〜言うとおりです〜」
「だけど、管理局が弱体だって示して、管理局を強化するために
わざわざ犯罪者を支援する意味ってあるのかな？」
「普通に考えたら、なのはの言うとおりなんだ。
今でも管理局は、ああいうはっきりとした姿の見える犯罪者相手には十分強力だから。
それこそ、教導隊を投入して排除出来ないほど強力な、次元犯罪者は想像も出来ない。
それこそ、夜天の書級の特A級ロストロギアを駆使する次元犯罪者が相手でも
教導隊なら対処できるよ。
だけど、観月ちゃんの言うことを考えていくと、なんとなく、スカリエッティの
手を借りようとしてる、管理局の考えも、わかる気がするんだ。
妖魔の力を借りようとした、兄上と一緒だよ。
良い目的のためなら、悪い手段を用いてもかまわない、そんな気になってくるんだ。
今の管理局には、管理世界の平和を作るような、そんな力はない。
次元世界間の平和を維持するのが手一杯。その現状に不満を抱いて、直接
それぞれの管理世界を、よりよくすることが出来るほどの力を求めたくなったとしても
それは、私にも、兄上の事を思うと、理解できる」
「九羅香…だけど、それを可能にするほどの力が、管理局にもてるとは思えないよ。
第一、ゆりかごみたいなロストロギアを使ったりなんかしたら、それこそ
他の反管理局体制的な次元世界が、ロストロギアを使って抵抗しようとする
きっかけを作り出すような物だ。いくら管理局のお偉いさんだって、それぐらいのことは
わかりそうなものだけどなぁ」
「………それがわからなくなるんです。権力とは、そういうものですよ、弁慶さん」
「グリフィス…」
「最初は、みんな善意でやってるんです。グレアム提督だって、そうだったでしょう？」
「ああ、グレアムさんか。…御師匠様のマスター…俺たちが管理局に入るきっかけになった
事件の、言い方は悪いけど、黒幕だったよな」
「だけど、あれはあくまで、ロストロギアの封印が目的だった。
今度はゆりかごを発掘しようというんだろうか」
「…どうかなぁ」
「憶測で物を言っていても仕方あるまい。
主はやてが戻る前に、何か事件が起きた場合の対応策は、既に出来ている。
後は、それに備えておくだけだ」
「そりゃま、そうなんだけどさ。逆に言えば、備えるったって、もう計画は立ててあるし
それこそ、無駄話でもして待ってる他、やること無いぞ」
「あたしはむつかしい話なんてどうでもいいぜ。あたしらがやるべき事は
ギンガとヴィヴィオの救出が第一、スカリエッティの逮捕が第二。
他は、機動六課だけでやらなきゃならねーことじゃねーだろ」
「まあな。地上部隊は、なぜか捜索にも及び腰だが、教会騎士団の方が
捜索活動を行ってくれている。そこから、何か手がかりでも見つかれば
逆に、それを契機として、スカリエッティが暴発してくれる可能性もある」
「動く物は見える、見えれば、捕まえられる」
「ああ、そういうこと」
「本当は〜みなさんが〜帰ってきた後で〜行動できれば〜いいんですけど〜」
「それは、私も期待してることだよ。だけど、希望的観測だけで話をしててもね」
「そういえば、ヴァイスの奴は何やってるんだ？」
「ヘリの整備だろ。シャマルとザフィーラは医務室で待機してる。
アルトは休憩中」
「ルキノ、通信は何も入ってないか？」
「ええ、本局でマリエルさんと一緒に、デバイスの調整と、リインフォースツヴァイ曹長の
治療に当たってるシャーリーさんから、リイン曹長もアースラと一緒に帰還できる、って
いう連絡が入っているぐらいです」
「説明的な台詞ありがとよ。…けど、リインが帰ってくるのは…なんていうか…うれしいよな」
「…次も、リインと一緒に行くか？」
「いや、あたしはもういいよ。あいつには迷惑かけたし。それより、…シグナム
万が一、ゼストが現れたら、こんどはおめーが行くんだろ。
リインも連れて行けよ、…必ず、役に立つぜ」
「ああ、覚えておこう。だが、リインは本来、主はやての融合騎だ」
「まあな。あたしらともユニゾン出来るように調整はしてあるし、ぴったり合わせても
くれるんだけど、はやてとユニゾンするようにはいかねーよな、やっぱ」
「…弁慶、ついてこい」
「ん？どうした九羅香唐突に」
「体を動かしてないと体がなまる。すこしつきあえ」
「なんだよ、体動かしてばっかりだと、肝心な時につかれてたりするぞ」
「べ〜ん〜け〜い〜。そういって体を温めておかないと、いざというときに
体が動かないぞ。軽く汗がにじむ程度には動かしておく物だ」
「…わかったよ。よし、じゃあ行くか」
「ふむ、私もすこしは修練するか、気晴らしにもなるだろう」
「あ、待ってくださいお姉さま。お姉さまが行くなら私も〜」
「待ちなさい楓、九羅香様のじゃまになるようなことはしてはいけませんよ」
「…なのは、私は自室で今回の事件についての報告書を読み返してくる。
なのははどうする？」
「私は……ここで待ってる。今にでも、何か、連絡があるかもしれないから」
「なのはさん、重要な連絡があったなら、直ぐにお知らせしますから」
「ありがとうグリフィス君。だけど、…一秒でも早く、情報を受けたいから…」
「わかりました」
「はい〜みなさんいってらっしゃい〜」
「あたしも忍ねこどもと鍛錬してくるかな」
「あの〜玲奈さん〜鍛錬の前に〜すこし〜ブリーフィングルームに〜よってもらえませんか〜」
「なんだよ、ここじゃ言えないような話なのか」
「はい〜玲奈さんにしか言えない〜ちょっとしたお話です〜」
「ったく、一体なんだってんだよ〜」
こうして、機動六課の司令部…アースラがまだこちらに来てない以上、課長不在とはいえ
ここが機動六課の拠点だ…には、グリフィスとなのは、そしてルキノが残ることになった。
待つよりほか、何もすることがない。とはいえ、待つのもまた、大事な仕事ではあった。
それは、唐突な出来事だった。
「郵便です〜」
「ありがとよ
ヘリを整備中のヴァイス陸曹が、郵便屋の持ってきた手紙を受け取る。
グリフィス自身の愛機は、戦闘機人ディードに壊されてしまったが
今更のように配備された、聖王教会の新ヘリコプターが機動六課に貸与されている。
機動六課のヘリ二機態勢は、グリフィスのヘリが戻るまでお預けだが
とりあえず、ヴァイス自身は、ヘリを飛ばしていられそうであった。
…と、届いた郵便物が安全かどうか、ヴァイスはストームレイダーを使って検査する。
ひとまず安全そうなので、会議室で中身を調べることになる。
調べるお仕事は、シャマルとフェイトの割り当てだ。
「…あら、これは一体なにかしら？」
「…懐かしいな、なのはとビデオレターをやりとりするのに使っていた
CD-Rだ」
「差出人は、第９７管理外世界の人なんでしょうか？」
「いや、…差出人の名前はどこにもないし、消印はクラナガンだ」
「…おかしくないです？一体クラナガンの誰が、こんなものを持ってるんでしょう」
「おかしいな。直接映像を使って会話する方が、CD-Rなんか使うより
よっぽど早いはずなのに」
「どんなフォーマットを使ってるんでしょう？」
「わからない。だけど、第９７管理外世界風のものをつかっているのなら
たぶん、第９７管理外世界の流儀で、読めるんじゃないかと思う」
「クラナガンに、第９７管理外世界のものなんて、あるんですか？」
「シャマルは、ちょっと世間に疎すぎるよ。
第９７管理外世界ブームのおかげで、この手のアイテムも、コレクター向けに
結構販売されているんだ」
「なのはちゃん仕様とかもでてましたね、そういえば」
「うん、そうだね」
フェイト仕様もあるのだが、そこはお互い言わないことにして
この場にいない、なのはのことだけ、話題にしておくことにした。
フェイトが、昔〜１０年前の思い出の品〜を使って、CD-Rをひらく。
もっとも、このCD-R。ビデオレターごっこ用に作られた、ミッドチルダ製品で
焼かれたしろもので、第９７管理外世界製のCD-Rではないようだ。
それでも、さすがはミッドチルダの科学力というか、地球製のパソコンでも
ちゃんと読めるほど、再現性は高い。
『あ、あの、あたしはアギトっていうんだ。姓はねえ。
これを見てる管理局の奴に頼みがあるんだ。旦那を助けてくれよ。
あたしがスカリエッティに知ってる限りのことは、今から話す。
だから、とにかく、旦那を助けてくれ。このままじゃ旦那が死んじゃうんだよ。
あ、旦那っていうのは…えと、何から話していいかわかんねえ。旦那や
ルールーにも気づかれるわけにいかないし、あんま時間が…あ、また後で』
しばらく空白が続く。
「これは一体？」
「画面に映ってるのは、アギトっていう融合騎で間違いない。
ルールーというのは、おそらく、ルーテシア・アルピーノ。
旦那というのが、この…」
「あ、フェイトちゃん、続きが始まりましたよ」
『すまねえ、ええと、どこまで話したっけ？あ、旦那が死にかけてるってことだ。
旦那はさ、…スカリエッティに改造された、人造魔導師なんだ。
人造魔導師についての詳しいことはあたしにもわかんねえけど、旦那が
あたしに説明してくれたのをそのまま言うと、レリックを使って
人間を使い魔にする技術らしいんだ。
聞いてもよくわからねえだろ。あたしもわかんねえ。
けど、旦那はそのせいで、だんだん死にかけてるんだ。
その上に、魔法戦闘なんて、体に負荷の掛かることをやってたら、寿命が
著しく縮んじゃうんだよ。それなのに、旦那は、何か思い詰めたみたいに
レジアス中将の所へ行こうとしてる。理由はあたしもしらねえ。
だけど、旦那はあたしの恩人だから……だから、あたしは、旦那が何を
やろうとしてるにせよ、旦那にはやりたいようにやらせてやりたい。
だけど、それをやると、旦那が死んじゃうんだよ。
だから、…あ、まった。これじゃ繰り返しだよな。
ちょ、…おまえらが知りたがってる情報を先に。…って言っても
あたしが知ってることといえば、スカリエッティの戦闘機人の数と
スカリエッティのアジトの場所ぐらいか。
それを今から言うから、頼む、旦那を助けてくれ…お願いだから…
スカリエッティの戦闘機人は、最近完成した奴を含めて、全部で１２人。
そのうち１１人は、地上本部襲撃のときに参加した。後の１人がどこで
何をやってるかはあたしもしらねえ。…とにかく、どっかで何かやってるはずだ。
情報担当だってドクター、…てか、スカリエッティは言ってた気がする。
それで、アジトなんだけど…』
そういうと、アギトは、ハンカチを広げた。
ハンカチといっても、リインフォースツヴァイサイズのアギトが広げるから
体全体ぐらいの大きさになる。
そこには、ラフな地図が書かれてあった。…それでも、地上本部から見て
どの方角の、どのあたりにスカリエッティのアジトがあるかが、簡単に
見て取れる程度には正確に描かれてる。
『…え、ええと、…あ、あたしが知ってるのはこれで全部。
本当はあたしが直接おまえらの所へ言って、頼むべきことなんだけど
あたしが見てないと、旦那、いつ死ぬかわからないんだよ。
あたしがこんなことしてるのも、旦那のためだから。
…旦那の前に管理局が立つってなら、あたしだって、古代ベルカの
融合騎としての、覚悟は出来てる。…たぶん出来てる。
だから、頼む。旦那を…』
「これで、全部みたいだね」
「…信用していいんでしょうか」
「わからない。…それに、これは、はやてが帰ってくるまで、はやてにも見せられないね」
「そうね。…管理局の何が敵なのかがまずわからないんだから、管理局の通信回線を
使うことも、控えた方がよさそうね」
「とりあえず、司令室でみんなに見てもらおう。それから、対応策を考えればいい」
対応策を考えればいい、とは言っても、対応策は一つしかない。
はやて達が帰ってくるまで待つ。それだけだ。
「なのは、…大丈夫？」
「ん、うん、…大丈夫、どうしたのフェイトちゃん」
「…い、いや、…大丈夫なら、いいから。
今夜中には、はやても帰ってくるし、そうしたら、明日にでも…ね」
「う、うん、…明日にでも、情報の信頼性を確かめるために、何か出来るよね、きっと」
「そ、そうだよなのは」
大丈夫、っていうような表情ではないのは、俺みたいな鈍い人間にでもわかる。
だけど、なのはがどれぐらいまで思い詰めてたか、それは、はやてちゃん達が
アースラに乗って帰っている最中、深夜の通信室での事件を知るまで、俺たちには
想像も出来なかった。
いや、ただ１人、その通信室〜司令室と同じ場所だけど〜で、なのはを待っていた、
いや、正しくは、なのはが来るだろうと予測して待っていたフェイトには、 想像も
理解も出来てた 。
「…フェイトちゃん？どうしたの？もう夜も遅いよ、とりあえず寝てたら」
「…なのはこそ、こんな夜更けに一体どうしたの？」
「え、あ、ちょっと…通信で、はやてちゃんとお話したいなって」
「お話って、どんな？」
「え、えと…フェイトちゃん…には、後で話すから。ちょっと席を外してくれないかな」
「私が聞いてたら、まずいようなお話？」
「え、ええと、…はやてちゃんとお話した後だったら、べつにかまわないんだけど
ちょっと、…フェイトちゃんに、今聞かれたら、ちょっと話しにくいよ」
「…なのは、ポケットに入ってる物は、なに？」
「何って…なんのこと？」
「…なのは、私は、なのはの友達だよね」
「もちろんだよ、フェイトちゃん」
「１０年、ずっとつきあってきた、友達だよね」
「そうだよ。どうしたの？今日のフェイトちゃん、なんだか変だよ」
「変なのはなのはの方。きっと、誰もいない時間を見計らって、ここに来るって思ってた」
「誰もいないっていうことはないはずだよ、アルトとルキノとグリフィス君のうち
誰かは連絡待ちでここに詰めてるはずだから」
「だけど、誰もいなくなるのを、待ってたんだ」
「……どうしたのフェイトちゃん？ほんと、変だよ」
「…なのは、管理局を辞めて、どこへ行くつもり？」
「え？なんのこと」
「ポケットに入ってるの、退職願でしょ」
「………フェイトちゃんには、隠し事なんて、無理か」
「なのは、…ヴィヴィオの事が心配なのはわかる。
だけど、今スカリエッティのアジトに…アギトが言うスカリエッティのアジトに
襲撃を掛けるべきじゃないっていう結論が出たはずだよ。
これが、スカリエッティの罠かもしれない。たとえ罠ではなかったとしても
スカリエッティは、今襲撃を受けたら、ヴィヴィオやギンガを人質にして
逃げ出したり、逆に脅迫してくるかもしれない。
私たちにとって、最良の機会は、スカリエッティが、自分から動いてくるとき。
…そのときこそ、アジトの摘発と、ゆりかごの復活の阻止、双方を同時に行うべき
機会が回ってくる」
「……」
「なのは、私の言うことは、間違ってる？:」
「…間違ってないよ。フェイトちゃんの言うことには、私も賛成したよね。
だけど、…だけど、頭でわかってても、心が言うことを聞かないの。
あそこにヴィヴィオがいるかもしれないって、今行けばヴィヴィオが助けられるかも
しれない。そう思ったら、…その気持ちだけで胸がいっぱいになって…
お仕事とか、そんなこと、全然手がつかないよ。
私、魔法しかとりえがないからって管理局に入って、魔法の腕を磨いて
エースオブエースの称号ももらって、教導隊にも入れてもらって、管理局の
大義とか、理想とか、具体的なお仕事とか、任務とか、みんな、みんなわかってるつもりだけど
だけど、 だめなの。…ヴィヴィオの事、思い出したら、それだけでもう…何も出来なくなるの。
だけど、ただ隅っこで泣いてたりは、出来ないから。自分の力…自分の出来ること、信じてるから。
無理すれば、今でも、なんとか出来そうな、手の届きそうな、そんな所にヴィヴィオがいるって
そんな気がするから。だけど、管理局の一員が、そんなことしちゃ、だめだよね。
管理局の中にいたら、管理局のお仕事が、優先だよね。…………だめなの。
私、なんだか、全部だめ…。ヴィヴィオも守れなかったし、こんなことじゃ
管理局員としても、全然だめだよ……」
「なのは。…大丈夫、なのはは、１人じゃないから。
何があっても、私がいるよ。アルフも、はやても、ユーノも、九羅香さん達も
シグナムも、ヴィータも、シャマルも、ザフィーラも、フォワードチームのみんなも
リンディ母さんやクロノお兄ちゃんも、…みんな、みんないるんだから、…
だから、なのは１人で背負わなくていいんだよ。…」
「わかってるよぉ…わかってるけど…だけど、だけどこんな気持ち初めてだから。
A.C.S特攻のカウンターで落とされて、魔法生命が絶たれ掛けて、リハビリやってる時だって
今みたいに、切なくて、悲しくって、自分が何にも出来ない、何の力もないって
気持ちになんかならなかった…ねえ、フェイトちゃん、どうしよう。私、どうしたらいいの？
私…」
「…泣いていいよ。…こういうときには、泣いていいよ。
リンディ母さんが、教えてくれた。
悲しくって、どうしようもなく悲しくって、切なくって、苦しくって
自分の気持ちが言葉に出来なくって、頭でわかってても、何も出来ないときには、泣いていいんだよ。
私が…私で良ければ、胸を貸すから…私で良ければ、抱きしめるから…だから
泣いて、いいんだよ。誰かに遠慮なんて、しなくていいよ。
泣いて…いいんだよ……なのはは、今まで、普通の子なら、泣いて済ませるようなことでも
泣かずに、歯を食いしばって、我慢してきてたの知ってるけど…だけど、 今は、泣いていい」
「…フェイトちゃん…うわあああああああん。わーん」
「うん、…なのは、…辛かったよね。…辛いよね……」
「ぐすっ…フェイトちゃん……フェイトちゃぁん…わーーーっ」
…プレシアママの気持ちが、なんだか、わかる。
プレシアママも、こんな風、だったんだ。
アリシア姉さんが死んだとき、プレシアママも、壊れるしか、なかったんだ。
だけど、ママは、壊れたとしても、泣いてなんか、いられなかったから
誰かに抱きしめてもらって、泣くなんてこと、出来なかったから…
だから、あんな風に、壊れるしか、なかったんだ。
だけど、なのはは、…プレシアママみたいに、壊れなくていい。
それは、なのはが教えてくれた。
だから、なのはは、絶対に壊さない。壊させない。…絶対に。
